東方幻常譚
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 平和な幻想郷で、今日も平和に生きる住人。鬼も人も妖怪も関係なく皆で集まって小さな宴会を開く。知らぬ間に神社に集まり、知らぬ間に鍋を囲み酒を飲む。いずれ来る結末までの中のほんの一日の出来事。

 

東方幻常譚 The another memory

 

第一話「宴会〜A feste〜」

 

 

 

 周囲を博麗大結界で囲まれた、この世で最後の楽園『幻想郷』。その幻想郷の中にある一つの神社ので、自称楽園の素敵な巫女が降り積もる落ち葉を掃いている。神社めがけて飛んできた普通の魔法使いが、その仕事を邪魔する様に落ち葉の山を吹き飛ばす。すっかり仕事が水の泡になったことに巫女は大いに腹を立てるが、魔法使いの無邪気な笑顔を見てふっと短くため息をつくと、彼女にお茶でもどうかと尋ねた。

 

「それにしてもあんたには常識ってモンが・・・あるわけないわよね」

 

「うわっち!・・・っと、あぁ。香霖堂あたりに売ってるかもしれないぜ?」

 

「流石の霖ノ助さんでもそんなもの売ったりはしないわよ。売れなさそうだし」

 

「なに言ってんだ。あいつの店にあるのは殆ど売れてないだろう。私かお前が勝手に持っていってるくらいで、売上なんて殆どなさそうだぞ?」

 

 縁側に座り、茶請けの煎餅をかじりながら、二人で他愛の無い話をする。宝船の一件以来幻想郷は極々平和で、この二人が動く必要のある異変は起こっていなかった。時折スキマ妖怪が外から人間をかっぱらって来たり、里の人間が妖怪に襲われそうになったりはしたが、それでも幻想郷は大いに平和だった。

 

「平和・・・だなぁ」

 

「そうねぇ・・・。とりあえずあんたとこうしてお茶が飲めるって事は平和な証拠ね」

 

 そのとき、神社にもう一人の来客があった。

 

「霊夢、お邪魔するわ。あら、魔理沙も来ていたのね」

 

「あら、アリスじゃない。珍しいわね、あなたが神社に来るなんて。なにかあったの?」

 

「いいえ、そうじゃないわ。ただ、天気もいいし外に出たくなっただけよ。あ、はいこれ」

 

「お?なんだなんだ?」

 

 霊夢がアリスから子袋を受け取ると、待ってましたと言わんばかりに魔理沙が食いついた。それを霊夢が片手で受け止めて跳ね返す。跳ね返った魔理沙は、手入れの行き届いた綺麗な縁側に後ろ手に手をついてこらえた。

 

「まったく・・・本気で香霖堂まで行って常識を買って来たらどう?」

 

「別にいいだろ?どうせ食べるんだから。なぁ、アリス?」

 

「確かに中身はクッキーだけど、あんたの場合は意地汚いっていってるのよ」

 

「ちぇっ・・・」

 

 ふてくされた魔理沙は、自分の湯のみのお茶を飲み干して霊夢に突き出した。

 

「おかわりくれ」

 

「はいはい・・・っとアリス、座ってて。今お茶持ってくるわ」

 

「あ、なら私も手伝うわ。よっ・・・と」

 

 アリスが靴を脱いで縁側から中に上がり、霊夢と二人で台所に消えた。残された魔理沙は一人で煎餅をくわえながら、晴れ渡る昼下がりの空を眺める。なにも起こっていない事を象徴する様に、初秋の空は雲一つ無い。

 

「お、魔理沙来てたのか。霊夢は〜?」

 

「おぉ萃香じゃないか。どこに行ってたんだ?」

 

 少し頬を赤らめながら帰ってきた萃香は、持っている瓢箪を嬉しそうに少し掲げて見せた。魔理沙もそれで納得した様である。

 

「あぁ、勇儀と飲んでたのか。お前も好きだなぁ」

 

「鬼だからねぇ。それに最近じゃぁ飲む以外にやること無いし」

 二つの湯のみと、クッキーの入った皿を持ったアリスと霊夢が台所から戻ってきた。

 

