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幻覚か。

「やっぱり来たかあ。」

「……白蘭。」

霧で作られた人物は、紛れもなく白蘭であった。全ての元凶である悪に、綱吉は突き刺すような視線を向ける。

だが白蘭はそんなものに怯えもせず笑った。

「そんなに獄ちゃんが大事なんだねえ。」

「獄寺くんはどうした?」

「いるよ?」

その瞬間、墓地を纏っていた霧が一気に晴れる。

「すぐそばにね。」

綱吉の真横から、黒い塊が現れる。超直感でも、気付けなかったもの、いや人物とは──。

「!!」

ボスは襲いかかって来た塊を、素早い反射ではねのける。塊は軽い身のこなしで受け身を取って着地をした……。

そこでやっと、それが何だか解った。

「ごっ……。」

「獄寺氏……。」

まさか。そんな事が。あの獄寺が。

しかし目の前にある事実は変えられない。

あのきっちり正しく着こなしたスーツのまま、獄寺は綱吉に立ちはだかっていた。まるで、白蘭を守るように。

その姿は、綱吉には衝撃的過ぎた。あれだけ、自分と心を交わした獄寺が、まさか自分を攻撃するとは。頭の整理が出来ず、綱吉は棒のように立ち尽くす。変わりに、側近のロクが声を張り上げた。

「お前っ!!獄寺さんに何をした!?」

「何をしたって……ねえ。ま、奪い返したかったら……。」

いつの間にか、先程の霧に紛れ現れた幻騎士を横にし白蘭はただ楽しそうに笑うだけ。

「死体にして奪ったら?」

白蘭の邪魔になるものは、最早綱吉のみ。ならば、白蘭自身が持つ特異な能力にて、獄寺を操って綱吉を殺してしまえばいい。何せ獄寺は、綱吉の一番の宝にして弱点なのだから。

「獄寺くん……。」

獄寺の眼には生気がない。ただ命令で動く人形のようだ。

だがそれでも、綱吉は指一本も動かせない。

死ぬ気の炎を纏うも、攻撃は出来ず綱吉はただ獄寺からの攻撃を受け流し、焦っていた。

獄寺に、一度たりとも傷を付けたない綱吉。これからもそうであるべきだったのに、向かって来る獄寺を無傷で我に返させるには、とても難儀な事のように思えた。

獄寺は既に自らの匣を開匣し、腕にフレイムアローを巻き付かせている。それから襲いかかってくる弾丸達は、正確に綱吉を狙う。

「獄寺くん……!!」

「…………。」

無表情で、ただ攻撃を仕掛けて来る。綱吉は出すべき力も出せず、心の中で困り果てていた……。

 

そんなボスと獄寺を横目に、ランボは幻騎士と向き合っている。勿論、ランボは震える体を押さえながら。

自分が弱い事は重々承知だ。

だが逃げたくない。後悔したくない。ボスの守護者として、役割を果たしたい……。

ランボに芽生えた責任という精神は、逃避の心を隅へと追いやっていた。

「お前では私に勝てない。二代目剣帝か、雨の守護者を連れて来るべきだったな。」

「俺だって……守護者だ……。」

「身の程を知れ。」

幻騎士の四本の鞘の一つから、美しい刀身が現れる。ランボは震えが治まらない手で、自分も頭に角を装着した。

(やらなきゃ、ダメだ。やらなきゃ……!!)

 

