なつ色のはじまり
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 俺は夏が嫌いだ──。

 

 どこからでも聞こえてくる蝉の鳴き声、照り付ける太陽の日差し。

 海開きをした海水浴場では人が入り乱れ、どこかでは花火が打ち上がる。

 だけど、そんな物は如何だって良い──。

 理由? 理由なんてない。夏が嫌いなのに理由なんている思うか?

 ただ、俺は忘れていたいだけだ……あの思い出を──。

 

 夏の暑い日差しを受け、焼けるように熱いアスファルトの坂を自転車を押して歩きながら、丁度1年前の自分を思い出していた。

 昔の自分が、自分では無かった頃の話。

 あの女の話──。

 

 

 俺は元々、近所でも有名な進学校に入るつもりだった。

 その理由は簡単。先生が『お前の成績ならここが狙える』と言われたからだ。

 たったそれだけの理由。言われるがままの進路。

 

 実は今日でお別れなのよ──。

 

 それさえ聞かなければ、そのまま進学校へ行っていただろう。

 あの女はいつも笑ってた。いつも楽しそうだった。すぐ人の事を聞いて来て、そしてからかって笑う。自分勝手で無責任でワガママで、やっぱり自分勝手で……そして、自由奔放。そんな女。

 昨日まで、あの女の事なんか思い出さなかった。いや、思い出したくなかった。実際は、常に心のどこかに居た。

 そんな自分に苦笑しつつ、頬を伝う汗を拭う。

 目の前には下り坂、そこを一気に自転車で駆け抜ける。下った先には大きめの河と錆付いた鉄橋がある……。 

 あの女とよく話した場所の一つだ。

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「ねぇ? 空の上に何があると思う?」

 いつもの近所の橋の下で、いつものようにボーっとしてたら、そう聞いてきた。

 河の側に、茶色がかったショートヘア、安物のTシャツに少し擦れたジーパン。とてもラフな格好で女は座っている。

 その女──年齢的には同い年にも見えるし、年上にも見える。ただ、妙に大人びた顔をしている。つまり老け顔だ。

「空の上? んー……宇宙か? 大気?」

 そう思った通りに──少々面倒っぽく──答えたのは俺だ。カッターシャツに学校指定のチェック柄のズボン、校則通りの格好だ。

 隣の女に比べたら、こちらはまだまだ子供で通りそうな面だ。それがたまに嫌になる。

「……もうちょっと夢のある答えは無いの?」

「じゃぁ、空の上には何があるんだよ」

「そうねぇ……楽園とかあったら面白くない?」

「そりゃー、天国か? 死に行くのに夢を求めて如何するんだよ」

 あいつは急に寂しそうな目をして、川辺を眺めながら、

「うんん、天国じゃなくて楽園。天国は死んだ人が行くけど、それは限られた人だけなのよ。でも楽園はね、本当に心に穴の開いた人がそんな自分を許してくれる……あー、よく解らなくなったけどそんな感じ」

