上条「救われぬ者に救いの手を」中編
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共同生活5日目

神裂「んんっ……」ムニュ

 

上条(ぐォォォ!? 腕に柔らかい感触がッ!! 耳に吐息がァァァ!!)

 

上条「あはは……。身に余る幸福ってのは、つまり不幸なんですね……」

 

神裂「んーっ? ぁ……、とうまー……」スリスリ

 

上条(腕に頬擦り!? これ、神裂だよね!? なんだこれ!?)ガクガク

 

神裂「…………あれ?」

 

上条「あの……神裂さん? 起きたなら、離れてもらえませんかね?」

 

神裂「す、すみません! 少々、寝ぼけていたようです。寝起きは悪い方ではないのですが」ハハハ

 

上条「寝起きがいいとか悪いとかはどうでもいい。とにかく離れてください」

 

神裂「すみません……」シュン

 

上条(ぐぉぉぉ!! なんだ? この神裂の捨てられた子犬みたいな雰囲気はッ!? 上条さん何か悪いことしましたか!?)

 

上条「いや、ほら、朝飯食いたいなーと思ってな」

 

神裂「あ、そうですね。すぐに朝食の支度をしましょう」テキパキ

 

上条(まだ朝の5時で腹なんて減ってないけど、なんとかうまくごまかせたようだからOK)

 

神裂「その前に日課を済ませてしまいますね」

 

上条「日課? ジョギングでもしてるのか?」

 

神裂「いえ、運動ではなく、お祈りです」

 

上条「あ、そっか。神裂もイギリス清教の一員だったもんな」

 

神裂「はい。私は修道女ではないのですが、お祈りは欠かさずすることにしているんです」

 

上条「なるほど」

 

神裂「すぐに済みますので、少々お待ちください」

 

上条「ああ」

 

神裂「…………………………………」

 

上条(そういえば、インデックスも朝にお祈りをしてたっけ)

 

神裂「…………………………………」

 

上条(でも、こういうお祈りって何を祈るんだろう? 神様に対する感謝とか?)

 

神裂「…………………………………」

 

上条(しかし、インデックスもそうだけど、様になるよな。本職なんだから当たり前なんだろうけど)

 

神裂「お待たせしました。それでは、手早に用意してしまいますね」

 

上条「おう。頼んだ」

 

朝食後

上条「それで今日はどうする?」

 

神裂「どうする、とはどういう意味でしょうか?」

 

上条「昨日あんな目に遭ったばかりだし、今日は傍にいてやろうか?」

 

神裂「それは大変ありがたいのですが……」

 

上条「ん?」

 

神裂「そこまであなたにご迷惑をかけるわけには行きません」

 

上条「迷惑ってほどじゃないけどな」

 

神裂「それで進級できなくなってしまったら、こちらが困ってしまいます」

 

上条「うっ!?」

 

神裂「ですので、その……」

 

上条「何かいい案でもあるのか?」

 

 

神裂「私が当麻に着いていきます」

 

 

上条「ええっ!?」

 

神裂「学校の屋上なら、人目にもつきにくいと思ったのですが、問題がありますか?」

 

上条「うーん。確かに、校内ならすぐ駆けつけられるし、安全かもしれないけど……」

 

神裂「無理にとは言いません」

 

上条「いや、そうだな。それで神裂が安心できるなら、別に構わないぜ」

 

神裂「本当ですか? ありがとうございます」

 

上条「それじゃ、まだかなり早いけど、学校行くか」 ※AM6時30分

 

神裂「そうですね。この時間なら、人目にもつきにくいでしょうし」

 

〜〜〜

 

上条「やっぱり、この時間じゃ登校してるやつもいないな」キョロキョロ

 

神裂「ふふっ。そうですね」

 

上条「あ、そうそう。昨日は弁当サンキューな」

 

神裂「気づいてもらえましたか」

 

上条「みんなに追い掛け回されて大変な目に遭ったけど、それだけの価値はあったぜ」

 

神裂「今日も、朝食のついでに用意しておきましたので、お昼休みに屋上でご一緒にどうですか?」

 

上条「おっ、いいな。そうしますか」

 

神裂「はい」ニコ

 

上条(ううっ……。笑顔がまぶしい……)

 

上条「しかし、こうやって女の子と登校するなんてことが実現するとは思うわなかったなー」ハハハ

 

神裂「そうですか? 意外ですね」

 

上条「意外でもなんでもないだろー。これで手でも繋いでれば、上条さん的には言うことないんですけどね」

 

神裂「……いいですよ?」

 

上条「はい?」

 

神裂「聞き返さないでください」///

 

上条(え? あれ? な、何が起こった?)

 

―学校―

神裂「もう着いてしまいましたね」

 

上条「そ、そうだな」///

 

上条(結局、手を繋いで登校してしまいました。神裂さんの手温かいです)

 

神裂「い、今更、手を繋いだくらいで、そんな顔をしないでください」///

 

上条「お、おう。そうだよな」

 

上条(それなら、神裂も顔真っ赤にしなくてもいいじゃないないか)

 

神裂「さすがにまだ誰も登校していませんね」

 

上条「そうみたいだな。さすがにこれだけ朝早ければな」

 

神裂「では、少し校内を案内してもらえますか?」

 

上条「ん。せっかくだしそうするか」

 

〜〜〜〜

 

上条「っと、校内はこんなもんかな」

 

神裂「なるほど。あの校舎の屋上からなら、当麻の席が見えますね」

 

上条「え?」

 

神裂「あなたが、どんな様子で授業を受けているか興味があります」

 

上条「ええっ!?」

 

上条(なんだかプチ授業参観みたいなことに!?)

 

神裂「それでは、また昼休みに会いましょう」

 

上条「これじゃ、眠ってられないじゃないか……。ふ、不幸だ……」

 

放課後

―――

上条(よ、よ〜し。なんとか乗り切ったぞ……)

 

土御門「今日はだいぶまじめに授業受けてたにゃー?」

 

上条「ま、いろいろありましてね……」

 

姫神「顔色悪いかも。大丈夫?」

 

吹寄「どうせ夜更かしでもしたんでしょ」

 

上条「いろいろありましてね……」

 

青ピ「これは重症やね」

 

土御門「まったくだにゃー」ニヤニヤ

 

上条「お待たせー」

 

神裂「お疲れ様です。当麻」

 

上条「ヒマじゃなかったか?」

 

神裂「ええ。たまに船を漕いでいる当麻を見ているのは、とても面白かったですよ」クス

 

上条(バレバレでしたかー)

 

上条「ははは。それじゃ、さっさと帰ろうぜ」

 

神裂「はい」

 

上条「それともどこか寄っていくか?」

 

神裂「そうですね……。昨日、買い物ができなかったので、食材の買出しをしておきましょう」

 

上条「大丈夫か? なんなら、一旦家に戻ってから、俺が一人で買いに行ってもいいけど」

 

神裂「そこまで心配されなくても大丈夫です。それに、今回は当麻と一緒ですし」

 

上条「それもそうだな。男と一緒にいて、絡んでくるやつもいないだろ」

 

神裂「すみません。本来は居候の私がすることなのでしょうけど……」

 

上条「いやいや、さすがに昨日の今日で、そこまで酷なことはさせられませんよ?」

 

神裂「あなたは本当に優しいですね。……さ、暗くなる前に済ませてしまいましょうか」ギュ

 

上条「え? 何で手を?」

 

神裂「ふふっ。いいじゃないですか。帰りだけ繋がないというのもおかしくありません?」

 

上条「そんなものか?」

 

神裂「はい。そんなものです」ニコ

 

上条「それじゃ仕方ないな」

 

―いつもの公園―

上条「神裂と行くと普通にタイムサービスの品が買えるんだな」

 

神裂「いつもは逃してしまうのですか?」

 

上条「(タイムサービスを)逃してしまうときと、(タイムサービスの品が)逃げてしまうときがあるんですよ」

 

神裂「?」

 

上条「いえ、なんでもないです……」

 

神裂「それならいいですが」

 

上条「それより、そっちの袋は重くないか?」

 

神裂「はい。当麻が重い方を持ってくれましたので」

 

上条「手を繋がなければ両方持てるのに」

 

神裂「そしたら、きっと家に着くまでにタマゴがなくなってしまいますよ」クスクス

 

上条「うっ、分かってるんじゃないか……」

 

神裂「それに、こうすれば片手が空きますし、手を繋いでも問題ありませんよね?」

 

上条「そう……なのかな?」

 

上条(そういえば、この状態は他人から見れば、カップルに見えるんじゃ―――)

 

 

御坂「…………………………」ジー

 

 

上条「あ」

 

御坂「…………………………なにしてんの?」バチン

 

上条(これは終わった)

 

上条「あの、御坂さん? なぜバチバチいってるのでせうか?」

 

御坂「この間は聞きそびれちゃったけど、そっちの女はどこのどなたなのかしら?」

 

上条「ええと……それはですね……」

 

神裂「当麻。そちらの彼女とはどういう関係でしょうか?」ジトー

 

上条「ええっ!? 何故に神裂さんまで!?」

 

御坂「へえ〜、神裂さんね」

 

上条(し、しまった! 姉弟って言い訳ができなくなってしまった!?)

