My Little Lover 1
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「何でアンタはそんなに背が高いのよッ!」

 

腰に手を当て怒り肩で膨れっ面をしている彼女。

 

「そんな事言われたって、どうしようもないじゃないかぁ……」

 

僕と彼女の背の高さの差は、丁度三十センチ。

 

 

 

 

 

My Little Lover 1

 

 

 

 

 

僕と彼女が出会ったのは何時だったろう?

思えば随分と前の様な。

ひの、ふの、みの、と指折り数えてみる。

そうか。

この秋で丁度十五年になるのか。

 

最初に会った時の彼女は僕よりも背が高かった。

僕の方は特別背が低い訳じゃない。

僕は純血のモンゴロイド、彼女は四分の三がコーカソイドってだけの話だ。

半年生まれの差はあったが、白人の血を多く引いているだけあって差は明らかだった。

 

勿論、力関係も僕より彼女の方が強かった。

初対面でいきなりペチン、と僕の頬を叩いたのだから。

僕はその場で大泣き。

彼女はムッとした真っ赤な顔で、宝物の縫い包みを抱き締めて。

尤も、それは僕がいきなり宝物に触ったからだったけど。

あれは初めてのカルチャーショック、そしてインプリンティングだった。

確か、お互い新興住宅地に越して来て、お隣同士になった挨拶の時だ。

未だに両親達の語り草になる位だから、実際は相当な騒ぎだったんだろうな。

 

それは幼稚園、小学校の九年間は覆される事は無かった。

それが逆転し始めたのはもう直ぐ中学に上がる、という頃になってからだと思う。

 

小学六年になってからの身体測定の頃は、まだ若干彼女の方が背が高かった。

僕の背はクラスの男子の中では前から数えた方が早い位、と言うか一番前。

彼女は逆にクラスの女子の中では真ん中辺りで一番高い訳じゃない。

でもこの頃はトータル的に言えば、女子の方が男子より背の高い子が多かった気がする。

有体に言えば、背が高い人と背が低い人の差が大きくて中間が無い状態。

そして、生まれた時の大きさがまだある程度反映されているギリギリの時期。

それが中学に上がる頃からだんだんと破られていく。

つまり、本格的な成長期に突入したって事だ。

 

 

 

 

 

 

例に漏れず、僕と彼女も成長期に入った。

それが数値ではっきりと判ったのが、中学校の制服の採寸の時って訳。

 

彼女のお母さんは女性にしてはそこそこ背が高い。

やっぱりコーカソイドの血が半分入ってるからだと思う。

顔立ちも彼女とそっくりだ。

なら、将来的にも背が高くなると思われるのも仕方ないよね?

彼女のお母さんは、どーせ高くなるんだから、って随分大き目のサイズの制服を発注しちゃったんだ。

僕は逆に、アンタは小さめに生まれてきたんだからそこそこでしょ、って態度で発注したのはワンサイズだけ大きな制服。

まぁ、元々制服なんて物は大きめに作られる物だけど。

そこが明暗を分けた。

 

中学一年の身体測定の頃になって、僕の背がちょっと伸びているのが判った。

彼女の方も一応伸びていたけれど、伸び率から言えば僕の方が大きい状態。

ほんの少しだけれど差が縮まった。

それでも二人共大き目の制服を着ているから、制服に着られている感が否めないのは一緒。

 

「……ま、こんなもんよね」

「だよね」

 

僕も彼女もその程度の感想だった。

 

だが、それは夏休みも明けての衣替えの時、久々にまともに冬服に袖を通す時に徐々に現れた。

 

「あれ? 前より袖が短いかな?」

「……あら、ホント。スラックスはどう?」

「まだ穿けるけど、何かちょっと丈が短くなった気がする」

「背が伸びたのかしら?」

「かな?」

「見た所まだ大丈夫だと思うんだけどなぁ……一応裾直ししましょっか」

 

こんな会話内容から察して欲しい。

僕の家族は割と無頓着な所があるのか、服装に拘りが無かったので余りサイズを気にしていなかったのが拍車を掛けた。

翌年の春、中学二年に進級してからの身体測定は入学時よりワンサイズ大きくなっていた。

しかし、彼女の身長は数ミリ伸びただけ。

と、いう事は。

彼女は制服に着られたまんまの姿で、僕は丁度ぴったりのサイズ。

 

