鋼の錬金術師×テイルズオブザワールド 第二十九話
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〜バンエルティア号〜

 

『よ』

 

エドが手のひらを見せて挨拶をすると、アンジュ達は少しだけギコちない態度でエドに接した。

 

『あ……エドワード君。』

 

多分、アンジュの心は複雑なのだろう。

 

もし、これで弟が見つかれば、エドは出て行く事になる。

 

それも、エドが決める事なのかもしれないが。

 

だが、それは自身も大きな損失になるのだろう。ギルドにしても信頼にしても

 

『弟君は見つかった?』

 

『ああ。勿論見つかったぜ。』

 

そのエドの言葉に、アンジュは少しだけ苦笑いをした。

 

『そうか。良かったなぁ!!エド!!』

 

スパーダが、心底から喜ぶようにエドに声をかけた。

 

ほとんどの人は、エドが出て行くことに悲しむよりも、エドの弟が見つかった事に喜んでいた。

 

皆、そんな人間達だからだろうか。

 

『で、エドの弟ってどんな奴なんだ?』

 

『ああ。今ちょっと連れてくる』

 

そう言って、エドは外に居るアルを呼ぶ

 

『アルー!!ほら早く入って来い!!』

 

エドがアルを呼ぶと、大きな鎧が扉に手をかける。

 

そして、大きな図体が船の中に入ってきて、皆は絶句した

 

想像していたよりも大きく、そして外見が物凄く怖いのだ。

 

ゴツゴツしていて、肩のトゲなんかは最早敵キャラにしか見えない。

 

さらに、身長がエドとかなりの差があるのだ

 

『紹介するぜ。こいつが俺の弟、アルフォンス・エルリックだ!』

 

『『嘘をつくなぁぁぁあああああああああああああ!!!!』』

 

全員の声が重なった。

 

全く同じ瞬間に、同じタイミングで全員が叫んだのだ。

 

『そんな兄よりも図体がでかい弟なんか居るわけないじゃないのよ!!』

 

『うるせぇぞ研究オタク!!でしゃばんじゃねえ!!!!!』

 

リタとエドの喧嘩の中、ユーリが割って入ってくる。

 

『エド……悪いけど、俺が思ったよりもずっっっと大きいぞ。』

 

『少年って言うよりか、こっちは俺と同じオッサンって感じだからねぇ。』

 

レイヴンのその言葉に、アルの心が大きく傷つく

 

『オ……オッサン…………』

 

『だぁぁ―――――!!!うるせぇ!!!とにかくこいつは正真正銘俺の弟なんだよ!!!異論は認めねぇ!!!』

 

その時、廊下の方からマスタングが依頼書のような書類に目を通しながら歩いていた

 

そして、アルと目を合わせたときに、気づいたように手を上げた

 

『おお鋼の、ようやく弟が見つかったようだな』

 

マスタングのその言葉に、アンジュがようやく確信をする

 

『え……?本当にこの大きな鎧が、エドワード君の弟なんですか?』

 

『ああ。正真正銘、この大きな鎧は鋼のの弟だ。』

 

その言葉に、アンジュは感心したように鎧を見つめる

 

『はぁ――。それにしても……並ぶとなんだか親子みたいね』

 

アンジュの言葉に、エドはついにぶち切れそうになる

 

『んだとコラァ!!!言っとくがなぁ!!俺の方が年上なんだぞ!!もう一度言うけどなぁ!!俺の方が と・し・う・え なんだぞ!!!!!!』

 

その激しい年齢主張に、コレットは不思議と頭を傾ける

 

『え?本当にエドワードの方が年上なの?どうして?』

 

そのどうしてという言葉を聴き、完全に疑問に持っていると気づいたエドは、

 

ものすごく怖い顔でコレットを睨みつける。コレットは何も言わず、半泣きの顔でその場からゆっくりと去った

 

『に……兄さん。そんなに怒らなくても……』

 

アルの言葉に、エドは眉を吊り上げてアルを睨む

 

