真・恋姫†無双〜愛雛恋華伝〜 36:【漢朝回天】 岐路 (修正版)
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◆真・恋姫†無双〜愛雛恋華伝〜

 

36:【漢朝回天】 岐路

 

 

 

 

 

宮廷内部は混乱の極みにあった。

 

近衛軍将兵の突入。

慌てた宦官外戚ら、殊に後ろ暗いところを持つ者たちの逃走。

そんな輩を取り押さえんと、先読みするかのように配置された兵たち。

 

曹操袁紹らの突入組を囮として、賈駆鳳灯が指揮を取る待ち伏せ組が制圧を行う。

その包囲網から逃れた者は、突入組による探索によって虱潰しに押さえられる。

どうにか宮廷を脱出出来たとしても、そこから先は孫堅が指揮する警護の網が張られている。

逃がしはしない。そんな思いを形にしたかのような布陣に、宦官外戚らはひたすら逃げ惑うばかりだった。

 

 

 

逃げる輩ばかりでもない。中には立ち向かってくる者もいる。

特に顕著だったのは、軍部に属する、外戚派の高官たち。

近衛兵に追われるようにではあるが、彼らの多くは宮廷の最奥部へと向かった。

このままでは無残に殺されてしまう、ならば劉弁劉協を人質にして逃げおおせよう。そう目論んでの行動だ。

その面々には軍部の人間のみならず、宦官までもが混じっていた。

 

次期皇帝候補の身柄を狙っての襲撃。近衛軍側とて、そういった行動を予測していないはずもない。

宮廷最奥部に避難した次期皇帝候補を護衛する、そのために宛がわれた武将は三人。華祐、公孫?、公孫越。

程度の差はあるものの名の知れた将が兵を率い、揃って守りについているのだ。私利私欲を満たすことばかりに熱心な輩が、日々自己鍛錬を行うに貪欲な武将と相対してなにが出来ようか。

なにも出来ない、出来るわけがない。

危機意識の違いか、素地の違いか、はたまたその両方か。幾度か表れた集団を、近衛軍側は大した労もなく打ち破っている。

数人の集まり、果ては百人に届こうかという一団までが現れた。だがその練度は総じて高くもなく。武才をもってかかって来るならばともかく、この期に及んで、地位を根拠に居丈高に接してくる者さえいた。

そんな輩を相手にしながら、公孫?などはついつい呆れてしまう。結託して一度にかかってくれば少しは違っていたかもしれないだろうに、と。

襲撃といっても、そんな考えに駆られてしまう程度の、苦にもならないものであった。

 

質があまり高くはなかったとはいえ、やろうとしていたことは立派な造反である。

次期皇帝候補を拐かそうとしたのだ。死罪に値するといわれても反論は許されない。事実、襲撃した面々の大多数は近衛軍将兵らの手によって斬り捨てられた。

ここで慈悲を出せば、後々よからぬことになりかねない。人死にを望まない董卓であっても、それは十分に理解している。

命乞いをし、武器を捨て、捕縛したとしても、寿命が少しばかり延びるだけ。許してもいずれまた害になる、この場に現れた以上は全員処断すべし、というのが、董卓と張譲、そしてこの場にはいない賈駆と鳳灯の判断である。その命を受け、華祐、公孫?、公孫越を始めとした近衛将兵らは、襲ってくる一団に対して容赦のない対応を徹底して布いていた。

 

宮廷内を血で汚せない。その意識はこの場を護衛する者たちにも共通したもの。

だがそれ以上に優先されることは、劉弁劉協の安全であり、また将来に禍根を残すであろう者の排除である。

神聖とはいっても、宮廷たる王城はしょせん建物。壊れても直せばそれで済む。だが劉弁と劉協を失うことは、霊帝亡き今、すなわち漢王朝の終わりを意味するのだ。どちらが重要かなど、わざわざ問うまでもない。

 

そうなれば当然、護衛に立つ近衛軍将兵らは遠慮も躊躇いも手加減もしない。全力をもって、襲い掛かってくる宦官外戚の兵たちを処断する。

先にも触れた通り、これらはさしたる労を感じることなく行われている。事切れた躯は放置することなく片付けられ、重症軽症を問わず戦意を失った者に関しても、拘束した上で治療を施し別所に軟禁する。その繰り返し。近衛軍の兵たちは、さすがに無傷の者はいないものの死者が出ることもなく、淡々と警護の任を全うしていた。