「いや、本当にどんな感じだよ」

 何が言いたいのか今一つ見えてこない。

「とにかく! そんな人が、心から自分を許せるような場所が在ったら良いなって事!」

 ビシッ と効果音が出そうな感じで指でさされてもなぁ、と思いつつも、

「……あんたもそんな人なのか?」

 ポチャン──女がこちらを見ないで石を投げる。

「解らない。でも、今はアンタが居るしね」

 急に嬉しそうな顔をして振り返り、抱きついてくる。

「いや、そういう事じゃ──って、おい!」

 首の後ろに両手を回されて女の顔がより近くまで近づく。文字通り紙一重ぐらいの距離だ。少し赤みのある瞳がこちらを見ている。

 俺は女の顔は見慣れてたが、やっぱりこういう風に見ると見え方も違うな……と思いつつ「違うだろ!」と自分にツッコミを入れ、誘惑に負けないように声を荒げる。

「いや、離れろよ。良いから。とにかく」

「ふっふっふ、私に捕まったが最後! 色々してくれるまで離さないよーだ」

「い、色々って何だよ……」

「そりゃ、あーんな事やこーんな事を手取り足取りと──」

「現役中学生を誘惑するなー!!」

 俺は何とか女から離れようとするもの、意外とこの女は力が強い。

 もちろん背中には暖かい体温がくっついてきてるのも焦る理由の1つだ。

「あらー? 私は誘惑してるつもりは無いんだけどな〜。お姉さんが相手だと不服?」

「不服とかじゃなくてな……それに、そんなに差無いだろ。確か2歳差とか言って──」

「ふふ。まだそんな事言ってるから、年下扱いされるのよ──ふっ」

「──ッ!?」

 耳に息を吹きかけやがった。

 女は楽しそうに笑いながら俺から離れる。俺は出来るだけ距離を取りつつ、

「五月蝿い! もう近寄るな、この痴女!」

 言ったとたん何やら泣き崩れて、ご丁寧に白いハンカチを取り出しつつ、涙なんか流して、

「ひどいわ! こんなにもか弱き乙女に対して痴女だなんて悲しいわ……うぅっ」

 俺はその光景に冷めていく自分を感じる。

「あー、もう分かったから。で、俺はそろそろ塾だから帰るぞ」

「あ、そうなの? なら私も帰るとしますかね」

 ピタッと器用に涙を止め、立ち上がる。その光景に思わず苦笑する。

「……そういや毎度思うんだが、アンタって何処住んでるんだ?」

 驚愕だ! って言わんばかりな顔をして3歩下がり、

「まさか、こんな美しく可愛いからって……夜中ベッドの上でしてるトコを覗き見るつもり!?」

「覗くか!」

 俺は平気でそんな事言ってくる女に、思わず顔を赤くしながら反論する。

「えー。ここは男らしく……『へっへっへ、1人でするのは寂しいだろ。俺も手伝ってやるぜゲヘヘ』『え、そんな事……』『アンタも実は誘ってるんだろウッヘッヘ』『あ〜れ〜!』とか無いの?」

「お前の思考回路はどうなってるんだよ……」

 思わず頭を抱え込みその場に座り込む。

 女は得意げに、

「乙女の思考回路は男の百倍複雑なのよ」

と、事も無げに言い切る。

「俺は一生お前の思考回路は解読出来ないだろうな……」

「そんなに褒めなくても…」

「嫌味だよ!」

 腰に手を当てつつ困ったさんね〜と言わんばかりな目で、

「そんなにムキにならなくて良いじゃない。そんな甲斐性もないんだし」

「はぁ〜。この女は……」

 俺が静かに怒りで震える。

「ところで、塾良いの?」

「あっ……ヤバ!!」

 地面に置いていたリュックを自転車のカゴに乗せまたがる。

「いってらっしゃい〜♪」

「五月蝿い!!」

 そう言ってしまってから、つい後ろを振り返る。そこには頬を膨らませ無言で睨んでくる女。

「……あ〜。行って来る!」

「うん! よろしい」

 女はそれで納得したのか笑顔になり俺を見送った。

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 橋を越えれば、見慣れたいつもの街に出る。

 別に寂れても無いし、かといって賑わってるわけでは無い……そんな街だ。

 街の中を走っていると、それほど大きくはない個人経営のゲームセンターの前を横切る。

(そういえば……)

 俺と女の初めて出会った場所、それが此処だ。

 

 後々思ったのだが。

 俺とあの女が出会ったというか──知り合ってしまったのは一重に俺の運が悪かったのだろう。

 その日は塾の帰りにゲーセンへ行って遊んでた。俺は普段、早々とキレる事もイラつく事も無いが、今日は塾の講師にネチっこく説教をされた。原因は定期テストの点数がいつもよりも落ちたからだ。

 無性に腹が立ってイライラしてた。今となってはガキっぽい理由だと自覚できるが──当時の俺はそんなことを思いもしなかっただろう。

それがアダとなった。ゲームで叩きのめした相手が、いわゆるチンピラのような奴だった。

 しかも複数。因縁を吹っかけられ、裏道に連れて行かれたが、俺もその辺の学生みたいにタダではやられないと自負していたつもりだった。

 でも結果、ボコボコにされるハメに。

そりゃ、もう完璧に。初めの内はそれなりに善戦してたが、後ろからパイプを持ったヤツに気付かけなかった。

 俺はその場に倒れ、チンピラ達はすぐに群がり、顔に腹にとボコボコされた。10分ぐらい続いただろうか。それで満足したのか最後に唾を吐いて、そいつ等は何処かへ去っていった。

 

 目の前に赤いモノが流れてる。頭が痛い、腹も痛い。どっかの骨にヒビが入ってるかもな。

 意識も途絶えそうになる中、ガラにも無く色々思い出みたいなのが頭を横切る。

(俺は此処で死ぬのか? ……それはそれで良いかもな)

などと思っていたら、

「ちょ、ちょっと。アンタ大丈夫?」

と、声がしたと思ったら抱き上げられていた。

「大丈夫? 生きてる? おーい!」

 『本気で心配するならおもいっきり揺らすな!』と叫びたくなるような感じで揺らされる。

「…………すな」

「あー、如何しようか。とりあえず救急車かな? おーい、起きろ〜」

「………だから…」

「ん?」

「揺らすなって言ってるだろう!!」

 さすがに温厚な俺も、これだけ揺らされたら怒る。というより誰でも怒る。

「俺は怪我人だぞ! もうちょっと丁寧に扱え!」

「なんだ……元気そうじゃん。あーあ、心配して損しちゃった。」

 女は不満そうに頬を膨らませる。

「あー…アンタはなー……くっ…ヤバ……」

 思ったよりも血が抜けてたらしく、足に来てやがる。

「ちょっとー。こりゃ、本気で救急車を」

「よ、ぶな……」

「だってヤバそうじゃん」

「……い、いから…」

 俺は壁に寄りかかるようにして、座り込んでしまった。

「ねぇ? ちょっと! ねぇ!? 大丈夫?」

(大丈夫な訳無いだろ…)

