うらぎらないで【グリード過去妄想】 |
ぼくはにんげんの里におりた。
メズールには「まだコアメダルが目覚めていないからダメ」と言われてたけど、どうしても、行きたかった。メズールにすごくにあいそうなかみかざりがあったから。里でいちばんおおきな家の、おくのへや。
ぼくはまだグリードとしてはみじゅくでよわいから、にんげんに見つかるわけにはいかなかった。息をころして、しのびこんだ。むねがドキドキして、せかいがかがやいて見えた。かんぜんたいになったら、いつもこんな感じなのかな。
そして、ぼくはやりとげた。きいろい花のかみかざりを手に入れて、すみかのどうくつに帰った。
「ありがとう、カザリ」
メズールはぼくの頭をなでてくれた。
「けれど、二度とこんな危ない真似をしちゃだめよ。髪飾りは、また後でためしてみるわね」
あれからだいぶんたったけれど、まだ、メズールはかみかざりをつけてくれていない。まだかな、まだかな。
……そんなふうに思っていたある日、ぼくは、見てしまった。
すみかのどうくつから少しはなれたところにある、がけ。さいきん見つけた、ぼくのお気に入りの場所。
そこにメズールがやってきた。
ぼくには気づいていないようだった。
「……ふん」
ぽい、となにかを投げた。あかくて、まるいもの。
ぼくはそれを見おぼえがあった。さっき、ガメルがメズールにあげていたリンゴだった。クルクルと回りながら落ちていく――。
メズールがもらったものをすてるはずが、ない。ぼくはそう思った。思おうとした。手をすべらせてしまったんだ、拾いにいってあげないと。
ぼくは、がけからとびおりた。かべをけって、ジグザグのきどうで、りんごをおいかける。ヒュン、ヒュンとかぜの音。
かんいっぱつ、地面にぶつかるすんぜんでぼくはりんごをうけとめる。どうじに、足にちからを入れて着地。足もとが、ミシ、とゆれた。
……そうしてぼくは、がけのそこにたどりついた。たどりついて、しまった。
見るべきでないものを、見てしまった。
「うそ……」
ひどいにおいだった。どろどろでぐちゃぐちゃしたものがあちこちにころがっていた。ぼくはおもわず、てのなかのりんごを見た。ガメルはよく、メズールにたべものをわけていたのだ。
……すごくいやな予感が、した。
次に目にはいったのは、しろくて、まるいもの。これは、前にアンクがメズールにあげたものじゃないだろうか。まり。にんげんたちがけってあそぶおもちゃ。
それから。
あっちにおちている、きいろい、たくさんのかけらはなんだろう。まるで、散った花びらみたいだ。
もしかして。
もしかして――!
「……オマエも見ちまったか」
ふりむくと、赤いつばさ。
「アンク!」
もう何日もどこかに行ったきりの、ぼくのなかまがそこにいた。つばさをはためかせ、ふわりと地面におりたつ。
「メズールのやつは、捨ててやがったんだよ。オレたちの贈り物をな」
そんなわけ、ない。
「この崖の下が何よりの証拠だ。ガメルの食いもの、オレの鞠、オマエの髪飾り――全部ここにあるじゃねえか」
うそだ、うそだうそだうそだ!
「……オレたちは裏切られてるんだよ。メズールにな」
うるさい!
ぼくはとってもがんばったんだ。なのに、メズールがかみかざりをすてるなんて、すてるなんて――!
「カザリ、認めろよ、大人になれ」
うるさいうるさいうるさい!
