東方外鬼譚 《愚神礼賛》が幻想入り 第三章 |
♯狼と見た幻想の郷
「そこの人間! こんな所で何をやってるんですか!!」
背後からの突然の訪問者に軋識はとりあえず両手をあげてみた。
ちっ、いつの間に背後に…。
声からするとたぶん若い女だろうけど、周囲の警備はすべて片付けた
筈だし人の気配も今の今まで感じなかった…。
だとしたら相手はプロのプレイヤーと考えて、まず間違いない。
「待ってくれ。実は道に迷ってしまっ…」
適当な言い訳をしながら振り向いた軋識は、呆然と目の前の人物に目を奪われた。
そこに立っていたのが十代中頃の少女で、楓模様の盾を背負い
肉厚な太刀を帯刀していたと言うのもその理由である。
だがもっと大きな理由は、犬耳尻尾に山伏装束という奇抜なコスプレ姿だったからだ。
なんで巫女服でなく山伏装束なんだ…!?
「いったいどこの層を狙ったコスプレなんだよ…」
「あの、なにかいいましたか?」
動揺のせいか思ったことが口に出てしまったようだ。
「あぁ、いや…、なんでもない」
「そうですか?ならいいですけど、この山は危険な妖怪も
結構でますし、不用意に人間に立ち入られると困りますよ」
少女は困り顔で、唐突にそんなことを言い放った。
「………は? 妖怪?」
ただし軋識はそれをこえる困惑の顔で、少女の言葉をオウム返しする。
何を言っているんだ…、まさか本気で言っているのか?
だとしたら相当に電波な頭をしてやがる、じゃなきゃただのイカレだ。
少し前に自分を殺害対象に数え間違えるような
イカレた中学生のガキにからまれたけど、このガキも負けず劣らずだ。
「ですから危険な妖怪ですよ!
危険な妖怪、人喰いの妖怪ですよ!!」
「人喰い妖怪……」
軋識の頭の中は、今にもクエスチョンマークが
輪になって踊りだしそうな勢いだった。
馬鹿にしてるのか?
それとも全てわかっている上での時間稼ぎだろうか…。
だとしたらとっとと殺して、この場を離れるべきだろう――が。
背後に立ちながら警告をしてきたという事は、
本当に一般人と間違われた可能性が高いんじゃないか?
俺のスーツ姿は、レンのそれと比べても圧倒的に自然だ。
ただそうなるとサラリーマンがこんな真昼間に
カバンも持たず、スーツ姿で登山なんてしない事についての
弁解なりごまかしなりを考えなくては、いけないんじゃないか…。
一人考えにふけていると目の前に何かが右に、左にとゆらゆらと揺れる。
「――?」
ふ、と我に返って初めて気がついた。
少女はいつの間にか、軋識の目と鼻の先まで近寄っていて
目の前で手を左右にふっていたのだ。
「ひとの話聞いてますか〜?」
少女の顔は少し不機嫌そうに変わっていた。
「え、あぁ聞いてる聞いてる。全然、聞いてたぞ」
「ほんとかなぁ…、まあいいんですけど。
おじさんは、なんでこんな山奥に来たんですか?」
お、直球だな…。まあ当然の質問だよな。
「俺はな、こう見えても作家なんだぜ?あえて題名は伏せるけど、
この間だって俺の出した本が大きな賞を取ったばかりだ。
この山に来たのは…、なんだ…次の作品の参考にしようよ思ってな。
ちなみに俺はまだ20代だ――。おっさんじゃない!」
最後の部分は強く、とても強く強調した。
確かにギリギリ20代ではあるが、そこはまだ譲れない。
「えっと…、じゃあお兄さんでいいですか?」
「兄さん……、か」
不意に昔の懐かしい記憶が蘇り、そして消えた。
兄と呼ばれたのなんて、いつぶりだったろうか――。
「まあ、柄じゃないけどそれでいいぞ」
「いいぞって、…まぁいいか。とにかく、この山を参考にするのは大いに
結構なんですけど、せめて稗田の退治屋あたりに同行してもらってくださいよ」
「………」いや、真に受けるな俺。
このガキは初対面の人間に妖怪の話をするような奴だ。
大人なら、ここは華麗にスルーして逆に情報を引き出すべきだ。
「そう言うお前は、こんな所で何をやっているんだ?」
「もちろん見回りですよ。お兄さんみたいに無用心な人間が
妖怪の献立にならないように目を光らせてるんです」
少女はえへんと胸を張った、もっとも張る程の胸はないのだが…。
「つまりお前は、この山の警備をしてるってことか」
やっぱ今回の実験の関係者と考えて、間違い無い――。
まぁ、今この封鎖された山を武装して徘徊してる奴なんて
関係者以外だと、俺みたいな害意を持った闖入者くらいなものだ。
「じゃあそう言う訳なんで、とりあえず下山してもらいますね」