「何でアタシに断り無くデカくなってんのよぉぉっ!」

「成長期なんだから背が伸びるのは当たり前だろ?」

 

僕は入学した時と比べると、十センチも伸びていたんだ。

彼女は入学してからたったの三センチしか伸びていなかった。

入学した時の差は五センチ。

差し引き、僕は二センチだけ彼女の背を追い越した。

 

彼女はどうも、それがいたくお気に召さなかったらしい。

 

 

 

 

 

それからというもの、事ある毎に僕にちょっかいを出す頻度が高くなった。

曰く、生意気だ、とか。

曰く、ムカつく、とか。

悪態を吐かれるのは日常茶飯事。

そしてその全ての枕詞は、何でアタシより背が高いのよ、の一つだけ。

 

そう、彼女は中学を卒業する迄の間で、結局四センチしか伸びなかったんだ。

だからぶかぶかの制服はそのまんま。

僕はと言えば、何とかギリギリ中学の制服は裾直しや袖直しで凌いだけれど、シャツのサイズはMサイズからLサイズに。

それもまた、彼女の機嫌を損ねる要因の一つだった。

だって僕は中学を卒業する迄に十五センチも伸びたからね。

それでも中学生の平均身長よりは若干低い位だから、周囲はその程度の身長で何を大袈裟な、って思ってたと思う。

 

 

 

 

 

同じ高校に進学してからも、彼女の態度は変わらなかった。

いや、ますます酷くなったかも知れない。

何時の間にか隣に居るって言うか、授業中と寝ている時以外は常に目の付く所に居る感じ。

言うなれば、親鳥の後ろを付いて回る雛の様な。

何故か不思議と鬱陶しいとは思わなかった。

まぁ、流石に図書室で本棚の高い所の本を取ってあげた時、腹いせに向こう脛を蹴られた時には理不尽だとは思ったけど。

多分、小さい頃からの積み重ねた時間の中で、彼女は気が強いだけじゃないって事を知ってたからじゃないかな。

それに彼女の方も、きっとどうしていいのか判らない所があったのかも知れない。

 

僕は高校に入ってからもどんどん背が伸びる。

彼女の方は裏腹に背が伸びてもミリ単位。

背の高さが変わるって事は、コンパスの長さも変わるって事で。

 

毎朝の通学は隣同士だから同じ時間に顔を合わせる。

これは幼稚園からずっと一緒。

小学校も、中学校も、ずっと一緒だった。

顔を合わせるというか、彼女が僕を起こしに来るからだ。

僕が慌てて朝食を口に詰め込むのを横目に、母さんと暢気にお茶を飲みながら僕を待ってるのがパターン。

その後一緒に家を出る。

 

最初はそれ程気にしてなかった。

ただ、僕の背が高くなり始めた頃からあるものが目に見えて逆転している事に、随分と経ってから気付いた。

それ迄僕を引っ張る様に我先にと先導する様に歩いていた彼女。

その彼女を僕は今、追い越してしまっている。

そして彼女は今、僕の制服の裾を掴んで頬を膨らませている。

 

「こらーっ! はやーいっ! もっとゆっくり歩いてくれたっていいじゃないのよーっ!」

「えー……あんまりゆっくり歩いてたら遅刻しちゃうってば……」

「五月蠅い五月蠅い五月蠅い! アンタはアタシの言う通りにしてればいーのー!」

 

そう、背が伸びて歩幅が変わったから、同じ速さで歩いているつもりでも僕の方がどうしても早くなってしまったんだ。

勿論その事も彼女はお気に召さなかった様だ。

 

「全くもう! ヒョロヒョロ伸びてばっかりで、生意気なのよ! 誰の許可取ってんのよ!」

「だから、これは成長期だから伸びてるんだってば」

 

僕の父さんも母さんも日本人としてはそこそこ高い方だから、多分両方の素質を継いだんだと思う。

彼女のお父さんはともかくとして、お母さんも母さんとタメを張る高さだから、そんなに小さな方ではない。

悪態を吐かれ始めの頃、一度二人で彼女のお母さんに何故彼女の背が中々伸びないのか聞いてみた事がある。

そしたら、もしかしたら隔世遺伝かも、と返ってきた。

彼女のお祖母さんが日本人で、今時の日本人の女性としてはやや小柄な人らしい。

 

