【腐】言葉の魔法
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 あのセフィロスさんの香りの魔法発言以来、俺は普通にセフィロスさんと話せないでいた。

 もちろん、あの香りが好きだと言ったのは事実だけど、好きだと言ったたった一人の人間が俺かどうかはわからない。

 セフィロスさんが他に好きだと言った人達のことを忘れているとか。

 ……それはないか。

 あの人の記憶力のよさは、俺自身が知ってるもんな。

 もし、もしも、俺のことを指しているのだとしたら。

 どうしてセフィロスさんは何も言ってくれないのだろう。

 あの日を境に何かが変わったとするなら、それは俺の意識だけみたい。

 それぐらい、セフィロスさんは前と全然変わりがない。

 もしかしたら、ただ、俺をからかうための冗談でしかなかったのかな。

 そう考えると、悲しくなるし、胸が苦しくなる。

 俺は、どうするべきなのかなあ。

 

「……ウド、クラウド・ストライフ」

「は、はい」

 

 フルネームで呼ばれたので、条件反射で返事をした。

 目の前に立っていたのは、今、俺の頭を悩ませている一番の原因の人だった。

 

「百面相してどうかしたのか?」

「えっ、あの…」

「ああ。書類を持って来てくれたのか」

 

 セフィロスさんの言葉に黙って頷いて、書類を差し出した。ザックスから頼まれたものだ。

 自分で行けばいいのに、と言ったけど、チャンスだろ、とか何とか言って押し付けてきた。

 

「ご苦労だったな」

 

 セフィロスさんがそう言って書類を受け取った瞬間、俺は思い切り深く頭を下げると、全速力でその場を立ち去った。

 後ろで、俺を呼ぶ声が聞こえたけど、振り返ることも、足を止めることも出来なかった。

 これで、完璧に嫌われたかなぁ。

 こんな態度、一回目なら許されるだろうけど、これで、何回目になるんだろう。

 

「クラウド?」

 

 廊下で息を切らしている俺に声をかけてきたのは、書類を託してきた張本人だった。

 

「お前、また、逃げて来たのか」

「……」

 

 普通に話すことが出来ない俺がとることのできる態度と言えば、逃げることだけだと思う。

 

「だんなが気にしてたぞ。クラウドが普通に話してくれないって」

 

 …それはセフィロスさんのせいだと言いたい。俺の気持ちを知ってか知らずかはわからないけど、俺のことを気に入ってるようなことを言うからだよ。

 意識しないなんて、俺には無理だ。

 俺は大きくかぶりを振った。

 

「ザックス、ちょっと付き合って」

 

 

 

 

 

「よし、今までより少しレベルを上げたぜ。気を抜くなよ」

 

 何も考えたくなかったので、訓練に打ち込むことにした。

 うまい具合にトレーニングルームには誰もいなかった。

 

「じゃ、スタート!」

 

 ザックスの声で訓練が始まった。

 目の前の敵に意識を集中させる。

 トレーニングルームは、擬似的にあらゆるシチュエーションを作り出すことができる。バノーラのりんご農園の辺りだったり、ジュノンのシスターレイの上だったり。

 何も考えずにいるには、目の前の敵とただ、ただ戦い続けることだけだった。

 だから、ザックスに付き合ってもらって訓練に必死になっているわけだけど、心のどこかでは、やはりセフィロスさんのことを考えている自分がいて、その自分を殺せずにいた。

 任務についたら全ての感情を殺せるようにならないとな。

 でなければ、こちらが殺られてしまう……。

 

「クラウド、訓練中だぞ!」

 

 響き渡る声に俺は、今、何をしていて、どういう状況にいるのかを再認識させられた。

 しかし、その時には遅かったらしい。

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 うっすらと目を開けた俺の視界に白い世界が広がる。

 自分のおかれている状況を確認するべく、目を見開いた。

 視界を覆った白い色は天井だった。

 天井が見えるということは、俺は寝かされているのか。

 見えている白い天井は医務室を思わせたが、医務室のベッドとは違っていた。

 ベッドの広さは違うようだし、寝心地も全然違う。俺の記憶にはない場所のようだった。

 ゆっくりと体を起こそうと腕に力を入れてみると、激痛が走った。

 俺は怪我をしたのかな?

 何とか身体を起こし、腕を見てみると包帯が巻かれていた。胴体もぐるぐる巻きにされている。

 

「誰かいるのかな…」

 

 ベッドから降りて、立ち上がろうとしたが、足にも鋭い痛みが走って、バランスを崩した俺は思い切りひっくり返った。

 ガターンと大きな音がして、俺は慌てた。

 立ち上がりたいけど、足には力が入らない。

 どうしよう…、助けを呼ぶっていうのも変だし…。

 

「クラウド!」

 

 そう叫びながら部屋に飛び込んで来たのはセフィロスさんだった。

 

「セ、セフィロスさん!?」

「大丈夫か?」

「あ、あの…」

 

 俺はさらに状況が掴めずにいた。

 セフィロスさんがすぐに飛び込んでくるなんて、俺、一体、どこにいるんだ?

