月の人 |
月での戦いを終え、魔道船が戻って三日。
せめて魔道船の封印までは見届けようと言い出したセシルに同意し、
結局全員がミシディアに逗留することとなった。
夏は終わり、もうすでに秋の風が吹き始めていた。
「おい」
ミシディアの宿のバルコニーで夜風に当たっているカインに、エッジが声をかけた。
カインはちらりと横目でエッジを確認すると「何だ」と短く答える。
いつも通りのつれない反応にわざとらしく溜息をついて、空を見上げるカインの横に立つ。
「エブラーナに月から来た姫の伝説があってな」
「ああ」いつもの気があるんだかないんだかわからない返事。
「月のあの様子を見ると、俺はあれもあながち間違いじゃないんじゃねーかと思ったのよ」
話しながらも、月を見つめているカインの横顔を見上げる。
「……どんな話だ」
彼は時々雲に隠れる月から視線を動かさずに訊いてきた。
おお、意外と食いついてきたかしめしめ、と内心ほくそ笑んで、話を続ける。
「エブラーナの北にある森の中にいた赤ん坊を老夫婦が育てるんだが、
成長するとそりゃもう見目麗しい姫になってな。
ただ、気位も恐ろしく高くて、どんな求愛にも応じない。
何人もの求婚者に辟易した姫は、竜退治をしたものの妻になるというんだが
竜退治に挑んだものは誰も帰ってこなかった」
一緒に月を眺めながら、子供の頃よく母親に聞いた話を思い出しつつ、
あらすじを語ると、カインがこちらを見た。
「それで?」
「さらに月日は流れ、最後に姫が、自分は実は月の住民で、もう帰らねばならないと話して
忍術だの魔法だののさまざまな技術をエブラーナに残して帰っていったんだと」
「……」
「お前さ」
カインのもの言いたげな視線に、今度はこちらがちらりと横目で見遣って、また視線を月に戻す。
「月の姫にあんまり固執するなよ」
「どういう意味だ」
はあ、と大げさに溜息をついて見せて、今度は正面からカインを見据えた。
「…わかんねーならいいよ」
「待て」
くるりと踵を返したエッジのマフラーをカインが掴む。
「お前は喧嘩を売りに来たのか?」
「馬鹿か」
吐き捨てるように言うと、カインの手を叩き落として向き直り、その胸板に人差し指を突きつけてやる。
こいつの態度はいつもそうだ。
「人間のここはな、誰かに満たしてもらうためのもんじゃねーんだよ!」
結局俺が言わなきゃわからないのか、それとも、俺にわざと言わせているのか。
我慢していた語気が荒くなる。
「一人だけ置いていかれた不幸な人間みたいな顔しやがって、置いていかれたのはセシルも同じだろ!」
一瞬、カインの口元が歪んだ。
言いすぎた自分にも気づくが、開いた口はもう止まらない。
「俺はお前のそういう所が嫌いだ」
怒りに震える語尾に、これ以上口を開くとまだ罵る言葉が止まらなそうで、エッジは息を吸うと口をつぐんだ。
カインは胸に指を突きつけられたまま、俯いている。
「お前、自分が思ってるよりも繊細なのをいいかげんに自覚しろよ」
責められたまま、カインは白くなるほど唇をかみしめ、小さく震える。
――結局、また傷つけちまった。
どうにもこいつの前だと、言いすぎる傾向がある。
だからといって、心無い言葉で慰められるほど自分が器用でないのもわかっている。
仕方がない。
胸に突きつけた指先をすっと持ち上げ、この大きいくせに妙なところで頼りない竜騎士の額を小突く。
「まー、その、なんだ」
突然の行動に驚くカインに、ぽりぽりと頭を掻きながら謝罪する
「悪い、言いすぎた」
いや…と返そうとするカインに顔を近づけ
「でもな、今回月に帰ったのは絶世の美人じゃねえから」
やたらとでかい甲冑姿の男だぞ、と茶化すように言って。
「なんつーか、さ、お前のそういう姿見てるの、俺、辛ぇし。
お前の思ってることってお前が考えるより全然、伝わらねーから」
「だから、もう少し、何をどう思ってるのか、話してくれよ」
「セシルじゃ辛いなら俺が聞くだけなら聞いてやる。何も、してやれねーけど。」
いささか必死になりすぎている自分がおかしくもあり、面白くもあり。
何でまた柄にもなくこんな兄貴風吹かしてるんだかなあと思いながら、カインの顔を見ると、
彼は口の端に笑みを溜めて「わかった、ありがとう」と、小さな声で言った。
説明 | ||
エンディング前の似たもの同士の喧嘩。 ほんのりゴルカイ&エジカイ風味。 |
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FF4 エジカイ ゴルカイ エッジ カイン | ||
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