そんな訳で、彼女は不満を僕にぶつけているんだろうと思っていたんだけど、どうもそうじゃない気がしてきた。

だって、毎回口を尖らせて悪態を吐く割に、頬が真っ赤だったりするんだよね。

初めはかなり怒っているんだろうと思える程凄い剣幕だったし。

だから僕は注意深く、今迄の事を思い返しつつ彼女の言動を観察してみた結果、以下の結論に達した。

 

彼女は僕の背が高い事に何かのストレスを感じている。

そして、彼女は僕の注意を惹く為に悪態を吐いているんじゃないかという事だ。

 

もしかしたら、僕は嫌われてるんじゃないだろうか?

そんな事も思ってみたりした。

でも、もし嫌われてたら、幼馴染のよしみとは言え毎朝起こしに来てくれる事なんか無いだろうし。

彼女が僕にちょっかいを出し続ける理由がサッパリ解らなくて、僕は更に観察を続ける事にした。

 

 

 

 

 

相変わらず、彼女は僕の向こう脛を狙って蹴る。

背中を叩かれるのもしょっちゅうだ。

 

「こらあぁぁっ! 逃げるんじゃないわよっ!」

 

ちょっとでも僕の歩く早さが早くなると僕の制服の裾を掴む。

 

「逃げてないよ。ほら、裾、放して」

「アタシに逆らうなんていい根性してるわね?」

「逃げないって。あんまり引っ張られると首が絞まって……っ!」

 

ホントに僕の制服の裾を掴んで引っ張るのが好きなんだから。

よくよく見ると、僕が三歩歩く間に彼女は五歩位歩いている。

僕の普通の速さに合わせて、彼女が同じ速さで歩こうとすると競歩に近い速さになる。

まさか、今迄毎日ずっとこんな速さで歩いてたんだろうか?

疑問に思った僕は足を止めた。

 

「ほら、止まったから。これで良いんだろ?」

「……解ればいーのよ、解れば」

 

ツン、と澄ました顔。

僅かに尖った唇。

やや上目遣いの視線。

そして、やっぱり頬が赤い。

 

――か……っ、可愛い……。

 

「何グズグズしてんのよっ! さっさと歩かないと置いてくわよっ!」

 

……今僕、何考えてたんだろう?

よく見ると彼女の耳は真っ赤になっている。

もしかして、彼女は――。

これでは以前立てた仮定を改めなければならないんじゃないだろうか。

 

彼女が僕の背の高さにストレスを感じている、その事は多分間違いない。

しかし、僕の気を引きたくて悪態を吐いているというのはどうだろう?

間違っている気がして仕方ない。

もし、今の反応を元にして仮定を立て直すと……。

 

僕、もしかしなくてもとんでもない勘違いをしてた?

 

 

 

 

 

その事に気付いた僕は、何だか居ても居られなくなりそうで。

毎日、彼女に気付かれたらどうしようという事しか考えられなかった。

多分、多分だ。

僕の気を惹きたいのは間違いない。

でも、あれは悪態じゃない。

悪態じゃなくて僕の想像通りだとしたら……?

気に食わないから僕の制服の裾を引っ張るんじゃないとしたら……?

考えるだけで顔が熱ってくる。

 

彼女があんな顔するから。

あんな顔見せられちゃ、どうにかなっちゃいそうだ。

とにもかくにも僕の心臓の動きは早まり過ぎて、どくどくと動く音が頭の中に反響しそうな錯覚をしていた。

おちおち寝てなんて居られやしないよ。

 

 

 

 

 

「あ、お、おはよ……」

「何よ、起きてたの?」

「う、うん、そうなんだ。今日は何だか、早く目が覚めちゃって」

 

彼女が僕を迎えに来た時には、僕はもう全ての身支度を終わらせてた。

 

「今日に限って早起きなんて雪でも降るんじゃないかしら、って話してた所なのよ」

「五月蠅いなぁ。僕だって偶には――」

「何言ってるの! 私が起こしても起きない癖に。毎日起こして貰ってる立場で生意気言うんじゃありません!」

 

