長編 仮面ライダーEINS Eine Episode der NULL
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――2005年

――ヒマラヤ山脈

 吹雪に包まれたチベットで一人の青年が雪をかき分けていた。

未だ存在している人類未踏の地。そこは宝の宝庫のはずだ。そんな中、青年は一つのおかしなモノを見つけた。

「……五…さん、ちょっと来……さい」

 少し離れたところにいた男性が彼の元に駆け寄ってくる。

「どうし……一騎君?」

「これって…………ベル…に……いません…?」

「そんな……これが……で……。ア……ム…のか?」

 

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――2008年1月9日 13:11

――墓地

――とある英雄の墓前

 雲が空を覆っていた。

「お久しぶり。菊池くん」

「ああ、雨無さん。来てくれたんだ」

「もちろんだよ」

 今にも雨が降り出しそうな空に、その男の名前はあまりにも不釣り合いだった。

「もう亡くなって一年になるんだね」

 一騎が墓に刻まれた名前を見る。

彼はもうこの世にいない。ただそう思うだけで心が痛む。締め付けられる、虚ろになる、穴が開く。もっと適切な表現があるかもしれない。だが一騎にはただ痛覚しか感じなかった。

「たっくんも幸せだったと思います。最後の最期で自分の意志を受け継ぐ人が現れて」

「そんな大層なものじゃないよ。ただ彼が……彼が惨めだと思ったから」

「惨め?」

「誰かの夢を護っても、自分の夢が見られないなんて……耐えられない」

 一騎は泣いていた。

横にいる菊池は年下だ。だがそんなことは気にしていなかったし、何より悲しかった。

「けど、雨無さんが見せてくれるんですよね」

 その言葉に一騎は上を向いた。

「世界中の洗濯物が真っ白になるように、みんなが幸せになりますように……か」

 

 * *

 

――時は遡り2006年12月25日 17:55

――関東医大病院

 一人の青年が病室の外を眺めていた。

その半生は怒濤の如く過ぎ去り……死んだ。そして次の人生は化け物となり……英雄となった。それでもその生は報われることなく……潰えることとなるようだ。

「たっくん。お客さんだよ」

 親友が来客を知らせた。だが彼の友人であるなら親友の了解無しに入ってくるはずだ。

違和感を覚えた英雄はドアの方に視線を移した。見たことのない顔だった。

「あんたは?」

「雨無一騎。学者……の卵か。乾巧くんだな」

「ああ」

 無愛想なのは生まれつき。だが少し生きて丸くなったと彼は感じていた。

「で、俺になんか用か?」

「受け継ぎに来た」

 訪ねてきた男はそう言った。何を受け継ぎに来たのか?私財をあまり持っていない巧はその言葉を怪しんだ。

「……あんた、何者だ?」

「仮面ライダーになろうとする者……いや、厳密には既に仮面ライダーか」

 

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長編 仮面ライダーEINS

Eine Episode der NULL

 

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――2008年1月10日 21:14

――学園都市 中央事務局

 学園都市が機能を始めた。

日本政府の意地として未だに県扱いではあるが、事実上の独立国家である。住民も既に獲得し、もともと大学に所属していた研究者達も集結していた。

「やっとですね。学園長」

 スーツでしっかりと決めていた一騎はそう言って横を歩いていた初老の男性に話しかける。御年60歳と言ってもその瞳には熱い炎が宿っており、その眼光、肉体、そして言霊には一切の衰えを感じさせない。

今でも現役と言われれば、そのまま信じてしまうほどの威圧感だった。ただ横にいることが多い一騎には、厳しさよりも優しさを感じることのほうが多かった。

「結局君には重責を任すことになってしまった。大人の……老害のふがいなさを許してほしい」

「敬老される人間が何を言いますか」

 敬老の日には何も送らないのが学園長に対する敬意の表れかもしれない。そんな馬鹿なことを考えつつ、学園長を車へと送り出そうとする。

しかし二人は後方から強力なプレッシャーを感じ、同時に振り返った。

二人の視線の先には一人の青年が立っていた。感じているのは殺気のみ。

「王の判決を言い渡す。死だ」

「……王。なるほど、ファンガイアのキングか」

 学園長を車に押し込んだ。狙いは学園長だろう。

「貴様らには敬意を示そう。俺の粛清を逃れながら大きなうねりを生み出したことを」

「ファンガイアのキング。貴様らのような強力な種族が何故人間を恐れる?」

「何?」

「人間を恐れないならそのまま全滅させればいい。単にライフエナジーを摂取するだけならもっと効率のいい方法があるだろ」

 人間のようにな。と言い加えた。丁度その瞬間、学園長を乗せた車が出発した。

「劣等種が、口を慎め」

「そうだ、貴様のような過去の役割に縛られ、それが『何故?』に結びつかない。発想の転換やひらめきが進化の第一条件だ。あんたらはそれを破棄している。生物の種として未来はないんだよ」

 実に学者らしい、『今』ではなく『未来』を見据えた感想ではない観測。

「そもそも劣等種という言葉の使い方が、暗に自分たちは嫉妬しているとも受け取れるがな」

「サガーク!!」

 キングと呼ばれた青年が名を唱えたとき、白い円盤のような魔族が現れる。

「はっ、完全に頭に血が上りやがって」

 その魔族が腰に巻き付き、キングが小さな笛を右から差し込み気合いを叫んだ。

 

――変身!!

