八百四十円(税込)
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 この世界には愛が満ちてて、他には何もいらなくて、それだけで最高に幸せだ。

 

 なーんてことを甘ったるい声で歌ってた人気バンドのボーカルが自殺して一年がたった。当時は信じられないくらい大騒ぎされて、学校とかテレビの中とかで同い年くらいの子たちがわんわん泣き崩れてる姿を見た私は、なんであんなに愛を幸せそうに歌ってた人間が自殺したんだろ。彼の思ってた愛はこの世界には無かったのかなってこととか、どうして見ず知らずの他人のためにこの子たちは涙なんて流せるんだろう。これが愛ってやつなの? なんて、少し引いた気持ちでその様子を見ていた記憶がある。

 そのボーカルが伝えたかったことが何だったのかは正直今になってもよくわからないけど、それくらい愛ってやつは人間、特にああいう甘ったるい世界に住んでいる女の子たちにとってはなくてはならないモノだったんだなあって感じさせる程度に、この世界で生きていく上では欠かせない大切なモノなんだろうなあ。実感ないけど。

 そもそも今はコンビニやスーパーとかでお手軽に愛が買える時代だ。ユミとかハルとかはバイトで貯めたお金で月に一回三千円くらいの愛を買ってて、愛が無くちゃ死んじゃうよー! とか言ってるけど、正直私としてはそんな安っぽくて誰でも手に入る愛なんて嘘くさいなーとか、使い捨ての愛なんてよく売り出すことが許可されたよなあなんてことを思うんだけど、ほら、やっぱり友人で会話が合わないとかアレだし、愛を買うのが普通だって世間がなってるわけで、そうなったらいくら自分が大していい印象なんて持ってなくても普段の会話の中とかで自然とそれについての知識とかもついてくわけで、結果的に五千円の愛は見た目イケてるけど頭悪いとか、実は千二百円のは料理が上手だとか、三千円のが一番無難でお手頃だとかいったことばっかり知ってる状態になっちゃってたわけだ。

 そんなわけで自分はそういうお手軽な愛ってやつは全く興味が無かったし、かといって売りものじゃない極々普通で昔馴染みな愛があるのかって聞かれたら、むしろこんなガキばっかりで頭ん中に下半身があるんじゃないかって思うくらい盛った男共とかに愛なんて感じるの? って逆に問い返したいくらいなわけで、つまりは世間で一番尊いとか思われてる愛ってやつからかなり離れたところにいた人間だったわけだ。

 そう。人間“だった”わけ。少なくとも先週のあのボーカルの命日。そして、たった一人の弟が、唐突にこの世を去ったあの日までは……。

 

 

 

   ◇◆◇◆◇◆

 

 

 ひとりでおるすばんは、つまんない。ちょっとねつはあるけど、いっしょに出かけたかったのに。つまんないなー。

 あ! でんわがなってる。お母さんには、出ちゃだめって言われてるけど、もしかしたらお母さんかもしれないから出ちゃおうっと。

 お母さんだったらはやくかえってきてっておねがいしなくっちゃ。

 

 

 

   ◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 弟が事故にあったって連絡が入ったのは暇な講義の最中で、大した内容でも無いのに百人は余裕で入る大教室での講義なもんだから、前の方に人はいないしあっちこっちで携帯いじってるし、後ろの方でしゃべってる男共がいても先生は注意しないっていう、これ大学じゃなかったら学級崩壊ってレベルじゃないよなーって感じの講義なわけだったから当然私も携帯とかいじってて、その時弟が事故ったってメールが親から来たから急いで教室を出て病院に向かったのだ。

 メールには弟が歩道歩いてたら車が突っ込んできて、怪我はひどいけど意識はあるから大丈夫っぽいって医者が言ってたって書いてあったし、弟がそんな簡単に呆気なく死ぬような人間じゃないって思ってたから、どうせ大したこと無くて「これで夏休みまで高校サボレるからラッキー」とか軽口叩くんだろうなあって本当に軽く事態を見てた。

