対魔征伐係.10「郁師匠の実力」 |
-PM09:23 学校の裏山-
「くっそぅ・・・」
吐き捨てるように呟きながらどっかりと地面へ座り込む真司。
その体は擦り傷や痣だらけである。
体中の傷同様、精神的にもだいぶ参っていた。
「これで通算3勝0敗。今日もゴチになりまーす!」
その原因は目の前に笑顔で仁王立ちしている郁にあった。
数週間前から始まった郁との修行。
バイトがある時は入り時間までなのだが、無い時は基本的に日付変更間際までスパルタ修行だ。
そして週に一度、バイトの無い木曜の修行の締めとして、模擬戦闘を行っている。
リスクがある方がやる気が出るということで、負けたほうはその後の夕飯を奢るということになっている。
その結果、今までの戦績は真司の全敗である。
それどころか、かすり傷ひとつも与えられていなかった。
ハメられている気がしていたが、約束は約束なので、今日も今日とて真司は奢るしかなかった。
「どうせまた、ウチのジャンボパフェだろ・・・」
「当たり前じゃない。今日は3つに挑戦しようかしら〜♪」
「・・・1つで十分だろ・・・」
時間が時間なので、開いている店は限られる。
更に郁が甘いもの、洋菓子の類が大好物なので、ファーストフード店は余り乗り気ではない。
そうすると場所的に考えても1番都合がいいのが真司のバイト先、深夜まで営業しているファミレス「ピアチューレ」なのだ。
過去2回はどちらも食事後にジャンボパフェ(通常の3倍)を2つも頼んでいる。
郁は見かけによらず(?)大食いだった。
おかげで真司は模擬戦闘に負けると心身ともに傷を負うだけでなく、財政的にも傷を負うという三重苦に悩まされるのだ。
「何も分かっていないわねぇ・・・甘いものは別腹って言うでしょ?」
「・・・太らないのか・・・」
頭の中に既にパフェの姿が思い浮かんでいるのか、ご機嫌で話す郁に冷静に率直な意見を述べる真司。
「・・・災忌退治に、体育の講師としての授業。馬鹿弟子の相手・・・」
「・・・まぁ、確かに相当な運動量はあると思うが・・・」
だが、どう考えてもカロリー消費量を摂取量が上回っている気がしてならなかった。
「それにね、私にはリーサルウェポンがあるのよ・・・?」
「・・・へぇ・・・」
不敵に自信満々に笑う郁。そのあどけない表情だけ見れば真司よりも年下に見えなくも無い。
そんなことを思いながら真司は適当に相槌を打っていた。
「コレよ・・・!」
「・・・右目?あぁ・・・確か変な力があるんだっけ・・・?」
郁は前髪で隠れていた右目を髪を掻き揚げ露にする。
「馬鹿言いなさい。ほんの少しではあるけど未来の動きが見える、私くらいしか持っていない能力なのよ?」
「まぁ、確かにそんなインチキ臭い能力なんて聞いたこと無いけどさ・・・」
郁が退魔師、対魔征伐係の中でもその名が知れ渡り、郁を越える者は居ないとさえ噂される最大の要因となっているのがこの右目の能力である。
真司や他の退魔師よりも膨大な霊力を所持し、その霊力を余すことなく使いこなす技術を所持。
更に、ごく少数の血統にしか扱えない結界術も扱え、その技術は本家である高嶺家の者に勝るとも劣らない。
これだけで既に十分すぎるポテンシャルだが、ここまでなら高嶺家歴代の退魔師の中にも存在した強さだ。
だが、郁には先を見越せる右目がある。
これにより確実に相手を結界内に封じ、倒すことが出来るのである。
そのため、今まで郁が倒せなかった災忌は存在せず、掠り傷さえ負ったことがないと都市伝説のように退魔師たちの間では噂される程だった。
「そう、インチキ臭いほど便利なんだけどねぇ・・・強い力には相応のリスクが付き物なのよ」
「・・・リスク・・・?」
郁の表情が少しだけ真面目になったのを感じた真司は今までの気が抜けた態度を少しだけ改める。
「右目でモノを見ている時は・・・そうね、分かりやすく言えばその間は急勾配の上り坂を全力疾走をしているようなもの・・・かしら?」
「・・・そうだったのか・・・」
「更にそこに精神的負荷も相当掛かるし・・・すんごく疲れるのよねぇ・・・」
郁はやれやれと他人事のように言い放ち、肩をすくめる。
(・・・なんか、嫌な予感がするな・・・)
真司は言いようのない嫌な予感を感じていた。
「だけど・・・この能力、ダイエットには持って来いなのよ!!」