 

キング/仮面ライダーサガ

ACTOR:山本匠馬

 

 * BGM:Roots of the king *

 

 魔族が古代に使われていた言語を呟き、白に縁取られたステンドガラスの如き装甲を身に纏った仮面ライダーサガが現れる。

「運命の鎧。ファンガイアの初代キングの鎧か」

 一騎はそう言うとジャケットに隠れていた腰部を露わにする。そこにはまだ無骨さが残るアインツドライバーが巻かれていた。

そしてこれまた精錬されていないフォルムのアインツコマンダーでコードを入力する。

4――9――1――3

 

――変身!!

『EINS』

 

 アインツコマンダーをアインツドライバーと合体させアインツギアとなる。次の瞬間、アインツギアから光のリングが飛び出し、そのリングが回転を初めて光球となり……。

「破っ!」

 その光球が振り払われた時、学園都市の一号ライダーである仮面ライダーアインツが現れた。

『Hi.どうだい、ロールアウトの感想は?』

「最悪だ。いきなりライダーとの実戦だ」

 アインツの視界には、深紅に染まったレイピア、ジャコーダーで吶喊してくるサガの姿が映っていた。

直線的な攻撃に当たる理由もなく、それを躱し振り返ったサガの顔面に裏拳を入れ間合いを開ける。

「ハル、フォームチェンジも試すぞ」

 

橘晴彦

ImageCV:田中秀幸

 

『結構余裕あるね。ブラストフォームはいつでも行けるよ。他のフォームは実装にはほど遠いかな』

「OK、頭に血が上がりきっているお坊ちゃまにはご退場願おう」

 アインツドライバーに刺さったままのアインツコマンダーを開きコードを入力する。

8――8――8

 

――超変身!

『BLASTFORM』

 

 サガは吶喊ではなくジャコーダーの刀身を鞭の様に撓らせアインツに迫るが、アインツギアから飛び出た青いリングに弾かれる。青いリングはそのまま回転を始め青い光球を形成する。

その光球を打ち破る様にエネルギー弾が放たれる。これを予測していなかったサガはエネルギー弾をまともに受け、吹き飛ばされる。

光球の中には青のアインツ、ブラストフォームが携行武器ブラストアクスガンを構えていた。

「破壊力が半端無いな」

 そう言って、自ら設計したブラストアクスガンを眺めた。

『うーん。やっぱ封印推奨?』

「とりあえずこの場は切り抜ける」

 そう言ってエネルギー弾を発射するが、だがサガもただやられっぱなしではない。エネルギー弾をジャコーダーで弾きながら、再び距離を詰めてくる。

ブラストアクスガンを持ち替え、アクスモードでジャコーダーを受け止める。

そのまま数合ほど斬り合うが、お互い退かない剣戟を繰り広げた。否、アインツのほうが少し押しているか。

鍔迫り合いとなった瞬間、ブラストアクスガンをずらし、銃口をサガに向けた。

エネルギー弾の発射音が響き渡る。

さすがにサガもこれに反応したのか思った以上にダメージがなかった。だが撤退に相当するダメージは負ったらしい。ジャコーダーを鞭の様に撓らせ、地面に火花を走らせた。

目眩ましの煙の中をアインツが駆け抜けるが、そこにはサガの姿はなかった。

「ハル!」

『既に撤退してる。けど学園長を狙っている様子はないね』

「ハル、誘導しろ!」

 

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――2008年1月10日 21:48

――学園都市 中央区

――路地

 アインツは路地を駆けていた。

先ほどサガの後ろ姿を捉えていたが、如何せん入り組んでいるのでなかなか追いつけない。

しかし地の利はこちらにある。目の前に丁字路見えた。上空から地図を眺めていた相棒に敵に行き先を尋ねた。

「ハル!どっちだ!」

『一騎!横からアンノウンが来る!』

(何!?)

