笑顔のためだけに ― Never end world ― |
手にしていた書類に落としていた視線を上げて、ふと窓の外を見る
空にはキレイな月が浮かんでいた
再建された帝都ペンドラゴンの皇帝稜にある私室で、ナナリー・ヴィ・ブリタニアは各種の書類をさばいていた
気がついたら夜もずいぶん更けてきている
・・・そろそろ寝ようかな
そんなことを考えていたらノックの音が
誰だろう? こんな時間に
「はい? どうぞ」
「すまないな、こんな時間に」
部屋に入ってきたのはコーネリア姉さまだった、手には何かのビンとグラスを三つ提げている
「いい酒が手に入ってな。 よかったら一杯付き合ってくれないか?」
そう言って手に提げたビンを掲げてみせる
「お酒、ですか? でも、私はまだ未成年ですし・・・」
しかし彼女は返事も聞かずに、すでにグラスにお酒を注いでいる
「まあ、世界ではワインやビールなどは子供のころから飲んでいる国もあることだし、かまわないだろう?」
そんなことを言って茶目っ気たっぷりにウインクしながらグラスを私に向かって差し出した
・・・もう、こんなんじゃ断れないじゃない
渋々とグラスを受け取る、中にはキレイな琥珀色のお酒が揺れていた
グラスから漂ってくるお酒の香りの中に、ほのかに漂うこの甘い香りは
「リンゴ?」
「ああ、カルバドスという酒だ。 ぶどうから作った蒸留酒がブランデーで、リンゴから作ればカルバドス。 細かく言ったらきりが無いんだが大雑把に言えばそういうことだ」
そっと一口含むと口の中一杯にリンゴの香りが広がっていく
そのまま飲み込む、これは・・・
「あの、コーネリア姉さま? これって、ちょっと・・・」
「ん? あ、そうか。 カルバドスはアルコール度数が40度ほどあるんだ。 ちょっとキツかったか」
思わず口元を押さえる
お願いですからそういうことは先に言ってください、むせないようにするので精一杯です
やっと落ち着いたのでほっと息をつく
まったくもう、なんてものを飲ませるんだろう
当の本人はグラスを傾けながらビンのラベルを眺めていた、とても優しい表情で
口元が開き言葉が紡がれる
「このカルバドスな、名前はクール・ド・リヨンと言う。 ブリタニア語ではライオン・ハート、獅子の心となるか。 樽詰めが2000年・・・ あいつの生まれた年だ」
心臓がギクッと鳴った、それは、まさか
コーネリア姉さまを見る
その表情は変わらず優しいままで
「今の世界は優しいな」
グラスを傾けながら
「まだ問題はたくさんあるが、それでも皆が優しくあろうとしている」
言葉は途切れることなく
「それは、あいつが願っていたことなのだろう」
菫色の瞳が私を見つめる
言葉に詰まった
それは決して話していいことではないと、知っているから
でも答えが返ってくるとは思っていなかったようで、一人語りは続く
「最近になって考えるようになった。 いや、気付いたといったほうがいいか。 なぜ、あいつがあんなことをしたのかを。 あいつは・・・ 世界中の悪意を一身に背負うことで、世界中の人々が優しくなれるよう、そう願ったんじゃないのか、と」
何も言うことは出来ない
肯定も、否定も
言ってしまえば、それは・・・
コーネリア姉さまがそっと目を閉じて呟く
「超然とそこに在る、孤高の獅子の心は誰も知ることは出来ずに、ただそこに在る」
そして、空いていたもうひとつのグラスにクール・ド・リヨンを注ぐ
「だから、この杯はあいつにささげよう。 世界の悪意をその身に纏い逝った優しき弟に」
コーネリア姉さまはグラスを月に向かって掲げる
月の光に照らされたグラスが黄金色に輝く
まるで獅子の鬣のように
そのグラスをわたしに向かって差し出す
「これはおまえが飲んでくれ。 あいつも、それを望むだろう」
促されるままにグラスを受け取り、そのまま口に含み、飲み込む
琥珀が口からのどを通って体の奥へと流れていく
体の中から温もりが広がっていく
それはまるで体を抱きしめられているようで
「お兄さま・・・」
眠ってしまったナナリーを寝室のベッドに寝かせ、灯りを消す
コーネリアが寝室を出るときに見たナナリーの寝顔には笑みが浮かんでいた
ナナリーは夢を見ていた
優しい夢を
ルルーシュが スザクが みんなが笑顔で笑いあっている
そんな夢を
見ていた
― Fin ―
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ずいぶん前に書いたコードギアスのSSです R2の最終回の数年後をイメージしていました |
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