 

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そんな宮廷最奥部から離れた、ある一室。

曹操袁紹の突入よりも前に、宮廷内あらゆる場所に将兵を布き、効率よく制圧を行うべく指揮を取っていた賈駆と鳳灯。

彼女らは逐一報告を受けながら現状を把握し、ひとまず一区切りついたと判断した。

 

宦官外戚共に、反抗してきた者に関しては極力捕縛している。もちろんそれは、殺したくないといった理由から来たものではない。

逸早く逃げ出そうとするということ、それはすなわち後ろ暗いところがあるということだ。

叩けば埃の出る身を、"公平に"法の下で裁き これまでの腐敗振りを表に曝け出す。その上で罰を与え処断することで、同じことをすれば以後どうなるかを自覚させる。

殺さない理由の一番大きなものは、そこにある。

 

「でも肝心の十常侍が捕まらないのよね。しぶといわ」

「権謀術数飛び交う宮廷で出世したのは伊達ではない、ということでしょうか」

「逃げ足と悪巧みばかり有能、ってのは勘弁してほしいわね」

 

大枠では収束しつつあるものの、肝心なところが押さえ切れていない。そのことに賈駆は苛立ち、鳳灯はまぁまぁと宥める。

 

十常侍と呼ばれる者は、全員で十二人。近衛側についている張譲を除いた残りの十一人の内、捕縛が確認されているのはわずか三人。更に二人は斬殺されたと報告が来ている。

それでもまだ、半数が残っている。

兵数はともかく、質では明らかに勝っている近衛軍将兵らの包囲網。その中を、十常侍は未だ逃げ切っているのだ。しぶといだろうと予測はしていたにしても、賈駆のように愚痴がこぼれてしまうのも無理はない。一方で鳳灯などは、彼らが持つ逃げ足の巧みさを目の当たりにして素直に感心していたりする。

 

「さすがに、全員捕縛というのは難しいでしょうね。袁紹さんも曹操さんも、理屈では分かっていても斬ってしまいそうですし」

「まだ三人しか捕まえてない。せめてあと三人、生かしたたまま捕まえたいわね」

「事前に処断した数の方が多い、というのは避けたいですからね。外聞を考えても」

 

近衛軍に都合の悪い人間はすべて斬り殺したのだ、などと思い込まれることは避けたい。

大義名分としても実益としても、近衛軍の方に理がある。だがそれでも、十常侍らがこれまで漢王朝の中枢を動かしていたことは事実。実質はどうだたにせよ、それを一方的に処断しては、漢王朝の屋台骨から崩れてしまい、要らぬ混乱を呼んでしまう。

だからこそ、段階を踏んで糾弾し、罪を罪として広く晒し、罰を与え、漢王朝の再構成再構築の過程を認知させる。

証拠は既に出揃っており、あとは当人の口から言質を取るだけ。

その多くは死罪を免れないが、それこそ自業自得といえる。

曲がりなりにも新しい漢王朝の礎になれるのだからむしろ感謝しろ、というのが、曹操、賈駆、張譲の主張だ。

それを聞いたとき、董卓と鳳灯は乾いた笑みを浮かべることしか出来なかった。

 

 

 

あれこれ会話を交わしていたふたり。突然、彼女らのもとに伝令兵が飛び込んできた。その内容に、賈駆と鳳灯はさすがに慌てる。

 

宮廷奥にて火災が発生。

曰く、火をつけたのは錯乱した宦官のひとり。

曹操と袁紹は既に事態を察知し、配下の兵を消火作業に回した。

だが既に火の手は大きくなっており、完全に消すのは難しいだろうと判断。

劉弁劉協を宮廷から逃がすべく、董卓の下へ向かっているらしい。

 

「手に入らないのなら燃やしてしまえ、ってことかしら」

「追い詰められた末のことなら、やりかねませんね」

「ふんっ、自業自得よ」

「そのいい方だと、宮廷が燃え出したのは自業自得だって聞こえますよ?」

「そんな意味でいったんじゃないわよ!」

「分かってますよもちろん」

「……鳳灯」

「はい?」

「……もういいわ」

 