綱吉と獄寺、ランボと幻騎士の戦いの間に、獄寺の部下であるロクとマワリは息を潜め、影を消し、悠々と戦闘を眺めている白蘭へ狙いを定めていた。

この男さえ止めてしまえば……。獄寺の教えを一身に受けた二人は、戦いにおいて頭を叩く戦法も学んでいる。そしてその為に、己の気配をうまく使う事も。

霧に紛れ、二人は白蘭に拳銃で立ち向かおうとするが……。

「無ー駄。」

「う……!?」

「あ……ぐっ……。」

「マワリちゃん!ロクマくん!!」

綱吉を狙っていた筈のフレイムアローの弾丸は、雲の属性により増殖し、ロクとマワリの腹を直撃していた。

目の前の相手と戦っていたというのに、綱吉をすり抜けた予想だにしていなかった弾丸、そしてその躊躇いのなさ……。獄寺の良い所を全て現したような攻撃であった。

自分や目の前の相手だけでなく、常に他の状況も確認し、最善の方向を向き続ける思考。それを形作る頭脳。

その並外れた頭脳を持つ、獄寺隼人。

「うう……っ。」

体の中から、鈍い音を聞いたロクとマワリは吐血し、白蘭の目の前で倒れ込む。立ち上がろうにも、獄寺が正確に撃ち込んで出来た傷は許してくれなかった。

綱吉の為なら、屈辱と思う事も躊躇いなく行う獄寺。言わば綱吉は、彼にとっての存在理由。だが今は、その存在理由が、白蘭に取って代わられている。

綱吉に武器を向けている事、ロクとマワリが沈黙させられた事が、それを現していた……。

「二人共!!」

綱吉とランボは、二人に駆け寄りたくても出来そうにない。お互い、戦いの最中だからだ。しかし二人が焦る間に、濁った血溜まりは広がってゆく。

「もうダメだ。獄寺くん。俺は、君を……。」

弱々しく灯っていた綱吉の炎が強くなる。

この状況を打破するには……もうやるしかなかった。ただ一つの方法を。ただ一つしかなかった、戦いを。

 

 

***

 

 

「こりゃすごいですねー。」

例の雑居ビル地下、白蘭のアジトに足を踏み入れ、フランは興味津々だ。血生臭さ、こびり付いている残虐なる後……。フランの眼は輝いていた。

「スプラッタ後?スプラッタ後ぉ?。」

「うぜーよ。適当に調査して帰るぞ。」

今日もフランのお守り?なベルはこのアジトの雰囲気は自分に合わないようだった。

二人、いやヴァリアーは白蘭の仲間探索、そして抹殺の命を受けたが、後々に事件解決の証拠を警察に渡す為の調査を、ベルとフランはスクアーロから命じられた。ベルとしては抹殺の方がやりたかったから尚更不機嫌なのである。

「これ全部匣兵器ですよねー。一般人には解んないわけだ。」

「晴れ、雲、嵐……なんでもあるな。」

「わーお!ベルセンパイこれ見て下さい!"リッサの鉄柩"ですよー!」

「なにそれ。」

部屋の片隅にあった、大人一人が辛うじて入られるだろう鉄の箱にフランは駆け寄った。

「圧死させる拷問器具ですよ。まずこの蓋を開けてですね。」

躊躇いもなく、フランはその箱の蓋を開けた。異様な匂いが漂った気がした。中身だって、どす黒い汚れに塗れている。しかし彼は意気揚々とベルに説明し始めた。

「中に人を入れて、蓋を閉めて、この蓋に付いてる螺子を少しずつ回して、圧迫させてくんです。何日も掛けて。犠牲者は圧迫だけじゃなく、空腹とかにも耐えなきゃいけないんですよー。」

「なーんでそんなまどろっこしい事すんだよ。俺ならブスッとやんのに。」

「拷問、ですからねー。」

拷問……。

今更だが、その言葉を聞いてベルははっとした。

「ちょっと待てよ?白蘭がやった死体は変死体で……。」

「多分拷問されてたんだと思いますー。あ、ほらあれは……。」

「うるせーな。もういいよ。とにかく、獄寺隼人の気を惹く為の事件だって聞いたが……拷問?何で拷問する必要があったんだ?一般人なんざに聞く事もないのに。」

 

 

****

 

 

ランボの雷電が空間を引き裂く。

自ら雷を纏う彼は、怒りと怯えに満ちている。

「……向かって来るか。」

「い、いっ、行きます……!!」

幻騎士は失笑した。愚かな子供だと。あのリボーンが、雲雀並の体術使いとまで言う人間。ランボに勝ち目があるのかと聞かれると……言葉に詰まる。しかしランボは止められなかった。止まるわけにはいかなかったのだ。