 

神裂「神裂火織と申します。どうぞよろしく」

 

御坂「あなたはそこのバカとはどういう関係なのかしら?」

 

神裂「彼とは―――」

 

上条「神裂は友達の姉なんだよ! 長い付き合いでさ!」

 

上条(ということにしておいてください)ボソ

 

神裂(む……。まあ、あなたがそういうのでしたら、構いませんが……)

 

御坂「友達の姉ねえ……」

 

御坂(それにしても、随分雰囲気が違うわね。ここ数日で何かあったのかしら?)

 

上条「それで、こっちが御坂。よくここで会うビリビリ中学生」

 

御坂「ビリビリ言うな!」

 

神裂(彼女は、当麻の友人と言ったところでしょうか?)

 

上条「じゃあ、紹介も終わったし、上条さんたちはこれで……」

 

御坂「ちょっと待ちなさいよ」

 

上条(やっぱり、そう簡単には逃がしてもらえませんよねー)

 

御坂「アンタたちは、なんで手なんて繋いでお買い物してるのかしら?」

 

御坂(そんなのまるでカップルみたいじゃない!)

 

上条「そ、それはだな……」

 

御坂「それは?」

 

神裂「手を繋いで買い物しては、何かおかしいでしょうか?」

 

御坂「なっ!?」

 

上条「え? 神裂さん?」

 

御坂「お、おかしいに決まってるじゃない!」

 

 

 

神裂「昔から、当麻は私にベッタリでしたから、これくらいは普通ですよ?」

 

 

 

上条・御坂「!?」

 

上条(たしかに、設定上、長い付き合いってことにしましたけど! それじゃ、姉離れできない弟みたいじゃないですか!?)

 

御坂「なっ、なん!?」

 

神裂「ですから、このくらいは普通かと」

 

上条(ナイスフォローかもしれませんが、もうちょっとましな言い方はできないんですかー!?)

 

御坂「そ、そうなの?」

 

上条「えっ!? た、多分」

 

御坂(そういえば、こいつは記憶が……)

 

神裂「それでは、生ものが悪くなる前に帰りましょうか」

 

上条「え? あ、そうだな」

 

御坂「ちょ、ちょっと待ちなさいってば!」

 

上条「悪い、御坂。また今度!」

 

上条(とりあえず、今は、この場を離れることを優先だ。なんか神裂の機嫌が悪い気がするし)

 

神裂「それでは」

 

御坂「ちょっとー!!」

 

―上条の部屋―

上条「ふぅ。なんとか無事に帰宅できたか……」

 

神裂「そうですね」

 

上条「でも、なんであんなこと言ったんだ?」

 

神裂「あなたが私を友人の姉と言ったからじゃないですか」

 

上条「うっ。たしかにそうですが……」

 

神裂「うまいごまかし方だと思いますよ」

 

上条「そ、そうですよね?」

 

上条(それにしては、いつもの神裂さんらしくないような気がするんですが?)

 

神裂「ところで御坂さんは当麻の友達なのですよね?」

 

上条「うーん? そんなところか?」

 

上条(ケンカを吹っかけてくるし、友達って分類もどうなんだろうか)

 

神裂「それならいいのですが」

 

上条「あのー、神裂さん?」

 

神裂「なんでしょうか」

 

上条「何を怒ってらっしゃるんでしょうか?」

 

神裂「いえ、別に……」

 

上条(な、何をミスってしまったんだー!?)

 

神裂(もう少しマシなごまかし方はなかったのでしょうか? その……彼女とか……)シュン

 

上条「その、すまん! 神裂!」

 

神裂「はい?」

 

上条「俺、何か気に障ること言ったか?」

 

神裂「そういう訳では……」

 

上条「もしかして、『友達の姉』ってのが気に食わなかった?」

 

神裂「い、いえ……」

 

上条「ほ、ほら。あの状況じゃ、家族か恋人とでも言わないとあいつは納得しないだろ?」

 

神裂「そうでしょうね」

 

上条「さすがに昨日のことを説明する訳にもいかないしさ」

 

神裂「すみません。気を使わせてしまって」

 

上条「謝るほどじゃないって」

 

神裂「でも、家族よりも恋人の方がよかったのですが」ボソ

 

上条「はい?」

 

神裂「いえ、なんでもありません。少し早いですが、夕飯の準備をしましょうか」

 

上条「お、おう。そうだな」

 

上条(気のせい……だよな?)

 

―――

上条「ふぁ……」

 

上条(飯も食べて、風呂にも入ったら、眠くなってきた……。昨日寝てないし、仕方ないよな)

 

神裂「眠そうですね」

 

上条「んー。ちょっとなー」

 

神裂「では、今日はもう就寝しますか?」

 

上条「神裂は眠いのか?」

 

神裂「いえ、私はまだですが、当麻に合わせます」

 

上条「無理にあわせなくても大丈夫だぞ? 電気つけっぱなしでも大丈夫だし」

 

神裂「そうですか?」

 

上条「ああ。すまないな」

 

神裂「そうですね。では……」

 

上条「ん?」

 

神裂「ど、どうぞ」スッ

 

上条「はい?」

 

 

神裂「ひ、膝枕です」

 

 

上条「………………はい?」

 

上条「神裂さん、どういうことでせうか?」

 

神裂「ご迷惑ですか?」

 

上条「いやいや、上条さん的には、大歓迎なんですが、どういう風の吹き回しですか?」

 

神裂「甘えられるよりも甘えたいと、当麻の顔に書いてありますよ?」

 

上条「んなっ!?」

 

神裂「ち、違いましたか?」

 

上条「間違いじゃないけどさ」

 

上条(確かに、少しくらいはそういう気持ちはあるけど、そんなに顔に出てるか?)

 

神裂「昨日は、当麻の好意に甘えさせていただきましたから、これはそのお返しです」

 

上条(土御門か? 土御門だな!? 休み時間にどこ行ってるのかと思えば……)

 

神裂「その……結構恥ずかしいので、できれば早くしてもらえると助かるのですが」

 

上条「ええと。じゃあ遠慮なく」ポス

 

神裂「ぁ……。はい」ニコ

 

上条(なんだか温かい……。それにいい匂いもするし……)

 

神裂「よく眠れそうですか?」

 

上条「逆に緊張して寝れないかもな」ハハハ

 

神裂「そうですか? では、こんなのはどうでしょう?」

 

上条「?」

 

 ♪Amazing grace. how sweet the sound.

 

上条(これは聞いたことある曲……なんて名前だっけ……?)

 

 ♪That sav'd a wretch like me.

 

上条(それに、優しい歌声だな)

 

 ♪I once was lost, but now am found. Was blind, but now I see.

 

上条(これは心地いい……)

 

〜〜〜

 

上条「Zzz」

 

神裂「頼りになるとはいえ、まだ15の少年ですからね。休息も必要でしょう」ナデナデ

 

神裂(それにしても、気持ち良さそうな寝顔ですね。たまには、土御門の助言も役に立つものです)

 

神裂「しかし、どうすれば、当麻にもっと意識してもらえるんでしょうか……」

 

 

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共同生活6日目

 

―???―

神裂「はぁっ…、はぁっ・・・」タタタ

 

スキルアウトD「くそっ! 待ちやがれ!」

 

神裂「くっ!?」ピタッ

 

神裂(しまった! 行き止まりですか!)

