政宗様三人と片倉さん |
たん、と襖を開け放った途端、片倉は隠すことなく眉根を寄せた。
寄りにも寄ってこの三人、と声には出さなかったが滲み出た感情は隠しきれなかったか、盃を傾けていた政宗が「なんだよ景気悪ぃツラしやがって」と口端を吊り上げた意地の悪い笑みを向けてきた。それに便乗するように黒髪を軽く揺らしつつ竜姫が喉奥で笑う。
「これが然様につまらん顔をしているのは、今に始まったことではないじゃろうて」
政宗に負けじとも劣らぬ意地の悪い笑みに、片倉は唇をへの字に引き結んだまま、ぴくり、と微かに片眉を上げた。
「またそのような品のないお顔を」
「なんじゃ、こやつは良くて儂はイカンというのか」
差別ではないかえ? と戯けてはいるが艶のある仕草で目を眇める姫の隣では、銀の髪を緩く掻き上げながら「あんまりからかうと小十郎泣くよ?」と、口調は飄々としていながら乙宗も意地の悪い笑みを浮かべている。
あぁ、だからこの三人が揃うと厄介なのだ、と片倉が軽く眼鏡のブリッジを中指で押し上げながら嘆息すれば、「まぁ、おまえも飲め」と政宗は自分の隣を平手で叩きつつ、逆の手で盃を差し出してきた。
断りたいのは山々だが言ったが最後「主の酒が飲めないのか」と三人に詰め寄られるのは目に見えている。
しかも、酒の入った彼らはとてもしつこい。
平素からやや臍曲がりではあるがそれを更にこじらせ、相手にするには少々骨が折れるのだ。
「少しでしたらお付き合いしましょう」
明日も合戦がありますので、と馬耳東風とわかっていても、一言釘を刺さずにはいられない。案の定、さらり、と聞き流した三人は、さぁさぁ、と片倉の盃に酒を注ぐべく我先にと徳利を差し出してくる。
隣の政宗はいいとして、向かいにいた女性二人は片腕を畳につき、身を乗り出している。片倉の視界には自然と彼女らの胸元が入り込み、一瞬にして眉間のしわが深くなった。
「前々から申し上げようと思っていたのですが」
誰の酒も受けなかった盃を膝へと下ろし眼鏡のブリッジを押し上げた片倉に、竜姫も乙宗も徳利を差し出したまま小首を傾げる。
「そのように肌を露出なさって。お二方にはもう少し慎みという物をですな……」
はー、と嘆きの息を吐く片倉がここで少しでも照れたり言い淀んだりすれば、新たなからかいのネタにもなろうというものだが、生憎と真顔で大真面目に告げられては興醒めというものだ。
「この堅物めが」
「このクソインテリ眼鏡が」
思わず正直な気持ちが口を突いて出たふたりを、片倉は、じと、とレンズの向こうから見据える。
胸から臍までV字に露出している竜姫と、それに比べれば露出範囲は狭いが一部の方には垂涎な脇乳を披露している乙宗。どちらも目のやり場に困る服装である。その格好で嬉々として戦場へ出られる度に、仮にも一国の主がはしたないはしたない、と片倉の胃はキリキリと痛んだ。
「だがのぅ」
「見て育ったのがアレじゃ、なるべくしてなった結果としか言いようがないと思うんだけど?」
なぁ、ねぇ、と顔を見合わせて可愛らしく小首を傾げるふたりに、これまで黙って成り行きを見ていた政宗が、くつくつ、と喉奥で笑う。
「あー、うん、確かに説得力皆無だわなぁ。おい、小十郎。お前の片割れのおっぱいをどうにかしてから説教しろって話だ」
呵々、と声を上げて笑い出した政宗の言葉に、片倉は、ぐぅ、と呻くしかできない。乙小の格好は抜き衣紋を通り越し、胸元が豪快に大きく開いている。それでは確かに片倉の苦言は説得力の欠片もない。
政宗の中では一番素直な蒼髪の政宗と共に買い出しに行っている乙小に内心で呪詛を吐きつつ、帰ってきたら彼の首元を覆っているマフラーで胸元を隠してやる、と片倉は心に誓うのだった。
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2011.08.04
説明 | ||
■戦国コレクションの二次創作。 ■独眼竜と独眼竜姫と乙女政宗と眼鏡片倉さんの小ネタ。 ■竜姫様の破廉恥な格好と乙宗様の脇乳にカッとなってやった。俺得以外のなにものでもないです。 |
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