こめかみに指をやりながら、賈駆はそれ以上いい募るのを止めた。詰まらない言い合いなどしている暇はない。

どこか捩れたようないい回しをする鳳灯に疲れた、というのもあるが。それは賈駆の胸の内にしまっておく。

 

「とにかく。私たちも月と合流しましょう」

 

宮廷内にいれば火の手に巻き込まれかねない。だが、曹操と袁紹のふたりともが董卓の下へ向かっているということ。

ということは、宮廷最奥部とはいえそこまで火が回るまでは時間があるということなのだろう。

賈駆はそう判断する。

外への伝令、そして消火作業への対処などを指示しつつ。ふたりもまた、董卓の下へと向かい駆け出した。

 

 

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劉弁と劉協が避難していた宮廷最奥部。宮廷内での行動に係わった将が、全員集まった。

それぞれが現状の報告をし、把握。そしてこれからの行動を具体的にしていく。

火の手は待ってくれない。

とはいえ、制限時間はあるものの、幸いいくらかはまだ余裕がある。

 

「まず劉弁様、劉協様を宮廷の外へお連れして。お二人の無事、それがなによりも最優先」

「あと、宮中にいる人たちの避難と、消火、だね。

消火が難しそうなら、無理はしないで放棄した方がいいと思う」

「建物は建て直せば済みますからね。

むしろ火元周辺のものをあらかじめ壊しておけば、火の広がりは抑えられませんか?」

「なら、それを踏まえて外で指揮をとる必要があるわね。孫堅たちとも連絡を取って、場合によっては民を避難させないと」

「では必要な役目を振り分け、手分けいたしましょう」

 

手早く役割を決め、兵を振り分ける。

 

劉弁劉協らを王城外まで護衛する組。これに董卓、袁紹、公孫越が。

宮廷外の面々を取りまとめ民の混乱を抑える組。これに賈駆に張遼、公孫?が向かう。

そして、宮中に残った者の捜索と、消火を指揮する組。これには曹操に夏侯惇夏侯淵、鳳灯に華祐が当たる。

 

大きくこの三組に分けられた。

宮廷内の捜索及び消火活動。これには広い範囲で対処に当たる必要があり、人手が必要であるのと同様に指揮を執ることが出来る者が必須。

宮廷外へ急ぐ組も、内部の状況と火の回りを把握した上で、洛陽中の民や兵に指示を出さなければならない。

もちろん、未だ宦官や外戚らが何処に隠れているかもわからない。

この状況では、ただ宮廷外へ脱出するだけであっても、劉弁劉協に対してそれなり以上の護衛が必要だろう。

将兵らの振り分けは、こういった面を考慮した上で行われた。

 

「時間が惜しいわ。行くわよ、春蘭、秋蘭」

「はっ、お任せください!」

「姉者。頼むから火の中に飛び込んだりしてくれるなよ」

「秋蘭、わたしがそこまで馬鹿に見えるか?」

「春蘭。お願いだから馬鹿な真似はしないでね?」

「そんな、華琳さままでぇ〜〜〜っ」

 

相変わらずのやり取りを交わしつつ、曹操らはこの場を離れていく。

 

「切羽詰った状況とはとても思えんな」

「まぁ、悲壮感に囚われているよりはいいんじゃないでしょうか」

 

華祐と鳳灯は苦笑を漏らしつつ、曹操らの後を追いかけた。宛がわれた兵も、それぞれの後を追い移動を始める。

 

「さて。それじゃあボクたちは先に外に向かいましょう」

「せやな、ウチらも急がんと。

白蓮、ウチは馬に乗ってなくても神速やでぇ。追いつけるか?」

「いやちょっと待て。競争だ、みたいなそのいい方はなんだ。そんな場合じゃないだろ」

「グズグズいうなや、ほな行くでー」

「しあーっ! あぁもう、公孫?、悪いけどあのバカ追いかけて殴ってやって!!