 

スキルアウトE「ぜい・・・、ぜい・・・。ようやく追い詰めたぞ」

 

神裂「うっ」

 

神裂(相手は4人ですか。これくらいなら……)

 

スキルアウトF「覚悟はいいだろうな?」

 

神裂「それはこちらのセリフです。追いかけて来なければ良かったものを」

 

スキルアウトG「ハッ! 強がっても無駄だぜ? なにせ今のお前は、聖人じゃねえんだからなぁ!」

 

神裂「えっ!?」

 

神裂(ち、力が入らない!?)

 

スキルアウトE「これでも喰らえ」ドコッ

 

神裂「ぐぅっ!?」

 

スキルアウトD「へっ。大したことねーな」

 

???「何してんだよ。お前ら」

 

スキルアウトF「あ?」

 

 

上条「神裂に何してるんだって訊いてるんだよ! この三下ぁ!!」

 

 

神裂「と、当麻……」

 

スキルアウトD「なんだ? たった一人かよ? こっちは四人もいるんだぜ?」

 

上条「お前らが何人だろうが関係あるかよ」

 

スキルアウトF「何言ってんだ?」

 

スキルアウトG「こいつに貸しでもあんのか?」

 

上条「泣きそうな女の子を助けるのに理由なんて必要ねえだろうが!!」

 

神裂「当麻……」

 

スキルアウトE「ケッ! 格好つけやがって!」ブン

 

上条「当たるかよ!」バキィ

 

スキルアウトE「ぐはっ!?」

 

スキルアウトF「て、テメェ!!」

 

上条「遅ぇよ!」ドコォ

 

スキルアウトF「ぐぅっ!?」

 

スキルアウトD「実戦慣れしてやがるな」

 

スキルアウトG「これでも喰らっとけ!」ビリビリ

 

上条「そんなもん!」キュイーン

 

スキルアウトG「け、消しやがった!?」

 

スキルアウトD「チッ! 引き上げるぞ!」

 

スキルアウトG「クソッ! 覚えてやがれ!」

 

上条「大丈夫か。神裂」

 

神裂「は、はい。おかげさまで」

 

上条「それなら良かった」ギュッ

 

神裂「当麻……」カタカタ

 

上条「やっぱり怖かったのか? ちょっと震えてるぞ?」

 

神裂「す、すみません。もう少ししていれば落ち着きますから」

 

上条「そうか。神裂は強いな」ナデナデ

 

神裂「いえ、私など……」

 

上条「神裂は強いよ」

 

神裂「私は弱いです……。あれくらいで怖がってしまうなんて」

 

上条「そんなことないって」ナデナデ

 

神裂「私は、あなたの勇気が羨ましい」

 

上条「勇気?」

 

神裂「普通の人だったら、あの場に飛び込もうとは思いませんよ?」

 

上条「そうかな?」

 

神裂「はい。そうです。ありがとうございました」

 

上条「いいって、それくらい」

 

神裂「私はあなたのそういうところ好きですよ」

 

上条「え?」

 

 

神裂「んっ…」チュッ

 

―上条の部屋―

チュンチュン

神裂「―――ッ!!」ガバッ

 

神裂(ゆ、夢ですか……)

 

神裂「と、当麻は……」

 

上条「Zzz」

 

神裂「まだ寝ていますね」ホッ

 

神裂(夢とはいえ、なんということを!!)///

 

神裂「それとも、あのくらいしないと私の気持ちには気づいてもらえないのでしょうか……」

 

神裂(それに、私にあんなことをする度胸がありますかね?)

 

上条「Zzz」

 

神裂「ううっ……。思い出したら、顔が熱くなってきました」///

 

神裂(と、とりあえず、落ち着くために朝食の準備でもしましょう)

 

上条「Zzz」

 

ジュー

神裂「ふぅ……」

 

神裂(やっと落ち着いてきました……)

 

神裂(しかし、不思議なものですね。夢で不良に襲われたにも関わらず、起きた時に恐怖感はほとんどありませんでしたし)

 

神裂「やはり、当麻が助けてくれたから……」

 

上条「んっ……」

 

神裂「」ビクッ

 

神裂(どうやら起きてしまった訳ではないようですね)ホッ

 

神裂「しかし、彼の勇気はどこから出てくるものなのでしょうか……」

 

神裂(ここ数ヶ月で、幾度もの修羅場を経験し、それでも足を踏み入れ続けられるというのは異様です)

 

神裂「普通は、一度死線を潜り抜けると、そこには戻りたくないと思うはずなのですが……」

 

神裂(それとも、私たちとは違う価値観を持っているのでしょうか?)

 

神裂(いえ、そもそも頭で考えていないのかもしれませんね)フフッ

 

神裂「でも―――」

 

神裂(そのおかげで、私にとって、あなたがますます大きな存在になってしまいました)

 

神裂「おっと、そろそろ起こさないといけませんかね」

 

神裂(まだ少し早いですが、遅刻されるよりはいいでしょう)

 

上条「Zzz」

 

神裂「おはようございます」ユサユサ

 

上条「んんっ……、おはよう」

 

神裂「今日もいい天気ですね」

 

上条「そうだな。なんか、起きたときに神裂がいるのにも慣れてきた」

 

神裂「私も、ここにいる違和感が薄くなってきた気がします」

 

上条「まだ、1週間も経ってないのになぁ」

 

神裂「ええ。まったくですね」

 

上条「インデックスは何か手がかりは掴めたのかな?」

 

神裂「今のところは連絡もありませんし、きっとまだなのでしょう」

 

上条「その割に、神裂は焦ったりしないんだな」

 

神裂「はい?」

 

上条「いや、初日とかは結構不安がってたじゃん」

 

神裂「物事は慣れですからね。それに―――」

 

上条「それに?」

 

 

神裂「いざとなったら、当麻がまた守ってくれますから」ニコ

 

 

上条「随分と信頼されてるなぁ」

 

神裂「ふふっ、はい」

 

上条(そういえば、ここのところ恩とかなんとか言わなくなったな。その方が気楽でいいんだけどさ)

 

〜〜〜

上条「それで、今日はどうする? まだ、不安なら、また学校に着いてきてもいいけど」

 

神裂「いえ、多分もう大丈夫です」

 

上条「本当か?」

 

神裂「信用がありませんか?」

 

上条「神裂はたまに無理するからな」

 

神裂「う……。たしかにそうかも知れません」

 

上条「だろ?」

 

神裂「しかし、当麻も人のことは言えますかね?」

 

上条「ぐっ……。それを言われるとつらいな」

 

神裂「その内、絶対安静の重傷を負ってでも戦場に駆けつけてくる気がします」

 

上条「意識があれば行くかも……」

 

神裂「意識がなくても来るんじゃないですか?」

 

上条「む。さすがにそこまでは分からないよ」

 

神裂「冗談ですよ。本当に無理はしていませんのでご安心ください」

 

上条「それなら、いいんだけどさ」

 

神裂「そろそろ時間ですね」

 

上条「おっと。じゃあ行ってくる。戸締りは気をつけてくれよ」ガチャ

 

神裂「あ、その……」///

 

神裂(今なら……)

 

上条「なんだ? やっぱり不安なのか?」

 

神裂「ええと……」///

 

上条「?」

 

神裂「や、やはり不安なので、当麻の『勇気』を分けてもらっていいですか?」///

 

上条「え? どうやって―――」

 

 

 

神裂「んっ」チュッ

 

 

 

上条「え?」

 

神裂「こ、これで大丈夫です!」///

 

上条(今、何された? すごく神裂の顔近かったよな……)

 

神裂「それではお気をつけて!」///

 

上条「あ、うん」バタン ←ドアを閉める音

 

上条(唇に柔らかい感触? あれ、これなんて言うんだっけ? えーと、確か……)

 

 

上条「ええええええええええええええええっ!?」

 

 

神裂(―――ッ!! や、やってしまいました!!)///

 

 

―学校―

上条(神裂にキス……されちまったんだよな?)

 

???「―――!」

 

上条(ど、どうしてあんなことを……)

 

???「―――! ――――!!」

 

上条(やっぱり、土御門が言ってたみたいに、俺に気があるのかな?)

 

???「―――ん!」

 

上条「いや、そんな訳……」

 

小萌「上条ちゃん!」

 

上条「え?」

 

小萌「どうしたんですか? さっきからずっと呼びかけているのに反応してませんでしたけど」

 

上条「あ、すみません」

 

小萌「悩み事なら、後で聞いてあげますから、今は授業に集中してくださいね」

 

上条「はい……」

 

小萌「それでは授業を再開しますねー」

 

土御門(カミやんの様子がおかしい……。今朝、ねーちんと何かあったのか?)