「あら萃香、お帰りなさい。どうだった?」

 

「どうもこうも、普段とかわんないよ。いつもどおり飲んで駄弁ってさ」

 

 靴を無造作に脱ぎ散らかし、縁側から中に入る。そして、霊夢とすれ違う一瞬のうちに、霊夢の持つ皿からクッキーをひとつつまんで口に放り込む。

 

「こら萃香!手ぐらい洗いなさい!」

 

「お前は母親か。アリス、ゆっくりしていきなよ」

 

「え?あ、うん」

 

 そういうと萃香はふすまを開けて奥の部屋に入っていった。

 

 霊夢とアリスは縁側に腰掛けると、魔理沙にならって空を見上げた。未だに綺麗な青空だ。空気も澄み渡っていて心地いい。そんな彼女達の顔をふっと一筋の風がなでたところで三人は我に帰った。

 

「それにしても」

 

「ん?」

 

「アリスのクッキーは美味いな」

 

「あ、ちょっとあんた!ほとんど残ってないじゃないの!」

 

 皿を見ると、既にアリスが持ってきたクッキーは魔理沙に食べられた後で、もう後ニ、三枚しか残っていなかった。それを見て憤る霊夢をアリスがなだめる。

 

「まぁまぁ。また作ってくるわよ」

 

「お!ホントか!?」

 

「霊夢にはね」

 

「そりゃ無いぜアリス〜」

 

 魔理沙の悲痛な声が、綺麗に晴れ渡る初秋の空に響いた。

 

 

 頭の上で燦々と輝いていた太陽も今は傾き始め、辺りは夕日で赤く染まっていた。もうそろそろ今日も終わりだ。

 

「あら、もうこんな時間じゃない。そろそろ帰らないと」

 

「あ、ホント。そうだわ、せっかくだからご飯食べていきなさいよ」

 

「お、悪いな霊夢。お茶だけでなくて飯までご馳走になるなんて」

 

「あんたには言ってないんだけど・・・まぁいいわ。食べていきなさいよ」

 

 その言葉を聞いた魔理沙は俄然やる気になって、そうなったら早速準備だと意気込んで台所へと駆けていった。それを見送った霊夢とアリスは顔を見合わせて、苦笑いを浮かべてから魔理沙の後に続く。

 

「さて、今日は何にしようかしら・・・。人数が多いからお鍋にでもしようかしら?」

 

「あ、いいわねそれ。でも食材足りるかしら?」

 

 買い置きの食材を確認してみる。4人で食べるには少し少ない気がするが、まあなんとかなるだろうというのが家主の見解だった。

 

「それこそ水焚きだもの。食べられるものならとりあえずなんでも行けるわよ。常識の範囲内でだけど」

 

「お、そう言えばこの前おいしそうなえのきと椎茸が取れたんだ。今から持ってくるぜ」

 

 そう言うや、魔理沙は箒にまたがって自分の家のほうに飛んでいった。普通ならかなりの時間がかかる距離だが、魔理沙ならすぐだ。だから霊夢もアリスも彼女を止めなかった。止めても無駄だったし、どうせすぐに戻ってくるだろうと考えたのだ。

 

「ただいまぁ。キノコもってきたぜ」

 

 案の定魔理沙はすぐに帰ってきた。両手にはかご一杯のキノコを抱えている。とりあえず食料の心配はしなくて済みそうだ。

 

「本当に大丈夫なんでしょうね?食べて死んだじゃ話にならないわよ」

 

「大丈夫だって。キノコハンターの魔理沙様を信じろ」

 

「まぁまぁ霊夢、いざとなったら食べなきゃいいんだから」

 

 それもそうねと納得して魔理沙からキノコを受け取った霊夢は、他の準備してあった食材を持つと、居間のほうに向おうとして振り向き、魔理沙とアリスに必要なものを運ぶ様に頼んだ。

 

 居間で鍋の用意が整うと、ふすまを開けて萃香を起こす。寝ぼけ眼で起きてくる萃香だったが、目の前の鍋と大量の酒で完全に目がさめたのか、飛び切りの笑顔で食卓についた。

 