 セフィロスさんは俺の横にしゃがみこんで、小さい声で、余り心配させないでくれ、と呟くと、いきなり俺を抱き上げた。

 

「セ、セフィロスさん…」

「心配することはない。しばらく安静にしてればな」

 

 そのまま俺はベッドに戻され、セフィロスさんは、ザックスに何か言うと、部屋から出て行ってしまった。

 

「何で、言わねぇの?」

 

 ザックスは俺に水を差し出しながら、不思議そうな顔で尋ねてきた。

 俺は何のことだか分からなくて、首を傾げた。

 

「そんなに好きなのに」

「ザ、ザックス!」

「ホントのことだろ? 気になってしょうがないから、訓練にも集中できない」

 

 あ、そうか。俺、訓練中だったっけ。

 なのに、ちょっと違うことを考えてて、この有り様だ。

 

「…俺…、どうしたらいいかな…」

 

 ザックスの言うとおり、好きだと伝えることも、逆に何も言わずにいて、普通に振る舞うことも出来そうになかった。

 

「クラウドが自分で決めるしかないな」

「…そうだよな」

「まあ、俺なら間違いなく言うけどな」

「でも、俺、男だし、セフィロスさんと釣り合うような人間じゃ…」

「それはクラウドが決めるんじゃなくて、だんなが決めるだろ」

 

 ザックスは、部屋のすみにおかれた椅子を引っ張って来て、ドカッと座った。

 動作が大きいのは、おおらかな性格の表れかな、と思う。

 俺もザックスみたいな性格だったらな、と呟くと、だんなには惚れてもらえないぜ、とザックスは苦笑した。

 

「クラウドが伝えるか伝えないかは決めればいい。ただ、伝えないのはもったいないと思う」

「もったいない…?」

「その『好きだ』っていう思いを捨て続けるってことだろ? きっとクラウドの好きだって思いの詰まってる箱は、蓋が閉まらない状態のはずだ。その中身を渡さない限り、しまおうとしている思いは入らない。と、なると捨てるしかないだろ?」

 

 確かにザックスの言うとおりだってことはわかるけど、そう簡単に行動に移せるわけがない。

 

「同じ捨てるなら、箱ごとだんなに押し付けて、好きにしてもらえば?」

 

 その箱を渡す勇気があるなら、とっくにそうしてるよ!

 

「まあ、だんなが動くべきなんだけど、だんなも不器用だからなあ…。待っててもなぁ」

 

 セフィロスさんが不器用? あの何でもできちゃう人が?

 

「ザックス?」

 

 腕を組んで何か考えていたザックスは急に声を上げた。

 

「よし、だんな、呼んでくるから、ちょっと待ってろ」

「えっ! いや、ちょっと、ザックス! 待てって!」

 

 ザックスは、俺の制止など無視して、部屋から飛び出していった。

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 こんな身体じゃなかったら、今すぐ逃げ出してやるのに。

 満身創痍で動けないから、どうしようもない。

 セフィロスさんを連れてくると言ったザックスは、まだ戻って来てない。

 何だか時間が凄くゆっくり流れてる気がして落ち着かなかった。眠ってしまおうと思ったけど、緊張の余り、眠れるわけなどなかった。

 どうやったら、この状況から逃げ出せるんだ!

と、叫びそうになった時、ドアをノックする音が響いた。

 

「入るぞ」

 

 セ、セフィロスさんの声だ! 何でザックスじゃないんだ?

 

「は、はい」

 

 うわぁ、口から心臓が飛び出しそうだよ。ザックスのバカ!

 

「ザックスがクラウドがうなされてると言ってたが、大丈夫か?」

 

 いつ俺がうなされてたって言うんだよ! 余計にセフィロスさんに心配かけさせて…。

 あれ、心配してくれてるの? そう言えば、さっきも心配かけさせるなとか、聞こえたけど。

 

「あ、あの、すみません…」

「何が?」

 

 セフィロスさんはさっきまでザックスが座っていた椅子に静かに座った。動きに無駄がないとはこのことだな。

 

「ご心配おかけしまして」

「全くだ、と言いたいところだが、俺にも責任がある」

「セフィロスさんが悪いわけじゃ…!」

 

 怪我のことを忘れて、起こした身体が悲鳴を上げる。

 その痛みに俺は身体を操れなかった。

 前に倒れこんだ俺の身体はセフィロスさんに受け止められた。

 

「考えて動け! 酷だとは思ったが、今回はわざと完治させてやらなかったんだ。少しの判断ミスが、これほどの痛みをもたらすんだということを覚えこませるためにな」

「…すみません、セフィロスさん……、あ、あの、セフィロスさん?」

 

 セフィロスさんは抱き止めた俺の身体を離してくれなかった。

 俺の心臓の音が聞こえちゃうよ〜!