 

 

休み時間

―――

上条「う〜ん……」

 

土御門「カミやん。何かあったのか?」

 

上条「土御門か。ちょっと考え事しててな……」

 

土御門「ねーちんのことだろ?」

 

土御門(何かあったとすれば、家を出る直前か? あそこは監視カメラの死角だから、今度はそこにも仕掛けないといけないかにゃー)

 

上条「う。まあ、そうなんだけどさ」

 

土御門「何があったか言ってみるといいぜよ」

 

上条「すまん! こればっかりは言えないことなんだ」

 

土御門「にゃー。もしかして、やっちまったのか?」

 

上条「ななな、なにをだよ!?」

 

土御門「カミやんは先に大人の階段を登っちまったんだにゃー」

 

青ピ「なんやと?」

 

上条「ちげーよ! 青ピも反応すんな!」

 

土御門「ま、冗談は置いておいても、今日のカミやんはおかしいぜい?」

 

青ピ「昨日張り切ってたと思えば、今日は抜け殻やもんな」

 

上条「……すまん。今日はちょっと一人にしてくれ」

 

土御門「これは重症だにゃー」

 

 

放課後

―――

小萌「はーい。今日はここまででーす」

 

上条「う〜ん……」

 

土御門「カミやんはまだ悩んでるのか」

 

小萌「あ、上条ちゃんは、職員室まで来るです」

 

上条「う〜ん……」

 

小萌「上条ちゃ〜ん?」

 

青ピ「カミやん、小萌センセの話聞いてたか? 職員室、OK?」

 

上条「あ、はい」

 

小萌「補習ではないので安心してくださいね」

 

土御門「良かったにゃー、カミやん」

 

上条「うむむむ……」

 

青ピ「ダメだこりゃ」

 

 

―職員室―

上条「お待たせしました。何の用ですか?」

 

小萌「今日、あれだけ上の空で授業を受けてて、『何の用ですか』はないんじゃないですか?」

 

上条「す、すみません」

 

小萌「ですから、先生が上条ちゃんの悩みを聞いてあげます」

 

上条「え?」

 

小萌「言えないことなら無理に問いただしはしませんが、相談するのも解決策の1つなんですよ?」

 

上条(小萌先生に相談か……。このまま悩んでても仕方ないし、訊いてみるか? 小萌先生なら口も堅いだろうし……)

 

上条「あの、ですね……」

 

小萌「はい」

 

上条「その……知り合いの女の子からいきなりキスされてしまって……」

 

小萌「ええっ!?」ガタッ

 

上条「小萌先生! 声、大きいですって!」

 

小萌「す、すみませんです」

 

上条「それをどうしたらいいかをずっと悩んでるんです」

 

小萌「そ、そうだったんですか? 上条ちゃんとしての結論は出たんです?」

 

上条「それでしたら、相談はしてませんって」ハハハ

 

小萌「ですね」

 

小萌(やっぱり上条ちゃんはモテるんですね。先生としては、どうすればいいんでしょう?)

 

小萌「ええっと……」

 

上条(相談したのはいいけど、小萌先生ってそういう経験とかあるのか?)

 

小萌「ゴ、ゴホン! 上条ちゃんは、その人のことをどう思ってるんです?」

 

上条「俺がですか?」

 

小萌「そうです。詳しい状況は分からないですが、『キス』というのは、普通好きな相手にするものですから」

 

上条「好きな相手……」

 

小萌「なんとも思ってない人にはしたりしませんよね? そういうことです」

 

上条「そうなんでしょうか?」

 

小萌「上条ちゃんは鈍感ですね〜」

 

上条(土御門にも同じこと言われたな……)

 

小萌「そうやって、上条ちゃんが好意に気づいてくれないから、強引な手を使ってアプローチしてるんじゃないです?」

 

上条「でも、それは―――」

 

小萌「ほら。現に上条ちゃんはキスまでされても、その好意に気づいていないじゃないですか」

 

上条「う……」

 

小萌「だから、考えるべきは『どうして、そんなことをしてきたのか』ではなく、上条ちゃんが『どうしたいのか』だと思いますです」

 

上条「俺がどうしたいのか……」

 

小萌「結局、答えは上条ちゃんにしか出せません。そこのところをよ〜く考えてくださいね」

 

上条「はい」

 

???「面白そうな話してんじゃん」

 

上条「え?」

 

小萌「黄泉川先生!」

 

黄泉川「月詠センセにそんな経験あるじゃん?」

 

小萌「し、失礼な! 黄泉川先生はバカにしすぎです!」

 

上条「い、いつからそこに……」

 

黄泉川「月詠センセが大声出してからじゃん」

 

小萌「うっ……」

 

上条「その……他言無用でお願いします」

 

黄泉川「分かってるって! 口は堅いほうだから安心するじゃん」

 

上条「それならいいんですが」

 

黄泉川「とにかく、避妊だけはするじゃんよ」

 

上条「ゴブゥッ!?」

 

小萌「よ、黄泉川先生! 体育教師が何言ってるんですか!」

 

黄泉川「体育教師だからのアドバイスじゃんよ」

 

上条「ハハハ……」

 

上条(これ以上冷やかされる前に帰ろう……)

 

小萌「上条ちゃん! 真に受けないでくださいよ!」

 

上条「分かってますって。それじゃ失礼します」

 

黄泉川「頑張るじゃんよ〜、少年」

 

 

結局、学校を出ても、上条の答えはでていなかった。

小萌という女性の立場からの貴重なアドバイスをもらったのは良かったが、自分の気持ちなどと言われても良く分からない、というのが本音だ。

基本的に困っている人がいれば迷わず助けに行くし、そうでなくとも厄介事には巻き込まれる。

 

上条(悩みは家計くらいなもんだったもんな……)

 

そんな彼に、いきなり色恋沙汰の問題を押してけられても、即断できるはずもないだろう。

そもそも、神裂が自分に対して好意を抱いているのかさえ、未だに半信半疑である。

 

上条「あ……。もう着いちまった……」

 

ふと気付けば見慣れたトビラの前に立ってしまっていた。

どうやって帰ってきたかも、誰かと会ったかもよく覚えていない。

むしろ、そんな状態で無事に帰宅できたあたり、今日の彼は幸運なのかもしれない。

それとも、考える時間が短くなった分、これは不幸なのだろうか?

 

上条(この先に神裂がいるんだよな……。き、緊張してきた)

 

結局のところ、まだ考えはまとまっていない。

しかし、このままでは、明日の朝になっても答えは出ない気がした。

確証なんてないものはない。だが、グダグダ悩んでいても仕方が無い。

もう知るか、ともらし、上条はドアノブに手を掛けた。

 

上条「た、ただいま〜」ガチャ

 

神裂「お、おかえりなさい」

 

覚悟を決めて、玄関を開けると、すぐ目の前には神裂がいた。

というか、朝、見送られたときとほぼ同じ位置にいる。

 

上条「ええと……」

 

神裂「その……」

 

思わず目が泳いでしまう。彼女を直視できない。

てっきり、リビングでくつろいでいるだろうと思っていた上条は、とっさに次の言葉を紡ぎ出せない。

その上、廊下を塞ぐように神裂がいるため部屋に入ることもできない。

結果として、玄関に立ち尽くす形となってしまっていた。

 

一方の、待ち構えていた神裂に心の準備ができていたか、といえば答えは『NO』だ。

彼女は、ずっと固まっていた訳ではないにしろ、一日のほとんどを玄関をウロウロして過ごしていた。

「どうしよう」だとか、「嫌われなかっただろうか」などといったことが、頭の中をぐるぐる回っていた訳である。

 

 

そんな心の準備ができていなかった二人を、しばしの沈黙が包んだ。

 

【上条side】

 

―――そうしたまま五分ほど経過した時だろうか。

 

このままでは埒が明かないので、先に話を切り出すことにした。

 

上条「今朝のことなんだけど……」

 

神裂「す、すみませんでした!」

 

と、今朝のことを訊こうとした瞬間、見事なカウンターを喰らってしまった。

神裂の頭が大きく下がり、彼女のトレードマークであるポニーテールが揺れる。

 

上条「え?」

 

神裂「で、できれば、忘れていただけるとありがたいのですが……」

 

申し訳なさそうに、下を向きながら、口早に言葉を繋ぐ。

 

上条「それは……」

 

願ってもない提案ではないか?

