散ル桜 |
無邪気に近寄ってくる小さな子供にすら辟易するほど、自分は疲れ果てていた。空は枯れ、今にも雨粒を落としそうなほどに暗い。いっそ終われたら楽であろうが、それでもやはり、もう少しだけ、と空に請う。
闇が訪れる前の、明るい時間。陽光は暖かかったにも関わらず風は冷たく、それに攫われるように仲間たちは去っていった。それは自分たちが出会ったときから、分かっていたことだった。風に攫われる様は美しく、道行く人々が感嘆をあげるほどであったが、その儚さがどうしても尊いものだとは自分には思えなかった。
ふと。
ポツリポツリ、と、空が泣き出した。
――これで、終わりか。
既にしがみつく力もない。冷えた水滴が、体に重くのしかかる。
「やだ、傘持ってきてないのに」
「じきに止むだろ。ここで雨宿りしようぜ」
そう親しげに寄り添う恋人たちが、今までなら微笑ましく思えたのに今は疎ましくてならない。彼らにとってこの雨がなんてことはないということは当に知っている。それでも、その力強い生命力が羨ましくて仕方がない。
彼らはこれからも、たくさんの時間を越えていくのだろう。
……我々を、踏みにじって。
いよいよと、本格的に振り出した雨粒が自身を叩く。濡れた体が、容赦なく冷えて力尽きていくのをじわりじわりと感じた。
大地には水が溜まり、彼らはそれを容易に踏みしめる。自覚すらない。足元に落ちた、それは自分の――
あ ぁ
もう
――お わ り か……
雨粒の重みに耐えかねて落ちる自身が、それでも思ったよりも絶望的でないことを自覚する。
良い春だった。
それだけでいい。
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桜がおもう。季節外れですが… | ||
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