異聞〜真・恋姫†無双:十七(前編)
[全1ページ]

〜羽ばたく鳳凰は眠れる龍の目覚めとなりて〜

 

闘い終わって日が暮れて。愛紗の記憶を本格的に戻す前に、俺は宿の部屋を使って、皆と個別に話す時間を持っていた。

 

于吉曰く、筋断絶するのは翌朝になるだろうから、落ち着いて話すなら今のうち・・・と。

本気でそんな重症になるなら、医者でも探しておいてくれ、と言ったら、なんかほくそ笑んでいたけど・・・。

術であっさり治せるのに、それを伏せてるってところなのか。

 

というか、ちゃんと鍛えてきたんだから、そんな簡単に壊れないよね、俺の身体。そうだよな!?

 

「朱里。すぐに思い出してくれて、すごく嬉しかったんだけど、どの辺りで戻ったの?」

 

「実は、桃香さまに保護してもらったのが、昨日で。

軍師としてお仕えすることを決めて、今日から、雛里ちゃんを捜すために、

桃香さまたちにお願いして、この街に滞在していたんです。

・・・ただ、愛紗さんや鈴々ちゃんが、あの人を『ご主人様』って呼ぶことに、すごく違和感があって。

もちろん、その時は理由が判らなかったんですけど、見極める時間を下さいってお願いして、

まずは雛里ちゃんを見つけて、一緒に判断してもらおうって考えてました」

 

「そっか、じゃあ、左慈をそう呼んだわけではなかったんだ」

 

「女の勘とか、直感に従うのは私らしくないって思ったんですけど。生理的にどうしても受けつけなくて。

・・・でも、それは正しかったんです。こうして、ちゃんとご主人様をご主人様と呼べたわけですから」

 

えへへ、と嬉しそうに微笑む朱里。

 

「既視感を持ったのは、皆さんがご主人様に礼を一斉に取った時です。

雛里ちゃんがいたことにも驚きましたが、礼を取る程の男性がいたことにもっと驚きました。

ただ、どこかで納得している自分がいて。あの人なら、それは当たり前だって」

 

変ですよね? と朱里は笑う。

 

「そこから、断片的にご主人様と過ごした記憶がどんどん浮かんできて、

困惑しているところに、ご主人様が声をかけてくださったんです。

 

『諸葛、孔明さんだね。雛里から話は聞いている』・・・そう言って、向けてくれた笑顔に、身が震えました。

 

身体中の血が喜びに駆け廻り、頭が真っ白になって、心臓が締め付けられるような、不思議な感覚で。

それが収まった時、私は『ご主人様』をしっかりと認識できていました」

 

貂蝉に他の外史の記憶を見せられた時の感じに似てる、と思う。

受け取る感覚は個人差としか言いようがないだろうし、朱里が俺をしっかりと思い出してくれた、

その事実が今は嬉しくてしょうがなかった。

 

「本当に、ありがとう。朱里」

 

「・・・でも、一緒には、行けないんですよね?」

 

陰りを見せる朱里の顔。この子は、諸葛孔明。一を語れば、十どころか、百すら読みとる天才。

だから、俺に出来るのは、目を背けずに、正面からちゃんと向き合うこと。

 

「・・・うん。今回、俺が国の代表になるわけにはいかない。

 

俺はね、その度に記憶を消されていたけど、三度外史を戦い抜いている。

朱里たちと戦った、王としての記憶以外に、呉と魏に、御遣いとして、一度ずつ降り立った。

その全てを思い出した今だからこそ、出来ることがある。

さらに、俺は大陸の戦乱が収まったら、強制的にこの世界から弾き出される決まり事になってる。

 

だから、朱里の王には、なれない」

 

「・・・曹操さんと、一緒に帰るんですか? 髪の色が変わってはいましたけど、あれはどう見ても曹操さんです」

 

「ああ、朱里の言う通りだ。

蘭樹って名乗ってはいるけど、彼女は覇王として役目を果たした曹孟徳。

彼女を一人の女の子に戻すことを強く望んだ結果、紆余曲折はあったけど、共に歩んでいる。

 

魏の記憶しか覚えてなかったとか、理由づけはいくらでも出来るけど、結局、全部言い訳だ。

俺は、華琳を選んだ。

記憶を取り戻せた今ですら、俺は、きっと華琳を選ぶ」

 

一気に言い終わると、俺は息をついた。

そして、訪れる沈黙を、俺は黙って受け止める。

 

そんな重たい空気が暫し流れ、朱里が口を開こうとした瞬間。

 

ばたん!

