風が震えていた。それに共鳴して部屋も震えていた。

　そしてまた、僕もまた同じように炬燵の中で震えていた。

「寒いね」

　思いついたように言葉を呟く僕。

「そう？　温かいけど。温度上げる？」

　少し心配そうに訊いてくるのは炬燵に入り向かい合って座っている雪香。

「大丈夫だよ。寒いっていうのは･･････感情的にかな」

　柄にも合わないような事を言って僕は炬燵の机に頭をのせて目をテレビにやる。

「ふぅん、詩人みたいな少し恥ずかしい事を言うのね。どういう風に感情的に寒いわけ？」

　雪香は炬燵の上にある煎餅を二つに折ってまた訊く。

　僕はその事を、どのような言葉にするか少し考えてみる。

「心が冷え冷えしてるっていうのかな、体が寒い訳じゃないんだよ？　冬の無機質っぽいっていうか、生命を限られた物しか受け付けないその態度が『冷たい』かな」

「…………なんかちょっと分かる。街路樹とかも全部風で落ちるし、熊も冬眠するし」

　雪香はそう言って、煎餅を咥えながら台所で甲高い音を鳴り響かせた、やかんを熱し続けた火を消しに行った。

　やかんの湯をポットに移している雪香の背中を見ながら僕は話の続きをした。

「それもあるけど、体感的な『寒さ』が人の気持ちを変えてるのかな。人は夏より元気がないと思うな。少し違うかもしれないけど」

　僕が口を閉じると、部屋は相変わらず風と共鳴して震えている音とポットにお湯が注がれる音が響いた。

「じゃあ冬って魅力が少なく思えるよね」

　戻って来た雪香はふっと考え浮かんだ様に言う。

「魅力はあるけどね」

　と言うと雪香はまた疑問を投げかけてきた。

「感情的にも体感的にも寒いのに？」

　そして雪香は再び煎餅に手を付ける。

「寒いだけが全てじゃないよ、冬は。逆に今日みたいな強風は冬にしか吹かないだろ？　そういうのって十分魅力だと思うし、『冷たい』のも魅力だと思う」

「分からないでもないかな。私、寒いけど風って好きだし、冷たい雪も素敵よね」

　うん、と僕は曖昧な返事をして再びテレビに目をやった。

　相変わらず部屋は震えていた。