そうすれば、頭を悩ませる種もなくなるし、変に意識しなくて済む。

いや、それはもう手遅れか?

 

神裂「不意打ちのようなマネをしてしまってすみませんでした」

 

ボソボソと呟くように謝罪の言葉を紡いでいる。

いつもの神裂に比べて、明らかに覇気がない。

ということは、今朝のは弱気からくる一時の気の迷いだったのだろう。

それならば、キスくらいは役得だ。むしろこちらが申し訳なくなるくらいじゃないか。

 

上条「もういいって―――」

 

気にするな、と言おうとして、彼女に視線を向けたところで、唐突に思考が停止する。

頭を上げた神裂の顔が真っ赤に染まっていたのだ。

 

上条「え?」

 

今までの自分なら、顔が赤いなと思う程度で、その先を考えなかったかもしれない。

 

―――だが、今日は違った。

 

小萌先生の言葉が頭をよぎる。

 

小萌『現に上条ちゃんはキスまでされても、その好意に気づいていないじゃないですか』

 

そうだ……。       ・ ・ ・ ・

神裂は、あのキスを『なかったことにしてくれ』とは言わなかった。

俺に『忘れてくれ』と言ったのだ。

もちろん、そんなの些細な言い回しの違いかもしれない。

だが、そのあとの言葉はどうだろう?

 

神裂『不意打ちのようなマネをしてしまってすみませんでした』

 

これは、不意打ちという行為をしてしまったことへの後悔なのではないだろうか?

 

上条「なあ、神裂」

 

神裂「はい……」

 

恐る恐るといった感じで言葉を待つ神裂。

その顔は未だに赤く染まったままである。

もう、こうなってしまっては、先を訊かずにはいられない。

 

 

上条「神裂は……その……俺のこと好きなのか?」

 

 

神裂「え?」

 

訊いた。

驚いた顔をしているが、それも当然だろう。

 

上条「その……、自意識過剰だったらすまない」

 

こんな訊き方は落第点なのは分かっている。

しかし、こればかりは訊かないと先に進めそうにない。

なにせ、未だに自分の気持ちもはっきりしていないのだから。

 

上条「違ったら、笑ってくれ」

 

軽口のように言ってみるが、我ながら緊張しているのが分かる。

若干、声が上ずっていたかもしれない。

神裂はそんなことにも気づかず、視線を泳がせ、「ええと…」とか「その…」と呟いている。

彼女にも余裕がないのだろう。

 

神裂「――――ッ」

 

そのうち、何かを決心したのか、彼女は胸の前で十字架を切ると、顔を真っ赤にしたまま、分かるか分からないか程度にコクリと頷いた。

その不安げな姿は、いつもの彼女からは想像もできないほどかわいらしいものだった。

 

【神裂side】

 

上条「神裂は……その……俺のこと好きなのか?」

 

神裂「え?」

 

なぜ今日に限って、そんな思考が頭の中をぐるぐる回る。

正直に言えば、彼はあまりにも鈍感で、キスをしても意識してもらえないんじゃないか、とすら思っていた。

万が一の場合も、『忘れてください』と言えば、『なんだ勘違いだったのか』なんていかにも彼の言いそうなことだろう。

 

上条「その……、自意識過剰だったらすまない」

 

だが、今日の彼は違った。

茶化している様子もないし、これは本当に私の気持ちに気づいているのかもしれない。

だが、そう思うと怖かった。

この気持ちが拒絶されるかもしれないという恐怖が全身を包む。

 

上条「違ったら、笑ってくれ」

 

直感的に気づく。ここが分岐点だ。

進めば、この気持ちに決着がつくだろう。戻れば、引き伸ばし。曖昧に誤魔化して、それで終わり。

たしかに、決着を付けるのは怖い。だが、ここで戻ることはできない気がする。

ここで戻ってしまたら、二度と決着がつくことはない。

なぜなら、そのときは心が折れるから。

ここで諦めた私が再び立ち上がることは、きっとない。

それでは、結局、断られてしまったのと同義だ。

それならば、結局、前に進むしか活路は見えない。

 

神裂(このド素人が! 私は一体何を悩んでいるのでしょうか)

 

そう頭で分かっているのに、口が動かない。

先日のスキルアウトに襲われたときよりも今の方がよっぽど怖い。

こんな恐怖を感じたのは生まれてだった。一言をいう勇気すらない。

…………あれ? 『勇気』?

 

―――今朝、自分は何をした?

 

 

神裂(……そうだ。勇気なら分けてもらったじゃないですか)

 

 

胸の前で十字架を切ると、ほんの少しだけ頷いた。それが今の自分に残っていた全ての勇気だった。

 

上条「そうか……」

 

彼は、ポツリとそれだけ呟く。

それだけなのに、心臓がドクンドクンと早鐘を打っている。

先ほどから、足元ばかり見て、まともに彼の顔を見ることもできない。

 

上条「神裂」

 

神裂「―――――ッ!!」

 

緩やかな口調で名前を呼ばれる。

はっきり言って、それは死刑宣告に近いものがあった。

全身が強張る。

このまま受け入れてもらえるのだろうか?

それとも拒絶されてしまう?

どちらにしろもう以前の関係に戻ることはできない。

彼女にできることといえば、いい結果に転ぶことを祈るのみ。

 

上条「その―――」

 

そして、彼は変わらない口調でこう続けた。

 

 

 

上条「悪い。神裂」

 

 

 

神裂「え?」

 

その瞬間、沸騰しかけていた体中の血液が、みるみる凍っていくような錯覚を受けた。

 

『拒絶された』

 

それだけで、死んでしまいそうだった。すべての音は消え、世界は歪んでいく。

これで、彼との関係は終わってしまったのだ。

 

【上条side】

 

―――だが、上条の答えはそういう意味ではなかった。

 

神裂の気持ちを訊けば、何か分かるかもしれないと思ったが、結局、何も分からなかった。

『好き』という気持ちは分かる。

自分にとって、それは家族に向けられているものであり、インデックスに対する『好き』はそちらの分類になるだろう。

 

上条「神裂の気持ちはすごく嬉しい。けど、自分の気持ちが分からないんだよ」

 

だが、異性に対しての『好き』となると話は変わる。

もちろん、言葉にした気持ちは本心で、ウソ偽りはない。

ただ単に、誰かを好きになったという経験をしたことがないのだ。

 

―――何しろ、自分は記憶をリセットされているのだから。

 

記憶を失う前の上条当麻は、普通に恋したり、もしかしたら、誰かと付き合っていたこともあったかもしれない。

少なくとも、それがどういう気持ちかは知っていたと思う。

しかし、今の俺は、そんなことすら分からない。

この神裂に持っている気持ちの正体が分からない。

 

神裂「自分の気持ちが分からない……ですか?」

 

上条「ああ。誰かを好きになったことなんてないんだ。だから、神裂に対する気持ちもよく分からない」

 

素直に告白する。土御門たちに話せば、爆笑間違いなしだろう。

だが、神裂は何やらホッとしている気がする。

 

神裂「……それならば、仕方ありませんね」

 

神裂はとくに追求もせず、笑顔を浮かべると、リビングへと向かっていった。

この話はここまでにしよう、という彼女の意思表示。

 

だが、俺はこの中途半端な結末のまま終わる気はなかった。

 

だから―――

 

上条「神裂」

 

その呼びかけに彼女は振り向く。

 

 

上条「もう一度キスしよう」

 

 

―――そう提案した。

 

【神裂side】

 

上条「もう一度キスしよう」

 

話が終わったと思ったら、そんなことを言われた。

確かに、返事が聞けなかったことは残念だが、それ以上に安堵の気持ちが大きかった。

しかし、そんな気持ちも今の一言で消し飛んだ。

 

神裂「…………はい?」

 

何を言われたか、耳には届いているが、頭で理解できない。

キス?

誰と?

誰が?

 

上条「そうすれば、俺の気持ちが分かる気がするんだ」

 

理解の追いついていない頭に、さらに追撃をかけられる。

……マズイ。

冷静にならなければ。

 

神裂「……………………」

 

上条「神裂?」

 

…………よし。言葉の意味は理解できた。

つまり、彼は、自分の気持ちが分からないから、キスしようということを提案してきたのだ。

なるほど、なるほど。

 

神裂「ええっ!?」

 

もちろん、キスをしたくない訳ではない。

今朝、唇が重なった瞬間は心臓が飛び出るかと思ったし、あの後、2時間はドキドキが止まらなかった。

さきほど当麻と顔をあわせたときは、全身から火が出るかとも思った。

 

……それをもう一度?

