おあずけ愛紗と世話焼き桃香 〜真・恋姫†無双SS 第三話
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おあずけ愛紗と世話焼き桃香 〜真・恋姫†無双SS

 

第三話

 

 

 

 桃香と別れた愛紗は独り、一刀の執務室へと向かっていた。

 表向きは遠征から帰ったことを報告するためだ――――もちろん表向きというからには裏の理由もあるわけで、要は一刀に会いたい、できればずっと一緒にいたいと思っている。

 かと言って今回のように任務で長期間そばを離れるのに抵抗があるわけでもない――――いや、ひっかかりがあることはある。やはり離ればなれになるのは寂しい。

 それでも平和な国が作れるなら、百姓が心安らかに暮らせるようになるのなら否やのあろうはずもない。

 もともと愛紗は民のために武器を取り戦ってきたのだし、今は理想を体現したような人物に仕えている。ましてその人は心から慕っている恋人でもあるのだ。

 理想の主君に仕える喜びと最愛の異性に尽くす喜び。任務を果たし帰還した今、その二つが一体となり愛紗の中で沸騰していた。

 事実、廊下を進む彼女の歩みは普段からは考えられないほど軽く、浮き立っている。

 愛しのご主人様とこれから会える、話ができる――――そう考えると、月並みではあるがとっくに見慣れたはずの景色がまるで違う輝きを放っているようにも見える。

 その一方で

 

(おかしなものだ。ほんの少し前までは自分がこんな風になってしまうなど想像もできなかったのに……)

 

 と、すっかり恋の虜にされてしまっている彼女を斜めに見ている愛紗も居る。

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 ただそちらの愛紗にしても今の自分を否定しようなどとはもう思わない。

 桃香に遠慮して自分の心を偽ったり、臣下の分を弁えるなどと言い訳を作って遠慮してみせたり、夢を叶えるには邪魔と切り捨てたり――――そんな段階はとっくに越えてしまっていた。

 今はもう、彼女の気持ちを認めてくれた一刀と桃香に恥じることのないよう向き合っていく、それだけだ。

 こうして自身を客観視できるのも二人との少なからぬやりとりのおかげだろうし、一刀を好きな自分に慣れてきたためでもあるだろう。

 そんな思考をなんとなしに頭に流しているうちに愛紗は目当ての部屋にたどり着いた。

 訪いを告げる前に改めて己の姿を確認する。

 

(埃まみれの服は着替えたし、身体も濡らせた布で拭いた――――本当なら水浴びでもしたいところだが……)

 

 そう思いつつ自らのたっぷりとした黒髪を見やる。

 自慢の髪ではあるが、一度水気を吸ってしまうと乾かすのに人一倍時間がかかるのは難点だった。

 それでも、星や紫苑なら自らをより美しく魅せるための手間や時間を惜しみはしないだろう。でも、愛紗にそれは無理だった。

 既に彼女の戻ったことは使者をやって知らせてある。

 必要以上にご主人様を待たせるのは彼女の流儀ではないし、第一、彼女自身が出来るだけ早く一刀に会いたかったのだ。

 

(旅塵を落とせただけで良しとするほかないか)

 

 最後にひとつ深呼吸をして気休め程度に気を落ち着けると扉を叩き、中に居るはずの人物に声をかけた。

 

「失礼します、ご主人様、入ってもよろしいでしょうか?」

「は、はいぃ、ちょっと待ってくださーい」

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 愛紗は当然ながら一刀の声が聞こえてくるものと思っていたが、実際に答えたのは慌てた感じの舌足らずな少女の声だった。

 そしてわずかに開いた戸の隙間から小柄な女の子がすべり出てくる。

 背中で押すようにして扉を閉めると先程とはうってかわってしっかりした口調で話しかけてきた。

 

「永の遠征、ご苦労様でした。愛紗さん、ご無事でなによりです」

 

 改まった朱里の言葉を受けて愛紗もまた真面目な調子で返す。

 

「いや、たいしたことではない。そちらも変わりないようで何よりだ」

「視察の結果はいかがだったでしょうか?」

「まだまだ精鋭とは言い難いが、皆、志気も高く熱心に訓練していた。詳しくは後ほど報告書を提出するのでそちらを見て欲しい」

「わかりました、それで……」

 

 なおも質問を続けようとする朱里を遮って愛紗が少し苛立った様子で言葉を挟んだ。

 

「すまんが、朱里。先にご主人様に帰還のあいさつをしたいのだがいいだろうか?」

「あ、すみません。そうですよね……それで、その、ご主人様なんですが……」

「なんだ?いらっしゃらないのか?」

 