ぼくは思わずアンクをつきとばしていた。
「おい待て!」
走った。ひたすら走った。アンクのことばなんてききたくなかった。たいようが三回くらいのぼってはしずんだ。それでもぼくは走りつづけた。そうしてどれくらい走っただろう、やがてぼくは、海にたどりついた。
海。あおいろ。メズールのいろ。
(メズールのやつは、捨ててやがったんだよ。オレたちの贈り物をな)
あたまをよぎるのは、バラバラになった、きいろいかみかざり。
ぼくはほえた。
口をおおきくひらいて、なんども、なんども。
目があつかった。むねが苦しかった。前ににんげんの家にはいったときよりもずっとずっと……世界が鮮明に感じられた。ぼくの――ボクの、コアメダルが覚醒した。8枚すべてが、本来の機能を発揮して活動を始めた。全身に力がみなぎってくる。思考がこれまでになくクリアになる。
今やボクは自分が何をすべきなのか理解していた。もっと強くなるために、セルメダルを集めないといけない。
近くを通りかかった男を捕まえた。そいつは飢えた農民だった。セルメダルを入れてヤミーの宿主にしてやった。そいつは食欲の権化と化した。牛や馬、さらには人まで食べて食べて食べまくった。満たされていく欲望。増えていくセルメダル。数日後、ヤミーは赤い頭と黄色い腕と緑色の足をしたやつに倒されてしまった。けれどボクは、莫大な量のセルメダルを得ることに成功していた。
森の中でその数を数えていたときだ。
「気配を感じたから来てみたが、その様子じゃ、覚醒したみたいだな、カザリ」
突然声をかけてきたのは、ウヴァ――ボクと同じグリード。
「セルメダル、ずいぶん稼いだじゃねえか。ま、俺のほうが勝ってるけどな」
ウヴァが抱えた樽の中には、ボクよりもずっと多くのセルメダルが入っていた。
「すみかにもどるんだろ? 一緒に行こうぜ」
ボクは迷った。洞窟にはメズールがいる。まだ気持ちに整理がついていなかった。考えるだけで、ひどくむしゃくしゃする。けれど、けれど、覚醒する前のボクを色々と世話してくれたのもメズールなんだ……。
ウヴァは、どう考えているのだろう。帰るかどうかは、それを聞きだしてからでも遅くないんじゃないか。
「……いや、待てよ、カザリ」
「急にどうしたの、ウヴァ」
「この近くにデカい欲望を持ったヤツの気配がする。……せっかくだ、お前に譲ってやるよ。セルメダル、稼いでこい」
ボクにはそんな気配、感じられないけれど……
「俺は勘が鋭いんだ。東の方角の人里だ。急いで行って来い。お前のセルメダルは、俺が見ておいてやる」
……後になって思い返せば、ボクはどうしてここでウヴァの言葉を素直に信じたりしてしまったのだろう。ウヴァ――すなわち、"奪う"なんだから、ウヴァのやることなんて、決まってるじゃないか。
結局、東の人里には宿主になれそうなヤツはいなかった。ボクが森にもどってくると、ウヴァの姿はもうどこにもなかった。……ボクのセルメダルも、消えていた。近くの木には、ボクたちの文字でこう刻まれていた。
『俺が強くなる手伝いをしてくれて、ありがとよ』
そうしてボクは、騙されたことを知った。二回目の裏切りを経験した。一度目と違って、目は潤まなかったし胸も苦しくならなかった。ただただ、怒りが全身からこみあげてきた。セルメダルのひとつひとつが激しく振動していた。体の奥からこみあげてくる、爆発的なエネルギー。
ボクはそれを解放せずにいられなかった。
咆哮――広がる閃光。
変化は一瞬だった。
森が、消えていた。すべて灰になっていた。ボクの体から放たれた熱がすべてを灼きつくしていた。
「……やっとわかったみたいだな、カザリ」
今や荒野となった森に舞い降りたのは、赤いグリード。アンク。
「メズールもウヴァも、ロクでもないヤツだ。だからオレは、洞窟を出て行ったんだ」
ああ、アンク。キミは正しい。ボクはなんて愚かだったんだろう。あんな連中を仲間と思って今日まで暮らしてきただなんて!
「オレは今からコアメダルを奪いにいく。そうすればオレの方がアイツらより強くなる。アイツらが裏切ることもなくなるだろう。カザリ、オマエは、どうする」
言うまでもなかった。
「一緒にいくよ、アンク。あいつらに報いをあたえるんだ」
* *
ボクたちが洞窟に戻ってきた時、ガメルにメズール、そしてウヴァは洞窟の外にいた。セルメダルを山分けしていた。あの中にはきっと、ボクから奪ったやつも入っているんだ。ウヴァめ……!