 薄れ行く意識の中、俺はとりあえずそう言った……。

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 次の日……なのかは分からなかったが、とりあえず布団の上で目を覚ました。

 寝たままだったが、どうやら俺の部屋じゃないみたいだ。

 典型的な日本家屋っぽそうな天井。

「……ん?」

 訳も分からず上半身だけ起き上がる。

 混乱する頭を押さえつつ、昨日の事を思い出していく。

「昨日、殴り合いで負けた。かなり血が出てたな。女が出てきて、救急車呼ぶとか言うから止めろと言って……それから如何したんだ? 何で布団で………!!」

 布団から出てみたら初めて気付いた。上半身は裸で包帯が巻かれている。下半身は下着だけで昨日とは違う物を履いていた。

 ふと、窓からベランダらしき所に目を向けるとご丁寧にも昨日、俺が着ていた服や下着を洗って干してある。

 とりあえず、俺は考える事を止めて再び布団に戻る。幾ら考えても分からない時は寝るに限る。

 どれだけ時間が経ったか、襖が開く音をするのを遠い意識の中で聞く。

(誰か来た……?)

 そう思うが眠気が勝り、再び布団に戻る。うすっらと目を開けると、何やら人影が見える………昨日のうるさい女か?

「うーん、如何やら……まだ寝てるようね」

 やはり昨日の女だ。

 女は横に座りながら手首を取り、

「よし、死んでないね。良かった〜。死んでたら寝覚め悪いしねー」

 誰に言ってるのか女は一人で喋っている。

(うるさい……)

 俺は出来るだけ聞かないようにして再び寝ようと意識を沈める。

「………………」

 途端、女は静かになった。これは好都合だ。今の間に寝ようとすると、

「……………ん…」                     

 何やら、上に誰かが──100%女だろうが──覗き込んでる感じがしたかと思うと、いきなり口を“何か”でふさがれる感触に見舞われる。

(…………ふさがれてる?)

 明らかにおかしい事態になったと思い、目を開けると人の顔が目の前にあった。

 ここで問題。1.口が何かで塞がれてる 2.人の顔が近くにある 3.この部屋に居るのは確実に一人。

 そこから導き出される答えに行き着いた俺がまず取った行動は……、

「───んぅ!!」

 驚いた。

「……あれ? 起きたの?」

 口から離れ、女はきょとんとした感じで、

「うーん、私的には20秒欲しかったね。そうしたら窒息させられたかもしれないのに」

 などと、とんでもない事を普通に言う。

「お、おい。今、何したんだ?」

 分かりやすいぐらい震える声で、分かりやすいぐらい定番な台詞で平然としてる女に問う。

「ん? やっぱり濡れたタオルで顔塞いだ方が効果あったかな?」

「いや、だから。俺に今、何をしたんだ?」

「何って……口付け、接吻、キス、人工呼吸。さぁ、どれでしょう!」

「いや、最後以外全部同じ意味……あーまぁ、やった事に対して自覚はあるんだよな」

「当たり前じゃない。それより……」

「それよりじゃなくて、理由を……イデデデデデ!!!」

 女はいきなり、俺の胸の辺り──昨日怪我した場所───を触ってきた。

「あ、やっぱり痛い?」

「痛いに決まってるだろ!! 大体、ここはどこだ?」

 俺が声を荒げて言うと、女は部屋をゆっくりじっくりきっぱりと見回し、

「日本」

「いや、国じゃなくてな」

「地球」 

「星の名前でもなく」

「3次元」

「空間でもなくてな」

「もー、我が侭ね。どこが良いのよ?」

「そこでアンタが何で怒るんだよ」

 思わず俺はその場で頭を抱えて座り込む。

「いや、ノリで」

「ノリでも何でも良いから真面目に答えてくれ」

「私はいつだって真面目よ。一言でも間違いは言って無いわよ」

「だーかーらーー!! この部屋に何で俺が居て、アンタとこの場所の関係は?」

「あぁ、その事聞いてたんだ」

「うわ、殴りてぇ……」

 もう何が何やら解らない。とりあえず俺はその場に脱力して寝転んだ。

「そうねぇ。此処は街の郊外の民宿の一部屋。ちなみに私が借りてた訳じゃなくて、事情を話したら貸してくれたから、後でお礼を言うように。で、アンタが救急車はダメだとワガママを言うから私の盗った車で君をここまで運んで、車は然るべき場所に返してきて、隣に泊まってたオッサンがヤブ医者だったから治療も頼んだのよ。お金は君のサイフから出したから安心してね。あ、だから服を脱がしたのは私じゃないし、洗濯したのは此処の女将さんだから気にしないでね♪ ……という訳なの。オッケー?」