言うが早いか、少女は軋識の袖を掴むとグイグイと引っ張って歩きだした。
「おいっ、ちょっ! このスーツ高いんだからあんまり引っ張るな!!」
顔に似合わず強引な奴だ…。
スーツを魔手から救い出した軋識は、渋々少女のあとを追いかけた。
「そう言えば、この山を参考に本を書くって言ってましたよね。
ならやっぱり守谷神社に行くつもりだったんですか?」
「――神社?」
下りの山道を歩いてしばらくすると、何気なく少女が問いかけてきた。
「妖怪の山の最近の人気スポットって言ったら、守谷神社が一番じゃないですか」
おかしい――。「この山に神社なんてあったか?」
山の事は前もって調べていたが、神社があるとはどこにも無い情報だ。
それどころか、この山は何もない。山しかない場所で、
だからこそ今回の試験運転による彼らの動きが目立って見えたのだ。
「物書さんは世情に疎と言いますけど、…ほんとうなんですね。
あ、でも神社が来たのも最近の事ですし、仕方ないかもですね」
作家が世情に疎いというのは完全に偏見だし、神社が『来た』と言う
言い回し自体が間違ってる。このガキどうやらあまりものを知らないようだな。
これだからガキは嫌いなんだ……。
「それにしても神社が人気スポットねぇ…。流行りのパワースポットか何かか?」
「ある意味パワースポットみたいなものですかね?
神様が二柱祀られているんですよ」
「二柱!?」
さらっと言ったがそれは、かなり珍しい神社じゃないか?
でもそうなると、この情報がどこにも出回っていない事が余計に怪しく感じられるな。
もしかすれば弐栞か氏神による隠れ蓑の
可能性もあるし、そうなれば有益な情報もきっと手に入る筈だ。
「守谷神社か…、興味が湧いたよ」
軋識はネクタイをキュッと締め直した。
「―――? あ、でも今からはダメですよ?
後日ちゃんと身を守れる状態で来てください。
たしか山の神様が稗田家当主に『安全安心☆守谷神社つあー!!』と言う
のを提案してたそうですから、稗田本家に行くといいですよ?」
「お、おう。そうするよ」
なんだろう…、情報を引き出せば引き出すほど、
矛盾が増えてくるような気がするぞ。
「ん? ちょっと待て、その稗田本家ってのはどこにあるんだ?」
少女の妄言ともつかない戯言に付き合うのも馬鹿らしいが、
何かの手がかりなれば、それは儲けものだ。
「すいません、私里にはあまり降りないんで、詳しい
位置までは…。それに稗田の人間は……、あまり好きじゃないですし」
先程まで気さくに話していた少女の顔が、なぜか少し曇った。
「ここの近所なんだろ、なに町かだけ教えてくれればいいぞ」
どうせこのご時勢、ネットで調べれば一発だ。
すると少女は突然立ち止まり山裾に目を向け、
「なに町って、ここからならもう見えますよ。ほらあそこに!」
少し背伸びしながら下界を指差した。
太陽の位置から考えて方角的には、山の南側だ。
そちら側には谷があり、さらにその向こうはまた山の筈だったのだが――。
「おいおいGo○gle Earth、これはどういう事だよ……!!」
眼下に広がるのは、谷でも無ければ山でもなく田んぼや畑、
そして懐かしささえ感じさせる昔ながらの日本家屋群の集落だった。
少女が里と言ったが、なるほどこれは里と表現するしか
他ならない、あるいはこの規模なら『郷』なのかもしれない。
どっちにしても、こんなモノが地図に載っていないのは、
異常な事としか考えられない。
「――暴君。今回のお願い…、一筋縄ではいきそうにありません」
ポツリと呟くと、軋識は拳を握りこんだ――。
「え、何か言いましたか?」
ひょいと顔を向けてきた少女の顔に、軋識は渾身の拳を打ち込んだ。
あとがき
たぶん、これ以上の改変はないと思います。
流石に疲れましたしwww
いやいや何かを作るのって、本当に難しいんですね…。
痛感しましたよ。
キャラクター同士の会話って一体どうしたらいいんですかね?
まだ序盤と言うのもあるんですが、どうしても説明的になっちゃうんですよwww
まあ、精進と言うやつですかね?
あと今回、登場した人物の名前のタグを付けておきましたので、
分らない方はそこからイラストの方をどうぞ。
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文章をあらためて書き直しました12/8/23 | ||
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