 本能的にブラストアクスガンを通路に突きつけた。次の瞬間、アンノウンが来る路地からも銃口が伸びてきた。

 

 * BGM:Nobody's Perfect *

 

「……」

「……」

 双方銃を突きつけたまま動かない。

そこでアインツは相手の顔を眺めた。

骨を連想させる外骨格。そして風になびくマフラー。骸骨のような仮面に大きな黒い瞳。何より特徴的なのは白いハット帽。

「……失礼」

 アインツ・ブラストフォームは自らの勘でブラストアクスガンを下げた。

悪意は一切感じなかった。感じたのは冷徹な信念と熱き心だった。

「いや……こちらも失礼した」

 そう言って骸骨男は変身を解除した。それに釣られアインツも変身を解除する。

「失礼ついでにもう一つ。名前を伺ってもよろしいですか?」

 訪ねながら身分を示す都市警察の手帳を相手に見えるように取り出した。

「鳴海、鳴海荘吉」

 

鳴海荘吉/仮面ライダースカル

ACTOR:吉川晃司

 

「もしや風都の……」

「行っていいか?」

「いいですけど、おそらく追いつけないです。この先は大通りで人通りも多い。貴方が追っている相手も行方を眩ましたでしょう」

 そう言って最後の路地を指さした。

「……」

 何も言わずに荘吉は最後の路地を歩み出した。その探偵に一騎は一つの束を放り投げた。

それを受け取った探偵は帽子を深く被り直しその場を後にした。

『一騎。ホントに大丈夫なの?』

「風都で十年近く戦っている英雄だ。信頼に値する」

 そう言ってアインツコマンダーで地図を表示した。晴彦が見ている地図と同期しているので、敵の予想地点も表示されている。

「それよりもハル。俺と彼が追っていた敵、合流したのか?」

『おそらく。彼……スカルだっけ、が追っていた敵は例の技術を使っているみたいだね』

 今映像が入ったよ。と言ってアインツコマンダーにも映像が表示された。

「これは……タイプセルか?」

『研究室で話そう』

 

 * *

 

――2008年1月10日 23:00

――学園都市 理系学区 医療学部

――一騎の研究室 地下

 研究室の地下では大画面のモニターでスカルとタイプセルと呼ばれた怪人の戦闘が映し出されていた。

「しかし……」

「学園都市が生み出した技術ではないね」

「見事な戦闘だ」

 そっち?と晴彦が肩を落とした。

だが映像で流れている戦闘は、危なげな一切感じられなかった。

「ハードボイルドだ……」

「とりあえず、怪人のほうはタイプセル・スパイダーってコードでいいかな」

「ああ……」

「ダメだこりゃ。能力はどうやら蜘蛛に似た能力を持っているみたいでね」

 口腔部から糸のような物が吐き出されるのが確認できた。

「しかし……タイプセルは既に退廃的だな」

 ここでやっと一騎が怪人についての感想を述べた。

ほんの一年くらい前から一部のテロリストで使われ始めていた技術だ。しかし個体差でスペックにムラがありすぎるのが難点で、既に"そういった組織"では次の技術が開発されていた。

「戦場ではどんな技術が流行っているのよ?」

「強化外骨格の応用技術だね」

「ったく、技術を盗むなんざ良い度胸してやがるな」

 これまた少し前に日本の警察から技術がいくつか盗まれた。その中に今の強化外骨格に関する技術もあり、戦場でそれが発見された時スキャンダルとなっていたのだ。

「どうするのさ?」

「無論潰す。この学園都市で好き勝手はさせない」

 この波乱に満ちた日。この日は仮面ライダーアインツがロールアウトされた日となった。

 

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――2008年1月11日 08:12

――学園都市 理系学区 医療学部

――一騎の研究室 地下

 地下で一夜を明かしたアインツチームはインターホンの音で目覚めた。

「……誰だろ?」

「鳴海さんだ」

「何で分かるのさ」

「昨日……地図を渡した。あの地図は研究室の所在が全部書いてあるし、俺の手帳を見てるから名前も分かっているはずだ」

 一騎がそう話した瞬間、晴彦の頭に昨日の出来事が蘇った。

一騎がそう仕組んだか、それとも偶然の出来事か、はたまた運命か?