「行け、カザリ」
「ああ。後詰めは頼むよ、アンク」
ボクは物影から飛び出した。
「おお、カザリじゃねえか」
ボクからセルメダルを盗んだくせに、悪びれもせず手を振ってくるウヴァ。
「あら、覚醒したのね」
うふ、と笑みを浮かべるメズール。けれどその腹の底で何を考えていることか。
「おー、おれも、かくせいしだぞー」
嬉しそうな声の、ガメル。こいつは何も悪くない……いいや、どうせ今にボクを裏切るに決まってるんだ。ウヴァが"奪う"なら、ガメルは"がめる"なんだから。
お前たち、全員、全員、ただじゃ済まさない。
ボクは力を解放する。すべてを灼きつくす、閃光。
「キャァァァァァァ!!!!」
「ウワァァァァァァ!!!!」
吹っ飛ばされるメズールとガメル。飛び散る無数のセルメダル。その中に混じって、何枚かのコアメダルが見えた。
「カザリ、その調子だ!」
アンクが飛翔してそれを回収する。ボクはウヴァへと躍りかかった。こいつは閃光を耐えきっていた。一枚もメダルを落としていない。
「どういうつもりなんだ、カザリ!」
「セルメダルを奪っておいて、今更!」
ボクは右手の爪を振り下ろす。けれどそれはウヴァの左手の爪に受け止められていた。
「なんのことだ!」
「とぼけるな、ウヴァ! ボクが森に置いていったセルメダル、キミが勝手に持っていたんだろう!」
「あれは、アンクが運ぶって言う話で――」
え、と思った時にはもう、遅かった。
上空から巨大な炎球が降り注いた。
いくつも、いくつも。
「ウォォォォォォ!!!!」
倒れるウヴァ。その身体からコアメダルがこぼれる。
「グゥ……!」
ボクもまた、コアメダルを失っていた。ライオン、トラ、チーター、一枚ずつ。
それを拾い上げる、赤い手――
「カザリ。お前のセルメダルは、しっかりオレが吸収しておいてやったぜ」
アンクはクク、と口の端を釣り上げながら、倒れたボクを見降ろした。
「おおっと、勘違いするなよ。もともと、ウヴァはお前からセルメダルを奪うつもりだったんだからな。東の里にヤミーの宿主になれる人間がいなかったのが何よりの証拠だ」
それでも……アンクがボクをだましていたことには……かわりないじゃないか……!
「感謝するぜ。おかげでかなりのコアメダルを手に入れられた。オレは今からこいつを持ってオーズのところに行く。オレ1人でグリード4人を相手にするのは無茶だが、オーズがいれば別だ。また会おうぜ。その時は、お前たちの最後になるだろうけどな」
そして、アンクは翼をはばたかせ、どこかへ飛び去って行った。
ちくちょう。
アンク、せっかく信じたのに。
アンクだけじゃない、メズールも、ウヴァも、どうしてみんな、みんな、ボクの気持ちを踏みにじるんだ。
同じグリードなのに……!
どうして。
どうしてなんだ。どうして!?
わからない、わからないよ……
うう……
ああ――そうだ。
信用なんかした、ボクの方が、間違っていたんだ。
どうせ、裏切られるんだ。
裏切られる前に、裏切ってしまえばいいんだ。
メズールのように騙して、ウヴァみたいに利用して、アンクみたいに使い捨ててしまえばいいんだ。
なんだ、簡単な話じゃないか。
そうやって、完全体を目指せばいいんだ。
世界を食らいつくしてしまえば、もう、この世のどこにもボクにひどいことをするヤツはいない。
誰にも裏切られない、そんな素敵な場所が生まれるんだ。
あはは。
さっきまで悩んでいたのが、バカみたいだ。
そうときまれば、さっさと動かないと。
まずは、コアメダルを取り返そう。メズール・ガメル・ウヴァと仲直り(のふり)をして、アンクを追いかけるんだ。
さあ、ボク。
やるべきことがわかったなら、動くんだ。
ボクの場所を、つくるために――!
説明 | ||
グリードが生まれてすぐのころ(800年前?)のはなしです。カザリ視点。44話みてからずーっとカザリのことをかんがえてて、そこでおもいついたことをSSにしてみました。どうして他のグリードをだまそうとしたのかな、とか、どうしてアンクに待てといわれて素直に待ってたんだろう、とか。あと、ねこの王様だから、ほんとうはさみしがりやなのかな、とか。 | ||
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