 

・・・なぜか勢い良く、入口の扉が開いた。

 

「はっ、話は聞かせてもらいまひた! まずはその悲しみの幻想をぶち壊しましゅ!」

 

「ぶっ!」

 

「はわっ! ひ、雛里ちゃん!?」

 

俺が思わず噴出したのも、どこぞかから拝借した決め台詞を組み合わせて、突然登場した雛里の仕業である。

シリアスブレイカーに仕立て上げた犯人は容易に想像がつく・・・。

 

「華琳と星が組むと酷い事になるよね・・・うん、いろいろと・・・」

 

「あわわ、ば、ばれちゃいました」

 

「・・・雛里、全部聞いたって理解でいいのかな?」

 

脱力してしまったものの、聞くべきことは聞く。

このタイミングで部屋に来たってことは、華琳たちから説明を受けたということだろう。

これは念押しの確認みたいなものだ。

 

「・・・はい、その上で来ています。華琳さんたちと真名も交換させてもらいました」

 

微かに微笑みながら、はっきりと答える雛里。

朱里がまだ『はわはわ』慌てているのを、そっと頭を撫でる事で落ち着かせながら、

俺は自分の中で出た結論を、雛里に続けて確認していく。

 

「・・・疑わないの?」

 

「え〜と・・・結局、話に聞いたご主人様も、私が信じようと思うご主人様そのものでしたから」

 

額に手を当てながら、どう答えるべきか吟味しながら、彼女はゆっくりと答えを口にする。

その仕草がなんとも言えず愛らしいものなのだが、今はその時では無いと自重する。

・・・手が届かないし。

 

「劉備さんを前に見せた、あの王たる者の気迫も、経験の上といえば、いろいろ合点がいきます。

ただ、ちょっと節操が無さ過ぎ、だとは・・・思います」

 

「ちょっと待てぇ! どこまで話したんだ、あいつらはぁ! 俺の個人情報駄々漏れ過ぎるでしょう!?」

 

「・・・雛里ちゃん、それは諦めないと。だって、ご主人様なんだもん」

 

「あわわ、もげればいいのに・・・」

 

俺の叫びは完全無視だし・・・。

雛里みたいな容姿の娘に、もげろって言われるなんて・・・あ、やべ、なんか涙出そう。

 

「はわわ、ご主人様!? な、泣かないでくだはい! ひ、雛里ちゃん、ほ、本題に入ろうよ!」

 

「う、うん・・・あのね、朱里ちゃん。ご主人様は大陸に巻き起こる戦乱を収めたら、天の世界に帰るんだよね?

だったら、その時についていけばいいの。あの道士さんもそれしかないって言ってたよ!

・・・それでもって、第二夫人の座を狙うんだよ」

 

「はわっ、ひ、雛里ちゃん。さ、策士だね!?」

 

二人ともー。本人の目の前でその会話をするのはどうかと思いますがー。

聞いてないけどねー。

 

「それに、星さんに風さん・・・えっと、程cさんって言うんだけど、

その人もついていく気満々だから、頑張らないとだめなの」

 

「あの頭に人形乗せてる、綺麗な金髪の人も!?」

 

「そうだよ、だから今から色々策を練らないと。実はご主人様は、他の外史で・・・」

 

雛里は華琳に聞いた過去の歴史をかいつまんで、朱里に説明していく。

その説明のわかり易さに、止める事も忘れて、俺も復習がてら聞き惚れていた。

 

・・・女性関係もさらっとだけど、全部ばらしてくれたのね、華琳・・・。

 

「はわわ、これはまずいよ、雛里ちゃん。敵が多すぎるね、すぐにでも手を打たないと。

・・・まずは、桃香さまにお暇を頂かないと・・・気の迷いでしたって押し通すしかないかな・・・」

 

「今はご主人様の言葉に、ものすごく心が弱くなってるから、いくらでも押し切れると思う。

劉備さんには悪いけど、これもご主人様と私達の幸せのためだよ」

 

黒い! 黒いよ! このちびっこ軍師さんたち!

というか、朱里まで抜けたら、劉備さんが三国の一角になれるかも怪しくなる!

 

「待って、朱里! 君まで劉備さんの元を離れたら、歴史の歪みが加速して、なんかいろいろとまずい!」

 

「・・・大丈夫です。孔明に策あり、です♪」

 

「え?」

 

「ご主人様がいずれ天の世界に帰るなら、後継ぎを最初から決めて、喧伝しておけばいいんです」

 

「え、でも、俺、この世界に子供なんかいないんだけど・・・」

 

かつての外史じゃともかく。あ、口にしたら薮蛇だ。黙ってよう・・・。

 

「華琳さんの話にあった、孫策さん。その人の考えを真似しちゃうんです」

 

雛里は朱里の考えを見通したのか、さりげなく補足説明をしてくれる。

息がぴったりなのは、さすが親友同志だよな。

・・・ん? 同志? 同士じゃなく?

 

「国を作るまではご主人様が中心で動きます。

成立させた後は、ご主人様と私達が天の世界に帰るまでに、劉備さんに王として徹底的に学んで頂きます」

 

「劉備さんへの政権移譲前提で動くってことか・・・! 