『アル!!こいつらはなぁ!俺だけじゃなくてお前の事も馬鹿にしてるような言い方なんだぞ!!お前はそれで良いのか!!!』

 

エドのその言葉に、アンジュは固まってしまう

 

そんな気持ちでは無かったのだが……。ただ、この状況を受け入れるには時間が掛かるのだ。

 

背の小さいエドの弟が誰よりも大きい鎧の姿だと、誰も状況が読めない。理解が出来なくて混乱してしまうのだ。

 

話を聞くにしては半分本気にしたにしても、実物を見て真実だと知ると、それを受け入れ難くて戸惑ってしまう。

 

アンジュは、少し申し訳なさそうな顔をして俯いてしまった。

 

その時、マスタングの隣に居たセルシウスが、敵を見るような目でアルを見ていた。

 

その目に感ずいたアルは、ビクリと驚き、セルシウスから離れようとしている

 

『な……何かな?』

 

アルがセルシウスに問うと、セルシウスは真剣な目でアルの目を見る

 

『………お前は、どうしてここに居るんだ?』

 

『え?』

 

セルシウスの目は、理解し難い物を見る目をしている。

 

その目に気づいたエドは、アルをかばう様にして、セルシウスの前に立つ

 

『アルに何かしたら、もう一度お前をぶっ飛ばすぞ!』

 

『出来るものならな』

 

そう言ったセルシウスは、何も言わずに甲板に戻っていった。

 

出ていったセルシウスを見てエドは舌打ちし、文句を言った

 

『ったく、とんでも無え奴だぜ』

 

そう言って頭を掻いたエドを見ていたカノンノは、少しだけ寂しい表情をしている。

 

エドが弟を連れてきた時も、見つかった事の歓喜と、同時にエドと別れる覚悟をしていた。

 

思えば、これは短期契約

 

エドが弟を見つけた以上は、このギルドに居る義理は無い。

 

『………ねぇ、エド?』

 

カノンノの言葉に、エドは振り向く

 

少しだけ勇気の無いカノンノの表情が、言葉を発していく

 

『…………本当に、もうこれでアドリビドムから出て行くん……だよね。』

 

その声は、悲しみと寂しい声が混じったような声だった。

 

その声を聞いたエドは、表情を変えなかったが、

 

逆にアルは、戸惑った様子を見せた

 

『ん――。まぁそういう契約だしなぁ。』

 

エドがそう言った時、真っ先に声を出したのはアルだった

 

『ちょっと兄さん!?』

 

『アルが見つかった以上、もうここに居る義理も無いし。こき使われる事も無くなる。』

 

エドは涼しい顔で話を淡々と話している。

 

そして背伸びをして、ソファに腰をかけた

 

『思えば散々なギルドだったよなぁ。嫌な奴には組まされるし、無意味な上に重労働な物もあったり、死にかけたり。』

 

エドが淡々と話していくのを聞いて、カノンノはだんだんと辛くなっていった。

 

やはり、エドはこの場所へと去っていってしまうのだろうか……。

 

『ほとんどの奴が俺の事の身長を悪く言ったり、あ、そうそう。銀時計も一回クエスト中に盗まれそうになったっけか?』

 

エドのその話に、アルは少しだけ暗い声で語る

 

『兄さん……今までお世話になってたギルドに、こんなの酷いよ……』

 

アルがそう言うと、エドは横目でアルを見つめる

 

するとエドは、呆れるように立ち上がる

 

『アル、これは俺の問題だ。外に居たお前の問題じゃない』

 

そして、アンジュの方に歩み寄る

 

アンジュは、少しだけ寂しい表情でエドを見つめていた。

 

『本当に散々なギルドだったぜ。アンジュさんよ』

 

そして、エドはアンジュの方へ歩み寄っていく

 

『飯は美味いし、部屋はどこも綺麗だし、甲板の上の風は気持ち良い』

 

エドが語りながらアンジュの方に歩み寄る

 

『俺の弟をずっと探してくれた奴も居る。俺の趣味と合う奴が居るし、部屋も結構広かったな。』

 