 ペラペラと女は一気に事情を話したのだが──、

「いや、普通にちょっと聞きたい事があるんだが?」

「ん? 何かしら」

「今、普通に車を盗ったって言わなかったか?」

「言ったわよ? 安心しなさい! 証拠はアンタの血ぐらいしか残ってなかったから」

「おい」

「良いじゃない。元の場所に返したし……まぁ、持ち主がドア開けたら血がいっぱい付いてたらショッキングよね〜」

「普通によくねぇだろ。それと……誰のサイフからお金を出したって?」

「アンタの。いやー、最近の子供ってたくさん持ってて良いわよね〜。ちょっとお姉さんの食費も出したから。いやー助かったわよ」

「勝手に使ってんじゃねぇ! いや、百歩譲って俺の治療費とか出したのは許せても、何でアンタの食費も出すんだよ!」

「後、服に血が付いたから新しい服と銭湯のお金とフルーツ牛乳の代金も出したから」

「自分の金を使え!!」

「いやー利用できる物はなんでも利用しないと……」

「俺ので利用するな!!」

と怒鳴るといきなり頬を膨らませる。

「むーっ!」

「膨れるな!! ……っ! 頭がフラフラする……」

「大変ねぇ」

 俺はわなわなと震え、

「だ、れ、のせいだと思ってる……」

「誰なの?」

「アンタだろ!!」

「へぇ〜……あ、もうすぐお昼だ」

「はぐらかすな! ………はぁ。一つ聞きたいんだが」

 急に俺の話すトーンが下がったのに気づいたらしく、女は笑ってた顔を引き締めた。

「3サイズと歳と過去以外なら何でも良いわよ」

「何で……助けたんだ?」

「何でって……」

「別に放っておいてくれて良かったんだぜ? というより、あそこで死んでも誰も悲しまないしな」

 そう、別に生きていても死んでるようなモノである。

 親も親で、子供には無関心だし。その癖、色々と注文を付けて来る。それで無関心とはちょっと違うかもしれないが

 とにかく、そういう親である。

「………………」

「しかも人の金使って助けるってか。どっちに転んでも踏んだり蹴ったりだな」

 俺は自嘲気味に乾いた笑いをした。

「………けないでよ」

 女がポツリと呟く。

「ん?」

「ふざけないでよって言ったのよ!!」

 俺はその台詞を最後まで聞けなかった。何故なら俺の頬を女の拳が捉えて、吹っ飛んだからだ。

「っ……!!」

「そんな簡単に死ぬとか甘えん坊な考え方は神が仏がアラーがキリストが、大統領が認めても!!」

 そこで大きく息を吸い、

「私が認めないし、認めさせないからね!! 今後、そんな事を口走ったらフルマラソン分潜水せるわよ!!」

 女は訳が分かるのか分からない事を口走り、部屋から出て行った。

 俺は訳が分からないながらも一言呟く。

「いや、死ぬだろ」

 そこへ入れ替わるように少し怯えた様子の中年の女性──ここの女将だろう──が顔を出す。

「あの………ご飯の用意が出来ましたけど…?」

「あ、あぁ」

「お連れさん如何したんですの? それに、何でひっくり返ってるんです?」

 確かにこの格好は変だろうな──と思いつつ訳の分からないまま、飯を食いに下へ降りた。

 飯を食べてると、少し頬を膨らませ女も食べに降りてくる。

 だが飯を食べていると機嫌が直ったのか、さっきのように絡んできた。

 本当に、よく分からない女。それが俺の第一印象だった。

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 俺は街を抜け、風に乗り、どんどんと街の外へ続く道を進んでいく。

 道路はどこまでもまっすぐで、電灯も無く、ただ電信柱だけが礼儀正しく並んでいる。目的地であるあの場所は、遠いの地平線の彼方だ。

「……ったく。しょうがねぇな」

 誰に言ったか、俺は自転車を走らせた。とにかく、夕方には目的地に着きたいと思うのだが風の後押しがあろうと遠い。

 しばらく、俺は何も考えずに自転車を漕いでた。

 

 どこかで鳴いてるセミの声が、耳に響いてくる──。

 

 

