唇には毒を、君には抜けない刺を(レンリン)
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「今回の曲はお姫様と王子様がテーマだから、それに合わせた衣装なんだって」

 

 プロモーション用の衣装についてそう説明を受けたときには、そりゃまた随分と恥ずかしいテーマだなあと呆れるのと同時に、少しの期待を抱いてもいた。すでに用意されている淡いオレンジ色のドレスを着たリンはきっとすごく可愛いだろうし、もう一方の衣装だって着こなす自信はあった。

が。期待というのは常に裏切られるために存在するのだということを、身を持って思い知らされるのだった。

 つまるところ、期待した自分が馬鹿だった。

 

 

「いやいや何で僕がこっちなんだよおかしいだろフツー逆だろ! っていうか、どうせこんなことだろうと薄々思ってた自分が一番情けない!」

 ほとんど息継ぎもなく一気に言い切って、レンは憤る気持ちを抑えるように拳を強く握りしめた。その叫び声は滑舌に難ありと言われている彼にしてはなかなかのものだったが、今の格好ではそれも台無しだ。

 袖の絞り口や胸の開いた部分、そして裾の広がっている部分にまでふんだんに縫い付けられた白いレースは柔らかな羽のように広がって、少し子供っぽい色合いのドレスを上品に飾り付けている。これを着ているのがリンだったならどれだけ良かっただろう。もしくは、これを着ているのが自分でさえなかったなら──……。

「わあ。レンかーわいーっ!」

「かーわいーっ、じゃねぇ! はあ……」

 レンはあらためて今自分が着ているドレスを見おろし、それから目の前で楽しそうにはしゃいでいるリンに視線を向けて、大きく溜息を吐いた。

「見て見て、リンが王子様なんだよ。カッコイイでしょ」

 そう言ってくるりと一回転してみせたリンの服装は、ベロア地の濃紺の上衣に金色の釦とその周囲を飾る金銀の刺繍、襟や袖の部分にやたらフリルのついた薄地の白いシャツ、首元には光沢のある同色のリボンタイという、おとぎ話に出てくる典型的な「王子様」という格好だった。

「かっこいい、ねぇ……」

 レンは自分の顎に人差し指を当てて、少し考えこむような姿勢をとった。

 やけに手の込んだ衣装は一分の隙もないほどに完成されている。そして金髪に青い瞳といえば、確かにおとぎ話の「王子様」を連想させる要素のひとつでもある。

 しかし本来なら男用に作られたその衣装は不自然なほどに肩幅が余っていたり、長すぎるシャツの袖が手のひらをすっぽり覆い隠していたりと、そこかしこに綻びのような違和感を見せていた。

「どっちかっつーと…………」

 言いながら、レンは高い位置でひとつに結わえているリンの髪をほどき、動き回っても乱れないようにときつく締められたリボンタイの結び目に手をかけた。

「可愛い──、かな」

「ふぇ?」

 パサリ、と肩に金色の髪が落ちると同時にリボンタイを緩めると、まだ何者にも汚されたことのない白い首筋が露わになる。

 

「──せっかくだから目覚めのキスでもしようか。可愛い王子様?」

 

 そんな言葉を、愛らしいドレスに身を包んだ「お姫様」は不敵な笑みを浮かべながら、「王子様」の耳元に囁いた。それは少女と見紛わんばかりの容姿からはかけ離れた、明らかに男の表情をしたものだった。

「え、えっ?」

 無防備な首筋に軽く口づけを落としてから、レンはゆっくりと唇を上に移動させていく。あと数センチ、ふたりの間にある距離を埋めてしまえば、触れることのできる距離。

 

「──…リ、リン、別に眠くないよっ!」

「ぶっ!」

 

 まるで今の状況を理解してないリンの反応に、色気も何もあったもんじゃない、とレンは唇から笑い声を含んだ息を吹き出し、触れるか触れないかというギリギリの距離にあった唇を離していった。

 

「ウソだよ」

 

 

 

 

                       End.

 

 

 

 

ウソじゃないけど、ウソだよ。

 

 

 

 

 

 

リンちゃんとレンきゅんがキャッキャしてるだけの話。(プロットの概要まんま)

たまには迫ったっていいじゃない、男の子だもの。そして女装少年×男装少女というのはかなりイイ! と思います。倒錯だっていいじゃない、変態だもの。(書いている人間が)

 

 

説明
レンリン。多分ボカロ設定。女装少年×男装少女。リンちゃんがレンきゅんとキャッキャしてるだけ。
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