 

そんなの耐えられるだろうか?

 

【上条side】

 

上条「このままで終わりたくないんだ」

 

もちろん、俺だって緊張していない訳じゃない。

しかし、このままでは一方的に気持ちを伝えられただけで、返事もできなかったヘタレになってしまう。

しかも、その原因が『自分の気持ちが分からなかったから』などという小学生でも見ないような理由で、である。

自分だけの現実(パーソナルリアリティ)を確立すれば、きっとこんな気持ちも分かるのだろうが、あいにくと、私、上条当麻はレベル0。

残念ながら、自分だけの現実なんでものは確立できていない。

 

神裂「その……」

 

神裂は玄関にいたときよりも目が泳いでいる。

そんな姿を見ているだけで、体中を熱い血液が巡る。

こんな感覚は初めてかもしれない。

 

上条「神裂はこのままでもいいのか?」

 

顔を真っ赤にした神裂に問う。

こんな風にしている彼女を見るのは好きかもしれない。

これが恋愛感情? 良くわからない。

 

神裂「え、ええと……」

 

その問いにしばし葛藤していたようだが、気持ちが決まったのだろう。

 

神裂「よ、よろしくお願いします」

 

彼女は消え入りそうな声で、そう答えた。

 

【神裂side】

 

神裂「そ、それでは……」

 

もう、決心はついた。

だが、自分からする度胸はもうない。

だから、リビングのクッションの上に正座し、目を閉じた。

こうしていれば、言い出した手前、彼からしてこなければいけないことになる。

 

上条「お、おう……」

 

しかし、目をつぶっていても、彼がどの程度の距離にいるのかが分かる。いや、分かってしまう。

これは、普段の訓練のたまものだろう。

戦闘時には重宝するが、今はそんなものはない方がいい。明確に彼を感じてしまう。

それに見えない方が怖い。彼がどんな顔をしているのかも分からない。

 

神裂(ううう……)

 

目をつぶったことで、自分がどれほど緊張しているのかも分かってしまった。

それはもうガチガチである。

天使と相対したときでさえここまで緊張はしなかった。

 

上条「行くぞ……?」

 

神裂「は、はい!」

 

その言葉を引き金に、さらに体が強張る。

彼の近寄ってくる感覚。

距離はもうほとんどない。

見えていないだけで、目の前にいるのが分かってしまう。

あと、10cm……。5cm……。

 

神裂(と、当麻……)

 

2cm、1cmと2人は近づいていき、それぞれの心臓の音をBGMに距離が0になった。

 

【上条side】

どのくらいそうしていただろうか?

10秒くらいかもしれないし、1時間かもしれない。

2人から時間の感覚は吹き飛んでいた。

 

上条「………………」

 

神裂「ど、どうですか?」

 

触れた唇をゆっくりと離すと、神裂が不安げな顔で尋ねてくる。

……どうだっただろう?

今ので何が分かったのだろうか?

 

上条「そうだな……」

 

すごく柔らかかった。

すごく温かかった。

すごくやさしかった。

すごく心地よかった。

そして、すごくドキドキした。

 

上条「その……」

 

相変わらず、自分の気持ちなんて分からない。

けれど、これからもこういう時間を神裂と過ごしたい、そう感じた。

つまりは、そういうことじゃないか?

 

 

上条「これからも『勇気』が足りなくなったら言ってくれ」

 

 

顔を逸らしながら、照れ隠しにそう言った。

彼女は一瞬、ポカンとした顔をしたが、俺の言いたいことを理解したのだろう。

 

神裂「はい」

 

という肯定の言葉とともに今までで一番の笑顔を向けてくれた。

 

-3ページ-

6日目ラスト

 

上条(と、いい感じになったのは良かったんですが……)

 

神裂「…………………」モジモジ

 

上条(気まずい……)

 

神裂「…………………」チラチラ

 

上条(さっきまでとは違った空気の重圧があるというかなんというか……)

 

神裂「…………………」

 

上条(どうすればいいんだ? コレ?)

 

神裂「あ、あの!」

 

上条「な、なんでしょうか!?」ビクッ

 

神裂「その……」ボソボソ

 

上条「なんだよ? 言いたいことがあれば言っていいぞ」

 

神裂「え、ええと……ゆ……」

 

上条「ゆ?」

 

神裂「夕食にしませんか?」

 

上条「え?」

 

神裂「ええと、ほら! もう8時ですし!」

 

上条「ええっ!?」

 

上条(ウソだろ? 帰ってきたの5時くらいだから、もう3時間もこうしてたって言うのか!?)

 

上条「もうこんな時間だったのか」

 

神裂「そのようですね」

 

上条「そのようですね、って神裂が夕食にしようっていったんじゃないか」

 

神裂「え? あ。そうでした」

 

上条「? なんだそれ」

 

神裂「まだ少し緊張しているのかもしれません」

 

上条「まあ確かに、俺も硬くなってた気がする」

 

神裂「そうですか? そうは見えませんでしたが」

 

上条「そ、そんな訳ないだろ! こんなに緊張したの初めてだよ」///

 

神裂「うっ…。私もです……」///

 

上条(きっと俺も、神裂くらい顔赤くしてるんだろうな)

 

神裂「しかし……」

 

上条「ん?」

 

神裂「なぜ、今日に限って、その……気持ちに気が付いてくれたんですか?」

 

上条「いや、まあそれは……」

 

上条(小萌先生にアドバイスもらったからなんだけど)

 

上条「ええと……。さ、さすがに、あそこまでされれば、誰でも気づくだろ!」

 

神裂「ぁぅ……」///

 

上条(しかし、良く考えてみれば、『キス』じゃなくても良かったよな。俺も神裂もテンパっててそれに気づかなかったけどさ)

 

神裂「で、では、夕食の準備をしますね」

 

上条「ああ、頼む」

 

夕食中

上条「相変わらず美味いな」

 

神裂「ありがとうございます」

 

上条(段々緊張が解けてきたぞ)

 

神裂「それで……その……」

 

上条「さっきからどうしたんだよ? 言いたいことがあれば、遠慮なくいってくれ」

 

神裂「あの子や土御門になんと説明すればいいものかと思いまして」

 

上条「あ、そうか……」

 

神裂「どうかしましたか?」

 

上条「ええと、その……俺たちって『恋人』ってことになるのか?」

 

神裂「え!? いや、その……」/// モゴモゴ

 

上条「ほら、少し曖昧になってる気がするからさ」

 

神裂「こ、恋人でいいのではないでしょうか?」/// モジモジ

 

上条「うっ……」///

 

上条(そんな反応されると、こっちまで恥ずかしくなってしまいますよ!)

 

上条「そ、そうなると、最初に土御門対策が必要だよな」

 

神裂「まずは土御門からですか」

 

上条「ああ」

 

上条(というか今、この状況を見てたりしないよな?)※見てます

 

神裂「対策といっても、あの男に話すか、話さないかくらいではないですか?」

 

上条「土御門だから、話したら爆発的に広がっちまうだろ」

 

神裂「……そうですね。あの男が知った次の日には、世界中に知られている可能性すらありそうです」

 

上条「となると、基本方針は知られないようにするってことで」

 

神裂「知られた場合はどうしますか?」

 

上条「その場合は、いっそ開き直るっていうのはどうだ?」

 

神裂「開き直る……ですか?」

 

上条「別にやましい事してる訳じゃないし、絶対に秘密ってほどのことでもないだろ」

 

神裂「そ、それもそうですね」///

 

上条「でも、秘密にできるなら秘密にしておこうぜ。色々とからかわれそうだし」

 

神裂「分かりました」

 

上条「……あとは、インデックスか」

 

神裂「あの子に秘密にしておくのは、少し気が引けますが……」

 

上条「あいつは、腹いっぱい食べさせとけば問題ないような気もするけど」

 

神裂(そうでしょうか?)

