【ベガ←バル】バルログ狩り〜川編〜【腐向け】
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 ある朝めざめると、ベガさまはそうなんしていました。海に四方を囲まれ、遠い遠い潮風の奥にうっすらと浮かぶ本土がまぶしい、りっぱな離れ小島です。辺りに民家がない景観からさっすると、無人島と呼ぶのがふさわしいのでしょうか。

 シャドルーの総帥であるベガさまはいつも世界中を飛び回っており、移動にはかならず専用のジェット機を使っていました。しかし、時々サイコパワーがおさえきれずに暴走してしまうので、朝起きると何故かそうなんしていることさえ珍しくありませんでした。

 ですが、平素は陸地でのそうなん。今回は海でのそうなんです。ひとすじなわではいきません。この小島では人間が住んだ形跡がなく、食いでのいいけものがいるような痕跡もありませんでした。救助が来るまでのしばらくは飢えとの戦いです。サイコパワーを飛ばしてカモメをうち落としても、小柄な鳥の一羽や二羽では胃を満足させることはできません。

 木の実、魚、カモメ。木の実、魚、カモメ。木の実、魚、カモメ……。

 一週間ほどこの食事のサイクルを繰り返している内に、ベガさまはとうとう空腹による胃痛を起こして寝こんでしまいました。

「ええい このベガさまを満たすものは 存在せんのか」

 海のほかにあるとすれば流れの早い川だけです。そこには現在の食料の最大手であるカモメもいませんし、取りやすい魚もいません。はたしてどうしたものかと考えながら、二時間か、それか三時間ほど眠りこんだあとに、はっと思い立つと木のツタを集め、それで丈夫な編みカゴを作り上げました。

 ベガさまはカゴを持つと、激しい川の流れがおわって湖のようになっている部分に沈めました。それなりの深さもあるきれいな淡水ですから、おいしい魚もたくさんいるだろうと期待したのです。しかししばらくしてから引き上げたカゴに魚はいませんでした。かわりに、きれいな筋肉のついた若々しい男の人が入っていたのです。男の人は白い仮面と銀の爪をつけており、うっとりとカゴの編み目にはりついていました。ベガさまはとてもがっかりし、そのぴちぴちとした男の人を「なんだ 人間か これは食べものではないな」とだけ評価すると、太陽の強く照る岩場にカゴごとさらしておきました。やがてすっかりと乾いたその人がはっと目をさましてまぶたを開き、空色の瞳で辺りを見回しました。そしてたき火できのこをあぶっているベガさまを見つけ、いまいましげに問いただしたのです。

「きさまか? 私のかぎられた陶酔の邪魔をしたのは」

「そうだが きさまこそ何だ 私のカゴで何をしている」

「ここは私の土地だ きさまの居住を許可したおぼえはない」

「ほう」

 ベガさまは少しだけほっとしました。すっかり無人島だと思いこんでいたこの場所は、実はきちょうな薬草の宝庫だったのです。彼はカゴから出ると自分をバルログだと名乗り、美しい肌を保つために手ずからハーブをさがしていたむねを語ると、あらためてベガさまに宣戦布告をしました。

「きさまが何者かは私のあずかり知るところではないが 丁度いい 私と決闘してもらおう」

「何が丁度いいのかは知らんが まあよかろう」

 そうして二人は決闘をとりおこなうことになりました。ベガさまは開幕からとても快調でした。バルログの屈中Pに立強Kを合わせたり、J中Kで何度もめくったり、仮面をはがしたり爪をおったり、ついにはEXバルセロナも屈弱P連打でたたき落としました。そして画面端でコアコアダブルニープレスでしつこく固め、更にジャンプして逃げたところにヘルアタックを打ちこんでナイトメアブースターからのコンボで一気に倒してしまったのです。

 サイコパワーですっかりと焼けこげたバルログを放っておいてきのこを食べていると、ふといしきを取り戻した彼と視線が合いました。何やらあやしいまなざしがベガさまを熱心に見つめています。

「何だ」

「その強さ……美しい……」

 あまりにもすばらしい至福の表情でささやくので、ベガさまは少したじろぎました。今の今まで生きてきて美しいなどと言われたのは初めてのことです。しかし、それならそうで利用するまでです。つみ上げられたきのこを食べ終え、たき火に土をかけて踏みつけると、きぜんと命令しました。

「私はこの島から出る すぐに案内をしろ」

 そうしてベガさまはシャドルーの基地に帰ることができたのです。

 ですが、いくらか問題がありました。なんとベガさまに惚れこんだバルログが基地までついてきてしまったのです。バルログはどこへ行くにもついてきました。散歩や食事の時はもちろん、お風呂の時も寝る時もそばにおり、トレーニングルームで突きや蹴りやサイコパワーの鍛錬をしている姿を熱っぽく見ながら、じっと空想にふけっていることさえあるのです。お気に入りの安眠まくらでも眠れなくなったベガさまは、ある日寝室にバルログを呼んでこう告げました。