そしてついにアンジュの前に立った。

 

アンジュの表情に、曇りは完全に消えている

 

そして、エドはアンジュの目を見て、語った

 

『契約延長だ。今度は、俺が元の世界に帰るまで』

 

エドのその言葉に、アンジュ以外のほとんどが唖然とした顔をする

 

『兄さん……!!』

 

アルが、見直したような顔でエドを見る

 

『エドワード君?本当に良いの?これからも、ずっと同じように忙しい日が続くわよ?』

 

『だけど、元の世界に帰る方法を探すにも、この場所は都合が良い。』

 

エドが真剣な目でそう言うと、アンジュは微笑みながら溜息を吐く

 

『分かったわ。手続きをしましょう。』

 

アンジュがそう言った後、エドも微笑んだ。

 

そして振り向き、みんなの方を見た。

 

その場に居るほとんどの人が、笑顔でエドの顔を見ていた。

 

『ふん、出て行けば良かったのに』

 

リタだけ、素直でないむくれを見せていた。

 

『なんだ?少し寂しそうな顔をしていたじゃねえか』

 

ユーリのその言葉に、リタは慌てだす

 

『そ……そんな顔してないわよ!!むしろ出て行った方が都合が良くて……』

 

そんな様子を見たエドは、気持ち悪い物を見るような目でリタを見つめた。

 

『……ああそうですよ。アンタはそういう人間よね!!!!』

 

リタは反発するように怒りの表情を表した。

 

だが、エドは相手にせずにアルの方を見る

 

『んで事で、アル。お前も今日からここで働く事になっちまうけど、良いよな?』

 

エドがそう質問をすると、アルは迷わず頷いた。

 

『うん…!兄さん。皆さん。これからはよろしくお願いいたします!』

 

アルが頭を下げると、同時にエドはアルの頭を取り、全員にアルの中身を見せた。

 

アルの中身を見たものは、一部は恐怖し、一部は驚いていた。

 

小さな悲鳴が所々聞こえた後、アルは慌てだす

 

『わわわ!!兄さん!!なんて事をするんだよ!!』

 

アルは慌てて頭を取り返そうとエドの腕に手を伸ばすが、エドは意地悪をするようにアルから避けていく

 

『中身が……無い!?』

 

『空っぽ……!?』

 

周りがざわつき始める。

 

その様子を見たほとんどが、驚きのあまりに声を失っていた。

 

『おいエド……。これはどういう事なんだ?』

 

そして、エドは声を出す

 

『だが、俺からも条件がある。この通り、アルの中身は空っぽだ。鎧に魂が定着してあるだけの、鎧だ。』

 

そして、エドは頭をアンジュの教卓の上に置いた。アンジュが小さな悲鳴を上げる

 

『俺の弟、アルフォンスを化物として見る奴が居たら、俺はこのギルドから出て行ってやる。人間としてみることが出来るのなら、俺はこのギルドに留まる。これが条件だ。』

 

その条件を言われても、ほとんどの者は声を出すことが出来なかった。

 

やはり、身長差の事はともかく、その中身の無い鎧が動くことも、現実として受け入れられない者が多いのだろう。

 

リタなんかは、ほとんどお化けを見るような目でアルを見ている。カタカタ震えている

 

その中で一人、ユーリだけが平然としていた。

 

『おいお前ら。マスタングでさえアルを人間として認めていたのに、何だそれ?』

 

ユーリは少しだけ怒っていたようだ。

 

アルを恐怖として捕らえていた人たちに、喝を入れているように、ユーリは語った

 

『エドがここに残るとか、出て行くとか関係ねぇじゃねえか。そいつを人間として認めねえ奴は、俺はそいつを人間として認めるつもりは無えな。』

 

ユーリがそう言うと、エドは微笑み、アルの頭を元に戻す

 

『もう!酷いよ兄さん……!』

 

『悪い悪い。ちょっと試したかっただけだって。』

 

エドがそう笑うと、レイヴンが半分冗談で発言する

 