珍しく定時に起きたもんだから、母さんが僕に嫌味をタラタラ言う。

父さんは母さんに甘いから、僕と母さんの遣り合いには口を出さない。

 

「もーいいよ。じゃ、行ってくる」

「あ――ちょっと! 行って参ります、おば様!」

 

嫌味をこれ以上聞きたくないのもあって慌てて家を出て来たけど、とても気まずい。

もし僕の新しい仮定が当たっていたらと思うと、とてもじゃないけど平然となんてしていられない。

今迄そんな風に思った事が無かった分、余計に意識してしまう。

 

――気付かなかったなんて、僕は馬鹿だ。

 

彼女は普段強気にしているけれど、本質は寂しがりやで脆い部分もある事は、長い付き合いの中で気付いてた。

勿論、口でキツイ事を言う割りに優しいという事も。

けれど……僕に対しては余りにも強気過ぎて、そういう部分があるって事が判らなくなってた。

態度の裏に隠された事、その本意に僕は鈍感になってた。

それはきっと、僕の彼女に対する甘えだ。

でも僕は気付いてしまった。

だから、普段よりも早足になってしまう。

ホントはそんな事しちゃいけないって解ってるのに。

 

「こらあああっ! アタシを置いてくなあああっ!」

 

彼女がまた僕の制服の裾を掴んで引っ張る。

 

「別に置いてってる訳じゃないよ」

「置いてってるってば!」

 

図星を指されて余計に胸がドキドキする。

毎日のパターン宜しく、彼女は頬を膨らませる。

その上目遣いは凶悪だ。

 

「だって、歩幅が違うじゃない!」

「それはコンパスの長さが違うんだから仕方ないじゃないか……」

「だからってアタシを置いてく理由にはならないわよ!」

 

頼むから、そんな目をして膨れっ面をしないでよ。

ますます心臓の動きが早くなる。

 

「だから、僕は普通に歩いてるだけだってば」

「普通じゃない! アンタは何時も早過ぎるのっ!」

 

そう、彼女は僕の歩く早さが早いと文句を言う。

置いていくなと直ぐ膨れる。

少しでも僕が先に行くと、直ぐに制服の裾を引っ張る。

なら、そこから導き出される答えは――?

 

「ねぇ?」

 

もう耐えられない!

僕は思い切って聞いてみた。

 

「……もしかして、僕の事好きなの?」

 

 

 

 

 

「あ、あ、あ、あ、あ、アンタ馬鹿ぁっ?! アタシが何時そんな事言ったのよっ!」

 

彼女は普段よりも一層頬も耳も赤くして、僕の向こう脛を蹴り上げた。

 

「だって、何時も文句言う割には一緒に学校に行くじゃないか。嫌なら別々に行けば済む話だろ?」

「自惚れてるんじゃないわよ!」

「でも、今迄の行動を振り返ったら、そうとしか思えないんだけど?」

「そんな事ない! そんな事ないもんっ!」

 

図星だ、あれは。

自分が思っている事を言い当てられると、必要以上に否定するのが彼女の癖だから。

 

「ほら」

「何よっ!」

「ん」

「だから何っ?!」

「手」

「手がどうしたってのよ!」

「手、出して」

 

中々出そうとしない彼女の手を掴み、僕は歩き出した。

 

「こっ、こらっ!」

「やだよ」

「放しなさいってば!」

「い・や・だ」

「はぁぁなぁぁせぇぇっ!」

「ちゃんと言えば良いのに、今迄言わなかった罰だよ」

 

ずるずると引き摺る様に見えるかも知れないけれど、僕は彼女の手を放すつもりはない。

もっと早く言ってくれれば良かったのに。

そりゃ僕も気付いてなかったのは悪いけど、嫌いなら毎日一緒に登校したりなんてしないんだからさ。

 

「こらあああっ! 放しなさいよぉ、馬鹿シンジぃぃぃっ!!」

 

これからはずっと手を繋いで歩こうね、アスカ。

説明
ツンツンツンデレ。
いい「LAS」の日小ネタ。
初学園エヴァであります。
2010/11/23 Pixivへ投下。
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