もう自分は、子供である事、綱吉に叱って貰う事をやめなければならない。ボンゴレ守護者として、背筋を伸ばし胸を張らなければならないのだ。

「決意は認めてやるが、力がそれに伴っていない。」

「俺は、ボンゴレ、雷の……。」

ランボの足が土を蹴る。角は雷光に塗れ、幻騎士に向かった。

「愚かだ。」

「エレットゥリコ………。」

「させん!」

幻騎士の刃がランボに振られる。眼にも追えないそれは、雷纏うランボの角に触れ、耳障りな音を立てる。

そしてそのまま、刃が雷電を幻騎士に伝える前に、ランボは呆気なく弾き飛ばされてしまった。その体は誰かの墓石にぶち当たり、激痛をランボに伝える。

「うぁっ………!」

「経験が足りないな。猪突猛進では何も出来ん。」

幻騎士がゆっくりと倒れたランボに近付いて来る。背中も痛い。だが恐怖はそれ以上に勝る。雷電は最早土に逃れていた。そしてランボの手は震えている……。

──やっぱり、俺には無理だ。

だって、こんなにも簡単に……決意も忘れ、目尻に涙を溜めながら、早々と諦めようとする。だが敵は容赦無く、ランボを見下ろし、刃を振りかざしてした。

「終わりだ。」

ぎゅっとランボは眼を瞑る。

 

その刹那、真横に何かが飛んできた。それは墓石をいくつも崩し、煙を立てて静かになる。

ランボと幻騎士は予想外なそれに、咄嗟に眼を向ける。その煙にあったのは黒い塊──いや、獄寺隼人!

「なっ………。」

ランボの思考が停止する。だって、獄寺と戦っていたのは───。

「……目的の為なら、愛する者も手に掛けるか、ボンゴレ十代目。」

幻騎士が吐いた皮肉の言葉は、ランボにも、白蘭にも、そして綱吉にも届いていた。

「………目的の為じゃない。俺達の為だ。」

──自分以外の他の誰かに心を移してしまうのなら、殺してしまおう。

よく聞く常套句だ。だがこの言葉は、愛の中にある狂気を実に忠実に表している。

「その言葉を言うのは、君だと思ってた。でも違うよ。俺が君に言ってあげる。だって嫌だもん。嫌だね。」

「つ、綱吉君……?」

獄寺の体に躊躇いなく拳を降らせる綱吉の姿は、野獣のようだった。理性を無くした動物。眼がぎらぎらと輝き、ただ前にある獲物だけを見つめていた。

そんなドン・ボンゴレの姿に驚愕したのは白蘭だ。柄にも無く唇の端を引き吊らせ、冷や汗を垂らしている。

「ちょっと、待ちなよ綱吉君……。死ぬよ?死んじゃうよ、獄ちゃん。」

「死ぬ、なんて……俺達は常にその覚悟を持ってた。解らないのはお前だけだ。死と寄り添えない、覚悟が無いお前になんか、獄寺くんは笑わない。」

獄寺に馬乗りになっていた綱吉の拳が、がすん、と獄寺の顔の真横に叩き付けられる。既に獄寺の顔は血に塗れており、瞼が閉じられていた。

「そこにいる獄寺くんの部下達だって、覚悟はしていた。」

「覚悟とかじゃなくてさ。恋人が死ぬ事に、殺す事に躊躇いは無いわけ?薄情なんだね?」

「……心を奪われたままの彼に、生きる意味があると思うかい?彼が喜んでいるとでも?……勝手過ぎでしょ。」

「それは君もだよ!勝手に、獄ちゃんを、殺す……。」

「怖い?いなくなるのが怖い?獄寺くんが。俺も怖いよ。だけど、彼が彼のままでいられないのはもっと怖い。」

白蘭の顔に、焦りが宿る。綱吉に、迷いがない。迷いがないと言うのは一番恐ろしい。

……それは、白蘭がよく知っている。

「白蘭、お前は間違いを犯した。だが俺は、何を間違っているかは教えない。獄寺くんに相手にされる事のない、お前には絶対に。」

「……何だよ。意地悪じゃないか、綱吉くん。」

「白蘭様!」

冷や汗を垂らす白蘭の眼に映ったのは、最強と呼ばれた幻騎士が、いとも簡単に転がされるシーンだった。映画のような派手な動き。それは、幻騎士が庇ってくれなかったら、自分が演じる事になっただろうシーンであった。