『もう……止めてよエドワードちゃん。おじさん、冗談抜きで心臓止まるところだったじゃないの。』

 

『んで?アルの事は人間と認めるんだろうな?』

 

エドが少しだけ冷たく言うと、レイヴンは少しだけいじけて答える

 

『んな事言われてもぉ、アルフォンスちゃ……さんだっけ?そいつを人間と認めなかったら、この船に居る人、結構な人が化物扱いされてるわよぉ。今になって、そんな心配なんか無い無い。』

 

レイヴンのその言葉に、エドはしばらく黙り、そして微笑む

 

『んじゃ、荷造りする心配はなさそうだな。』

 

そう言ってエドは、カノンノの方に振り向く

 

『って事で、またしばらく世話になるから。よろしくな。』

 

エドが発言したとき、カノンノは少しだけ涙が目に溜まっていた。

 

それは勿論、うれし涙だった。

 

『………うん!よろしくね!エド!』

 

嬉しそうな声が、心の底から出ていることを、カノンノは実感した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜エミルとマルタの部屋〜

 

『え……!?この人が……エドの弟……なの?』

 

エミルが、半分怯えながらアルの表情を見ている

 

『あ、初めまして。僕、弟のアルフォンス・エルリックと申します。』

 

その外見とギャップのある礼儀正しい言葉に、エミルはさらに恐怖心が増した。

 

『あ……すみません…。こちらこそ……よろしくお願いいたします……』

 

エミルは、頭を下げながらアルから差し出された手を握手する。

 

『言っておくが、俺の方が年上だからな!良いかエミル!!俺が兄貴だからな!!!』

 

その鎧よりも怖い言い方をするエドに、エミルは小さな悲鳴を上げながら謝る

 

『あ……エド。ごめん………』

 

その怯えているエミルに、アルは心配しながらエドの方を見る

 

『兄さん、そんなキツイ事言ったら可愛そうだよ……』

 

エドは少し言い過ぎたと感じたのか、少しだけ大人しくなった。

 

黙り込むエドに、アルは溜息を吐きながらエミルの方を見る

 

『えっと……エミル君だっけ?』

 

『あ……は……はい。』

 

エミルが動揺している事に、アルは少しだけ申し訳ない気持ちになってくる。

 

だが、同時に親近感を感じるようになる。

 

『良かったら。友達にならない?このギルドに入っている時点で、もう友達かもしれないけどね。』

 

アルの”友達”という言葉に、エミルは反応する

 

『え?と……友達?』

 

『うん』

 

エミルの顔は、照れているのか、少しだけ赤くなっていた。

 

友達という者が少ないのか、外から見たら分からないが、エミルは嬉しそうだった。

 

『う……うん。これからよろしくね。アルフォンス君。』

 

エミルが笑顔になると、アルも表情には出なくとも、少しだけ嬉しくなる。

 

友達が出来るということは、アルも嬉しいと感じていた。

 

楽しそうに話しているときに、ドアが思いっきり開かれた

 

『あ、マルタお帰り。』

 

エミルがマルタに挨拶すると、マルタは思いっきり飛び込むようにエミルに抱きついた。

 

『エミルゥ〜〜!!ただいまぁああああああ!!!』

 

『ぐはぁ!!』

 

思いっきり抱きつかれたエミルは、その衝撃で結構なダメージを負った。

 

『エ……エミル君!?』

 

アルが心配そうな声を出すと、マルタがこちらを振り向く

 

『あら?その鎧の人はだぁれ?』

 

マルタがそう質問すると、エドがその質問に答えた。

 

『こいつはアルフォンス・エルリック。俺の弟だ。』

 

マルタはアルはマジマジと見た後、鋭い目つきでエドの方を睨みつける

 

『嘘だ!!!!!』

 

『本当だ!!!!!!!』

 

そこで、エドとマルタの怒涛が響き渡った。

 

その喧嘩に、アルが割って入る

 

『まぁまぁ……ところで、君はマルタって名前なの?』

 

アルがそう質問すると、マルタは笑顔で返す

 