「実は今日でお別れなのよ」

 女は表情一つ変えないでそう言った。彼女との付き合いも長くは無いが、こんな顔をしているのは見たことが無い。

「は?」

 いきなりそんな事を言われても、言葉が頭に入っても、理解しなかった。いや、したくなかったのかもしれない。

「いや、だからさ……今日でアンタとは会えないのよ」 

 これもまた珍しく、苦笑しながら女は言った。 

 ここはいつもの橋の下。いつものように話していた。さっきまでそんな素振りも見せなかった。

「だから…な、何で急に……」

 俺は常々、自分のことを冷静な方だと思って居たが、如何やら思っていた以上に動揺していたらしい。思うように口から言葉が出てこなかった。

「さて、ここで問題です。私は何で急に去るのでしょう。1.空が青いから、2.本場の鰻重が食べたくなったから、」

 女は有り得そうな事を順番に指折りで上げていった。そして、

「……3.私の正体は機密裏組織みたいな組織の幹部で、そこから逃げ出したから」

「……は?」

 冗談だろ? と聞こうとしたが冗談にしては表情は真剣だった。

「──いや、ツッコミ入れてくれないとやり難いし」

と、いつもの調子で苦笑しつつ笑う女。

 その言葉に体から緊張が抜ける。

「……嘘かよ。 じゃ、2だろ? 何かちょっと有り得そうだしな」

「いや、勝手に遠くを見つめられても困るんですけど」

 夕日も無いのに空の向こうを眺めていた俺にツッコむ女。

「大体、アンタがそんなトコの幹部って現実離れもいい所だろ?」

「うん──そうだね。 ま、とにかくそういう事で今から行くね」

 一瞬顔を伏せたかと思うと、急に顔を上げ女は無理に明るくといった感じだ。どこから持ってきたのか見慣れないバイク──どうせ盗品だろう──に跨る。

「で、行くアテあるのか?」

「さぁね……まぁ、上手くやるから」

 そう、女は微笑む。俺はその表情を見ると何故か何かが堪らない気持ちがした。

 丁度小学校の時に、さっき自分が言った事と違うのに、それを間違いで指摘したら責められた時の感じとでも言えばいいのか……我ながら例えるのがヘタだが。

「そーいえば。 結局、名前教えてくれなかったわね」

「アンタもだろ?」

「そうだけど……名前も出自も謎なミステリアス乙女って呼んで♪」 

 ウィンクしつつ指で指してくる。

「あ、そういえば。確か山田丸子って民宿の名簿に……」

 俺は揚げ足を取るかのように即座に答えるが、女は当然のように、

「あぁ。アレは偽名よ。ギ・メ・イ」

とさらりと言う。

「は?」

「自分の名前を正直に書くバカは居ないわよ。大体アンタ。そんなありきたりっぽそうな名前本気で信じてたわけ?」

「あー……。で、本当の名前は?」

「うーん」

 たっぷり1分経って俺は、

「今考えてるだろ?」

 思わず半眼で言う。

「あ、ばれた?」

「じゃなくてな! 最後ぐらい普通に答えてくれても良いだろ!?」

 そうだ。女はいつも肝心な所ではぐらかす。そりゃ、俺も他人を詮索なんて普通も何もしないが、

「本当にアンタが今日で居なくなるんだったら……最後ぐらい」

 クスッと女は笑ったかと思うと、女は俺の頬を引っ張る。

「痛てっ! 痛てててて!! 何すん!」

 何すんだよ! と俺は最後まで言えなかった。何故なら俺の口を何かが塞いだからだ。それは何かと言うと……もう言うのも億劫だ。

「………っっ!!」

 しばらくはされるがままだったが、事態が飲み込めた瞬間俺は思わず暴れてしまった。

「………はーっ。うん、如何?」

 ケロリと普通に聞いてくる。これではどちらが男が女か解らない。

「だ、だから何でいきなり……」

 思わず顔を赤くしつつ俺は女に問う。これでは隠すなど出来やしない。

「したかったから」

「はぁ?」

 今度こそ、俺は口を開けて我ながら間抜けな返事をした。

 首の後ろに手を回したかと思うと女は耳元で囁いて来た。

「今だから言うけど……恥ずかしいし良いか。とにかく頼りないし、俺とかカッコつけてるけど弱いし、私にからかわれてふて腐れるし……でも、そういうアンタが良かったというか。私の本来の日常には有り得ないぐらい勿体無い存在だったのよ。私にとって、この3ヶ月は平和そのものだったの。普通、こんな怪しい女には関わらないのに……アンタは接してくれた」

 いつもとは違い優しく、まるで諭す様に囁いてくる。しかし、やっぱり冗談のようにも聞こえる。

「そ、それは。一応、アンタが恩人というか……」

「ふふ。そんなの如何だって良いわよ。私はそれでも良かったの。別にアンタとなら寝ても良かったのよ? とか言ったらまた怒るわよね」

 俺から離れ、女はエンジンを始動させた。

「お、おい…」

「来ないで!」

 俺はその一言に脚が止まる。

「アンタが本当に私の事を追い掛ける気があるなら。本当の名前を聞きたいんだったら……私は待っててあげるわよ」 

「……」

「もしも本当に追い掛けて来るのであれば、待っててあげる。でもそれはアンタが今の生活を捨てるという事になる」

 女が言ってる意味はわかる。今度ははっきりと言える。だが、こんな事わかりたくもない。

「それと男の子は泣くんだったら、1人になってからにしなさいよね」

「………!」

 俺はそこで、初めて自分が涙を流してるのに気付く。

「それじゃ……バイバイ」

 女は最後に微笑み……一気にエンジンを吹かし、その場から消えていった。

 

 一度もこちらを振り向かなかった女の背中──その姿がやけに印象に残る。

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 次の日から、また日常が戻ってきた。

 いつも通りの学校、いつも通りの生活。そして、あれから橋の下は河川敷工事が始まり、徐々に姿を変えていった。初めからあの女が実は居なくて、ずっと夢を見ていたよ

 