二人のライダーの道が再び交錯しようとしていた。

 

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「生憎紅茶しかないですけど……大丈夫ですか?」

「ああ、カフェインが入っているから大丈夫だ」

「カフェインは5gから10gで致死量ですよ」

 一騎も文字通り毒のある言葉に、長いすに座っていた荘吉は鼻で笑った。

「常に死線を越えているから死なないのさ」

「なるほど」

 妙に納得した。だからこそ十年近く、それも一人で戦い続けることが出来たのだろうか。

一騎は荘吉の前に紅茶を置き、自分は彼の正面に座った。

「ここにきたということは、情報が欲しいということですよね」

「ああ、俺が追っていた蜘蛛男。居場所を知りたい」

 そう言って荘吉は上着から紙の束を一騎に差し出した。

「拝見します」

 一騎は書類に目を通すが、顔写真が貼られている紙で動きが止まる。

その顔は去年からテレビを賑わせた男だった。

「この男は……確か」

「本土の警察幹部だ」

「例のスキャンダルで辞任した例の……」

「重要なのはその次だ」

「これは……?」

 わかりやすく図表されており、要素がいくつか書かれていた。

まずは一つは警察幹部。次に一つはD&Pと書かれた会社だ。そして一つはXと書かれた組織、そして×が書かれた会社は聞き覚えのある企業名が書かれていた。

「スマートブレイン……」

「知っているのか?」

「学園都市とは浅からぬ因縁があります」

「俺はその残党を追っている」

「なんですって?」

 確かスマートブレイン社は倒産した後、所属していてホワイトカラーはちりぢりとなり、何人か学園都市が抱え込んだはずだった。

「そいつは俺の幼なじみからガイアメモリを奪い、そのままこの学園都市に直行した」

「まあお目当ての物は学園都市の大深度地下施設にあると思います」

「本当にそれなのか?」

「こういった連中がほしがる物をまとめてそこに保管しているんですよ」

 そして話は核心へと迫っていく。ほぼ全ての組織からXと書かれている組織に矢印が伸びていた。

金の流れかと思われたが、おそらく技術の流れでもあるのだろ。

「このXと書かれた組織はPMCか何かでしょうか?」

「それに近い財団だと思われる。だが俺の情報網では全容すら掴みきれない。加えてあの化け物企業D&Pにも入り込んでいる」

 にわかに信じがたい話であった。

「俺はてっきり学園都市が仮面ライダーを完成させたことで潰しに来たのだと思っていました」

「D&Pは独自に動いているんだろう。それに便乗して学園都市を潰そうと思っているのじゃないのか?」

「確かに今の学園都市は脆い。何せ出来て間もないこの時期に襲撃を受け崩壊しかけるのであれば、そのあと完全に壊すのはたやすい。まあプライドの高いファンガイアのキングが助力を得るかどうかは別ですが……」

「どさくさに紛れてあんた達の技術を奪おうって魂胆じゃないだろうか?」

「おそらく」

 それぞれの思惑が、学園都市の破壊という目的に収束していた。

「鳴海さんはガイアメモリを?」

「ああ。出来るなら破壊したい」

「分かりました。こちらとしても中に危険物が入った以上協力させていただきます」

「助かる」

 共闘の同意が出来たその時、都合良く物事が回り始めた。

『一騎。ファンガイアのキングがお出ましだよ』

 研究室全体に晴彦の声が響いた。

地下のオペレーションルームで情報収集を続けていた晴彦は、ファンガイアのキングを捉えたらしい。

「場所はどこだ?」

『中央区、環状道路建設現場付近』

「おいおい、今の建設現場ってここから結構遠いじゃねえかよ」

 そう言って一騎はジャケットを羽織った。……ところで動きは止まる。

「ハル。タイプセル・スパイダーは?」

『一緒にはいないね』

「陽動か……?」

 しかし今動けるのは自分しかいない。

かといってこのままサガが学園都市の主要人物を消していくのをただ見ているだけでは……。

「俺が守ろう」

「しかし……」

「あんたが陽動に引っかかれば、残りの敵が沸いてくる」

 なるほど。お互いがお互いの敵を叩けるというわけだ。

「ハル、鳴海さんに端末を。俺はこのままサガを叩く!」

 一騎はそのまま隠し通路への扉を開ける。

そこには未だ学園都市に数台しかないバイク。ガードチェイサーが鎮座していた。

 

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――2008年1月11日 08:59

――学園都市 中央区 環状道路

――工事現場

 工事現場ではまるで地獄絵図の様相であった。

バイクを止めた一騎は、倒れている人々に駆け寄り一人一人に声をかけた。意識はないがどうやら死んでいない様だ。

そしてその中央にはファンガイアのキングがサガの鎧を纏い佇んでいた。

「ファンガイアのキング……」

 お坊ちゃんを睨み付けながら、アインツコマンダーを開きコードを入力する。

4――9――1――3

 

――変身!!

『EINS』

 

 ロールアウトから働きっぱなしの仮面ライダーが光球から姿を現した。

「まったく貴様は厄介だ。マザーサガーク!」

 空間がゆがんだその奥から大型の円盤の形をしたサガーク族が現れる。それに飛び乗ったサガはその場を立ち去ろうとする。

しかしアインツがそれを許すわけはない。

(スプラッシュが実装していれば追いつくが……)

 ほぼ全力に近い力を使ってマザーサガークに飛び乗った。

「便乗させてもらうぞ!運賃は払わないがな!」

 アインツが飛び乗ったのを確認したサガはジャコーダーを伸ばし、アインツを弾き飛ばそうと試みる。

これに対してアインツは既にコードを入力し終わっていたのか、ベルトから青いリングを出し鞭を弾き飛ばす。

 

――超変身!!

