初恋は男の一生を左右する
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「圭ちゃん」

 不意に呼ばれ、顔を上げる。時折見かけていた、幼なじみの紫苑の姿が目の前にあった。ぼんやりとした日の光に照らされて紫苑の顔立ちは圭一郎には拝めなかった。逆光が細い首筋を照らしていて口元しか圭一郎には分からない。ただ、意味もなくどきりとする。丸襟の白いブラウス、緑のラインの入ったリボンは高校二年生という自分と同じ歳であることを示している。だがそのリボンは襟回りにしっかりとは止められていなかった。外れて首に掛かっているだけだ。脱いでる途中のようなその姿に首をかしげていると、パフスリーブから出ている腕が不意に動く。ブラウスのボタンが外れていく。

「ちょ、おい」

 居たたまれなくなって声をかけるが、紫苑はかろうじて見える口元だけで微笑みを作るだけで、手は止まらない。白い下着がちらりと見えて圭一郎はことのほか驚いた。

 もう五年はきちんと顔を合わせたことはない。紫苑の家は圭一郎の家とも隣接しているいわばお隣さんだ。紫苑の家そのものは何軒もの住宅でも隣という大豪邸なのだが。裏木戸の入り口が圭一郎の家の横であるために顔を合わせないまでも学校へ行くその姿を圭一郎はたまに見かけている。幼なじみとして仲がよかったのは、小学校までだった。

「圭ちゃんだったら……いいよ」

 控えめな声、その声が自分がかつて紫苑と会話をしていた子どもの頃の声だと気づいて、圭一郎は夢を見ていると悟った。中学でクラスが別になり、それ以降まともに声を聞いていない。無邪気な猫のような丸い声をさせているのに艶っぽい行動の姿に、目が紫苑の手を追いかけてしまう。

 内心は慌てているのに身体が動かない。手にじっとりと汗をかいているのが分かった。覚めろ。覚めろ。呪文のように思う。紫苑がブラウスのボタンを外しきり、首のリボンと同じ柄、赤地と緑ラインのチェックスカートの裾をつまんだのを見た。

「へへ……圭ちゃんなら、解ってくれるよね」

 生唾を飲み込んで圭一郎はその動作をじんわりと眺めていた。手を握りしめる。紫苑はこんなに女っぽかっただろうか。夢だからといって勝手なものだと焦り半分に感じて気づいた。そんな夢を見る自分はどう考えているのか。

説明
夏コミサンプル。サンプルなので本になったときとはまた文が違います。
男の娘と幼なじみ(男)なラブコメ(のはず)
本、サンプルともに全年齢です。
コミックマーケット80 8月14日 日曜日 東地区“プ”ブロック−47b
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