 

「俺がもう少し考えてやるべきだったな。ザックスにこっぴどく叱られた」

 

 ザックスってば怖いもの知らずだな。セフィロスさんを叱るなんて。セフィロスさんが悪いわけじゃないのに。

 

「悪かったな」

「い、いえ!自分の未熟さが招いたことですから。本当に申し訳ありませんでした」

「いや…」

 

 セフィロスさんはそれっきり黙ってしまったけど、俺は抱き止められたままで、身動きが取れない。

 どうしよう、どうしたらいいかわかんないよ…。

 …あれ…?

 今日も甘い香りがする。

 バニラの香りは気を引くための魔法だ、ってセフィロスさん、言ってたなぁ。

 気を引きたい相手はホントに俺なのかな。

 考えてもわかんないや。

 でも、俺はセフィロスさんのこと、好きなんだし、気を引きたい相手が俺じゃなくても、好きに変わりがあるわけじゃないし。

 この香りも、長くてきらきら光る銀髪も。包み込んでくれるたくましい腕も何もかも好きで、とっくに魔法にかかってるんだ。

 

「…好き…」

「何が?」

 

 ああ、この低い声も素敵すぎ。

 

「…セフィロスさんが」

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 あれ? 何か時間が止まったような…。

 

 

「…今、何と言った?」

 

 セフィロスさんが急に俺の肩を掴んできた。

 

「あ、え、あの?」

 

 俺、何か変なこと言ったっけ?

 

「もう一度、言ってくれ」

「あ、あの、俺…」

 

 記憶を巻き戻してみる。

 好きだって言ったなぁ…。

 何がって聞かれて…。

 

「あーっ!」

 

 俺は思わず声を上げてしまった。

 お、俺、とんでもないこと口にしちゃったよ!

 

「クラウド?」

「ご、ごめんなさい! ご迷惑ですよね? 俺なんかにこんなこと言われて。忘れて下さいっ!」

 

 今すぐこの場から逃げたしたいよ〜!

 重傷じゃなかったら、走って逃げられるのに!

 

「…では、本当に俺のことを…?」

 

 セフィロスさんは俺の顔をじっと見つめてきた。

 こんなに至近距離で見られたら、死んじゃうよ〜。

 

「クラウド、何か言ってくれなければ、わからない。俺の聞き違いじゃなければ…」

 

 どうしよう、どうしよう!

 ここで何も言わなかったら、俺、本当に嫌われちゃうかな…。

 そんなの嫌だ。

 俺は意を決して、セフィロスさんの顔を見た。

 一言言ったら死んじゃいそうなぐらいに、鼓動が激しくなってる。

 でも、このまま死んじゃうよりはいい。

 

「好きです、セフィロスさんのこと」

 

 セフィロスさんは少し目を丸くしたが、何も言ってくれない。

 うわ〜、この静けさが辛いよ。

 

「…よかった…、安心した」

 

 セフィロスさんは、大きく息を吐き出した。

 よかった…って?

 

「てっきり、嫌われてるとばかり思ってた」

「え? それは俺の方なんですけど…」

「俺がクラウドを嫌いになるわけがない」

「は?」

 

 かなりすっとぼけた声だったと自分でもわかった。

 それほど、俺にとっては理解しがたい言葉だったんだ。

 

「だから、クラウドのことを嫌いになるわけがない、と言っている」

 

 嫌いにならないってことは今は嫌いじゃないってことなのかな? これから先も嫌いにならないってこと?

 じゃあ、俺は安心していいのかな?

 嫌われないのはいいことなんだけど、それは別に俺が特別ってことではないんだよな。

 あーっ!

 わからないことが多すぎるよ!

 

「クラウド」

「は、はい」

 

 セフィロスさんは軽く笑うと、俺の頭を撫でてきた。

 

「俺は、クラウドを初めて見たときから、好きだったんだ」

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 い、今、何ておっしゃいました?

 

 セフィロスさんが、俺のことを?