 

 マザーサガークにしがみついたままブラストアクスガンを発砲する。

威嚇に近いその弾丸をサガが避けている隙に、マザースネークの上に立ち上がり、そのままブラストフォームで近接格闘にもつれ込ませた。

だが足場の安定は相手が主導権を握っている。圧倒的に不利であった。

攻撃を受ける瞬間に足場を崩されまともに斬撃を受けてしまう。腰を低くして影響を少なくしようと試みるが、鞭のようにしならせたジャコーダーを捌ききれず、空中に薙ぎ飛ばされた。

 

 * *

 

――2008年1月11日 19:12

――都市立大学病院

――緊急処置室

 天井が見えた。視界はぼやけているが、すぐにピントが合い、相棒の顔が見えた。

「サガは?」

「開口一番それかい?君を叩き落とした後、消えちゃったよ。おかげで知識の根付近は厳戒態勢さ」

「タイプセル・スパイダーは?」

「ファイズギアを奪われた」

「なん……だと……?」

「輸送中だったんだ。ただ学園都市の主要道路は完全に封鎖できた。出ようと思えば騒ぎが起こるはずだよ」

「鳴海さんは?」

「鳴海さんも実質張り込みに近い形になっているよ」

「そうか……」

 そう言って一騎は起き上がり、身体にまとわりついていた器具を片っ端から外し始める。

「おい、一騎!まだ寝てろ!」

 タイミング良く部屋に入ってきた白衣の男性の表情が一気に険しくなり、一騎に駆け寄った。

「椿先生。俺なら大丈夫です。先生が二番目によく分かっているはずです」

「馬鹿野郎!もっと自分を大事にしろ!!ったくライダーはみんなこうなのかよ……」

 もう慣れたかそれとも慣れないか。椿と呼ばれた医師は丁寧に一騎の身体に刺さっている器具を外し始めた。あれだけ元気に動ければ大丈夫という判断だろうか。

「行くんだろ。守ってこい」

 

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――2008年1月11日 20:12

――学園都市 理系学区 特殊実験棟前 

 荘吉は大深度地下施設の入り口付近で張り込みを続けていた。

警備は厳しくなっているが、ファンガイアのキングにかかれば居ないも同然だろう。

そう、目の前でその警備がなぎ倒され始めた。正しくは命を吸われ始めた。

異常に感じた荘吉は表に跳び出し空を見上げた。そこには二つの大きな光球。そしてマザーサガークに乗っているサガの姿が確認できた。

今は救助が先決と感じた仮面ライダーは警備員に声をかけ始める。

「おい、しっかりしろ!」

 倒れた警備員に呼びかける荘吉に、学園都市が持つ全ての資料を持ち去ろうと試みるタイプセル・スパイダーが暗闇から襲いかかった。

荘吉はこれに確認するが反応できず、スローモーションで自分が襲われる様を認識していた。

しかし、横からガードチェイサーが絶妙なタイミングでタイプセル・スパイダーを弾き飛ばした。

荘吉はため息をつき、ガードチェイサーに乗っていた人物に話しかける。

「目が覚めたか?」

「二重の意味で」

 一騎はヘルメットの奥で無邪気な笑顔を見せるのであった。

「さて」

 一騎はアインツコマンダーを取り出しコードを入力。

4――9――1――3

そして荘吉も懐から紫のガイアメモリを取り出し、腰にロストドライバーを装着した。

 

 * BGM:HEART∞BREAKER *

 

――変身!

 

『SKULL!!』

『EINS』

 

 探偵を包み込んだ風は紫風。司るは骸骨。その意志はまさにハードボイルド。

仮面ライダースカル。風都において十年近く戦い続ける古参の仮面を被る者だ。

その横では白い光球を振り払いアインツが姿を見せた。

戦闘態勢が整ったところで、スカルは右手をタイプセル・スパイダーに向け、言い放った。

「さあ……お前の罪を数えろ」

「かっこいい……ハル、俺たちも決め台詞考えよう」

『今かい?』

「アインツ、真似はダメだぞ」

「ちょ、参考文献じゃダメですか?」

 スカルの一言にアインツは心の底からの懇願を口にした。

そして二人はタイプセル・スパイダーに駆け出す。アインツが先行して蹴りを浴びせ、それを避けたタイプセル・スパイダーにスカルのボディブローがはいる。そしてアインツは後ろに下がったタイプセル・スパイダーの腕を掴み思いっきり投げ飛ばした。

「スカル!任せます!」

 腰に刺さったままのアインツコマンダーを開きコードを入力した。

8――8――8

 

――超変身!