 なのに、死んだ。人間ってこんな簡単に死んじゃうんだなって思っちゃうくらい、あっさりと、死んだ。

 医者の話だと、私が馬鹿みたいにのんびりタクシーに座ってどんな皮肉を言ってやろうかなー、なんて事を考えてた頃容態が急変。のんきに「具合はどうなのー」とか言いながら病室に入ったら弟と目があって、なんでかわかんないけど弟に謝られて、それから目を開けることが無くって、おしまい。最善は尽くしたとか他にも色々言ってたけどあまりに突然で心の準備ができてなかった私にはそんな内容が頭に入ってくるはずもなくて、ただただ途方に暮れるしかなかった。

 そのあとはとにかくバタバタしてて、葬式だの通夜だのなんだかんだで気持ちに整理つける暇もなくて、葬式には弟の学校の友達とかも来てて、家ではちっともそんなこと言ってなかったのに実は彼女がいたとか、クラスでは中心の一人だったとか私と同じ大学を受けるために英語を頑張ってたとかっていう全然知らなかった面ばっかりが急に視界に入ってきて、なのに泣けなくて、泣いてる子たちを見るのがつらいから空を見たら空が今にも泣き出しそうな曇天──なんてこともなくむしろ雲一つ無い晴天で、天気も少しはこっちの内心くみ取ってよとか思ったけど、昇っていく煙が空に溶けていくのをずっと見て、ああ、晴天で良かったなと思ってたりしてた。そして、本当に死んだって実感も無いままあっと言う間に時間が過ぎ去ってしまい、一週間がたってしまった。

 両親も余りに唐突な我が子の死に呆然としてて、その呆然を持ったまんま全部が終わってしまい、やっぱり二人の涙も目にすることができなかった。

 そんな風に本当にあっけなく、私の弟は高校二年生というもっとも華やかしい時期に、この世を去ってしまったのだった。

 

 

 まあ、そんなこんなことがあったとはいえ時間ってやつは誰のもとにも等しくやってくるわけで、ユミとかハルも弟の事故のことは知ってたからこそ、私にいつも通り接してくれて、おかげで結構助かったりしていた。相変わらず話に出てくるのは愛についてのことばっかりだったけど、今まで通りって感覚が本当にありがたかった。

 そして、まあよくある話になっちゃうけど弟がいなくなって、気づけたことがあった。

 結局、私は弟の愛を受け取っていたんだ。それも、お店で売ってるような安っぽいどこにでもあるようなモノでも、ユミやハルが欲しがってる恋愛要素的な愛とも違う、家族だからこそ持ってる愛ってやつを。そして、自分も弟に無意識に与えていたってことも。

 弟がいたときは、それが当然すぎて全然気づけなかったし、そういう気持ちを愛って呼ぶって事すらわかってなかった。けど、例えば食事の時とか寝る前の洗面所とか、枕元のバスケ漫画とか、そんなちょっとしたいつもの中にそういうのってあったんだなって気づいて、それなのに泣けない自分に困惑したりしてた。

 でも、そんなことにお構いなく太陽は昇るし沈むわけで、それに二人の気遣いもあって普段通りの日常をこうして送れているわけで、ああ、これもある種の愛の形ってやつになるのかななんて事を思う。間違っても二人に伝えるつもりはないけど。

 で、そんな二人はといえば、なにやらヴィンテージモノの愛を売っている新しいお店(なんか矛盾してる気もするけど)を見つけたらしく、今日の授業が既に終わったこともあるしちょっと覗いちゃうかーって話で盛り上がったらしくて、ついでに一緒にどうよと誘われた私は特に断る理由も無いから、こうして三人で青空の下をのんびりと無駄話を交えつつ歩いているのだった。

 ところで、と前置きをして、そろそろお店に着くよと盛り上がっている二人に一つの疑問を投げかけてみる。ヴィンテージモノの愛ってなんなの? って。

 そもそもこの愛ってやつのシステムはかなり大雑把にいうと、購入者(ホストとかオーナーとか呼び方は色々あるけど)がある程度の役割を与えて、その願いが達成したら使い捨てれる形になるって感じで、値段によっては要望が叶う叶わないの差があったり、必ずしも満足いくとは限らないわけで、だからこそ色々な価格の愛が売り出されているってわけ。なーんてのも全部二人の受け売りで自分はコンビニで三個入り八百四十円の愛すら買ったことがないんだけど。