「さて、じゃあ頂きましょうか」

 

 霊夢の合図と共に、皆が鍋に向かって箸をのばす。それぞれ思い思いの具をとって口にはこび、酒を呷る。

 

 食事が始まって暫くして、霊夢の横の空間が突然裂け、中から八雲紫が酒瓶と共に現れた。なかなかに上機嫌である。

 

「皆さんご機嫌よう。あら、今日は鍋なのね。もう少し早く来れば良かったかしら」

 

「紫じゃないの。まだあるからあなたも食べていったらどう?お酒の差入れも頂けるみたいだし」

 

 出された箸と器を受け取って鍋を食べ始めた八雲紫は、霊夢達が今までに見たこともないくらいに

上機嫌に見えた。

 

「・・・どうしたのかしら?私の顔に何かついている?」

 

「いや・・・ただあんたがそんなに嬉しそうなの初めて見たからねぇ。気持ち悪い」

 

「あら失礼ね。私だって嬉しいものは嬉しいし、美味しい物は美味しいわよ?」

 

 それだけいうと、また鍋をつつき出す。

 

「それにしても、このキノコ美味しいわね。魔理沙が持ってきたんでしょう?」

 

「あ、あぁそうだけど・・・なぁ紫、ホントに何があったんだよ?何か、すこぉしだけおかしいぜ?」

 

「・・・ただ、この幻想郷が平和なことが嬉しいだけよ。他に何もないわ」

 

 箸を置いて魔理沙にふっと微笑む。開いた手で酒を少し飲んでからまた少しだけ微笑んだ。それに習って食卓につく者が皆酒を飲んだ。

 

「平和、ねぇ・・・。確かに仲間と酒を飲めるってのは平和だからかもしれないねぇ」

 

「そうね、萃香。鬼と仲間の巫女ってのもどうかと思うけど」

 

 苦笑を浮かべながら自分のグラスに酒を注ぎ、一口だけ流し込む。しかし、苦笑は浮かべていても決して本当に困っているわけではなかった。むしろ今の状況を楽しんでいた。

 

「まぁ、なんだ。幻想郷と皆の平和に、ってところだな」

 

 魔理沙が高々とグラスを掲げると、まわりもそれにならった。

 

「・・・乾杯」

 

 霊夢の静かな音頭で皆残った酒をすっと流し込み、今日の席はお開きになった。

 

 

 

東方幻常譚第一話 了

 

 

 

〜一話あとがき〜

 

 そんな訳であとがきなんですけども、ちょっと手違いありまして、このあとがき書くの2回目なんですよね。まぁそんなことはどうでもいいですが、あとがきです。

 

 pixivにも投稿させて頂いているのは既に書きましたが、まぁ、そんな感じなんです。理由はまぁいろいろです。

 

 閑話休題、話の内容に触れていませんでしたね。とりあえず一話なんですけれども、いかがだったでしょうか?いやまぁ、いきなり「いかがだったでしょうか」なんて聞かれても困るのは重々承知ですし、ましてやここまで読んでくださってるユーザーが何人いらっしゃるかも分かりませんしね。

 

 それはおいといて、私の二次創作作品、この東方幻常譚シリーズは、幻想郷のみんなが、飲んだり騒いだり、空を飛んだり弾幕を出し合ったりして、読者の方々に、私のイメージする幻想郷の「今日」を感じていただけるように心がけて書いております。

 

 私には昔から絵心がございませんので、イメージを伝えるのに一番分かりやすい「絵」という手段を捨てざるを得ませんでしたが、それでも読者の―特に同じ東方の二次創作をされている絵師様の―幻想郷のイメージの一部として、このお話が残れば幸いです。

 

 長くなってしまいましたが、私の一話あとがきはここまでです。ご意見やご感想、「こんなシチュでSS書いて」といったリクエスト等もお受けしておりますので、コメントやメール等でお寄せください。

 

 ではみなさん、ここまで読んでいただきありがとうございました。次回もよろしくお願いします。

説明
言わずもがな、東方二次創作です。PI○IVにも投稿している物ですが、いろんな方に見ていただきたいのでこっちにも。
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