『うん!!私の名前はマルタ・ルアルディ!将来のエミルのお嫁さんだよ!!』

 

『え?』

 

『今はまだ…というよりも、結婚を前提したお付き合いでぇ……今もラブラブなんだけどぉ……これから二人の愛をもっと育てていくんだよ!!』

 

デレデレの状態で答えていくマルタに、エミルは戸惑った様子を見せている。

 

アルは、拳を強く握り、プルプル震えていた

 

『兄さん……なんだかだんだん腹が立ってきたよ………』

 

声が震えている。

 

今にも爆発しそうなアルに、今度はアルがフォローに入る。

 

『あ―――!!そうだ!!今度は俺の部屋に行こう!な!!』

 

エドのその言葉に、マルタは少しだけ不満そうな声を出す

 

『え――?まだいっぱい話すことあるのにー。』

 

『殺されてえのかお前は!!良いから黙ってろ!!!』

 

エドはアルを引っ張るように部屋からすごい勢いで出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜カノンノとエドの部屋〜

 

『へー。結構良い部屋に泊まってたんだね。兄さん。』

 

アルがそう呟くと、エドは笑顔で答える

 

『ああ。この部屋は、ベッドが5つあるから遠慮無く選んでも良いんだぜ。』

 

『僕は眠る必要が無いから、兄さんの近くとか、今日はこの船を散策する事でもしておくよ。』

 

アルは、エドのベッドの隣にあったスケッチブックを見つける

 

『あれ?兄さんこのスケッチブックは?』

 

アルがスケッチブックを取り出すと、エドは気づいたように説明する

 

『ああ、俺のルームメイトの奴だ』

 

『へぇー。この部屋って兄さんの他に何人ルームメイトが居るの?』

 

アルの質問に、エドはしれっと答えた

 

『俺を入れて、二人だけだぞ?』

 

『え?』

 

瞬間、部屋の扉にカノンノが入ってくる

 

『あ、エドとアルフォンス君…だっけ。』

 

アルは、カノンノの方に振り向く

 

『ああ、こいつがルームメイトのカノンノって言うんだ。』

 

エドが何の疑問も無くそう答えると、アルは黒い表情をしていた。

 

いや、顔が無いので、表情ではないのだが、黒いオーラがあった

 

『……兄さん。もしかして、僕が居ないとき、ずっと女の子と二人で部屋に寝てたの?』

 

アルの目が大きく鋭く光る。その目は怒りでいっぱいだった。

 

『え?アルフォンス君?どうしたの?』

 

そのオーラが分からなかったカノンノは、動揺した表情でアルを見つめた

 

その殺気に気づいたエドは、アルをこの部屋に長居させてはマズイと感じ、話題を変えた

 

『あ――――!!そうだ!!アル!!船を徘徊しよう!!この船、色々と面白い所があるんだぜ!!』

 

エドは、アルを引っ張って、部屋から出た。

 

その様子を見ていたカノンノは、ただ首を傾げるだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

〜バンエルティア号 廊下〜

 

全力で廊下に出たエドは、まずアルをどこに連れて行こうか考えていた。

 

アルは今、猛烈に機嫌が悪い様子だった。

 

何か、どす黒いオーラがアルを纏っているのが分かる。

 

その様子に慌てたエドは、考えながら廊下を歩く

 

『師匠!』

 

後ろから声がする。

 

振り向くと、本を持ちながら走っているエステルだった。

 

『………師匠?』

 

アルが怒りの混じった疑問の声をだす

 

『師匠!やりました!!ついに割れたグラスのヒビを綺麗に直すことが出来ました!!』

 

『あー…分かった。今は忙しいから後でな』

 

エドがそう冷たく言うと、エステルは頬を膨らまし、エドの腕を掴んだ

 

『嫌ですよ!今見てきてください!!本当の功績なんですから!!』

 

エステルがエドの腕を掴んだとき、アルの頭には電流が走った

 

『あ―――!!分かった分かったから!!もう少し後で!!』

 

『嫌です!!今来てください!!』

 

エドは、振りほどこうとしながらも前に進んだが、

 