 で、そうなるとヴィンテージモノの愛って何だろうという疑問が生じちゃう。話を聞いた限りでは、ヴィンテージってのは愛を形容する時は“使い込まれた”みたいな意味らしいんだけど、そもそも使い終わった愛をそのまま残しておくことは不可能だしそうなるとヴィンテージなんて存在しないんじゃないかなあって思ってた。けど、よくよく話を聞いてみたら案外そうでもないらしい。

 二人が言うには、ヴィンテージモノは何らかの理由で購入者の願いに応えられなかった、失敗作みたいなモノにあたるらしくって、その理由っていうのは色々あって、捨てられたとか質屋に入れられたとかネットオークションに出されたとか購入者が死んじゃったとか、他にもたくさんあるらしいけど大抵が購入者側の問題で、愛そのものには問題がない場合が多いらしい。そして、この手の愛は最初の購入者の愛として終わることができないから消えることもできなくて、しかも購入者の願いに応えるためにつくられたわけだから結果的に何かに突出していることが多いから人気がある。ってことなんだって。

 私にしてみれば他人の触れた愛なんて気持ち悪いって思っちゃうけど、二人はそれがいいってことだから、まあ、そういう愛の捉え方もあるんだろうなぁ。

 そのまましばらくあれこれとダベりながら歩いてると、ついたよ、という声がかかって、顔を上げるとアンティークショップとか小物の雑貨屋さんのような雰囲気のある、小さな薄暗いけど暖かい印象のお店があった。外に面したショーケースの中では、上品な物腰の男女の愛が談笑しあってたりしてて、確かにそこら辺の安っぽい愛とはどこか違う印象を受けちゃう。なんというか、陰があるっていうのかな。第一普通の愛なんてコマーシャルとかでしか見たことないんだけどね。

 二人はといえばもうテンションあがりっぱなしな感じでいつの間にかお店の中に入ってて、一人取り残されてたことに気づくのに数十秒。こういうお店に入ったことないから緊張するなあ、なんか変な汗出てきたよ。なんて思いながら恐る恐る扉を開けて中へ足を踏み入れてみる。

 お店の中は外見の期待を裏切らないシンプルだけど趣深くて、全体的にカントリー調でまとめられた調度品が心地いい。輸入雑貨屋って言われても違和感ない雰囲気で、漂っている珈琲の香りもよく馴染んでる。

 件のお二人さんはショーケースとか棚のチップとかに見入ってて、どれどれ私もと値札を確認して愕然。一体で……五桁? なんだか遠い世界に来ちゃった気がしてならないのは私だけかな。

 とまあ、色々とカルチャーショックを受けつつも、想像以上に広かった店内をもう一度ぐるりと見渡してみる。表通りに面した所と店の奥の方のショーケースの中には、人間の姿をした愛が。そしてその他の棚やケースの中にはチップ型の愛が、結構なゆとりを持って並べられてる。

 ちなみにチップ型の愛っていうのは通称“第二世代型”ってので、元々は人型しか保てなかった愛をチップという形で売り買いするコトができるよう開発されたモノ、らしい。まあ、人型をした愛をそのまま買うのは抵抗あるし、場所もとるから初期のコンビニとかは大変だったんだろうなと思うけど、今ではもうこういうお店でしか見れないんだろう。そう考えれば、なるほど。コレも立派な商売になりえるんだなあ。なんて思ってしまうのはやっぱりまだこういうモノに慣れてないからなのかな。

 とりあえず色々品定めしてる二人の方に近づいて、ひょいと後ろからのぞき込んでみる。お値段は六桁突入。めまいがしそう。コンビニだったら一個二百八十円(税込み)で買えるモノすらあるのにこの違いは何なんだろう。と考えて、そうか、この愛は消えないのか。と思い当たった。

 そう。愛っていうのは消えてしまうんだ。それは売り物だとか売り物じゃないとか関係なく、本当に唐突に目の前から消えてしまう。ってコトを身を持って体感したばかりだということを、私は忘れてた。いや、二人が忘れさせてくれていたのか、或いはまだ自分がその事に気づけてないだけなのかも。