『BLASTFORM』

 

 その脇ではスカルがタイプセル・スパイダーを着実に追い詰めていた。

スカルの外骨格が浮き出し、紫の骸骨が胸から浮かび出る。

しかし事態は簡単に終わらなかった。

「俺は!俺は!!」

まるでうなされる様に嘆いた次の瞬間タイプセル・スパイダーの身体が奇妙に割れ、二体の怪人が跳び出してきた。両腕に手はなく、武器となっており、まるで童話のピノキオのような鼻を持っている。

「なんだこいつら!?」

 アインツとスカルはそれを敵と判断したか、ブラストアクスガンとスカルマグナムで攻撃する。

一旦仕切り直しとなるが、事実不利になっていた。未だに上空ではサガがマザーサガークに乗ったままライフエナジーを集めている。

……いや、集め終わったようだ。

「こい!サバト!!」

 学園都市の上空にステンドグラスの怪物、サバトが現れた。しかも二体。

「これは流石に骨が折れるぞ!」

 

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 アインツが悪態をついたその瞬間、もう一人の仮面ライダーが姿を現した。

 

空に穴が開いた。誇張無しのそのままの表現で。

そこから牛の意匠を持つ電車がレールをひきながら飛び出し、サバトに激突した。そのまま牛の電車は地面にサバトを押さえ込む。

「何が起こってるんだ……」

 理解を超えていた。

牛の電車はサバトを押さえ込んだまま学園都市を破壊しながら進み、サバトのステンドガラスを砕いた。

アインツとスカルは巻き込まれない様に待避し、タイプセル・スパイダーと謎の怪人もその様子を呆然と眺めていた。

そして次の瞬間、牛の電車から一台のバイクが跳び出した。

そのバイクに跨っていたのは青年。そして黒づくめの怪人……というには愛嬌があるが……が電車から降りてくる。

「やれやれ、やっと追いついた」

「悠斗……やりすぎなんじゃないかな?」

「うるせー。倒せたんだからいいだろ」

 僅かな時間でいつものコントを繰り広げた二人は目の前の怪人三体と上空の仮面ライダーを視野に納めた。

「イマジンと……なんか分からない奴に……仮面ライダーか!」

「君は?」

「悪い。後で自己紹介する」

 アインツの呼びかけに青年はやや焦っているのか、相棒に声をかけた。

「行くぞ!デネブ!」

「ああ!」

 そして腰にゼロノスベルトを巻き、新ゼロノスカードを取り出す。

 

 * BGM:Action-ZERO *

 

――変身!

『Charge&Up』

 

 記憶は錆びる。そう思わせる色であった。

だが強さは衰えない。時間は消えない。想いは錆びない。

侑斗の記憶を消耗して、仮面ライダーゼロノス・ゼロフォームが姿を現した。同時に相棒デネブはデネビックバスターに変形し、ゼロノスの手に収まる。

「最初に言っておく!俺達はかーなーり強い!!」

 

桜井侑斗/仮面ライダーゼロノス

ACTOR:中村優一

 

デネブ

CV:大塚芳忠

 

 モールイマジンは突如現れたゼロノスに焦りながらも二体の隊列を崩さずにライダー達に駆けていく。

「こいつらはイマジン。未来からやってきた連中で……あーもう説明がめんどくさい!とりあえず倒す!」

「スカル!」

「俺はあの坊やを援護する」

「同じく!」

 敵が三人に増えた。この状況に一番焦っているのはタイプセル・スパイダーだ。

訳の分からない味方が二人増え、そして敵が一人増えた。そして同盟関係であった仮面ライダーサガは、撃破されたサバトのライフエナジーを再び集めながら残ったサバトをより強力に仕上げていた。

「くそ!こうなれば!」

 そう言ってタイプセル・スパイダーはファイズフォンを取り出し、ファイズドライバーを腰に巻き付けた。

そしてファイズフォンに変身コードを入力しようとするが……反応しない。

「何故だ!」

「はっはっは」

 モールイマジンを蹴り飛ばしたアインツが笑い出した。それも普通の笑い方ではない。腹を抱えて心の底から嘲笑っているのだ。

「何故だ!因子も足りている!」

「そいつはもうライダーシステムとしての役割は終えている」

 後ろから襲いかかってきたモールイマジンを確認せずにエネルギー弾を発砲し、その後ファイズギアを指さした。

「記憶の絞りカスくらいは残っているかもな。技術と魂と……そして夢は!」

 そして突きつけた指で、今度は自分のベルトであるアインツギアを指さした。

「ここに宿っている!」

 アインツが大きく跳躍しタイプセル・スパイダーに迫る。

もはや頼る物がなくなったタイプセル・スパイダーは、魂を抜き取られたファイズギアを投げ出しアインツを迎撃する。

「貴様!ファイズギアをぞんざいに扱うな!」

 大事な物だ。

ファイズギアを拾い上げ、ブラストアクスガンをタイプセル・スパイダーに発砲した。タダでさえ威力の高いそれを受けたタイプセル・スパイダーが吹き飛んだ。

「スカル!」

 アインツがスカルに呼びかけた時、スカルはスカルマグナムにガイアメモリを挿入したところだった。

 

