博麗の終 その-2 |
【事の起こり】
ある日のこと。
わかりやすく言うならば、博麗霊夢が成長して、女子ならば子を為そうかと考えるような年に差し掛かったあたりの秋。そのごくありきたりな平凡すぎる一日の始まりに、博麗霊夢がいきなり私の家までやってきた。
どうと言うことの無いように思うかもしれないけれど、この私が一瞬ではあるけれど驚愕で身動きが出来なくなったと告白すれば、どれほどの事態なのかをおぼろげにでも感じ取って頂けるだろう。
厳密に言ってしまえば、私の家の所在などあるものでなし。道半ばのマヨイガあたりまでは来たことがあったと記憶しているけれど、それはあくまで異変解決における博霊の巫女の力を遺憾なく発揮した結果のこと。
博麗霊夢は、日常生活において私の住処を探り当てるなどという澄み切った勘を使いこなせるような人物ではない。
……いえ。そういう人物に『なれなかった』と表現するべきか。
その在り方が災いして、才を磨き切ること無く年を経てしまった天才。私が目をかけていた霊夢は、導いた方向へなど進んではくれなかった。だからもう、私の所へ来ることなど出来はしない……はずだった。
「紫、探したわ」
ハァハァと、聞こえる呼吸音。
不可能なことではあるけれど、道筋さえわかれば飛んで来ればいいのだから疲れなど些細なもの。なのにここまで疲れ果てていると言うことは、何かしらの大きな術を行使することでここへの道を繋げたか。それとも精神を無理やり極限状態まで緊張させることで緊急時のような勘を……いやそれは無理か。
対象が定まっていない異変のような状況ならば勘で道を辿る術も有効だが、決定された対象へ自分から向かう場合は勘などで道を結べるはずが無い。無数の道から一を選び出すことは出来ても、一に対しての道筋を明らかにするのは勘の役目ではないのだから。
誰もが勘で知人の家に向かいはしない。必ず知識で向かう。知らなければ教えてもらう。そうでなければ行こうとしない。この常識を逆手にとって存在するのが私の家なのだから、意識すればするほどに遠のいてしまう。
つまり勘で私の家に辿りつこうとすれば『無限大の可能性から無意識レベルで選び難いよう仕組まれた選択肢を正解し続ける』ことが必要になる。それは他のどんな方法よりも困難、となる。
ごく単純に言えば。
目をつぶって歩いていた方が、ずっと可能性は高い。
「あら、よくここがわかったわね」
……いつも通り笑えているかどうか、あまり自信が無い。
「本気を出したわ。初めて」
博麗霊夢が、本気?
まったく。自分で異変でも起こすつもり?
「博麗霊夢の本気、ねぇ。それは見てみたかったわ」
本当に。出来ればあの頃、伸び盛りのあの時に。
「成れの果てならいくらでもどうぞ。しかしまさか夜が明けるなんて、私の底も知れたわね」
それは、どうだろう。
「たどり着けるだけ立派なものよ。いったいいつ頃出たの?夕食後?寝る前かしら?」
本当は「三日前?」とか言ってやりたいところだけど、それでも無茶苦茶なのだけれど。本気の博麗霊夢なら何があっても不思議では
「馬鹿言わないで。落ちぶれたけれどそこまでじゃないわ。目覚めてすぐよ。少し薄暗くなってたかな。太陽と競争のつもりだったのだけど、全力で飛ばしても道がわからないんだから仕方ないわね」
!!
「嘘」
愛用の傘が、手から滑り落ちた。
「こんなことで嘘ついてどうするのよ。あー疲れた」
ありえない。
ありえない、ありえないありえない、
ありえないありえないありえない。
ちょっと待ってっ!
「……まあ、いいわ。とりあえず部屋を用意するから待っていなさいな」
くるりと振り返り、スキマを開こうとして、やめた。久しぶりに扉を使って家に入った。なぜだか今のあの子の前で力を使いたくなかったのだ。
ガタガタと、不自然に大きな音がする。
もう何十年もこの扉を使っていないのだから、当たり前か……
霊夢は、藍よりも遥かに早かった。私は速さに興味が無いから比較にならないけれど、あの藍より早い人間なんていてはならない。九尾の狐を式化、命令して全力以上にした藍より早いなんてありえない。それに、当たり前だけれど、当たり前すぎて考えたくも無いけれど、
藍は道を知っているのよ?
私は冷静になるまでの短い時間を取るために、めったに使われない茶の間へと案内した。
「それで、どうしたのよ」
「ええ。言い難いのだけれど、単刀直入に言うわ」
「そうお願いしたいわね」
でないと、今日の霊夢に感じている緊張を隠しきれないかもしれないから。
「詰まらないことよ。本当に詰まらないことなんだけどさ。今日一日だけ、何も言わないで私と一緒にいてくれない?」
「は?」
「それ以上はこちらからもお断りなんだけど」
意味が、わからなかった。
説明 | ||
東方の二次創作に挑戦してみます。 幻想郷に危機が訪れる話です。 注)タイトルが紛らわしいですが、シリーズの第一話です |
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