 あれからも結局私は涙を流せないままだった。煙になった弟を、骨になった弟をしっかりとこの目で見たっていうのに、まだ実感がわかない自分に戸惑いを隠せない。弟がいなくなってようやく愛ってのを少しは感じられるようになったのに、私は弟を愛していなかった? 実は今感じてる弟からの愛ってのは全部私の作り出した都合のいい幻想? 駄目だ。こんなところでそんなこと考えたって意味がないし、せっかく二人が普通の生活をおくれるようにしてくれてるのに。

 なにも考えられなくなって、目の前のチップから視線を外して遠くへ逃が

                                   ガツンッ

 

 唐突に頭を殴られたような衝撃。物理的なモノじゃない、精神的な衝撃。

私は、その姿勢から一歩も動くことができなくなった。だって、せっかく目を離そうとした視線の先に、

 

 

 弟が立ってたんだから……

 

 

 

   ◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 しらないおじさんとかおばさんがたくさんきた。みんなおんなじ黒いふくをきてた。

 まえのほうでははげたおじさんがよくわからないことをずっと言ってて、お母さんたちのしゃしんとはこがとなりにならべてあった。

 まだ子どもだからわかんないんだろうね。かわいそうに。いつでも力になるからね。

 そんなコトをしらないおじさんたちは言ってたけど、よくわからないからとなりにいたおじさんに、お母さんたちはいつかえってくるのってきいたら、ごめんね、ってあやまられた。もう、ずっとかえってこないんだっていって、なき出しちゃった。

 ないちゃだめだよ、おとこの子はないちゃだめ。ってお父さんが言ってたからおなじことをおじさんに言ったら、なきながらごめんよってまた言われて、そうだ、ほら、おかしかってきなって言って、かみのおかねをもらった。かみのおかねつかってもいいのってきいたら、いいんだよ、ほらいってきな。って言われたから、おかしをかいにいくことにした。

 かみのおかねって、どれくらいおかしかえるのかなあ?

 

 

 

   ◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 千五十円。

 

それが、弟の姿をした愛の値段だった。

何故かそれだけ他よりずっと安くて、間違ってるんじゃないかってお店の人に聞いたら在庫処分だからと遠回しに言われた。詳しいことは前の持ち主のプライバシーに関わるから教えてもらえないらしくって、ちょっと怖い。

 ……怖い? なんで、売り物のコトを聞いてそう感じるんだろう。弟だから? いやいや、馬鹿なこと言っちゃ駄目だ。どんなに弟に似ててもこれは愛だ。そっくりなだけで全く別物、本来なら使い捨てられる、お手軽な、愛。だから、別に気にしないで視線を外してやればいい。たったそれだけのことだ。

 たったそれだけのことなのに、どうして私は財布の中を確認してるんだろう。千円札が二枚入っててなんで安心してる? これはこのあと三人で新しくできたケーキショップであーでもないこーでもない言いながらゆったりとした時間をすごすために必要なお金なのに、なんで、なんで?

 全力で財布から視線を逸らす。私はお気軽でお手軽な愛が嫌いで、そんなモノ求めてなくて、それにそんなモノに頼らなくても愛はすぐそこにあるってことに気がついたんだから、だからこんな使い古しの愛なんか、絶対にいらないんだ。ほら、大丈夫。いらないって自分でわかってるから。だかr

 

 ………ゃん……

 

 それは唐突に、

 

 …ぉ…ぇ………

 

 ショーケースの中から、

 

 …お……ちゃ…

 

 声を、

 

 …おねえ…ちゃん…?

 

 響かせた。

 

 その瞬間から、私に残された選択肢なんてあるはずがなかったんだ。だって、弟が呼んでるんだよ? 私のことを、お姉ちゃんって。もう二度と聞けなかったはずの声で、ただ遺影の中で笑っているだけのはずだった顔で、困ったように、寂しそうに、お姉ちゃんって。

 そんなことされたら、もう、しょうがないじゃん。だって私は姉だもん。姉は弟を守ってあげなきゃだめでしょ? 好きとか嫌いとかじゃなくて、家族だから。大切だから守る。それだって立派な愛ってやつなんでしょ。だったら、私があの子を愛してあげなくてどうするの? 今までそんなことにも気づけなくて、それなのに無条件で弟から愛をもらってた私が。