うに……俺の頭の中はもやがかかったようだった。

 あれから、俺は適当な公立の学校に入った。適当と言ってもそれなりに勉強しないといけない。ただ、そこだと生徒の拘束が比較的緩い。

 学校が終われば、あの女に関する事を調べる為だった。

 今日はこっちで聞き込めば、休みの日には交通機関を使って足を延ばす。受験前からやってはいるのだが、中々効果は上がらなかった。

(ったく、何がこっち側だ。俺の財布から札二枚取って行きやがって)

 そう、あの日にいつの間にか財布から夏目漱石と福沢諭吉が抜き取られていた。

(ちゃんと耳そろえて返して貰うからな)

 俺は建前でもそう理由をこじつけて探した。

 だが名前も解らない。性別は女、顔は一緒に冗談で撮った免許書用の写真、格好は殆ど常にTシャツにジーパン。特技は盗みにへりくつ。

 あれだけ近くに居ても、解ったのはこれだけだった。

 

 はっきり言うと、それだけの時間をかけても成果は全く上がらなかった。当たり前だ。その辺の学生が身元も何もよく分からない女を捜す事自体無理がある。

 それでもとにかく探した。幸いにもというか、親は子供には無関心で“とにかく勉強はしろ”という性格を逆に利用して、「今日は泊り込みで勉強会」と言えばすんなり金も出してくれる。まぁ、その分勉強も手を抜けれなかった。 

「ついちまったな」

 誰に言うまでもなく呟く。

 あたりは既に薄暗くなってきていたが、目的地である場所になんとかついた。

 その場所は、民家も何も無い山のふもとにあった。

「あれから1年と13日。」

 俺は幾つもキチンと並ぶ墓石の一つの前に立っている。

「また、今年も来てやったぞ。ま、今日は線香だけだが持って来たぞ」

 事前に用意していた線香に火を付け、俺は煙を眺めた。

「短いもんだな。去年は……ちょっと報告する心境じゃなかったから今年に回させて貰ったぞ」

 持ってきていたライターで火をつけ、軽くふる。風はもう止んでいて、線香の煙はゆらゆらと、空にのぼっていく。

 俺の目の前の墓石には「山田丸子」としっかりと明記されていた。

 最初見つけた時は驚き、疑った。だが、冗談にしては死亡時刻や時期、場所──その辺りは新聞に載っていた──が、的確に当てはまり過ぎていた。それに、ご丁寧にも墓石の前には、プロレス技をかけられている俺と、満面の笑顔を浮かべている女が写っている免許用の写真が置いてあったのが決め手でもあった。

「何でそこに入ってるんだ? って聞いても答えないだろうな。後、俺の財布から抜いた金はまだ諦めないぞ。……俺は絶対に認めないからな」

 俺は色々と愚痴や最近あった事を話していた。そのうち、太陽もかなり傾き、周囲の温度も下がっていった。

「そろそろ帰る……じゃ、また来年な」

と、立ち上がり振り返った所で……、

 

 俺は心臓が止まった。

 

 比喩抜きで止まったような感触だった。

 それもそのはず。俺の目の前には、墓の下に居る奴にそっくりの女がそこに居たのだ。

「浩人さん……ですよね?」

 女は静かに、そしていきなり俺の本名を呼んだ。

「あぁ、あ、アンタは……?」

 声が震えてるが気には止めない。俺がそう聞くと女は、

「そうですね……仮に佐倉と呼んでください」

 訳の分からない事を言って来る。

「いや、お前はだって……」

 混乱しているのは自覚している。というより、この状況で混乱するなというのが間違っている。

「あ、顔ですか? それは当たり前ですよ。彼女と私は双子の姉妹なんですから」

 この女──仮に佐倉らしいが、あの女の双子の妹らしい。動揺しきっていた俺は、そこに疑いは持たなかった。たとえまともに頭が動いたとしても、確たる証拠も無いから否定もできない。

「今日はこれを渡したくて待ってました」

 佐倉は小脇に抱えていたノートを差し出して来た。

 俺は躊躇しつつもノートを受け取り、適当な所を開いて愕然とした。

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『7月18日(月)晴れ。逃亡生活も30日目だ。とりあえず、簡単に泊まれる所を探すべきだ。街をふらついていたら小道で物音がする。ちょっと覗いて見ると誰かがボコボコにされてる。助けるかと迷うが、自分にそんな義務も義理も無いので無視しようと思ったが、ちょっと気になるので助けた。』

 

『7月19日(火)晴れ。昨日の少年……と言っても同い年ぐらいだったが。とにかく少年を寝床に決めていた民宿で手当てをした。私には外科の知識は無かったが、隣のオヤジがヤブ医者だったので助かった。目覚めないようなのでじーっと見ていた。呑気そうな顔だった。ま、自分の立場から見たらだが。 何となくキスがしたくなった。で、やってみた。そういえば初めてだったかな? まぁ、良いやと思って思いっきりやった。

少年は起きて何か講義してたが適当に流した。財布を勝手に見て分かったが、どうやら少年は私より1個上だった。私の方が上だという事にしよう』

 

『8月20日、晴れ。遂に追っ手が来たようだ。今日で楽しかった街とも……アイツともお別れだ。思い残すことはたくさんあるけれど、最後の仕事……アイツに迷惑を掛けたら駄目だ。さぁ、頑張るか!』

 

 

 浩人へ

 

 この日記は私が見つかって、発見されたら処分されるだろうけど、それでもアンタに残しておくから。

 あぁ、名前のこと聞きたいんでしょ? 簡単よ。アンタの財布からお金拝借したときに、ついでに学生証も見た。すっごい不服そうな顔だったのが印象深かった。あと、ちょっとかっこ良かったかな?