「幻ちゃん!」

「もう終わりだ。」

 

 

****

 

 

「……それで、この器具はですね、両手にまず手錠を……。」

「うるっせーよ。もういいっつってんだろクソガエル。」

ベルは柄にもなく、敷き詰められるように並べられた拷問器具を一つ一つ調べている。

どれも同じく、変色した深い染みがあり、所有者の残虐性を余す事無く表していた。

「もーつまんないですねー。それでえ?何か解ったんですかー?」

「……てめーには教えねー。」

「センパイ意地悪ぅー。」

「……。」

「で、本当の所は?」

「……スクアーロのバカから、ブラックライト持たされてただろ。それ付けてそこら辺見てみろ。」

フランは面倒臭そうに、隊服の胸ポケットから小型のペンライトを取り出す。只でさえ薄暗いこの空間に青い光を照らせば、すぐに見えざる跡が浮き上がってきた。

「血痕?」

「だけじゃねーな。血痕の他の体液と言ったら?」

「汗とか……精液?」

「変態白蘭は、拷問しながら自慰してたんだろーな。きめっ。獄寺の気を惹きたいだの聞いたから……拷問される人間に……。」

フランはライトを消し、がっくりカエル頭を下げた。あんなに興味があった拷問器具達の使い方に幻滅したようである。

「いかに獄寺が素晴らしいか言い聞かせつつ、それに酔ってた、って事ですかー?もう、ミーには理解出来ません。」

「俺もだっ。あー誰でもいいからぶっ殺してえー。」

おえ、とフランが吐く真似をした。

 

 

**

 

 

ランボは頭をくらくらさせて、ただその現状を飾る背景と成り果てている。ここまで怒っている綱吉を見た事がなかった。……正直、恐ろしい。出来るなら、逃げ出したかった。味方といえど、ボスといえど、綱吉の今の眼は明らかに正常のそれではなかったのだ。

その原因の一部は自分の弱さであると思うと尚更逃げ出したくなる。だが、ダメだ。今逃げたら何にもならない。

獄寺の部下達も倒れ、今綱吉を止められるのは自分しかいないのだ。

「白蘭。やっぱりお前は……。」

──その言葉は、ツナには言って欲しくない。

ランボは咄嗟に叫んだ。

「ダメですボンゴレ!」

こんな声、どこから出たのか解らない。しかしそれは対した問題ではなく、どんな気持ちを込めたかが問題であった。

『やっぱりお前は殺しておくべきだった。』

相手が誰であろうと、綱吉がその言葉を言ってしまったら、彼が悲しむ気がした。自分も何だか悲しくなる。

「ランボ……。」

「それ、だけは、ダメなんですっ……。」

響くランボの嗚咽。

綱吉の感情は、それによって静かに戻って来た。

「ダメなんです!それだけは。獄寺氏だって、そんな言葉は……聞きたくない筈なんです……。」

自分には、綱吉のような強さもない。だが言葉を創って感情を乗せるくらいなら出来る。これなら、素直に出来る気がした。綱吉はランボの子供のままの、その丸裸な感情のおかげで、自分が如何に低俗で野蛮な発言をしようとしていた事に気付く。

「ランボ……。」

転がる幻騎士。獄寺の部下。立ち尽くすだけの白蘭……。

その状況を改めて確認すると、綱吉はやっと血が落ち着いてきた。

「鬼みたいだよ、綱吉クン……。」

白蘭も、緩む空間を感じて流していた冷や汗を引かせる。だが事が良くなったわけではない。

「……白蘭。お前がした事は許される事じゃない。前は眼を瞑った。だから、今回は……。」

「厳しいね。獄ちゃんだけでも欲しかったけど……。」

「やらない。獄寺くんは誰かのモノじゃない。彼は彼で、彼自身のモノだ。」

「……意外。独占欲丸出しかと思ったのに。残念だよ。君と僕は……。」

一緒だと思ったのに。

その言葉を綱吉に届かせる前に、幻騎士の体から再び霧が湧き出す。幻覚。

「逃げる気か!」

「一時休戦だよ。また来る。今度、決着を着けよう。……獄ちゃんによろしく。」

「白蘭!」

霧は深くなり、それが晴れる頃には、白蘭も幻騎士の姿も無かった。綱吉は舌打ちをする暇もなく、獄寺に駆け寄る。

自分が傷付けた、血塗れの体を抱き締めた。

「……俺も、殺してね。」

その言の葉には、どんな意味があるのか。ランボには少しだけ解るような気がする。

綱吉と獄寺、今回の立場が逆だったのなら────獄寺も同じ事をしていただろうと、ランボは悲しくなった。

「……君だけだよ。」

 