エドの身長が低いためか、なかなか振りほどく事が出来なかった。

 

その時

 

『エ〜〜ド〜〜ちゃぁ〜ん♪』

 

耳に障るような、今会いたくない声が聞こえた

 

『やだぁ。そんな顔しないで。ちょっとこれから、妙な薬が出来たから、来て欲しいだけよぉ』

 

『……それって、俺が実験体になるって事か?』

 

ハロルドの顔が微笑む

 

その微笑に、エドは反抗する

 

『やだ!!特には今は用事があるんだよ!!他の奴にしてくれ!!』

 

エドがそう言うと、ハロルドは少しだけつまんなそうな顔をして

 

『ふ〜ん。じゃ、しょうがないわね。代わりに頭を撫で撫でしてあげる!』

 

そう言ってハロルドは、エドに抱きつき、頭を撫でていった

 

『うぎゃぁぁぁああああああああああ!!止めろぉぉぉおおおおおおおおおおおおお!!!』

 

その様子を見ていたエステルは、嫉妬をしたようにハロルドに反論の声を出した。

 

『駄目ですよハロルドさん!!師匠はこれから私の修行の成果を見るんです!』

 

『あぁら?エドちゃんの身体は一つしかないけど、その一つが一人の物じゃないでしょぉ?』

 

『ハロルドさんの物でもありません!!』

 

そう言ってエドを引っ張るように二人は睨みあう。

 

エドはまだ叫んでいたが、その後ろのアルは随分沈黙していた。

 

だが、徐々に黒いオーラが増幅し、鎧に変な音が鳴っていた

 

その様子に気づいたハロルドとエステルが、アルを見る

 

『………すみませんが、兄から離れてくれませんか?』

 

その黒いオーラに、恐怖を感じた二人は、声を揃えて言った

 

『『あ……ど…どうぞ…………』』

 

二人はエドを離し、開放されたエドは、大きく腕を振り回す

 

『あ―――、ったく酷い目に会ったぜ。あんがとな!アル……』

 

その尋常でない黒いオーラの量に、エドは固まった。

 

アルが、いつものアルでなくなっているような気がしたのだ

 

そして、アルはエドのアンテナを握り、いつもより低い声で発言した

 

『兄さん、ちょっとこっちに来ようか。』

 

そう言って、アルはエドのアンテナを握りながら引っ張っていった

 

『ぎゃぁぁああああああああ!!痛ててててててててて!!!!!』

 

引っ張られていったエドは、悲痛の声を上げて、ずるずると引きずられて行った。

 

その様子を、エステルはただ見ることしか出来なかった。

 

だが、ハロルドはある事を考えていた。

 

『………そう言えば、エドちゃんの弟君の中身は空だって聞いたわねぇ……』

 

ハロルドの目が、鋭く光った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜甲板〜

 

『痛ってぇ!!』

 

投げ捨てられたエドは、起き上がり、アルに文句を言った。

 

『てめぇアル!!一体なにしやがん……』

 

エドが言い終わる前に、突然アルは拳を振り下ろしてきた

 

『うおお!!!』

 

エドが渾身の一撃を避けると、戦闘体性に入った

 

『アル!!お前……何をする気だ!!』

 

『うるさい!!これでも喰らえ!!!!』

 

アルはもう一度エドに拳を振り下ろすが、それもエドは華麗に交わす

 

『そっちがその気なら……オラァ!!』

 

エドは回し蹴りをアルに食らわすが、アルは腕によってエドの攻撃を防御する

 

その様を見て、エドはにやける

 

『へっ……。この数日、なまってねぇみたいだな!!』

 

そう言って、エドは回し蹴りを終了させた後、もう一つの足でアルに攻撃する。

 

それも読んでいたのか、軽い動きでアルはその蹴りを交わした

 

『兄さんこそ………ずっと遊んでたんじゃないの!!!?ねぇ!?』

 

アルが、怒りの混じった声でエドに言葉を出す

 