それと、月! ボクたちは先に行くけど気をつけなさいよ」

 

張遼が駆け出し、それを公孫?が追う。怒鳴り声を上げながらも、賈駆は、後に残る董卓を心配する。

 

「それでは、劉弁様、劉協様。私たちは先行させていただきます。

袁紹、公孫越、頼んだわよ」

 

最後に、言葉を改め、賈駆は全員を代表して劉弁と劉協に礼をしつつ。周囲の面々にも声をかけ、護衛の者たちと共に駆けていった。

 

「それでは、私たちも参りましょう。

急ぐ必要はありますが、焦らなくとも大丈夫です」

「問題ありませんわ。いざとなれば、わたくしがおふたりを抱えて走りますわよ」

「……あの、麗羽さん? さすがにそれは失礼なのでは」

「越さん、緊急事態というものですわ」

「……そういうものでしょうか」

「越ちゃん、場合が場合だから。そう考え込まなくていいよ?」

 

公孫越の肩を叩きながら、董卓は声をかけ。後ろから見えないように、背後を指差す。

見てみれば、劉弁と劉協のふたりは、なにやら愉快そうに笑みを浮かべている。張譲や董太后らも同様に、その表情は柔らかいものだった。

雛里さんのいう通り、悲壮感がない分だけいい傾向なのかな、などと考える。

そして知らず、釣られるようにして笑みを浮かべてしまう公孫越だった。

 

 

 

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漢王朝の政すべてを取り仕切る宮廷。洛陽の町に永く存在し続け、華美を極めたその王城は、この日、宦官一派の放火によって半焼した。

幸いにも、火の手は宮廷から外に広がることはなく、洛陽の町への延焼だけは免れた。

とはいえ、火災の規模はこれまでの記録にないほどのものとなった。

それでも半焼で済んだのは、宮中を駆け回った数多の近衛軍将兵らの尽力ゆえだろう。

 

殊に、焼死者の数は驚くほど少なく済んだ。火災の規模を考えると、これは奇跡的な数字といってもいい。

鳳灯はまず、先だっての制圧戦により捕らえた者たちをすべて自由にし開放した。状況を説明した上で、近衛兵の指示による地力での避難を促したのだ。

宮廷を出てしまえば逃げ出すのではないか、という懸念もあった。そこで、素直に戻れば罪の減一等を保証し、逃亡した場合は即斬首、といい含めた上で捕縛を解いた。

これによって捕縛者に関わる人員を最低限まで減らすことが出来、それ以外の理由で王城内に残っていた面々の救出に当てることが可能となった。

独断での行動ではあったが、その結果が焼死者数の数字となって現れている。董卓も曹操も、彼女の判断に文句をつけることもなかった。

 

だが、いいことばかりでもない。

この制圧戦において、最重要とされたのは十常侍の捕縛。

十一人の十常侍の内、最終的に身柄を確保出来たのはわずかに五人。死亡が確認されたのは三人、そして行方不明の者が三人となった。

状況から責めることは出来ないとはいえ、三人も逃がしてしまった事実に誰もが顔をしかめる。

ことに袁紹は、誰よりも不機嫌さを顕わにし微塵も隠そうとはしなかった。もっとも、それを理由に鳳灯に当たるなどといった"華麗でない"行動には出なかったけれども。

 

袁紹は、「討伐隊を編成し追っ手をかけるべき」と主張する。

捕縛出来るかはともかくとして、生死の確認だけはしておかなければならないだろう。鳳灯もそう考えていた。

ひょっとすると、火に巻かれて確認できないまま死んだのかもしれない。だがそれは余りに楽観した考えだろう。

捕らえ損ねた十常侍の探索と捕縛。その提案はあっさりと認められ、早々に組まれた討伐隊は洛陽内外に散っていくことになる。

 

「袁紹さん、ご自身で指揮を執りますか?」

「……いいえ、鳳灯さんにお任せしますわ。少し、頭に血が上ってしまいましたわね」

 

優雅さに足りませんでしたわ、と、袁紹は先ほどまでの自身を省みて視線を逸らす。

そんな彼女の内心に気付かない振りをしつつ。

 

「それにしても、よく逃げ出せたものよね」

「ふん、生き汚さだけは大したものよね」

 

曹操と賈駆は、感心半分呆れ半分、といった言葉を漏らす。

 

「ただでさえ必死に身を隠していた輩ですもの。火事のどさくさにまんまと逃げ果せた、といったところなのでしょう」

 