ただ、そうするとしても、華琳たちにも了解を得ないと・・・」

 

「あ、私の判断である程度、考えは話しておきました」

 

「雛里、意外と抜け目ないね!?」

 

「さすが雛里ちゃん! で、曹操さんはなんて?」

 

「ご主人様の考え次第、と。星さんたちもその考えに従う、と」

 

風と稟、何も言ってなかったけど、既に検討済み、だったんだろうなぁ。

というか、稟が俺に黙ってついてきてくれた時点で、なんか考えがあるんだろうと思っていたし。

自らの才を存分に生かすことに喜びを覚える彼女だ。

この世界の華琳の元に残っても、なんら不思議じゃなかったはずなんだ。

 

・・・でも、さすがに考える時間は欲しい。

 

「即答は、勘弁してもらってもいいかな」

 

「もちろんです。ご主人様が出した結論に、私たちは従います。ついてくるな、という命以外は」

 

笑顔で言い切る朱里。こくこくと頷く雛里。選択肢・・・無い気がする。

あ、そうだ。もう一つ、聞いておきたいことがあったんだ。

 

「ところで雛里、なんで俺に真名を許してくれた時、『ご主人様』って呼んだんだ?」

 

「・・・朱里ちゃんと決めていたんです。

私達が仕えようと思える人が、もし男の人だったら、身も心も全て預けようねって」

 

「・・・この大陸で、英雄たる資格を持つのは、圧倒的に女性が多いのに?」

 

「あ、憧れていたんです、高祖劉邦さまの夫となった人に。始皇帝の想い人であったとも伝えられていましゅ。

あぅ、噛んじゃいました・・・」

 

「・・・まさかと思うが、その男の人ってさ・・・」

 

「はい、伝承ではご主人様と同じような、天の御遣いと呼ばれたとも♪」

 

・・・爺ちゃん、知らない事が幸せって、世の中にあるよね。

説明
前回のあらすじ:左慈と一刀は夕日をバックに拳をぶつけ合った。鈴々は聡い子。桃香さんはメダパニにかかっている。

朱里と雛里の拠点です。
はわわあわわが賢いあざとい・・・。

次は鈴々、華琳たち、んで、桃香。トリが愛紗です。
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コメント
>320iさん これからはどうやって寵愛を得るかに知能の全てをかけてくるのです。軍師の仕事は片手間でサクサクとこなしてしまいかねない・・・(通り(ry の七篠権兵衛)
>mokiti1976-2010さん はわあわは一刀の為なら黒くなることを厭わない可愛い娘たちですよ><(通り(ry の七篠権兵衛)
桃香さん居残り・・・まあ、華琳(金)さんも残るのだろうから二人で頑張ってください。しかしはわわとあわわが闇に包まれていく・・・・・。(mokiti1976-2010)
>アロンアルファさん どうやって救済処置を取りましょうか・・・(通り(ry の七篠権兵衛)
>砂のお城さん ヒナリックス読んできましたwww 桃香居残り決定!・・・のはずです、えぇ。これ以上恋姫たちがプロット以上に暴走したら、外史崩壊してしまう・・・(通り(ry の七篠権兵衛)
>シリウスさん 知識は華琳、演出は星です(キリ(通り(ry の七篠権兵衛)
>M.N.F.さん 笑いを取れて何よりですw 三姉妹は居残り予定ですが、鈴々頼むからプロット壊さないでね、たのむよ!(フラグがたちました(通り(ry の七篠権兵衛)
>readmanさん 置き去りの予定は無かったのに、あわわさんマジ策士・・・(通り(ry の七篠権兵衛)
>ノワールさん 桃香は桃色おっぱいだから一刀を篭絡して、展開を変えてくれると信じてる!(白目(通り(ry の七篠権兵衛)
>jonmanjirouhyouryukiさん ・・・ほんとは、朱里は桃香のところに残るプロットだったんだ!ほんとだよ!雛里との決別も描かれる予定だったんだよ!ほんま、愛紗とか左慈、于吉の話の展開変えないと・・・ううう(通り(ry の七篠権兵衛)
>転生はりまえ$さん 黒くたって良いじゃない だって可愛らしいもの かずと(通り(ry の七篠権兵衛)
>shirouさん 爺ちゃんは統華婆ちゃん以外にも・・・ですね。(通り(ry の七篠権兵衛)
黒い、黒いちびっ子軍師。桃香にさらに追い討ちをかける気か?!(アロンアルファ)
「まずはその悲しみの幻想をぶち壊しましゅ」にヤラレタ! 次回もたのしみにしてるよ(シリウス)
『悲しみの幻想をぶち壊す』に笑った。 劉備勢早くも瓦解じゃないですか、三姉妹は居残りだよね?(M.N.F.)
黒い朱里と雛里はたまに見るけど、桃香を置き去りにする2人を見るのは初めてだwww 面白いなぁ。(readman )
朱里と雛里が黒い…。と言うか、本気で桃香が気の毒になって来ました…。(ノワール)
北郷の系譜は外にあり・・・・・雛理は軍師の中で一番真っ黒いと思います。(黄昏☆ハリマエ)
畏るべしは北郷家の隔世遺伝なりか・・・・・・次回も期待しております。(shirou)
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真・恋姫†無双 一刀 雛里 朱里 やっぱり黒幕は星 

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