『色んな女の人に囲まれて……僕の事なんか知らずに遊んでたんじゃないの!?兄さんの馬鹿ぁ!!!僕なんか……僕なんかぁあああああ!!!』

 

アルの渾身の蹴りが、エドの横腹に直撃する。

 

『………!!』

 

だが、エドはそのアルの足を掴み、アルを回しながらぶん投げる

 

『うわぁ!!』

 

アルは、一瞬宙に浮いたが、すぐに地に手を着き、そして足をついた

 

『酷いよ兄さん!!海に落ちたらどうすんのさ!!』

 

『そうしねぇように、ちゃんと考えてるだろ!!』

 

エドはそう言って、アルに拳を入れるが、それもアルの腕によって防がれる

 

『俺が…どんな思いでお前を心配したか……知らねぇくせに語ってんじゃねぇぞ!!』

 

『うるさい!!楽園のような場所で暮らしてた兄さんに言われたくない!!』

 

『楽園じゃ無えって!!』

 

アルが拳を入れても、エドの蹴りで防がれる。

 

エドが蹴りを入れても、アルに足を掴まれて壁に叩きつけられる

 

さらにエドが地面を蹴って、アルに突進しても、アルに掴まれて投げられる。

 

だが、今度は壁に足をつき、その場から走り、アルの腹を殴る。

 

アルが宙に浮いたと思ったら、また地に足を着き、エドを殴りに掛かる

 

『うらぁぁぁああああああああああああ!!!』

 

『てやぁぁああああああああああああああ!!!!』

 

そんな戦闘が、10分くらい続いた。

 

 

 

 

気がつけば、二人とも空を見上げながら寝転んでいた。

 

果てしなく続く空を見ながら、エドはぼーっとしている。

 

アルも、ぼーっと空を見ている

 

『……空が赤いね。』

 

『もう、夕方だからなぁ。』

 

『森の中では、夕方か朝か、そんなの分からなかったのに』

 

そんな会話をしていると、急にエドが笑い出す

 

『何がおかしいのさ』

 

アルがそう質問すると、エドは上を見るようにアルを見つめる

 

『いや、こうしてアルと兄弟喧嘩するのも、久しぶりだなってな。』

 

そう言って、エドは上半身を起こす。

 

その場で座り込み、世界樹の方を見つめる

 

『………なぁアル』

 

『ん?』

 

エドが語ると、アルも上半身を起こした

 

『お前、この世界の事をどう思う?』

 

エドが、アルにそんな質問をした。

 

ティアから聞いた、アルの境遇に、

 

エドは謝罪をしたかったのかもしれない。自分だけ宿が見つかり、食事も得ている。

 

それに関わらず、アルは人間から迫害され続けてきたのだ。

 

『……正直、最初ここに来たときは、こんな世界、大嫌いだった』

 

アルが俯きながらそう言った。

 

『だけど、この世界の全てが悪いわけじゃない。手足が機械の兄さんを人間としてみている人が居る。それに、中身が空っぽと知っても、僕の事を普通に接してくれた人も居た。』

 

エドは、アルの方を見る。アルも、エドの方を見た

 

『僕達の世界と何も変わらないよ。僕の存在した世界と、この世界とは何にも変わらない。だから、好き』

 

アルのその答えに、エドは笑顔になり、そして立ち上がる

 

『よっし!んじゃそろそろ飯食いに行くか!!』

 

『うん…?でも僕食べられないよ?』

 

『当たり前だろ?お前はこの船の美味しい食事を食べれないんだからよぉ。俺が食事を楽しむの!』

 

エドがそう言うと、アルも立ち上がり、怒るポーズをした

 

『もう!!兄さんの意地悪!!!』

 

そう言って、二人とも笑いあいながらの鬼ごっこが始まった。

 

それは、エルリック兄弟の完全復活とも言える瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜カノンノとエドの部屋〜

 

就寝の時間になり、エドは布団に入り、その場で眠りについていた。

 

この部屋には新しく、アルとイアハートも入ることになり、賑やかな部屋となった。

 