『SKULL!MAXIMUMDRIVE!!』

「終わりだ」

 

 必殺技スカルパニッシャーを発動させ、強力な光弾がタイプセル・スパイダーに炸裂し撃破した。

そしてその奥ではゼロノスがデネビックバスターにゼロノスカードを挿入する。

 

『Full Charge』

 

 必殺技バスターノヴァを発動させる。腰の入った体勢でも反動を殺しきれないその一撃はモールイマジン二体をたやすく葬った。

そして最後にアインツがアインツコマンダーを開きコードを入力した。

8――8――8

 

「ライダーブラスト!」

『RIDERBLAST!!』

 

 銃口の先にはマザーサガーク。

上空に発射した必殺技は、反動でアインツの身体が沈み込んでしまうほどの威力を持っていた。

これの直撃を受けたマザーサガークは大きく身体を揺らし、撃墜された。だが地上に墜ちてきたのは爆発したマザーサガークの代わりに強化されたサバトとそれに搭乗したサガであった。

「六柱のサバト!行け!」

 明らかに凶暴性を増しているサバトが三人のライダーに襲い……のしかかってきた。

それに潰されるわけもなく三人のライダーは回避したが、アインツ・ブラストフォームの超聴覚が泣き声を拾い上げた。

泣き声の方を見ると、少女が一人ガレキの中で恐怖で動けずにいた。

「マジかよ!」

「アインツ!避けろ!」

 スカルが危険を呼びかけるが、アインツにジャコーダーが伸び右肩に突き刺さる。そのままサガは背負い投げをするように締め上げた。サガの必殺技スネーキングデスブレイクだ。

必殺技をまともに受けたアインツは、変身が解除され地面に倒れ込む。右肩から大量の血が流れている。

「クソ!」

 一騎は急いで少女に駆け寄るが、少女を守る手段もそして自分を守る術もなかった。

「死ね」

 そのままサガは一騎を仕留めるべく、再びサバトにのしかかりを指示した。

ゼロノスとスカルからも救援は間に合わない。しかし一騎は立ち上がりサバトをしっかりを見据えた。

 

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 * BGM:戦士(仮面ライダークウガより) *

 

 腰に両手をかざす。その瞬間一騎の腰には鈍く輝く銀のベルトが召喚される。ベルトの中央に埋め込まれた石(意志)は黒い輝きを放ち、駆動音が鳴り響く。

 

――雨無さん。これ使ってくれ

――ありがとう。君の魂、確かに受け継いだ。

――迷惑ついでに、俺の夢も……受け継いでくれないか?

――夢かい?

――世界中の洗濯物が真っ白になるように、みんなが幸せになりますように……

 

 巧の魂を継ぐため、彼の夢を受け継ぐために一度ベルトだけ召喚した。これで三度目の変身となる。

 

――だから見ててくれ、巧くん

 

 右手を左天へと突き出す。視線の先にはサバトが迫ってきているのが見えた。だがあくまで落ち着いて、その腕を右天へと動かし右の腰に向かって空に描いた。

 

――俺の

 

「……変身」

 

 一騎の身体が白いオーラに包まれた瞬間、サバトは彼を押しつぶした……はずだった。

巨体であるはずのサバトが宙に浮かび、サガの後方へと大きく投げ飛ばされた。

「馬鹿な……その姿は」

 敵であるサガは畏怖を。

「なんだあれは……」

「……」

 味方であるゼロノスとスカルからは驚愕の声を上げさせた。

 

 その体表は深淵。流れる血はもはや黒と称するほどドス黒く、唯一の明色である瞳は赤く優しく輝き、形成すは城壁、立ちふさがるは荒々しき角。

吐き出すは圧倒的なまでに周りに押しつぶす威圧感。もはや物理的なプレッシャーとなって敵を射すくめる。

 

