Sleeping beauty |
俺の彼女は多忙だ。
男性ばかりのこの学園の紅一点。
勉強はもちろん、部活、保健係、そして生徒会。
すべてに全力でまっすぐに取り組んでいく。
だから目が離せない
離したくない。
この年の差が切なくなる。
もしあいつと同じ年ならば、もっと一緒に居られたのに…と。
だからと言って、先輩としての立場が嫌なわけじゃなかった。
年上だからできた事、してやれた事も多い。
それでも
俺の居なくなった学園であいつがどうしているのか
すごく、不安になる事がある。
ただでさえ女子が一人という状況。
あいつの事を守ってくれる奴らがいるから無粋な奴らの心配はいらない。
むしろ、今この時、あいつを守ってやれているあいつらに嫉妬する自分が情けない。
「ここに来るのも久しぶりだな」
7月
期末試験も終わり、うるさく蝉が鳴き始め、暑くなり始めた頃。
俺はふらりと学園を訪れた。
すれ違うのはテストが終わり晴れやかな顔をした学生。
1年生は特に俺に気にすることなくすれ違ってゆくが、2年生以上はわざわざ立ち止まって挨拶をしていく奴もいる。
そいつらに挨拶を返しながら向かうのは3年天文科の教室。
すでに廊下に人は少なく、穏やかな静けさに包まれている。
目指した教室の中を覗きこめば愛しい恋人の姿。
「たく、もう少し身の危険を感じろよな。」
教室の中で見つけたあいつは机にうつ伏せすやすやと眠りこけている。
相変わらず男子校と変わらないこの学園唯一の女だという意識は無いらしい。
できるだけそっと、起こさぬように近づき隣の席へと座る。
ふと見れば寝ているそのわきにメモ書きが一枚。
『起こしたのに起きねーから置いてく』
『悪い、用事があるから先に行くな?気を付けるんだぞ』
外せない用事でもあったのか、せめてもの牽制球。
まぁ、この学年でこいつに手を出そうという奴はそうそう居ないだろうが。
そっと額に掛かる前髪を直してやる。
それが擽ったかったのか僅かに身じろぎをするとうっすらと瞼を開ける。
「かずき…せんぱい…?」
寝ぼけている様子に思わず笑いを浮かべると、再び夢の世界へと入ろうとする眠り姫の額に軽く口付ける。
と、同時に驚いた様子でぱっちりと目を開ける。
「え、あ…うそ、一樹先輩?」
「おはよう、お姫様。」
机に頬杖を付き、何が起きたのか分からず慌てふためく様子を見ていると、額にキスをした事に行き着いたのだろう、ゆでだこのように顔を赤らめ額をおさえる。
「ん?どうした。…あぁ、目覚めのキスは額じゃなくてこっちが良かったか?」
両手は額を押さえがら空きになっている唇に軽く人差し指を当ててやる。
更に顔を真っ赤にして条件反射のように後ろに身体を引こうとするが今は椅子の上。
「ひゃっ…!?」
支えの無い背中から落ちそうになる月子の手首を掴むと俺の方へと引き寄せる。
「驚きすぎだろ。もうちょっとで落ちるところだったぞ?」
引き寄せたその勢いのままに抱きしめる。
久しぶりのに感じる恋人のぬくもりに、思わず抱きしめる腕に力が入ってしまう。
「ご、ごめんなさい…でも、一樹先輩が悪いんですよ?行き成りあんな事、するから…」
「何行ってるんだ、こんなところですやすや寝てるほうが悪いんだろ?」
がんばって応戦しようとする姿すらもいとおしく自然と笑みが浮かんでしまう。
「うぅ…それは……」
「疲れてるのも分かるが、こんなところで居眠りするな。」
「はぃ〜…気をつけます。」
「それに、お前の寝顔を誰にも見せたくない。俺以外にもう見せるな。」
反省している様子の月子の耳元へ唇を寄せると囁きかけるように伝え、軽く耳たぶに口づけを落とす。
きっとまたリンゴのように真っ赤な顔をしているのだろう。
そんな想像をしながらぎゅっと抱きしめる。
また少し旅に出ようと思う。
月子と離れるのは辛いが、こいつなら俺を待っていてくれると信じている。
広い世界、文献だけでなく自らの足で巡り、目で真実を見る。
今だからできること、今じゃなきゃ出来ない事。
きっと、これからもいっぱい寂しがらせてしまうだろう、それでもその次会うときに
それ以上の愛情をこいつに注ぎたい。
そして、いつかきっと…
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フォロワーさんのイラストからインスパイアされて書きました。 一樹会長が卒業してから少し先の話。 |
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