GROW4 第六章 防御不可能なる拳 |
1
「空飛ぶ拳、飛拳(ひけん)っ」
ひゅっ
ドウン
「くっ。相変わらず重い攻撃だね、しかも再生不可能ときたもんだ・・・」
10m以上も離れた遠距離からの親方のパンチ。見えないうえに高速で飛んでくるので避けよう
がない。しかも、エイミーさんはなぜか身体が再生できないでいる。
「ははは。この拳は、捉えて叩き落とさん限りは絶対に防御不可能じゃ。ま、もっとも、飛んでく
る圧力に加えそちらは能力が使えないんじゃ無理じゃな・・・」
わはは、と笑う親方。親方の気には耐魔の力が宿っているらしい。障壁や吸血鬼の肉体なんてま
ったく関係ないのだ。しかもあの威力。一撃食らっただけなのにエイミーさんは倒れかけていた。
「親方のその拳が有効なのは相手と自分の空中間のみ。直接だと能力は発揮できないはずだよね・・・
接近して叩かせてもらうよ」
「できるかな?三連撃」
ボボボッ
パキャァァァァン
「偽物?」
シャッ
親方の死角にうまく入り込むエイミーさん。
「いくら魔法が効かないといっても、触れない限りは無効化されないだろ・・・
硬化鈍柱(こうかどんちゅう)、炎華刀撃爆懺掌(えんかとうげきばくざんしょう)」
ドウン
強力な一撃が入り、親方は少しだけ後退する。攻撃を受けた腹筋は、サラシごと丸焦げになって
いる。
「まだだ、こんなんじゃ倒せない。神の領域解放っ!」
ゴゴゴゴゴ
「むっ、飛掌(ひしょう)」
ドドドドドドッ
わずか30cmの距離から放たれる連撃に顔を歪めるエイミーさん。
「かなり効いたよエヴァ。だかおまえはもうガタが来てるな。本来吸血鬼の特性とはその絶対回復
能力こそが一番の武器といえる。自分の防御など関係なく、ひたすら相手を責め続ける。身体が傷
つけば、瞬時に回復できるからな。とくに“真祖”のお前ならな・・・
吸血鬼の防御力は、復活さえ無にすれば、もはや0だ。よく耐えたと褒めてやろうエヴァ・・・」
「よけいなお世話だよ親方。こう見えて身体は鍛えてあるんだ。耐魔といえど、身体に纏う気まで
は消せない。神の領域、高貴なる義務(ノブレス・オブリージュ)」
気が全体へと廻っていくエイミーさん。肉体の損傷は激しく、あと一撃でも貰ったら倒れてしま
いそうだ。
「そんな身体でこれ以上何ができるんじゃ?彼岸花(ひがんばな)、捺ノ身揃(おしのみそろえ)」
ギュァァァァァ
ドドドッ
シュゥゥゥゥゥ
強力な拳が飛んでくる中、エイミーさんは目を閉じて手を前に出し、それを一つ残らず叩き落と
した。
ギラッ
「おお、怖い怖い。神のなんとかは聞いたことはあるがここまで実力が上がるもんかね?」
シャッ
トトトッ
真っすぐ突っ込むエイミーさん。もはや小手先だけでは倒れない親方を、完全に潰しにかかる気
だ。両手が紫色に激しく光る。
「接近されてはまずいのう。地面滅災(グランド・ティルマータ)」
地面に攻撃を打ち込む親方。バトルフィールドが跡形もなく粉々になり無くなってしまう。空中
に浮かぶ親方。接近するエイミーさんは、瞬時に風精霊(デコイ)を造り各散させる。
「無駄じゃ。なぜフィールドを破壊したと思うておる。空中じゃと急な方向転換はできんじゃろ?