わたくしの捜索にも尻尾を見せなかったのですから、と、袁紹は再び憮然とした表情を見せる。

どれだけ人を割き万全を尽くしても、漏れてしまうものは大なり小なりある。今回はそれが、無視することの難しい部分に現れてしまっただけなのだ。

などと思いつつも、取り逃がしてしまったことに対して、鳳灯もまた同じように憮然としてしまうのもまた事実。

 

「予測していたことではあるんですけど、実際に逃がしたと分かると」

「面白くない?」

「ですね」

 

鳳灯の直線的ないい様に、曹操と賈駆は苦笑を禁じえない。

 

「以前から思っていたのだけれど。鳳灯、貴女、かなり歯に衣着せない物言いをするわよね?」

「……そうですか?」

「……アンタ、自覚なかったの?」

 

曹操の言葉に、素で疑問を返す鳳灯。そんな彼女を見て、賈駆は本気で頭を抱え込んだ。

 

「どうかしましたか? 賈駆さん」

「……なんでもないわよ」

「賈駆、貴女もそのうち"コレ"に慣れてくるんじゃないかしら?」

「アンタのところの姉妹と一緒にしないで」

 

なにやらいい合う曹操と賈駆に、可愛らしく首を傾げる鳳灯。

訳の分からない雰囲気を醸し出す場に、袁紹は手を叩き切り替えて見せた。

 

「そういったお馬鹿な話は、現状を収めてからになさいな。

行きますわよ、最後の締めですわ」

「はいはい、分かってるわよ」

「袁紹に窘められるとは思わなかったわ……」

「なんですの、その言い草は」

「あわ、そういきり立つようなことじゃありませんから落ち着いて」

「鳳灯、事の発端がなに他人事みたいにいってるのよ」

「え、そうなんですか?」

「……いいかげんに行くわよ、貴女たち」

 

裏側では、こんなグダグダしたやり取りを交わしつつも。

やるべきこと、締めるべきところはしっかりする。

 

彼女らはこの制圧劇を終わらせるべく、洛陽の民の前へと向かっていった。

 

 

 

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劉弁に劉協、そして洛陽の町。

多少の混乱と懸念点はあっても、概ね無事に済んだということに、誰もが胸を撫で下ろした。

近衛軍の将らは特に、その想いもひとしおだった。不測の事態だったとはいえ、自分たちの行動が切っ掛けで、洛陽が火の海になりかけたのだから無理もない。

 

火の手が上がる最前列で、鎮火の指揮を執る曹操。その手足となって兵を動かす夏侯惇と夏侯淵。

また王城の外で、不意の事態や混乱に備えた賈駆。彼女の指示に従い、洛陽中を対処に駆け回った張遼、公孫?、公孫越に趙雲。

逃げ遅れた者たちを立場問わず退避させるべく、指示を出し檄を飛ばし続けた鳳灯と華祐。

近衛軍の包囲を掻い潜り逃走を図った宦官外戚らを抑え込み、不要な混乱を事前に潰すべく動いてみせた呂布、陳宮、華雄。そして袁術に張勲、孫堅。

そして、劉弁と劉協を無事に退避させた後、ふたりの無事を伝え、宦官外戚らの暴政を声高に弾劾してみせた、董卓、袁紹。

 

火の手が上がる朝廷を遠巻きに眺める民は、そんな近衛軍の働きを目の当たりにしていた。

立場の違いという意味では、遥かに高い地位にある将軍たち。そんな人たちが、民と同じ目線で立ち回り、民を守ろうと奔走している。

その姿は、長く洛陽に住む民でさえ初めて見る光景だった。

上に立つ者が、民のために働く。当たり前といえばこれほど当たり前のことに対して、奇異さを感じさせる。

その一事をもって、大多数の官職らがどれだけ利己的な考えの下に動いていたか、窺い知れるというものだろう。

 

 

 

半焼し、半壊した、朝廷王城。その目前に広がる空間に、近衛軍将兵が一堂に会して立ち並ぶ。

普段ならばお目にかかることもないだろうその光景に、洛陽の民は目を向けずにはいられなかった。

更に、向けられた視線の先、上。目に入った人物が誰なのかを、刹那、誰もが理解するに至らなかった。

 

次期皇帝たる小帝弁、その妹たる劉協らが、自ら民の前に姿を見せたのだ。

その脇を固めるように、董卓や賈駆、張譲といった文官勢が背後に従い、臣下の礼を取る。

 

