幸福アレルギーと災厄屋。#2 |
「青くん、図書室行かない?」
「ああ…じゃあ涙、先行って待ってて」
昼に『三段壁のリハビリを手伝う』という約束を交わし、授業が終わると三段壁が僕を誘う。
一連の会話を見ていたクラスの男子達はわいわいと僕に話しかけてくる。まるでインタビューだ。
「なぁ紅原、三段壁とどういう関係なんだよ」
「三段壁に下の名前で呼ばれるとかどうやって口説いたんだ!?」
「『涙』って、お前三段壁のこと下の名前で呼んでんのかよ……」
改めて言うが、僕は名前が変なことくらいしか取り得のないただの災厄撒きだ。そんな僕が学校一の才女と親しくしているということ自体が異常なことなんだろう。僕自身が災厄撒きだってことについて、クラスの連中は知らないけれど。
「……とにかく、僕行くから。三段壁とは何もないよ。それじゃ」
クラスメイトを振り切るように教室を出て、三段壁の待つ図書室へ向かう。
図書室はいつものように人はほとんどいなくて、代わりに心理学・哲学書の棚からごっそりと本が抜かれて読書机に積まれていた。
その机の脇には三段壁の鞄が置かれているが、三段壁本人の姿はない。
「涙ー?」
僕は別に場所を気にすることもなく三段壁を呼んだが、返事はない。携帯でも鳴らしてみようかと思ったが、机の上に三段壁の携帯が置かれているのを見てそれは無駄だと思った。
どうやら奥の書庫に図書司書の教師がいるようだから、ちょっと声をかけてみた。
「すみませーん、山壁先生ー」
がたがたと音がして、目の下に隈を作った残念な美人のカテゴリに入る図書司書担当の教師、山壁川戸先生が眠そうに返事をした。
「あー…確か2の1の三原色くん?どしたの、君がこんなへんぴなとこに来るなんて」
「すみません、三段壁さん知りませんか?彼女と待ち合わせしてるんですけど、姿が見えなくて。ちなみに三原色って呼ばないでください合言葉先生」
合言葉先生というのは山壁先生のあだ名だ。
『山』壁『川』戸だから、合言葉先生。実に安直なあだ名だ。
彼女が残念な美人と呼ばれるのは数々の武勇伝からだけれど、今は関係ないから省略。
「あーっと、涙ちゃんね。あの子なら奥の書庫で探し物してるよー」
「そうですか、失礼してもいいですか?」
「構わんよー、つか紅原くんと涙ちゃんって随分珍しい組み合わせだけど何かあったの?」
「山壁先生には関係ないですよ。んじゃ失礼しますね」
そう適当にあしらって本の山を崩さないように奥の書庫へ向かうと、ようやく三段壁を見つけることが出来た。
「あ、ごめんね。探したでしょ」
「携帯くらい持ちなよ…」
「あぁ、机に置いてたあれ?携帯じゃないよ。書籍検索用のカタログ。私電話で連絡取ったりするの嫌いだから、家にあるパソコンくらいしか使わないよ」
さらりとすごく面倒くさいことを言ってのける三段壁にはぁ、と溜息を吐きながらも本題に入る。
「で、図書室で何するのさ」
「心理学の勉強」
他に何があるの?とでも言いたげな三段壁の言葉にまた溜息を吐いて僕は資料探しを手伝うことにした。
「どの本が必要?」
「そこのフロイトの棚にある左から15番目の本とソロモン・アッシュの棚にある右から21番目の本と、隣の棚にユングのペルソナに関する本が3冊あるからそれだけお願い」
一息でそれだけ言うと、三段壁は自分が持てるだけの本を抱えて図書室へと戻ってしまった。ていうか、今言われた本全部原典じゃないかこれ…?
改めて、三段壁涙という生徒が『才女』と呼ばれる所以を思い知った気がする。
そうして、僕も言われた本を抱えて三段壁の机まで向かった。
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思わずシリーズ化しました。 映像製作の合間にちまちま書いていくと思います。なにとぞなにとぞ。 |
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