そう決まったとき、賑やかになるなとエドに喜ばれたが、逆になんだか寂しい気持ちにもなった。

 

人が増えるのは嬉しいことなのに、どうしてだろうか。

 

カノンノも、その場で眠ろうとしていたが、どうにもアルフォンスの事が気になった。

 

ずっと眠るのを待っていたが、どうやら彼は眠れないようだ。

 

カノンノは起き上がり、アルの方を見た。

 

『眠れないの?』

 

カノンノがアルに質問すると、アルはカノンノの方を見た

 

『うん。僕は眠らなくても平気な身体なんだ。』

 

アルがそう言うと、カノンノはアルの持っている書類に目を向ける

 

『それは?』

 

『ああ、兄さんがハロルドさんに渡された設計図だって、変わりに目を通しといてくれって。』

 

アルがそう言うと、カノンノは少しだけ微笑んだ

 

『大変だね』

 

『うん。大変』

 

そんな話を続けていると、アルはまた書類に目を向けた

 

そして、カノンノはある話題に切り替わろうとした

 

『ねぇ、アル』

 

カノンノがそう言うと、アルはまたカノンノの方を見る

 

『アルは、どうしてその身体になったの?』

 

聞いてはいけない事だと思ったが、どうしても気になった。

 

だが、聞いて後悔をした。アルが悲しそうに俯いてしまったのだ。

 

『ああ…ごめんなさい。やっぱり言わなくても大丈夫だから…。』

 

カノンノがそう言うと、アルは頷く

 

『うん……ごめんね。それだけは…ちょっと言えないんだ』

 

アルがそういい終えると、なんだかちょっと暗いムードになってしまった。

 

その空気に耐えられなくなったのは、アルの方で、今度はアルの方から質問をした。

 

『あ……そうだ!カノンノと兄さんはどんな関係なの?』

 

その唐突な質問に、カノンノは一瞬で顔を赤くした。

 

そして、しばらく黙り込み、慌てた表情をする。

 

顔がみるみる赤くなるが、最終的に答えた言葉は

 

『……ええと、ただのルームメイトだよ』

 

だった、分かりやすいとアルは確信した。

 

恐らく、カノンノは………

 

『そう。ごめんね、変な事を聞いて』

 

アルがそう言うと、カノンノは布団にもぐりこんだ。

 

落ち着かないのか、モゾモゾと布団の中で動いている。

 

その様子を、ただアルは眺めるだけだった。

 

今度はイアハートの方を見た。

 

イアハートの方は、まだ起きていることが分かり、ずっと話を聞いていたようだ。

 

『アルフォンス…君だっけ?』

 

今度は、イアハートが小声で話しかけた。

 

『ん?どうしたの?』

 

イアハートは、少しだけ複雑そうな表情で、アルに小声で話しかける

 

その様子は、完全に迷っているような表情だった。

 

『グラスバレーって……エドの事、好きなのかなぁ……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜バンエルティア号〜

 

誰も居ない広場、

 

その場所で、誰か一人、トイレを目指すように歩く者が居た

 

『あーあ……ったく。なんでトイレがこんなに遠く……』

 

リッドが、ブツブツ良いながら厠を目指して歩き出す。

 

文句を言っている間に、教卓の上に何かがある事に気づく

 

『………ん?こんな遅くから依頼が来てんぞ?』

 

リッドが紙を見ると、内容までは分からなかったが、そこに描かれている人物なら分かった

 

『……ジーニアス、プレセア、リフィル?』

 

そういえば、ロイドと話をしている時に聞いたことがある、

 

だが、今日はもう遅い。早く厠に行って寝ようと、リッドは歩き出す

 

『ふぁ〜あ。腹減ったぁ……』

 

早く朝にならないかと、リッドは思い込む。

 

ちなみに、リッドは目を通していなかった、場所の指定は

 

 

 

≪コンフェイト大森林で多くの人が死んでいるのが見える。その森には、人を食う巨人が居るらしい。誰か行って来て見てくれないか。≫

説明
あと一話で30話。気を引き締めます。
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ワクワク(readman )
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