「そろそろ国へ帰れ お前にも家族がいるだろう」

 それを聞いたバルログはひどくいきどおってこう言い返しました。

「私がこれほどまでに想いをよせているというのに きさまはぐろうするのだな。

 いいだろう ベガ それならばもう一度勝負しろ」

 そうして二人は決闘をとりおこなうことになりました。ベガさまはまたもや快調でした。まずは前転キャンセルからのダブルニープレスでファーストアタックを奪い、J強Kでいくらかめくってサイコバニッシュで淡々とけずり、ゲージがたまるや否やサイコバニッシュからのオリジナルコンボでハイスコアをたたき出すとニープレスナイトメアで一気に倒してしまいました。

「おろか者が Aグルーヴのこの私にPグルーヴで挑むとは」

 酷使した片手をなで、靴跡だらけのバルログを見下ろします。バルログは流れるように相手の猛攻をしりぞけるブロッキングにロマンを感じていたのでしたが、この時ばかりはAグルーヴを選ぶべきだと思ったのでしょう。しょうてんの合わない目でぼうっと天井をながめ、何やらぶつぶつと口にしています。それはずっとつづいていたようで、ベガさまがアイスティーを作って戻ってきてもまだ横たわっていました。いつまでも起き上がるようすがないので耳を近づけると、バルログは「なんて美しいのだろう」と繰り返していました。これはベガさまの誤算でした。バルログをたたきのめして国へ帰すはずが、またもや惚れこまれてしまったのです。急いで部屋からたいさんしようとした後姿に、バルログの艶っぽい声がかかります。

「ベガ どこへ行く」

「私には せかいせいふくの野望があるのだ」

「今すぐというわけでもあるまい さあ こちらへ来るのだ」

 しょうがないのでせっとくをこころみようと歩みよってきたベガさまに向け、バルログはごろんと寝返りを打ってお尻をさし出しました。緋色の腰布があやしくゆれ、よくしまったヒップのラインが強調されます。

「ベガ 私をきさまの自由にしても いいんだぞ」

「断る」

「きさまは私に 恥をかかせるつもりか」

 ベガさまがいきなり断ったのでバルログはかんかんになって怒りましたが、またすぐにとろんとした目つきでベガさまをさそいました。ベガさまは困りました。今の今まで生きてきてこういったシチュエーションは数多くありましたが、さすがに男の人にさそわれたことはありません。大体、さし出されたからといってお尻に何をすればいいのでしょうか。踏んでもいいということでしょうか。もし抱いてもいいということならどうしようかとベガさまは考えました。そういえばだいぶん前にこの代替ボディに乗りかえた時、せかいせいふくに集中できるようせいしょくきを取り払ってしまったのです。仮にお尻をさぐる決心がついたとしてもできることは何もありません。そんなふうにしゅんじゅんしていたベガさまに、またバルログの怒りの声がとびます。

「何をしている 私が自由にしてもいいと言っているのだ あまり待たせるな」

 ベガさまは一つ力強くうなずくと、ようやく心を決めてバルログのお尻をわしづかみにしました。ヒョ、と甘い声がもれ出し、指がとけてしまいそうな体温が伝わってきます。ベガさまは深呼吸すると、そのお尻にありったけのサイコパワーを流しこみました。紫色の光が辺りに満ち、部屋中を染めていきます。

「ヒョオオオオォォ」

 バルログもありったけの力で叫ぶと、ぱたりと倒れてうごかなくなりました。ベガさまは煙を上げる体をさっそうと引きずっていくと、すぐさま記憶をそうさし、ベガさまとお尻にあまりきょうみのない、仮面の貴公子バルログとして国へ帰しました。それがバルログをシャドルーの四天王としてむかえ入れる数年ほど前のことです。

 

 

 

「そういうことだ 分かるか小娘」

「さっぱり 分からないわ」

 せまい取り調べ室で、ベガさまと春麗は面と向かって話をしていました。元はと言えばバルログはどこへ行ったのかとたずねたのがはじまりでしたが、どうやらこんなけいいがあることでここへ来ることはないだろうし、スペインにもいないならベガさまにも分からないとのことです。二人はそれからしばらく言葉をかわし、やがてつかれ、熱いお茶をくらべはじめました。

 美しい者と強い者、そしてお尻が好きなあの若者はどこへ行ってしまったのでしょうか。それは今となっては、誰にも分かりません。

 

 ――ヒョオオオオォォ……。

 今日もどこかで、バルログのおたけびが木霊します。

 

 

 

END

説明
ベガメインのベガ←←←バルログ。童話調。一部キャラ崩壊が激しいので御注意下さい。
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ストリートファイター バルログ ベガ 腐向け 

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