おあずけ愛紗と世話焼き桃香 〜真・恋姫†無双SS 第一話
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おあずけ愛紗と世話焼き桃香 〜真・恋姫†無双SS

 

第一話

 

 見渡す限りの平原に街道が一筋、伸びている。

 その終点を見晴るかせば小さく街の城壁があった。

 配下の兵を従え、街道を行く一人の将がいた。乗騎が歩を進めるとそれにあわせて彼女の艶やかな黒髪が揺れる。その度に陽の光を受けてきらきらと輝く様は上等な黒絹のようだった。

 凛然と背筋を伸ばし威風で辺りを払う姿は名だたる将軍といった風情だ。

 それもそのはず、彼女は蜀にその人ありと謳われた関雲長――――真名を愛紗という――――なのだから。

 

「関将軍」

 

 傍らの副官が彼女に呼びかける。

 

「…………」

 

 だが、何か思い悩んでいることでもあるのか彼女は一顧だにしない。

 

「関将軍」

「…………」

 

 部下の再度の呼びかけもまるで取り合おうとせず、ただただ前を見つめるだけだ。天下国家の行く末にでも思いを馳せているのであろうか。

 

「関将軍!」

「…………な、なんだ?」

「顔が緩んでいます」

「緩んでなどいない!」

 

 指摘された愛紗は口ではそう言いながらも慌てて顔を引き締めた。

 もう少しで街に着く、そう思えば彼女自身は普段どおりにしているつもりでもついつい嬉しさが表情にも態度にも表れてしまう。

 もちろん慣れ親しんだ家に帰れるというのもあるが、それ以上に長らく会えなかった好きな人にようやく会えるというのが大きい。

 馬をゆったりと歩ませながら愛紗は都を離れている間のことを思い出していた。

 ――――初めは国境付近を視察するだけの任務だった。そのはずが、たまたま近くに現れた匪賊討伐に担ぎ出され、砦の慰問を頼まれ、合間合間に土地の長老たちからは歓待され――――そんなことをしているうちに当初は十日ほどで戻れるはずの予定がどんどん伸びていき、結局一月も都を留守にするまでになってしまった。

 

(ようやく、ようやくご主人様にお会いできる。いったい、どんなお姿で私を迎えてくださるのだろうか……)

 

 そう思えば自然、顔も緩むというものだ。

 

「関将軍!」

 

 こうして部下に嗜められるのも何度目になるのか。

 

「ですから最前から申し上げているように、お一人で先に行かれてもよろしいのですよ?」

「緊急時でもないのに将が部下を置いて先になど行けるものか」

 

 これも何度目になるかわからない提案を愛紗は一蹴する。

 

「せっかく予定より少し早く戻れることになったんですし、今度くらいは構わないのでは・・・・・・」

 

 実は気落ちしため息ばかりつくようになった愛紗を見かねた周囲がこっそり手を回した結果、帰りが早まったのだが。

 

「それはお前たちが……」

 

 気を回しすぎる部下を軽く睨めつけながら口の中で文句をつける愛紗であったが、本調子じゃないことは自分でも良くわかっている。原因が一刀と長らく離れているせいだということもだ。

 

「すみません、将軍。よく聞こえなかったのですが……」

 

 本心を見透かされているようでどうにも恥ずかしく、気がつかないふりをしている彼女も内心では感謝していた。

 だからこそ将の役目は別にしても、せめて街までは一緒にいてやりたいと思ってもいるのだ。

 

「それとこれとは別問題だ、と言ったのだ!」

「意地を張るのも結構ですが、であればそんな姿を兵に見せないでいただきたい」

「うっ……」

 

 正論をぶつけられ、生真面目な愛紗は黙りこむ他なかった。

 将に緊張感がなくなれば兵たちはたちまちそういった雰囲気を感じ取ってだらけてしまうだろう。そうなればもはや軍は軍とも呼べず、訓練を重ねた精兵もただの烏合の衆に成り下がる。

 もっとも、気心の知れた関羽隊の面々は彼女がどれだけご主人様を慕っているかよくわかっているので今更舐めた態度を取ったりはしないのだが、そこはそれ、何事にも節度というものがあるのだ。

 ことさら眦をつり上げて厳しい表情を拵えると愛紗は視線を前に戻した。

 そうしていると正しく歴戦の名将にしか見えない。

 馬は主人の心を知ってか知らずか、落ち着かない愛紗を乗せたまま、歩調を変えることなく進み続けている――――愛紗にはそれもまた焦れったくてたまらない。

 まだまだ遠いとは言え、都の城壁が見える距離にまで近づけたことが一刻も早く帰りたい愛紗の心を刺激する。

 彼方に小さく見える城壁を見つめながら遅々とした歩みに身を任せているうちに、いつしか愛紗の心だけが宙を飛び、一足先に仮りそめの帰還を果たしていた。

 

『はぁ……』

 

 主従それぞれから同時に出たため息が重なった――――一方は悩ましげな熱い吐息でもう片方は疲れた重い吐息と、そこに籠められた感情はまるで違ってはいたけれど深刻さでは甲乙つけ難い。

 また再会の場面でも思い浮かべたのか、名将から恋する乙女へとたちまち変身した上司を見て副官はもはや数えるのも馬鹿らしいほど繰り返した注意を再びするべく口を開くのだった。

 

説明
真・恋姫†無双SSで愛紗メインです。

書きためてた話がカタチになってきたので順次アップしていきます。

ご意見・ご感想など頂ければ幸いです。


9月4日追記:改ページを無くし、本文に少し(誤字脱字の訂正程度)手を入れました。
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タグ
真・恋姫†無双 愛紗 

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