 

 ま、お金の件については良かったでしょ。私を探すという理由ができたんだし。素直じゃないからね、アンタは。

 私の名前は教えて上げられないね。だって知るだけでアンタの命がヤバイもの。

 それならこの文を残すのも危険だけど……ま、大丈夫よ。

 

 このメッセージを見てるって事は、アンタとの約束を果たせないって意味。

 それについてはゴメン。

 まぁ、この街に潜伏してるのが見つかった時点で王手でチェックメイトだった訳なのよ。

 キャスリングも待ったも出来なかった。

 組織の記録上は、私とアンタの関係は無いから安心しなさい。

 そして同時に組織の記録から私は消えるけどね

 えーっと……話す事も無くなったから、この辺りで切り上げるわね。

 最後にイニシャルだけ教えてあげる。

 それじゃ。

 

 追伸 本気で、好きだったわよ。   

                           

 W.H.

 

-8ページ-

 

 ノートの最後のページには二枚の紙幣が貼り付けられていた。

 

 俺は最後の文章を読み終えると、静かにノートを閉じつつその場に座り込んだ。

「彼女の苦労も空しく、浩人さんの事は組織に知れたわ。でも貴方がこのまま彼女の事も、1ヵ月近い間の出来事を無かったことにするのなら……貴方の身柄の安全は保障し

 

てくれるわ。その彼女の生きた証だった日記も、後で処分しないといけないのよ。ごめんなさい」

 少しの間、呆然としてたが俺は我に帰った。

「じゃあ、やっぱりアイツは死んだんだな?」

「えぇ、彼女は確かに死んだわ。組織に逆らった反逆者として」

 まるで自分の死刑宣告を聞いてるかのようだ。

 その言葉を聞くまで、俺はどこかでアイツが生きてると信じていた……いや、信じようとしていた。それで自分の気を紛らわすように。

 だが、事実は如何やら本当にそうだったらしい。アイツは……あの女は死んだ。俺はその事実を受け止めれるのか?  無理だろうな。

「その日記を処分すれば、アナタは晴れて自由の身よ。多少は組織に監視されるでしょうけど、当面は安全よ。寛大な組織に感謝するのよ」

「殺せ」

 そう静かに──しかしはっきりと呟いた。

「俺はあの女の事が苦手だった。自分勝手だし、我が侭だし、へりくつばっかりだし、すぐ盗むし……でもな、もしかしたら俺はアイツの事が好きだったのかもな。………無

 

くなって初めて分かるとか言うけどまさにそれだ。組織に感謝だと? する訳無いだろ。再びあの女に会って、色々と文句を言う事が生きる目的だったな。別にこの世に未練

 

なんて無い。それならいっそ死んであの世で女と会ってやる。そこで一言言ってやる。『寝言は寝てから言え。俺は認めない』ってな」

 少し力んで喋った為、多少息切れしながらも、迷いも無く言い切った。

 佐倉は分かってるのか分からないのかそれこそ解らない顔をしていた。

「貴方、正気? 彼女が折角助けた命を不意にする気?」

「あぁ、正気さ。アイツのお節介で生かされてるぐらいなら死んでやるさ」

 もう自棄だった───だけど後悔は無かった。

「そう。なら私もお別れの前に言っておきたいことががあるわ」

 いきなり佐倉は距離を詰めて来たかと思うと、次の瞬間……

 

  ───ガッ!!

 

 思いっきりグーで殴り倒されていた。

 俺は予想もして居なかった攻撃をまともに受け、軽く吹っ飛んだ。

「………ふっざけんじゃ無いわよ!!!」

 さらに耳を引っ張られ、大音量で俺の脳を甲高い声が貫いた。

「なっ……」

「な、じゃなーーーい!! 誰のせいで私が苦労したと思ってるのよ!? そりゃ、私がアンタと関わったせいだけど……元はと言えばアンタがくらーい路地裏で死に掛けて

 

るからいけないんじゃないの? えぇ!? 『寝言は寝てから言え。俺は認めない』だって? はっ、そんなかっこつけてアウトロー決め込んで……んなもん、アンタに認め

 

て貰おうなんて小指のささくれの皮程思って無いわよ。そんなロイヤルゼリーよりも甘い考えをまだ持ってるアンタには死が相応しいわよ。自分で自分を殺すぐらいなら今、

 