 言い淀んだ朱里の表情からだいたいの事情を察した愛紗が自分で先を言ってしまう。

 目の前の朱里には何の非もないことはわかっていても、愛紗はとげとげしい口調になってしまうのを押さえられなかった。

 

「はわわっ……えっと、いつの間にかお姿が見えなくなりまして」

「ちゃんと先触れの使者も出しておいたのだがな」

「……はい、すみません……」

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 自分が悪いことをしたわけでもないのにいつも以上に小さくなってしまった朱里を見て愛紗はようやく我に返った。

 意識して大きく息をつくと労りをこめて微笑みかける。

 

「……いや、すまないのは私の方だ。朱里のせいではないのだし……それで行き先に心当たりはないのだろうか」

「生憎と見当もつきません……」

「そうか、わかった。私の方でも探してみるから見つかったら知らせて欲しい」

「そんな……帰ったばかりの愛紗さんにそんなことをさせるわけには……」

 

 驚いた朱里が止めようとするものの

 

「いいのだ。私が早くご主人様にお会いしたいだけなのだから」

 

 愛紗はただ笑ってそう答えるだけだった。

 そこに強い意志を感じた朱里はそれ以上どうすることもできず、わかりました、と言うほかなかった。

 

 それから愛紗は一刀を探して方々歩き回った。

 心当たりを巡り、聞き込みをし、その姿を追い求めたものの成果は芳しくない。

 

「いやー、今日は見かけませんね。あのお方ならちょっと通りかかっただけでもすぐにわかりそうなんですが」

「そうか、邪魔をしてすまなかったな」

 

 今も行きつけの屋台の店主に聞いてはみたものの行方はつかめなかった。

 その場を後にするも、もう探すところなどどこも思いつかない愛紗は漫然と目抜き通りを漂う。

 

(しかし、本当にどこに行ってしまわれたのだ?これだけ探して行き先はおろか見かけたと言う者すら見つからないとは……)

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 町中の人に顔を知られている一刀が痕跡すらまるで残していない。

 これはどういうことなのか。

 

(つまりご主人様は町ではなく城内にいる?確かに城内ならば町中よりは人目につきにくいだろうが、警備の兵や女官たちはおろか将の目にも触れない場所など……あるのか?)

 

 いつしか愛紗は足を止め、道端で考えに没頭していた。

 

(いずれにしろ一つはっきりしていることがある。いくらご主人様が天の知識を持っているとはいえ城内で朱里に居所を隠しきれるとは到底考えられない、ということだ。ならば朱里は知っていてそれを隠したということか。そういえばあの時……)

 

 愛紗が思い出したのは執務室から出てきた時の朱里の様子だ。

 できるだけ小さく扉を開けていたようにも思える――――それこそ中にあるものを見られまいとしているかのように。

 もちろん執務室の中を確かめてはいないのだし、推理が外れている可能性も十分にある。

 だが、一度疑いを持ってしまうとあの時の朱里の仕草の全てが推理――――あるいは猜疑心と呼んだ方がいいのかもしれない――――を補強しているような気になってくる。

 真相を確かめるのは簡単だ。

 城に戻って執務室に行ってみればいい。朱里を捕まえて話を聞くのもいいだろう。

 だが、それでもしも愛紗の推理したとおりだとしたら一刀は彼女が来たことを知っていて隠れたことになるのではないか。

 

(もしそうだとすれば……私は……)

 

 恋と夢の両方を一度に失うかもしれない恐怖に愛紗は囚われていた。

 

説明
愛紗メイン恋姫SSの第三話をお送りします。
キャラがおかしかったりするかもしれませんが生暖かい目で見てやってください。ご意見は随時受け付けておりますのでコメントなどでどうぞ。

〜前回のあらすじ〜
長い任務から帰還した愛紗を迎えたのは桃香だった。
不在の間の変わりない暮らしぶりを聞かされた愛紗は一抹の不安を抱く……

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コメント
>古賀菜々美さん たまに後戻りすることがあっても、ちょっとずつでも前に進んでいって欲しいですね。愛紗は自分の役柄を強く意識しているので、そこをどう崩すかが毎度毎度悩みどころです。(さむ)
自分の心に向き合い、以前よりは素直に……といってもまだまだ不器用ですね。しかし、それが愛紗さんのいいところ。(古賀菜々実)
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恋姫†無双 真・恋姫†無双 愛紗 朱里 

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