破損を逃れた、宮廷外部から突き出た露台越し、さらに離れた場所ゆえに、その姿をはっきりと認めることは難しい。だが帝位に就こうという人物が自ら、民の前に姿を現すということはまずもってありえない。少なくとも、このとき洛陽に住む者の中で、小帝らを初め前皇帝の霊帝の姿さえ見た者は皆無だった。

 

その立ち姿に向け、近衛軍の将らが揃って臣下の礼を取る。後を追い従うかのように、配下の兵たちも一斉に臣下の礼を取った。

臣従。言葉にすれば簡単なもの。

だが形として成されたそれは、見る者に峻厳たる思いを感じさせるかのような空気を生み出していた。

洛陽の町全体に、一種儀式めいた静けさが広がる。身動ぎすることもなく、誰もがその中へと浸されていく。

 

いつしか、小帝弁と劉協の姿は消え、近衛軍将兵らは臣下の礼を解いていた。

その一歩先に、曹操が足を進め。

洛陽の民に向けて言葉を紡ぐ。

 

すべてがすぐに良くなるわけではない。すぐに生活が楽になるわけではない。

しかし、少しずつ、洛陽のみならずすべての民が、漢王朝という大樹の下に平穏な生活を紡いでいけるよう、我々は努力する。

 

曹操の、いや、それは近衛軍としての言葉。

民を蔑ろにしないという、改めて口にされた臨む姿。

これからの漢王朝を新しく、平穏と利潤を民の間に敷いていけるよう宣言する。

 

同時に、居並ぶ将兵が立ち居を改める。

僅かな動き。それに伴い生まれたのは、身を包む甲冑が重なる音と、各々が地を踏みしめる音。

だが千に届こうかという兵たちの規則的な動きが、乱れのない音の波となって周囲を包み込んだ。

徒な威圧ではない。いうなれば決意であろうか、そんな思いの籠められた動きが、新たな静寂と、確かな熱を生む。

 

彼女らの言葉、働き、そして熱意。

それらのひとつひとつをつぶさに見た洛陽の民は、声の限りに鬨を上げた。

具体的に、目に見える形で民の気持ちを汲む、という輩がこれまで皆無だったという事実もあるのだろう。

これまでとは違う、なにかが変わる、といった予感のようなものが、人々に声を上げさせたのかもしれない。

民の誰もが、連鎖するかのように、その胸のうちに広がる熱さのようなものを感じていた。

 

この日、洛陽の至るところから絶えず歓声が上がり続けた。

 

 

 

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周囲の高揚と相反するかのように、鳳灯は努めて、冷静に動静を見つめている。

彼女は思い出せる限りの"天の知識"を動員させつつ、今この世の中がどう動いていくのかを思索していた。

 

此度の制圧劇。見る者によっては、これは漢王朝の崩落そのものにも見えただろう。

官職にあるものを初めとして、洛陽に住む一般の民の心にも、宮廷の半焼は衝撃を与えている。事実、火に巻かれることは免れたとはいえ、人々の間に起こる混乱は小さいものではなかった。その混乱を放置すれば、さらに大きな災厄となって広がっていきかねない。

宦官外戚らを押さえた近衛軍にとって、まずやるべきは民の慰撫。そのために、劉弁劉協の安全を確保した後、洛陽全体の動揺を抑えるべく、趣向を凝らし敢えて派手に行動して見せた。

 

霊帝の崩御、その後の権力争い、腐敗した宦官外戚らの排斥。これだけのことが立て続けに起これば、民はおろか朝廷内部でさえ混乱する。上層部が乱れれば、その不穏な空気はそのまま民の間にも伝わっていく。

だからこそ、上層部に混乱はない、心配することなど微塵もない、と、民に印象付けるべく行動した。徹頭徹尾、民の眼に触れるように行動し、仰々しく寸劇じみたことまでやってのけたのだ。

お上に対して不安がなければ、民は案外平穏でいられる。規模は違えど、鳳灯は既に幽州で経験済みだ。政も、落ち着いて対処していけばなんとかなるだろうと思っていた。

賈駆や董卓、曹操袁紹ら各将とも、不安に駆られて突飛な行動を起こすような輩は現れないだろうと推察するに至り、同意の下に実行に移された。

 