 

**

 

 

「いよおー変態に好かれる変態くん。」

「ああ?」

「こんにちはー、変態さーん。」

傷も直った頃、例の二人──ベルとフランが獄寺の書斎を訪れた。

「愛ゆえの傷は治りましたかー?」

「用がねえなら帰れ。」

「あるある。」

「例のアジトから没収した写真ですー。」

獄寺の机に無造作にバラまいたその写真達に映っていたのは……。

自分。獄寺隼人だった。

「何だ、これ……。」

「変態くんのコレクションですー。」

どれを見ても、自分しかいない。だがどれも目線は向こう。明らかに盗撮写真だった。湧き上がってくる吐き気を堪え、獄寺はベルとフランを見、話を続けろと眼で訴える。

「だーい好きだったんですよー。白蘭は。」

「お前の事がな。キショイとこだったぜ、あのアジト。キショ過ぎてトラウマだ。」

「……気持ち悪かろうと、まだ終わってねえ話だ。まだ奴は逃げ回っている。油断は出来ない。」

「……お前がな。」

獄寺は填めていたボンゴレリングに火を灯し、散らばる写真を一気に分解した。写真は一瞬にして無に帰る。

「……で、報告書は?」

「はあっ?出すのかよ!?」

「ったりめーだ。お前等は組織という会社を舐めてんのか。」

「……こーんな鬼みたいな人、どこがいいんですかねー?変態の気持ちは解りませーん。」

呆れるフランとベルが書斎を出ようとした時、勢いよくドアが開いた。それはもう、何事かと思う程。

 

「ほ、報告書!書けました!一人で!!」

 

意気揚々にして、息を切らすランボの手には数枚の書類。力が余ってか、それは握り締められくしゃくしゃだ。

「あ。」

それに気付き、書き直して来ます!と帰ろうとするランボの手から、獄寺は報告書を取る。皺を伸ばし、流すように中身を見て、ランボの上司は口の右端を上げた。

「……書き直し。」

 

 

****

 

 

御手洗いで手を洗いながら、綱吉は鏡を見ていた。

情けない童顔。蛇口から溢れる水は、綱吉の何を洗い落としているのか……。

何度も考えた。

白蘭と自分が同じなのか、違うのか。

何度も考えた。

獄寺という人間を中心に、今回の事件は回っていた事……。彼には性格と関係なく、人を引き寄せる何かを持っている。花の蜜のようで、どんな虫も引き寄せてしまう。そんな虫の一匹である綱吉なわけだが、この蜜は誰にも吸わせたくない。自分だけのもの……そんな邪な感情が、獄寺を殺そうとした……。

(俺も白蘭も変わらないな……。)

重なる、あの白蘭の顔。

「最低だ……。」

自分が、あの蜜を独占しているのが悪いのか?いや、彼を、他の人間には渡したくない。そして彼も……。

手を拭き、御手洗いを出て執務室に戻る綱吉。その顔は、これ以上無く厳しく、親の仇でも見つけたような表情だ。

さあ、これからも蜜を吸い続けよう。虫はいくらでも寄ってくる。

それを払うぐらい、獄寺を失う事に比べたら……どうって事ない。

 

「探しましたよ、十代目。」

「ごめん御手洗い行ってた。」

「いきなりお消えになったんで……心配しました。」

「ごめんね。」

 

蜜の手は、ゆっくりと最愛の虫を包んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

説明
獄ツナシリアス。獄寺←白蘭気味で、獄寺が少々痛い目にあっています。
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獄ツナ シリアス 獄寺隼人 リボーン 沢田綱吉 

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