 

「聞こえたか?」

「あ、あ、あの…」

「信用してないか?」

 

 信用するも何も、今ここにいることさえも嘘みたいな気分でいるのに。

 夢なのかな? 重傷で倒れてるわけだし、そうか夢…にしては、余りにも現実的過ぎるなぁ。

 

「まあ、いい。これで、クラウドは俺のものになったわけだな」

 

 セフィロスさんは唇の端を少しだけ持ち上げた。

 俺は心臓を掴まれたように胸が痛くなった。

 満足そうな、優越感に浸っているような、仕留めた獲物を前にこれからどうしようかと楽しんでいる獣のような笑み。

 

「あ、あの、セフィロスさん…」

「安心しろ、今すぐどうこうするっていうわけじゃない」

 

 いや、えっと、あの、俺が言いたいのはそういうことではなくて…。

 

「そうと決まれば、クラウドをあの部屋からこちらに移す手続きをとらねばな。あ、それから……」

 

 セフィロスさんは独り言のようにぶつぶつと呟いて、椅子から立ち上がった。

 

「セ、セフィロスさん!」

「何だ? お前は何も気にせず、安静にしていればいい」

「いや、あの、でも、ここ、セフィロスさんのベッドなんですよね?」

「そうだが?」

 

 ああっ、そこでどうして俺に聞き返してくるのかな。

 

「ですよね? 俺、ここで安静にしているわけには行かないと思うんですけど…」

「何故?」

「何故って、セフィロスさん、眠れないじゃないですか、俺がここで寝てたら」

「ああ、そんなこと気にするな」

 

 気にしますってば! 一体、どうするつもりなんですか、セフィロスさんは!

 

「俺が寝る場所ぐらい、どうとでもなる。だから、クラウドは俺のことなど気にせず、安静にしてればいい」

「で、でも…」

「クラウド!」

 

 セフィロスさんが俺の頬に触れてくる。セフィロスさんは俺と視線を合わせてきて、俺とセフィロスさんの間は、驚くほど狭い。

 

「クラウドは、俺の命令が聞けないと?」

「…い、いえ、そんなつもりじゃ…」

 

 そんな至近距離で俺の顔見ないでくださいよ。マジで殺す気ですか!

 

「では、俺のことなど気にせず、おとなしくここで寝ていろ」

「……わかりました……」

「よし、じゃ、もう眠るといい」

 

 そう言ってセフィロスさんの顔が俺に近づく。

 

「………!」

「よく眠れるような、魔法だ」

 

 セフィロスさんはそう言って笑った。

 俺はセフィロスさんに口付けられた額に触れた。額から指先を伝ってセフィロスさんの思いが伝わってくるような気がした。だけど、そのおかげで、俺は、余計に眠れなくなりそうなんですけど!

 

「…クラウドが俺を好きだと言ったのは……」

「…セフィロスさん?」

「いや…いい、気にするな」

 

 あれ? 歯切れ悪いセフィロスさんって珍しい。何を気にしているんだろう。俺が好きって言ったのは、セフィロスさんが好きだからであって、他に何もないんだけど。

 別にバニラの香りが好きだから、好きだと言ったわけではないんだけどな。もしかして、そう思ったりしてるのかな?

 

「セフィロスさん!」

 

 俺は立ち去ろうとしていた、セフィロスさんの腕を掴んだ。

 

「…俺はセフィロスさんに出合ったときから魔法にかかってたんです!」

「…クラウド…?」

「それなのに、香りの魔法にかけられて、今はセフィロスさんの言葉の魔法にかかってます。もう、解けないですよ、この魔法……」

 

 俺は魔法にかかっちゃった嬉しさをこめて、笑ってみた。

 セフィロスさんは俺の顔を少しの間眺めていたが、ふっと、笑うと俺の頭を軽く撫でた。

 

「俺も今、さらに解けない魔法にかかったようだ」

「…さらに…?」

「クラウドは自分をよくわかってないようだから、気をつけろよ」

「…セフィロスさん?」

「クラウドは存在だけで人を魔法にかけられるってことだ」

 

 セフィロスさんは笑いをひとつ残して俺の手を解くと、部屋から出て行ってしまった。

 残された俺はよくわからないまま、セフィロスさんのベッドにもぐりこんだ。

 

 俺の存在がどうとか言ってたけど、俺にそんな力があるんだったら、セフィロスさんだけにその魔法がかかればいいなぁ、と思う。

 それで、セフィロスさんを虜にし続けることのできる魔法があればいいな。

 言葉の魔法だけでは、そのうち、セフィロスさんにかかってる魔法が解けちゃうかも知れないから………。

 

 

<終>

説明
FF7 セフィクラ 神羅時代。
セフィロスが好きなクラウドのお話。
(「香りの魔法」の続きとなっています)
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タグ
FF7 セフィクラ 腐向け 

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