 

 

一方で、現状、鳳灯が抱えていた一番の懸念点。それは袁紹である。

 

この世界へと流れ着き、今、"鳳灯"として動く指針はひとつ。「無駄な戦を起こさないこと」。

まず彼女は、反董卓連合の結成阻止を目的として洛陽に乗り込んだ。その中で様々な伝を得、反董卓連合の起こる火種を事前に摘み取るべく奔走した。

その甲斐あって、権力争いが不毛なほどに激化することは抑えられた。結果的に、人死にを極力出さずに収められたと思っている。

そしてなにより、連合が組まれる中心人物である袁紹を味方に引き込んで行動することが出来た。傍で共にいた感触から見るに、鳳灯には、近衛軍の面々と相反するような気配を袁紹に感じることは出来ないでいた。普通に考えれば、現状から、反董卓連合のような展開は起こらないという結論が出るだろう。

 

それでも、鳳灯は不安を拭いきれない。

世界を超え逆行するという、ありえない経験をしてしまったがゆえだろうか。

歴史という奔流が、たかが数人の異分子が足掻いた程度で変わるのか? 

彼女は疑問に思い、そこから離れることが出来ないでいる。

 

気にかかるのは、袁紹なのか。はたまたその以外のなにかなのか。

 

……これより世の中はどう流れていくのだろう。

記憶にある歴史の流れに沿うのか、はたまた望んだ通りに変わっていくのか。

沸き立つ洛陽の町のなかで、独り、鳳灯は思い悩み続けていた。

 

 

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・あとがき

数少ない待っていた方々、そして大多数の待っていなかった方々も、ご無沙汰しております。

 

槇村です。御機嫌如何。

 

 

 

 

 

削除した話を書き直している内に一ヶ月が経過しました。

やっとこさ続きを拵えたのですが、超・方向転換です。

 

槇村の中では、ベクトルそのものはさほど変わっていないので。なんとか辻褄を合わせていこうと思います。

 

麗羽さんが動く理由が薄い、というのがどうしても無視できなくなってしまって。

もう少し、いろいろ積み重ねく必要があると。そう思った次第。

 

そのお陰で、いろいろ潰れたネタもありますが。

まぁ、その辺りは別のところで転用するつもりではいますけれども。

 

とりあえず、今月中にもう一回更新出来るように書き進めます。

 

 

 

 

 

それにしても、しばらく見ない内にずいぶん様変わりしましたねぇ、TINAMI。

びっくりしました。

 

説明
TINAMIよ、私は帰ってきた!!

槇村です。御機嫌如何。



これは『真・恋姫無双』の二次創作小説(SS)です。
『萌将伝』に関連する4人をフィーチャーしたお話。
簡単にいうと、愛紗・雛里・恋・華雄の四人が外史に跳ばされてさぁ大変、というストーリー。
ちなみに作中の彼女たちは偽名を使って世を忍んでいます。漢字の間違いじゃないのでよろしく。(七話参照のこと)

感想・ご意見及びご批評などありましたら大歓迎。ばしばし書き込んでいただけると槇村が喜びます。
少しでも楽しんでいただければコレ幸い。
また「Arcadia」「小説家になろう」にも同内容のものを投稿しております。

それではどうぞ。
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コメント
シグシグさま>本当にねぇ、どうすんだって話ですよ。(自分でいうな) なんだか白蓮さん並に、麗羽さんを動かすのが楽しいです。(makimura)
大ちゃんさま>槇村としては、反董卓連合は起こしたいんですよ。でもこのままじゃあ起きそうもない。ならどうするの? っていうのが頭の捻りどころ。(makimura)
通りすがりの名無しさま>我ながら物凄い様変わり。破綻しないよう気をつけつつ進めていきます。(makimura)
槇村です。御機嫌如何。書き込みありがとうございます。(makimura)
袁紹の反乱を削除しても袁紹への不安の種は未だ消えず・・・。次回以降がどんな流れになるのか楽しみです。(シグシグ)
・・・麗羽が満足して隣の芝を見なければ反董卓連合は組まれなかったけど・・・見ちゃうんだろうね。(大ちゃん)
おお、麗羽さんの動きが一気に変わりましたね。次回も楽しみにしております。(通り(ry の七篠権兵衛)
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