 

 

 そうして私は、弟の姿をした愛を購入した。そのあと、私はユミやハルと何を話したのかとか、どこで別れたのかとか、どうやって家に帰ったのかとかいうことを、全く覚えてない。ただ、家について弟の姿をみた両親が一瞬だけ複雑な顔をした後にあっさりと、全く躊躇うことなく弟を迎え入れたことは覚えている。

 きっと、両親も辛かったんだと思う。絶対確実な愛。それがたった一つだけだったとしても、それがなくなるだけで簡単に人間は壊れてしまうんだろう。例えば、その愛が無くなってしまったことを泣くことができなくなっちゃうみたいに。

 でも、今こうして弟が戻ってきたことで、両親も私もこうして笑えて、弟からの愛も感じられて、問題なんかあるはずがない。これから先もまた、みんなで楽しく毎日をすごしていけると思うと、楽しみで仕方がない。なんていったって、私自身が愛ってやつの大切さを知ったんだから、今まで以上に弟を愛せる自信がある。

 こうして、私たちの家族の生活が、また元通りに動き始めたわけだ。

 

 

 

   ◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 おかしをかいにそとに出たら、すぐちかくにコンビニがあったから、そこにいくことにした。

 おみせの中にはいろいろなものがうってて、どのおかしにしようかなやんじゃう。それに、おかしじゃないのもいろいろうってるからもっとみてまわろっかなー。

 あ、なんかにんぎょうみたいのもうってる。これがなんてものなのか名まえがかん字だからよめないけど、三こで八百四十えんってかいてあるけどかみのおかねでかえるのかな。

 おみせのおじちゃんにきいてみたら、かみのおかねでかえるっていってた。あと、このにんぎょうはねがいをかなえてくれるんだって。

 うーん。あっ! そうだ、このにんぎょうに、お母さんたちがかえってくるまでいっしょにいえにいてもらおうかな。ちょうどお母さんとお父さんとお姉ちゃんみたいだから。

 うん! それならお母さんたちがかえってくるまでさみしくないし、かみのおかねでかえるからおこられないもんね。

 きーめた。おじちゃん、この三このやつちょーだい! うん。お母さんたちがかえってくるまでお母さんたちのかわりになってもらうの。

 へー、このにんぎょうみたいなのって“あい”って言うんだ。じゃあ、ぼくのいえはあいがたくさんあるいえになるんだね。

 うん、ありがとー! そして三にんのあい、これからよろしくねっ!

 

 

 

   ◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 それは、なんてコトはない夕食の風景。ご飯を家族で食べながらテレビを見てる。その時やってたのは音楽番組で、一年と一月前に死んだとあるバンドのボーカルの為に新しく作られたベスト盤が週間ランキングで三週連続で一位になってて、その曲を流してるみたいだ。私と弟は、並んで座りながらその曲に耳を傾ける。

 弟が戻ってきて三週間。それは今までと変わらない毎日でとても心地が良かったけど、時々とてつもない自己嫌悪に陥る。今隣にいる弟がただの愛だということを忘れてしまいそうな自分がいて、それすら疑問に思えない自分がすごく怖い。

 でも、そんな気持ちも打ち消すくらい、愛ってやつは大きくて暖かくて、これでいいんだって思ってしまうときがある。いや、もう、そう思うときの方が多くなっちゃってる。

 結局の所、愛ってやつはなんだったんだろう。今隣にいる弟が、実は元々は三個入り八百四十円のうちの一つの愛だった可能性だってあるのだ。もはや、愛と人間とを区別することが難しいんじゃないかと不意に思う。

 テレビからは、死んだボーカルの甘ったるい声が響く。

 

 この世界には愛が満ちてて、他には何もいらなくて、それだけで最高に幸せだ。

 

 彼は一体何が伝えたくてこんな歌を甘ったるい声で叫び続けてたんだろう。愛を知った今でも、全然答えは出てこない。

 

 でも、確かに彼の歌うとおりなんだろうなと、漠然と感じる。

 

 

 

 だってほら、私の周りのこの世界には、こんなにも愛が満ちてるんだから。

 

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この世界には愛が満ちてて、他には何もいらなくて、それだけで最高に幸せ。
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