 

神裂「そういえば、何か手がかりは掴めたのでしょうか?」

 

上条「連絡がないってことはまだなんじゃないか?」

 

神裂「そ、そうですよね」ホッ

 

上条「ん? なんでホッとしてるんだよ」

 

神裂「あの子には悪いですが、もうしばらくはこのままでもいいかもしれないと思いまして」///

 

上条「そ、そういう訳にもいかないだろ」///

 

上条(急にそんなこと言うのは反則だ……)

 

上条「話し合うのはこれくらいか?」

 

神裂「そうですね。差し当たっては」

 

上条「何にしろ、これからもよろしく頼むな、神裂」

 

神裂「こ、こちらこそよろしくお願いします」

 

上条(ところで、俺は神裂に釣り合ってるのだろうか? ……考えないようにしよう。悲しくなってくるから)

 

〜〜〜

 

神裂「ごちそうさまでした」

 

上条「ごちそうさん」

 

神裂「それでは、後片付けをしてしまいますので、お先にお風呂に入ってください」

 

上条「たまには俺がやるから、先に入っとけよ」

 

神裂「え?」

 

上条「後片付けは俺がやっておくって」

 

神裂「いや、しかし……」

 

上条「何から何まで頼ってたら、勘が鈍るだろ? たまには、俺も家事もこなさないと」

 

神裂「そうでしょうか?」

 

上条「ああ。サボり癖がついても仕方ないしな」

 

神裂「そうですか。では、お言葉に甘えさせていただきますね」ニコ

 

上条「おう」

 

〜〜〜

 

上条(とここまではよかったんだけど……)

 

上条「また緊張してきた」ソワソワ

 

上条(なんだかこの状況はマズイ気がする。なんていうの? 初めて彼女が泊まりに来たみたいな感覚?)

 

上条「くそ……。昨日まではそこまで意識してなかったのに……」

 

上条(いや、意識してなかったんじゃなくて、意識しないようにしてただけなんですけどね!)

 

上条「あくまで、俺に気がないと思ってたから、意識しないようにしてただけだしな」

 

上条(好きあってるってことは、手を出しても合法?)

 

上条「な、何を考えているんだ!」ブンブン

 

上条(でも、年頃の男女が一つ屋根の下ですることといえば……)

 

上条「いやいや、落ち着け……。落ち着くんだ……」

 

神裂「上がりました。お次どうぞ」

 

上条「!!」ビクッ

 

神裂「どうかしましたか?」

 

上条「い、いや!? なんでもないですよ!?」

 

上条(湯上りの神裂さんなんか妙に色っぽいんですけど!?)

 

神裂「?」

 

上条「は、入ってくる」

 

神裂「あ、はい。ごゆっくりどうぞ」

 

〜〜〜

 

上条「ふぅ……。落ち着いたぞ……」

 

神裂「ずいぶん長湯でしたね」

 

上条「ああ。ちょっと精神鍛錬をしてたからな」

 

神裂「精神鍛錬ですか?」

 

上条「気にしないでくれ」

 

神裂「はぁ、そうですか」

 

上条「それで、神裂は何しようとしてるんだ?」

 

神裂「これですか? 髪をすこうかと思いまして」

 

上条「神裂は髪長いから手入れとか大変そうだよな」

 

神裂「いえ、髪を軽くすくくらいで、大して手入れはしていませんよ」

 

上条「マジですか……」

 

神裂「よければ、やってみますか?」クスッ

 

上条「え?」

 

神裂「当麻が触りたそうに見ていましたので」

 

上条「ええと……、うん。じゃあ遠慮なく」

 

神裂「では、お願いしますね」

 

上条「お、おう」

 

上条(やばい。すごいサラサラだ……)

 

神裂「誰かにすいてもらうというのもいいものですね」

 

上条「そ、そうか? それならよかった」

 

上条(それになんかいい匂いするし! ここ数日は同じシャンプー使ってるはずなのになんで!?)

 

神裂「? どうかしましたか?」

 

上条「手入れしてないって割には、すごく手触りがいいなと思ってさ」

 

神裂「そうでしょうか? あまり気にしたことはありませんが」

 

上条「むしろ、手入れしてなくてこのレベル? って聞きたくなるよ」

 

神裂「はは、ありがとうございます」

 

上条「サラサラで気持ちいいな」

 

神裂「私も気持ちいいです」

 

上条「何が?」

 

 

神裂「あ、そ、その……当麻に梳かしてもらえてです……」///

 

 

上条(ぐわーっ!? ナニコレ、かわいい!)

 

上条「そ、そりゃ良かった。気に入ったなら、またやってやるよ」

 

神裂「はい。よろしくお願いします」

 

〜〜〜

 

上条「よし。そろそろ寝るか」

 

上条(今日は時間の進み方がおかしい。もう12時かよ)

 

神裂「そ、そうですね」

 

上条「じゃあ、上条さんは風呂場で……」

 

神裂「え?」

 

上条「いやいや、さすがにこういう関係になったら一緒に寝るのはマズイんじゃない?」

 

上条(主に上条さんの理性がですけども!)

 

神裂「い、いえ……。できれば、今まで通りの方が私はうれしいのですが……」

 

上条「うっ……」

 

神裂「ダメでしょうか?」

 

上条「はぁ……。そんな顔されたらダメなんて言えないだろ……」

 

神裂「あ、ありがとうございます」

 

上条「その代わり、一緒に寝るのはなしだからな」

 

神裂「あぅ……」///

 

上条(そうしたかったのか!? そんな拷問に耐え切れるほど上条さんはできた人間ではありませんことよ?)

 

神裂「では手を……」

 

上条「ん。まあ、それくらいなら」ギュッ

 

神裂「あ、いえ、こうではなくて……」

 

上条「え?」

 

神裂「せ、せっかくですから」ギュッ

 

上条(こ、これは『恋人つなぎ』!?)

 

上条「か、神裂さん?」

 

神裂「は、はい」

 

上条「これは、その……」

 

神裂「嫌でしたか?」

 

上条「そ、そんなことない! そんなことないけどさ!」///

 

上条(こんな手の繋ぎ方したまま寝られるだろうか?)

 

神裂「ふふっ。これだと、当麻がすごくドキドキしてるのが伝わってきますよ」///

 

上条「神裂も人のこと言えないだろ」

 

 

神裂「はい。今、すごく幸せですから」ニコ

 

 

上条(ぬぁぁぁっ!? ズキューンと来たァ!? くっ、このままやられっぱなしで終わってたまるか!)

 

上条「そ、それじゃ寝るか」

 

神裂「あ、はい」

 

上条「オヤスミ、神裂」チュッ

 

神裂「えっ!?」

 

上条「はは……。照れるもんだな」///

 

神裂「///」

 

上条「で、電気切るぞ」

 

神裂「ぁ、はい。お休みなさい、当麻」

 

上条「ああ、オヤスミ」

 

-4ページ-

共同生活7日目 朝

 

上条「ふぁ……」

 

神裂「眠そうですね」

 

上条「寝れる訳ないって……」ボソ

 

神裂「はい?」

 

上条「いや、なんでも……」

 

上条(繋いでる手が汗ばんでたり、いい匂いがしたり、かすかに吐息が聞こえたりしてもうダメになりそうでしたよ……)

 

神裂「大丈夫ですか? 顔色も悪いようですけど」

 

上条「ああ。体の方は大丈夫だ」

 

神裂「それならいいのですが」

 

上条(むしろキツイのは精神だよ。今日もこんな天国での苦行をしなくちゃいけないのか)

 

上条「おっと、そろそろ行かないと」

 

神裂「そうですね。お気をつけて」

 

上条「あれ?」

 

神裂「どうかしましたか?」

 

上条「いや、今日は『勇気』は足りてるのかと思ってさ」/// ポリポリ

 

神裂「うぅっ!? その……それは……」///

 

上条「昨日の夜、補給したしな。大丈夫ならいいんだ。じゃ、行ってきます」

 

神裂「ま、待ってください!」

 

上条「ん?」

 

 

神裂「あれくらいで足りるわけないじゃないですか……」

 

 

―学校―

上条「♪〜」

 

青ピ「あれ? 今日はカミやん随分とご機嫌やね」

 

土御門「そうみたいだにゃー」プププ

 

青ピ「何や? 原因しってるんかいな?」

 

土御門「いやいや、俺は何も知らないぜい?」

 

上条「なんだよ。2人してコソコソと」

 

土御門「いや〜、今日のカミやんは上機嫌だからにゃ〜」

 

青ピ「昨日とは打って変わって何があったん?」

 

上条「え? いや、それは……」

 

土御門「ねーちんと何か進展があったのかにゃー?」ククク

 

上条「え!?」ギクッ

 

上条(土御門のやつ全部知ってるとかじゃねえよな?)

