ヒロシゲ |
???ごとん、ごとんと。何処か心地よい振動に身を任せ、少女二人は東京へと向かう。
窓から見える景色は、とても綺麗な、青くて白い富士山が映っていて。
周りには、木々が秋を知らせるように葉を紅く染めていた。
「…しかし、どうしてこう、乗り物の振動というのは心地よいものなのかしら」
黒髪の少女が、窓際に肘をつけて、手のひらに顔を乗せながら窓に映る景色を眺めてそう一言。
「…さぁてね。まだ生まれる前、母親の胎内に居た時と同じ感じがするからじゃないの?」
「そう言われると納得できそうで微妙に納得できないわね」
「ま、そんな考える必要も無いんじゃなくて?」
「…それもそうね」
窓から映る景色は、ずっと変わらずに富士山を映し出している。
この景色は、本当の景色ではない。カレイドスクリーンに映った模作…模作の富士山。
何時か見た本物の富士山は、こんなに綺麗ではなく少し暈けているように見えた。
それは空気が汚れているからだろうか、それとも富士山自体が汚れてしまったのか。
…そんな事を、黒髪の少女は思う。
「…この富士山も綺麗な事は綺麗だけど、ずっと変わらないと見飽きるわね」
「だからと言って本物を見る気になるの?」
「ならないわね」
ごとん、ごとんと。その心地の良い振動に身を任せ、少女二人は目的地に到着するのを待つ。
「後、何分位で着くかしらね」
「そうね…53分で到着するから…もう20分位は経ってるはず…」
「後30分ってところ?」
「ぐらいじゃない?」
「やれやれ。その30分もの間、暇な時間が続くわけね」
「それって、私が話し相手じゃつまらないって事?」
「別にそう言うわけじゃないけど」
黒髪の少女はぐっと背伸びをして、立ち上がる。
「んー…」
「どうかした?」
「暇だから飲み物でも買ってくる。何か要る?」
「そうね…缶コーヒーがいいかしら」
「じゃ、お金頂戴」
「ツケにしといて」
「…嫌な友人を持ったものだわ。我ながら」
プシューという、空気が抜けるような音がして扉が開く。
どことなくレトロな雰囲気を醸し出しているこの列車だが、中身は中々高性能らしい。
53分で京都-東京間を走れるが、実際はもっと走れるとの事。
だけど、あえて53分で着くように調節されているのは、何か意味があるのだろう。
「…しかし、53分も同じ景色を見せられるというのは、どうもねぇ」
プシューという音がして、扉から二つの缶を持って現れる黒髪の少女。
「ほら、買ってきたわよ」
「ありがと」
「ちゃんと後で払いなさいよ」
金髪の少女の横に再び座ると、缶のプルタブに爪を引っかけて開ける。
くっと一口飲んで、ため息まじりに一言。
「あーあ…暇ね」
「じゃあ今回の活動予定でも話し合う?」
「もう十分話し合ったじゃない」
「…ま、それもそうね」
沈黙。金髪の少女も、プルタブに爪を引っかけて開ける。
カシュ、という音が、ごとん、ごとんと鳴る車両の中に響いた。
「…」
「…」
「…」
「…?」
ふと、横を見ると、黒髪の少女は目をつむっていた。
この心地よい振動にやられたのか。暇にやられたのか。
少女は、静かな寝息を立てて眠っていた。
「…ま、後30分もあるんだし、いっか」
???ごとん、ごとんと、ヒロシゲは走り続ける。
「さて。蓮子。そろそろ起きる時間よ」
「ん…もう着いたの?」
「そろそろ着くから、起きてもらってた方が色々と楽なの」
「そ。…しかし、大学生になって二回目の東京、か」
カレイドスクリーンに映った富士は段々と小さくなり、周りが暗くなっていく。
旅の終わりを告げるかのように、窓の景色に文字が映る。
「やれやれ…長い時間座ってると腰が痛いわ」
「爺臭いわねぇ。蓮子ったら」
ヒロシゲが止まったのを確認すると、二人は立ち上がり出口に向かう。
二人が出た後、何分後かにピリリリリリリという音を立てて、ヒロシゲは再び走り始める。
「さて。とりあえずは私の実家に行きますか」
「その後、秘封倶楽部の活動って訳ね」
「2泊3日の楽しい倶楽部活動よ」
「個人的にはあまり気が乗らないんだけどなぁ」
「ま、我が家だと思ってくつろげば良いわ」
「そっちじゃないて、活動。まぁ、いいわ。行きましょうか」
「ええ、行きましょう。メリー」
二人は、舗装された道をゆっくりと歩み始める。
説明 | ||
一応秘封倶楽部の二次創作。 過去作に手を加えて多少違和感無くしたもの。 |
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