甘々系男子
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 製菓専門校に通うべく都会に暮らし始めて早三ヶ月。

 両親が譲らなかった為、念願の一人暮らしは成らず、その町に住んでいた親戚のおじさん家に暮らすことになった。

 2DKマンションに単身赴任、比較的よく会っていた人でもあったし、年はさすがに離れているけど男同士、割りと気兼ねない生活が送れるものと思っていた。

 

「なあ」

 普段は堅苦しいスーツをビシッと決めているメガネ銀行マンが、猫のように鳴いた。

 Tシャツにトランクスでソファに突っ伏すその姿は、とても見られたもんじゃない。

「なによ?」

 年上とはいえ親戚にはかなりフランクに付き合うタイプなので、友達のように答えた。

「甘いもん食いたい」

「てめえで作れ」

 友達はここまで厚かましくないのでランクを下げることにする。

「やだ、お前が作った方が絶対美味いし」

「面倒」

 美味いのは当然だ。本当なら学校なんかに通わず直接パリにでも行きたかったが、諸々の事情でとりあえず専門校に行かされてる。

「材料買ってくるから」

「やだ」

「給料やるから」

「そこまでやるぐらいなら買ってこいよ!」

 有名な店が近場にある。あの店の味は俺が認めるくらいの本物だ。

「だってー、作ってくれた方が美味いじゃん実際」

 ここに来て一回だけ作って見せたことがある。とはいえ、

「あのなぁ……プリンぐらいで美味いとか言ってんじゃねえよ。だいたいこんなマンションのキッチンじゃああいう本物の味には到底できないっつーの」

 材料さえあればそこそこの物は作れる。だが材料を活かす腕があっても道具が不足していては、俺が満足するだけの出来にはならない。故に断る。

「ほれ、大人しくコンビニでアイスでも買ってこいよ。スーパー何某バニラ味あれ美味いから」

「ハーゲンダッツを選べない男の人って……」

「うるせ! そっちみたいな高級取りどころか貧乏学生様に喧嘩売ってんのか!!」

「ほほぅ……お金が無い貧乏学生か」

 ようやく起き上がった顔は、やたらとにやついていて嫌な予感しかしない。

「よおし、ここはおじさんが仕事ぶりに対する報酬をやろう」

「……つまり作れってことだろ……、はぁ、めんどくさ」

「ふっふっふ、妻と子供に仕送りした所で可愛い甥っ子に報酬をあげられない程安い給料ではないのだよ」

「うわ嫌味にしか聞こえねぇ」

 しかも声が弾んでいる、というか調子付いてる。

「一生仕事モードで生きていりゃいいのに……」

「家族の前では素直な姿で私はいたい……っ!」

「いるな!」

「さて賛同を得られたところで――」

「脳内だけだろそれ」

「――これでどうだ?」

 ずびっと指三本が掲示された。

「三千?」

「桁が違うな」

「三百?」

「当たり」

「死ね」

「イッツ親父ジョークッ!」

「つまんねえから……」

「ま、三万ぐらい問題ない。材料費も別に出そう」

「マジ?」

「おまえの入学祝い、小中高専と誰が一番金出してやったか覚えてない?」

「ありがとうございます叔父殿、つきましては五万ぐらい切りの良い数字ですとなお良し」

「却下する」

 露骨に舌打ちしてやる。

「あー仕方がねえ、面倒だけどちょっくら行ってくるわ」

「何作るの?」

 ケーキも良いし焼き菓子も良い、今流行のロール系でもいける。けど、

「プリン」

「えー」

「文句あんの? だったら遠い問屋街まで行ってくるか?」

「はい材料費とりあえず、プリン僕は大好きだなあ!」

 手の平返してどこからか万札を取り出した。それを受け取ってポケットにねじ込む。

「へいへい、にしてもプリンだったらマジ向こうの店のが美味いぞ?」

「まあな、さすが長年ホテルで料理長なんかやっていただけはあるよ」

「知ってんならなんで?」

 叔父はまた突っ伏すとしばらく唸って、顔を上げた。

「そりゃお前が作るのだからな」

「は? 意味わっかんね」

「わかんなくて良いよ、ほれさっさと行った行った」

 てめえの為に行ってやると言うのに、しっしと手で追いやられた。

「ったく、……じゃ、行ってきます」

「早くなー」

「へいへい」

 とりあえず早めに材料を揃えて帰ろうと思う。

 別に叔父のためではない、焼き上げに時間がかかるからだ。

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