Sisiter Horn(仮) 2
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有角人類―――僕の姉はその特徴を全て備えている。

といっても、現在確認できている有角人類は彼女だけだ。

つまり、彼女の特徴すなわち有角人類の特徴とするしかない。

「あー……ぐしゅぐしゅだあ……」

体格、内臓その他は人類とほぼ同じ。

最大の特徴は、その角だ。

「乾くかなあ?」

本来なら臼歯の奥、親知らずに当たる歯が変化したそれは、一本30センチはくだらない。

内部は空洞でありながらもその重さは実に20kg。

北海に生息する一角クジラとの相違から、おそらくは感覚器官としての機能を有すると思われる。

「そうだ! ふー! ふー! ふー!!」

他に、その強靱な心肺機能も特徴に挙げられる。

その肺活量は成人男性を遙かに上回る。

「だめかあ……うーん……滲んでよく読めない……ああ、眼鏡さっき底におとしちゃった……とってこないと」

そして、極度の乱視。

「うう、重たい……めんどくさい。飽きた」

骨格は現生人類の同年代女性とほぼ同じ。だが、筋力はかなり低い。

陸上適応出来ないほどに。

ただそれだけの特徴なら、有角症で済んだだけかも知れない。

一番異なる事は―――

「困ったなあ。ねえ?」

ヒトゲノムを持たないこと。

「ほんと困っちゃったなあ……うーん」

だから『なー』は、有角人類というまったく別種の生物なのだ。

「とりあえず、眼鏡とってこよっと」

水中に適応し、収斂進化によりヒトの姿をしたまったく別種の生物。

その証拠に、大気中ではまったく効かない視力も、水中ではよく効く。まるで、あつらえたかのように。

「あったあった。えへへ……あれ、どうしたの? 変な顔して」

17年前、海洋学者の両親が、新婚旅行を兼ねた研究旅行で北海で拾った子供。

たった一人の、ミッシングリンク。

「なんでもないよ」

そして、僕の姉だ。

 

海外で引き取られた有角症の少女、ということでその存在は両親含めごく少数しか知らない。

親父の推論では恐らくクジラのような生物からの進化だということから、我が家は中心に巨大な水槽をもつ構造になった。

研究用の、という事になっているが、全ては姉さんのためだ。

慣れればなんということではないが、不便な事も多々ある。

湿気はいいとして、感電の危険性からこのリビングには備え付け以外の電気製品が置けないこともその一つだ。

「ドライヤーでなんとか……うーん、でもめんどくさいなー。なー」

「……わかったよ。乾かしてくればいいんだろ」

「うんうん!」

着衣、といっても防水素材のまま、器用に身をくねらせるように、こちらまで泳いでくる。

「はい、じゃあお願いね」

濡れた服が肌に張り付き、丸みを帯びた身体のラインが浮かび上がる。

「うん、どうかした?」

僕はとっさに視線を外した。

「……なんでも、ないよ」

その角の重量から、陸上生活には適さないながらも通学し、学業では優秀な成績を修めているなー姉さん。

角を含めた重量に、頸椎が耐えられないのだ。

「えへへ、変なの〜」

知能は人類と同等かそれ以上、性格は温厚というよりはやや……鈍重。

今後こうして半陸上生活を続けていくことに、どんなリスクがあるかは解らない。

ここでこうして笑っていることがすでに奇跡なのだ。

様々な問題を抱えた姉。

 

そして、それ以上に問題を抱えているのは、そんな姉に恋してしまっている、僕自身だった。

説明
続き。設定紹介であるが実際はじめるにあたって卓袱台を返さない理由はない。
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