「急いで逃げるんだ」

 少女に話しかけた漆黒の仮面ライダーはあくまで優しい声色であった。少女はどうやら無事で彼の声を聞いて急いで戦場から脱出する。

「全てがひれ伏す恐怖の根源にして無垢なる邪悪……」

 キングは驚きを隠せない。その姿はファンガイアほどの隆盛を誇った部族ですら恐れおののく存在であった。

「ほう……口伝ではそう伝わっているのか」

 先ほどとは打ってかわり吐き出された言葉は全てプレッシャーとなってサガに襲いかかる。

「なるほど。ファンガイアですらこいつを恐れるんだな。教えてくれ。こいつは何なんだ?」

 そう言って漆黒のライダーは自分の腰に埋め込まれた宝石を指さした。

「黙れ!」

 サガはジャコーダーが赤い鞭となって漆黒のライダーに襲いかかる。

しかしその鞭は漆黒のライダーの手にしっかりと掴まれ、本来なら彼が振り回されるはずだが、漆黒のライダーがサガを振り回した。

手頃な壁に叩きつけられ地面に落下したサガは、心底悔しそうに地面を叩きつける。

「よせ、例えそれでも勝てない」

 そう言って、漆黒のライダーはサガを指さした。

「人間が!!」

 その言葉と行動が感情を逆撫でしたか。完全に頭に血が上ったサガがサバトを操り漆黒のライダーにけしかける。しかし漆黒のライダーにその巨体は届くことはない。

「言うことを聞かんお坊ちゃんだな」

 

――無に帰す戦士 何ものにも染まらない黒をもって 絶望から全てを護らん

 

 再び受け止め、サガがいる方向に投げ飛ばした。

体は城壁。何色にも染められない漆黒の城壁は、如何なる攻撃も無に帰す。

だが名はまだ無い。

サバトがサガを巻き込み地面に不時着した。

「さあ、盛大にそして派手に行こう」

 右手を左天に、左手を右の腰に。そしてすぐに両手を広げた。

 

――駆け出す。

 

――両足が熱くなる。

 

――正面の敵を見据えた。

 

――空中へと跳び出す。

 

「おりゃぁぁあ!!」

 漆黒のライダーのキックがサバトに突き刺さった。

 

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声の出演(敬称略)

 

仮面ライダー555より

乾巧/仮面ライダーファイズ

ACTOR:半田健人

 

菊池啓太郎

ACTOR:溝呂木賢

 

――俺の身体、保存出来ないっすか?

――出来なくもない。倫理的に何言われるかは……。

――雨無さん見てるとなんか眩しくって……俺も何かできないかって。

――君がそれを言うかい。

 

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仮面ライダー電王より

桜井侑斗/仮面ライダーゼロノス

ACTOR:中村優一

 

デネブ

CV:大塚芳忠

 

――あんたも大変だな

――好きでやっているからな

――こっちの都合で巻き込んで助けて貰って……ありがとな

――いや、こちらとしても助かったよ。また逢えるよな

――わからん

――もう、悠斗は素直じゃないんだから

――デ、デネブ。てめー!

 

-14ページ-

 

仮面ライダーキバより

登太牙/仮面ライダーサガ

ACTOR:山本匠馬

 

――くそ……たかが人間に我々が……。

――やはり必要か……

――闇の鎧が……

 

-15ページ-

 

仮面ライダーWより

鳴海荘吉/仮面ライダースカル

ACTOR:吉川晃司

 

――ありがとうございました

――いや、礼を言うのは俺の方だ

――え?

――これを頼む

――これは……ガイアメモリ?

――もし俺が死んだとき、一番安全なのはここだ

 

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スタッフ(敬称略)

 

原作 石ノ森章太郎

 

脚本 しがない書き手

 

デザイン 琉架

     momon

 書いてもいいのよ。

 むしろ書いてください。

 

設定協力 momon

 

-17ページ-

 

仮面ライダーEINS

橘晴彦

ImageCV:田中秀幸

 

――そうか、使ったのか。

――申し訳ありません。

――構わないよ。完全に制御できていたのだろう?

――はい。一切問題ありませんでした。

――そうか。だがそうなったからには、彼にも名前を付けてあげないとな。

――名前……ですか。

――学園都市の切り札なのに名前がないのもな。

――まあ確かに。"彼"と違って名前は分からずじまいですからね

――そうだな……ヌル。

――Null……零号ということですか?

――そう、ヌル。仮面ライダーヌル。

 

雨無一騎/仮面ライダーアインツ、仮面ライダーヌル

ImageCV:中村悠一

 

-18ページ-

 

学園長

CV:藤岡弘、

説明
この作品について
・この作品は仮面ライダーシリーズの二次創作です。
・仮面ライダーEINSの劇場版にあたり、前日談となります。

執筆について
・劇場版仮面ライダーOOO公開おめでとうございます。皆さん見に行きましょう。
・来週は休ませて貰おうかな……。
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仮面ライダー 仮面ライダーEINS アインツの世界 TINAMIの世界 劇場版 

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