百年の大気
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踏み締める落ち葉が、足の裏へ小気味の良い感触を伝える。

隣を歩く彼は、果たして秋の訪れを意識したことはあるのだろうか。

「そんでさー豪炎寺がさ!授業中だってのに間抜けな顔しちゃって!」

まだ少しだけ夏の残り香を含む空気を、ゆっくりと吸って、ゆっくりと吐いて。

気づかれてはいけない。人の感情に対してはある一つの領域を除きとても敏い彼だもの。

自分の中に存在するありったけの勇気を動員して、はっきりと伝えたのはもう一ヶ月も前になるのかな。戸惑った顔をして、でもきちんと断ってくれた。

わかってたんだ、あなたが彼女に惹かれ始めてるの。部活中はもちろん、校内ですれちがった時、遠くに彼女がいる時。視界に彼女が入るだけであなたの眼差しが微量の熱を含んだ真剣なものになること、あなたはまだその熱が何なのか気付いてないのでしょうね。

「秋ー?どうした?」

「ん、何でもないよ。ちょっとボーっとしちゃっただけ、ごめんね。」

「具合悪いとかじゃないなら良いけどさ。秋は我慢しちゃうタイプだもんな、何かあるなら俺に言えよ!」

「ありがとう。それで結局その後半田君はどうなったの?」

色んなことがあったよね、私とあなたしかいなかったサッカー部。最初は半田くんや染岡君が来てくれて、部としての形がなんとか保てるようになって。2年生の初め頃だった、帝国学園との練習試合。そこから全てが目まぐるしく翔けていった。

フットボールフロンティア、エイリア学園、世界大会。どこで私はあなたに本当の恋をしたんだろう、気づいた時には小さな火が燻っていてそれが大きな炎へとなっていくのが嬉しくて誇らしくて、苦しかった。

私、心の奥ではやっぱり、何で私じゃないの?私と彼女どこで違ってしまったの?色々醜いこと考えてしまったわ。

でもね、ぐるぐるぐるぐる考えて、時には泣いたりなんかして、でも、心の澱が尽きた頃最後に残ったのはあなたと彼女の笑顔だったの。

ねえ円堂君。私、出来ることならもう一度戻りたい。あなたと、私だけしかいなかった部室。小さな小さな世界。

あの頃はまだ恋愛感情なんて無くて、大好きなサッカーを共有出来るのがただ楽しかった。今では夢のような純粋な空間。

でも、もうその世界は思い出になっちゃう。あなたは大きな世界へ彼女と飛び出していくんだ。

私もあなたと歩いているこの瞬間、今ここで、小さな世界の私とさよならしようと思うの。

本当に久し振りの二人きりの時間、いくつかの偶然が重なって出来た帰り道、夕日があなたの顔を暖かな色に包み込んで現実感を薄くする。

秋は短い。人を満たす豊穣と同時に世界が眠りにつく準備を始める季節。

あなたと笑顔で喋りながら呼吸をする。私の中から流れ出る空気に、叶わなかった恋心を織り込んで。

「あーき!」「なあに円堂君?」

 

長い時間を揺蕩えばいつかどこかに還るだろう。

帰り道が別れるまであと数歩、全部全部吐息に預けて。

 

「もうこんな場所かー、秋と話してると帰り道があっという間だ。気をつけて帰れよ!また明日な!」

 

最後の一息。

 

「ばいばい円堂君、さよなら」

 

説明
秋ちゃんが好き過ぎて出来上がったなにか。
文章を録に書いたことがないやつの自己満足です。

秋ちゃんの円堂さんへの気持ちが、きちんと終止符を打ててればいいなと。
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