ここで、私が引導を渡してあげるから受・け・取・り・な・さ・い!!!」

 機関銃を乱射したかのように叫び、呆然としていた俺に見事なプロレス技を掛けてきた。それもかなりヘビーだ。

「たーたたぁぁぁぁ!!! ギ、ギブ! ギブギブギブ〜!!」

「今日という今日は許さないからね!!」

「ぐえぇぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 そこには女とは思えない力で見事に極めて来て、さらに人間とは思えないうめき声を上げる男という奇妙な図式が出来上がっていた。

 だが、俺は本気で生と死の狭間を体験しながらもこの佐倉とかいう女の正体に気付いた

「死ぬとか……そういうのは………」

 急に力が緩んだと思ったら女から水滴が落ちてきた。

「軽々しく言って良いモノじゃないのよ〜〜〜!!!」

「ぎゃぁぁあっぁぁ!!!」

 それから十分ぐらい地獄を見た所でお互い消耗して地面に倒れこんだ。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ………」

 まだ体中が痛むが、心はすっきりしていた。

 一方、隣で倒れていた女は泣き止んでは居るが、目が赤くなっている。

 俺がそんな顔を見ているのに気付き女は、

「……何よ」

「いや、可愛いと思っただけだ」

 俺は正直に言った。すると女は急にそっぽを向く。

 如何やら照れてるらしい。

「くっ…はっはっはっは……」

 普通にそんな仕草が面白かった。

「笑うな」

 ふて腐れて女は拗ねたようだ。

「あぁ、笑わないからな……だから、全部教えろよ?」

「全部も何も、知れば組織に消されるわよ? それに全部言ったはずよ。WHは死んだって。戸籍などの情報はすべて消去して、組織は監視を条件に私とアンタを自由にしたのよ」

「それで。新しい名ってのは? さすがにそれぐらいは教えろよな」

「……工藤。それが新しい名よ」

「そうか…………あれ?」

 どこか違和感を感じる。

「工藤……どこかで聞いた名前だな?」

 首を捻って思い出そうとしてると、隣で女はこう続けた。

「工藤浩人って言う人が知り合いに居て、その身内が組織の末端構成員だから、監視の意味も含め、しばらくはその家で義理の家族としてご厄介になるのよ」

 俺はそこで思い当たった。というか何で思いつかなかった。工藤……それは俺の苗字だ。

「──っておい」

「いやー、私もまさかアンタの家が組織の関係者って知らなかったわね」

 さらっと爆弾発言された。

「俺もだよ……」

 反応する気も失せ、俺は頭を抱えた。

「ま、そんなに落ち込まないでよ。こんなにも可愛い義理の妹が出来てウハウハじゃない? それとも後、妹が11人欲しいって思った?」

「思わねぇ!! ていうか何だよそれっ!!」

「安心しなさい。義理だったら結婚も出来るわよ」

「そういう心配はしてないから安心しろ」

「えぇ!? まさか毎日ベッドインをご希望? めくるめく官能の世界へレッツゴー?」

「んな訳無いだろ!! お前とはそういう関係にならないから安心しろって事だ!」

「えー」

「えーって何だよ」

「だって私はアンタの事好きだし」

 あまりにも不意打ちで思わず顔が熱くなるのを感じる。

「あ、あのなぁ」

 そこで女はニヤリと笑い、

「さ、夜になる前に帰りましょうか」

「………あ、あぁ」

 久しぶりの頭痛を感じる。だけど、今日のは嬉しい頭痛という風に感じるのは変かな。

「おーい! 女の子に運転させる気!?」

「あー、分かった、分かった!」

 来る時よりも重たくなった自転車を漕いで俺は帰路につく。

 

「いっけー浩人! ほら、前のトラック追い越すのよ!」

「無理……てか、お前重た……痛ッ」

「乙女の体重は羽毛と一緒なのよ! ほら、こいだこいだ!」

 

 夕暮れに照らされた道を、夏色に染まった明日へと進んでいく。

 

 これからが、俺達の“はじまり”である。

 

-9ページ-

 

 人生において2番目書いた小説、人が言うには「黒歴史」に相当する「なつ色のはじまり」でしたが、いかがでしたかー?

 昔の作品を世に出すというだけで不思議と恥ずかしさと共に、清々しさもあります。気のせいです。

 

 思い出す度に加筆修正して、そして今回も何回目かになる修正を加えて載せてみました。

 ボーイミーツガール。いいじゃないか! こんな青春モノを書くのは恥ずかしい? それがなんだ!

 という開き直りと共に出してみました。

 

 実はこの話、後日談というか続編的なのを昔書いてまして。もしも少しでも反応あってくれたら、続きをあげてみたい。

 どなたか、僕にさらなる辱めと悶絶を味合わせたい方、お待ちしております(ぉぃ)

 

 そして最後になりましたが、ここまで読んでいらしゃったことを、深く感謝します。

 

 ではでは、またお会いできれば嬉しい限りです。

 

説明
あの日の想い、少年は自転車を漕ぐ。そして彼は少女と出会い、全てを知る。これは短い青い夏の物語──。
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