 

青ピ「オイオイ。その反応はどういうことや? まさか抜け駆けとかしてへんよな?」

 

上条「ま、まさか〜」

 

姫神「怪しい」

 

上条「うわっ!? 姫神いたのか!?」

 

姫神「うん。ずっと」

 

土御門「きっと昨晩はよろしくやってたに違いないぜい」

 

青ピ「カミやん、貴様……」

 

上条「だーっ!! 土御門は余計なこと吹き込むな!」

 

姫神「よろしくやってた……」

 

吹寄「また、貴様たちは何を騒いでる!」

 

上条「ふ、吹寄か」

 

土御門「またカミやんが女の子に手を出したって話だにゃー」

 

上条「オイ、土御門。『また』ってどういうことだ!」

 

吹寄「上条……。貴様、また?」

 

上条「吹寄まで!?」

 

青ピ「また……やね」

 

姫神「うん。『また』。これで何人目?」

 

 

上条「人聞き悪いこと言うな! 何人目もなにも、まだ1人目だよ!」

 

 

吹寄・姫神「え?」

 

青ピ「へえ〜、カミやん。『1人目』ってことは、その『ねーちん』には手を出したんやね?」

 

上条「はっ!? し、しまった!?」

 

土御門「墓穴掘ってるにゃー」

 

吹寄「上条……。貴様……」

 

青ピ「裏切り者には―――」

 

クラス男子「「「「死の鉄槌を」」」」

 

上条「く、くそーっ!! またこの展開かーっ!!」

 

小萌「皆さ〜ん。ホームルームの時間……ってなんですか、この騒ぎは!」

 

青ピ「チッ! 命拾いしたな、カミやん」

 

上条(た、助かった……)

 

 

放課後 帰宅中

上条「ひ、酷い目に遭った……」

 

土御門「抜け駆けしたんだから、自業自得ですたい」

 

上条(それに、秘密にするとか言ってて即バレ……)

 

上条「神裂になんて説明すればいいかな」

 

土御門「しかし、まさかねーちんがカミやんを落とすとは思わなかったぜい」

 

上条「神裂が俺を? 逆じゃねーのか?」

 

土御門「だからカミやんは鈍感って言われるんだぜい?」

 

上条「鈍感かな?」

 

土御門「前々から、興味は持たれてたんだぞ? それに気づいてないんだから鈍感だろうよ」

 

上条「小萌先生に相談したときにも似たようなこと言われたよ」

 

土御門(なるほど。昨日、カミやんが妙に鋭かったのはそのせいか)

 

上条「それで、インデックスの方は何かわかったのか?」

 

土御門「あ」

 

上条「なんだよ? 何か不吉な予感がするのですが……」

 

土御門「いやいや、なんでもないぜい?」ニヤニヤ

 

上条「お前がそうやって笑うときには、大抵悪いことが起きるんだけどな」

 

土御門「相変わらず進展なし。カミやんにとっても、ねーちんにとってもしばらくはその方がいいんじゃないかにゃー?」

 

上条「ううっ!?」

 

土御門「おー、熱い、熱い。今日は部屋にいるから、何かあれば呼んでくれよ」

 

上条「だれが呼ぶか!」

 

―上条の部屋―

上条「ただいまー」

 

神裂「おかえりなさい」

 

上条「何してるんだ?」

 

神裂「ここのところ家事ができませんでしたからね。掃除やら洗濯を一気に片付けていました」

 

上条「それにしちゃ時間かけすぎじゃないか? もう朝からだいぶ経つけど」

 

神裂「そ、そうですね。少しのんびりしすぎたかもしれません」

 

神裂(午前中いっぱいボーっとしてたとはいえません……)

 

神裂「それより、学校の方はお変わりありませんでしたか?」

 

上条「あ、それなんだけどさ」

 

神裂「はい?」

 

上条「すまん! 土御門に即バレた」

 

神裂「ハハハ……。仕方ありませんね。あの男は鼻だけは利きますから」

 

上条「お、怒らないのか?」

 

神裂「昨日、あなたがいったではないですか。『やましいことをしている訳ではない』と」

 

上条「そ、そうだよな」ホッ

 

神裂「でも……」

 

上条「ん?」

 

神裂「昨日の今日でバレるにはちょっと早すぎますよね」

 

上条「ですよねー」

 

神裂「それでは、どうしましょうか?」

 

上条「あ、家事がまだあるなら手伝うぞ」

 

神裂「いえ、ちょうど終わったところなんですよ」

 

上条「そうなると……夕飯にはまだ早いし……」

 

神裂「ちょっとした時間ができてしまいましたね」

 

上条「そうなるな」

 

神裂「…………………」

 

上条「…………………」

 

上条(な、なんか空気が……)

 

神裂「そ、それではお茶でも淹れましょうか」

 

上条「そうだな! うん、それがいい」

 

神裂「すぐ用意しますので、そちらでお待ちください」

 

上条「分かった」

 

上条(あ、危なかった! 神裂の機転がなかったら、変な方向に行きそうだったぞ!)

 

〜〜〜

 

神裂「お待たせしました」

 

上条「悪いな」

 

神裂「いえいえ」

 

上条「やっぱり、神裂は緑茶が好きなのか?」ズズズ

 

神裂「そうですねえ。緑茶ももちろん好きですが、紅茶も好きですよ」

 

上条「ああ、そうだよな。職場が本場だしな」

 

神裂「ええ。今度はそちらを用意しましょうか?」

 

上条「頼むよ。紅茶の違いが分かるほど上条さんの舌が利口とも思えませんけど」

 

神裂「こちらのものとは大違いですよ。別物といってもいいかもしれません」

 

上条「そういえば、ステイルがそれについてブツブツ言ってたことがあったかもしれない」

 

神裂「でしょう?」

 

上条(なんかこういうゆったりとした空気はいいな。癒される……)

 

神裂「あ、そうだ。お茶菓子があるんでした」

 

上条(インデックスといると備え置きのお茶菓子があるってのは信じられないよな……)

 

上条「俺の方が近いし、神裂は座っててくれ」

 

神裂「どこにあるか分かります?」

 

上条「戸棚の奥じゃないのか?」

 

神裂「あ、はい。では、お願いします」

 

上条「神裂もだいぶこの家に慣れてきたよな」

 

神裂「ふふっ。そうですね」

 

上条「え〜と……。せんべいか、渋いな……」ゴソゴソ

 

神裂「緑茶には、餡子系が好みなのですが、そちらの方が日持ちしますからね」

 

上条「しかも、鉄缶のやつか……。いつの間に買ったんだか。よっと」ヒョイ

 

神裂「お手数をかけます」

 

上条「なにこのくらい」

 

神裂「足元気をつけてくださいね」

 

上条「言われなくとも……。うぉっ!?」グラ

 

神裂「危ない!」サッ

 

ゴガァァァン!! ←せんべいの鉄缶が落ちる音

 

上条「あいたたた……」

 

神裂「だ、大丈夫ですか?」

 

上条「……っあれ?」

 

上条(な、なんか押し倒したみたいな体勢に!? 前にもこんなことあったよな!?)

 

神裂「ええと、その……」

 

上条「ああ、大丈夫! 怪我とかはしてないぞ! 神裂は大丈夫か?」

 

神裂「い、いえ、それよりも……」

 

上条「ん? あ! す、すまん! すぐ退きますから!」

 

神裂「あ……」

 

上条「え?」

 

神裂「あの……もう少しこのままでも……」///

 

上条(か、かわいいぞ!)///

 

上条「えっと……」

 

上条(こういうときはどうすればいいんだ!? だ、誰か助けてくれ!)

 

神裂「///」

 

上条(だ、抱きしめたりすればいいのか? そ、それともキスとか?)

 

神裂「と、当麻……」

 

上条(ぬぉぉぉっ!? そんな切なげな声を出さないでください!)

 

神裂「その……ギュッとしてくれますか?」///

 

上条(も、もうダメかもしれない)

 

上条「よ、喜んで」///

 

神裂「ありがとうございます」///

 

上条(だ、抱きしめるってことはあのデカイ胸を受け止めるってことだよな? 正気を保てるだろうか?)

 

上条「そ、それでは失礼して……」

 

 

ガチャッ

 

 

 

インデックス「ただいまー」

 

 

 

五和「お、お邪魔します!」

 

 

 

上条・神裂「!?」

 

 

【後編に続く】

 

説明
中編です。
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タグ
とある魔術の禁書目録 上条当麻 神裂火織 

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