全方位爆散飛拳(ミカルオマンジグレーフィールデス・ディナイトパンク)」
パキャキャキャキャァァァン
ゴシャァァァァァ
飛んでいた風精霊(デコイ)ごと攻撃を受けるエイミーさん。歯を食いしばりながらも再び動き
出す。
「随分と頑丈じゃのう。わしの拳はそんなに効かんか?のう、エヴァ・・・」
「死んじゃうくらい痛いよクソ親方。でも、100倍で返してあげる・・・」
ザッ・・・
「なっ!?いつの間に後ろに?このわしが気づかんはずは・・・」
思わず後ろを振り向く親方。だがもう遅かった。
「神の進撃(ゴッデス・レザルド)」
ドドドドドドドドドド
「なんだこれは?無限に続く攻撃か?動けない・・・」
「まるで鋼鉄を攻撃しているみたいだよ、親方。そろそろだね、術式解凍風魔爆円陣」
親方の周りを取り囲む円陣。それらが一斉に攻撃を始める。
ドドドドドドドドドド
「ごり押しか?こんなものどってことないわい。飛拳」
バキバキバキバキ
術式が破壊されてしまうがエイミーさんの本当の狙いはそこじゃない。
「ん?まさかそれを造るための時間稼ぎか・・・」
エイミーさんが持っていたのは10mを超える巨大な槍だった。
「神殺しの槍、リグニル・ヴァーンだ。本来神クラスの化け物を落とす時に使う神の天敵の武器
なんだけど、親方が落ちないからこれで・・・」
グググッ
「そんな槍でわしは落ちん。三連っ」
ブンッ
ガガガッ
飛んできた拳を槍で払いのけるエイミーさん。払いのけたというよりも、槍が拳を吸収したような
感じだ。
「ばかなっ?わしの拳をあっさりと・・・」
「言ったよね親方。これのしよう相手は本来神様なんだよ・・・
“人間風情”がダメージを与えられるほどチンケな槍じゃない。喰らえ神殺しの槍っ」
ビュッ
ドシュゥゥゥゥ
「あああああああああああああああああああああああああああああああああっ、なんて威力なんだ」
槍がまともに下腹を貫通して、声を上げる親方。
「神ですら一瞬で殲滅してしまう槍なのに、意識すら飛ばないなんてどういう身体の構造だ
よ・・・
まったく親方にはびっくりさせられる・・・」
ドサァ
倒れたのはエイミーさんだった。あれだけの拳を喰らって立っているのがやっとだったんだろう。
しかし・・・
「勝者、エイミー=エヴァンス」
審判が告げた名前はエイミーさんだった。
「なっ?わたしは倒れたんだ、親方の勝ちじゃないのか?」
親方を見るエイミーさん。そこには、巨大な槍が刺さったままで、立ったまま意識を失った親方の
姿があった。
「ふふふ。最後まで倒れないなんて見事だよ親方・・・」
2
「まったく、この年でまさか人間と同じ方法で治療されるとはね・・・」
『ふんふんふ〜ん♪』
そんなことを言っているエイミーさんだが、俺の膝の上で両足をブラブラさせて鼻歌を歌っている。
「大丈夫なのエイミーちゃん?」
心配して聞く天使さん。
「正直最初の一発目で倒れてたほうが良かったかもね。見たよね親方のあのパンチww
わたしあんなの何発も喰らってたんだよ。死んじゃうよww」
「そのわりには元気そうじゃないか、エイミー」
「おにーちゃんのお膝の上だから元気になったのー」
「またボロ雑巾にしてやろうか?腐れロリ」
「怖い怖い。おにーさんが取られたのがそんなに嫌だった?」
「は?な、何言ってんだよこのガキ。ブラックサンダー取ったからに決まってんだろ」
「ま、まだその件について言ってるのかい?さっき下の売店で買って来たじゃないか」
「あのとき二個食べたかったんだ」
「わがままだな衣ちゃん」
「二人ともブラックサンダー食べたんだ・・・」
「お前も食べたかったのか、天使?生憎こいつが全部食べてな」
「べ、別にわたしはいいよぉ。でもケルトが好きって言ってたから」
「なっ!?あいつもブラックサンダー食べるのか?」
「昔は週5でコンビニ行ってたって」
「グローバルな神だなww店員の反応がすげぇ気になる。なんか気が合いそうだなわたしと・・・
次の試合貸してくれ」
「貸せないよぉww」
「つまんねぇな」
「次の試合は白龍が出てくるのか・・・
一瞬で勝負がつきそうな展開だね・・・」
試合フィールドにドラゴンがいた。体長50mを超えるホワイトドラゴンだ。
「あいつか?まるで本物のドラゴンみたいだな・・・」
「うん」
「あいつは文字通り本物のドラゴンさ。ただ、人間とドラゴンのハーフだがね・・・」
「にっ、人間とドラゴンのハーフだと?そんなのいんのか?」
「ごくまれにね。あいつは相当強いよ。母方がドラゴン、父方が殺し屋らしいからね。いわば戦闘
のプロと言ったところか・・・」
「あの巫女服の譲ちゃんも可愛そうにな・・・」
第一回戦第十五試合、馬慈魔結VS白龍
「始めっ」
「龍の息吹(ドラゴンブレス)」
始まって早々しかけたのは白龍だった。巨大なブレスを結に打ち込む。全方位に広がるブレス
は、避ける場所すらない。
ゴォッッ
「おいおい。あんな嬢ちゃんに手加減なしかよ」
「でもおかしい。女の子の気配が全然消えていない。それどころかどんどん上がってるよ」
「うちの学校、ことごとくやられたせいで弱いと思うたら困りますね・・・」
バチィィィ
ブレスが無理やりかき消された。結は何ともなってないみたいだ。
「ドラゴン退治か、うちの専門やないけど、片付けさせてもらおか・・・」
2m近いはりせんを持ち出す結。あんなおもちゃで白龍を倒す気なのか・・・
「なめるなよ小娘。ドラゴンの鍵爪!」
ガキィィィィン
ギシギシィ
「何ぃ!」
結は何と、自分の十倍以上あるドラゴンの攻撃を、はりせんを肩に抱えたあの体勢のまま止めた。
物理的にはりせんが粉々になるか結のほうが動いてしまうのが当たり前のはずなのだが、微動だにすらしない。はりせんの先で止められたままのドラゴンの手のほうが、逆に震えているほどだ・・・
「さて、と。本気の5パーセントも出させてくれるんやろな、ホワイトドラゴンさん」
「くっ、」
圧倒的な力の差を見せつける結。決着の行方は・・・