「・・・」
「・・・?」
「・・・ば・・・」
「・・・ば・・・?」
(馬鹿だ・・・!前々から薄々感じてはいたけど・・・師匠って、頭の切れる馬鹿だな・・・)
真司の嫌な予感は的中し、思わず言いそうになる禁句をグッと飲み込む。
「なによ・・・?」
「あ、いや・・・何でも、ないです・・・」
言いかけた言葉の先を問いただしてきた郁をスルーしようとした真司。
そのとき・・・
♪〜♪〜
「・・・・!」
真司の顔が一気に引き締まる。
携帯から余り聞きたくは無い着信メロディが流れていた。
「・・・お仕事のお誘いかしら?」
「・・・まぁ、そういうこと」
郁もそんな真司の様子を見てすぐさま察する。
電話の相手は中村だった。
内容は予想通り、災忌の出現。
「それで、出現場所は?」
電話の内容までは聞き取れない郁は何故か急かす様に出現ポイントを問いただす。
「・・・場所は・・・」
-PM09:51 土野市北公園-
土野市には鎮守学園を中心とし、東西南北に市が運営する大きな公園がある。
その中でもこの北公園は昼間こそ人を見ることが出来るが日が沈めばほとんど人影を見ることはない。
そのため昔からこの北公園では災忌、幽霊、妖怪の類の報告が度々あった。
真司や中村にしてみれば見慣れた公園だった。
「中村さん」
「おや、真司くん。今回は早かったねぇ・・・?」
普段とは違い、連絡してからの素早い到着に中村は若干驚いたような顔だ。
その中村の横には今回も今井が居た。
公園の周りは完全に封鎖が完了されており、目の前では警官隊が闇の中、蠢く災忌に対して躊躇することなく発砲していた。
「真司、今回は私が手本を見せてあげるわ」
「ちょ、師匠・・・?」
後から足早にやってきた郁は口早に真司に告げる。
「師匠・・・?」
「あー・・・俺の師匠で、朝比奈郁先生です。今回は師匠の車で来たので早く・・・」
郁と初体面の中村に軽く紹介する真司。
だが・・・
「早くしないとパフェが逃げるわ・・・」
「「「・・・」」」
真面目にそれこそ恐怖すら感じるほどの意気込みで真司や中村を抜き災忌へと早足で近づく郁。
その雰囲気と発せられた言葉とのギャップに思わず言葉を無くす男3名。
郁は既に右目を見えるようにしており、未だ発砲中の警官隊の間を割って入り災忌へと近づいていく。
「お前ら!撃ち方止め!後退しろ」
慌てて中村が警官隊に指示を出す。
何の躊躇も迷いもなく銃弾の間をすり抜け災忌の眼前へと辿りつく。
「早くしないと・・・お店が閉まっちゃう・・・」
災忌も驚くという行動をするのかどうかは怪しいが、郁を前にして戸惑っているようにも見える。
「でしょうがっ!!!!」
ドゴォッ!!
「「「・・・・」」」
郁の拳に膨大な霊力を纏った右アッパーは美しい軌跡を描きながら災忌へ叩き込まれた。
災忌の体がほんの僅か宙に浮いたかと思えば、そのまま地面へと倒れこんでしまった。
そんなありえない光景を前にして呆然とするだけの男3人。
災忌はそのままピクリとも動かなくなってしまう。
(・・・あれは・・・)
呆然と見ていた真司だったが、郁の手の動きを見て思わず目が止まる。
「・・・結界の印・・・か」
郁は手馴れた手つきで結界生成の印を組んでいく。
「消えなさい」
言うが早いか倒れていた災忌は淡い緑色の箱のような結界の中へ入れられた。
そしてそのまま結界は急激に小さく縮小されていく。
やがて、災忌の姿は無くなり、残ったのは大きく窪んだ地面だけだった。
「・・・先生がいればこの町も安泰だねぇ・・・」
「・・・そう、ですねぇ・・・」
中村と真司はそれぞれ思ったことを述べる。
今井や他の警官隊に至っては驚きを通り越し、畏怖の念すら感じていた。
真司が苦労して霊剣を駆使して倒していた災忌を素手で軽々と倒した郁。
その強さは圧倒的だ。
この後、無事にファミレスにて美味しくパフェを3つほど頂いた郁はご満悦で帰っていったのだった。
説明 | ||
1P目に本文、2P目にその話に出てきた、関するものの設定紹介、小話など。あれば読者からの質問の答えなんかも。質問をする場合はお気軽に。回答は次回の2P目になります。質問内容は3サイズとか趣味とか好きな食べ物とか、設定に記載されていないもの、或いは紹介自体されていないものなど何でもOKです。但し、有耶無耶にしたり、今はネタバレ的な意味で回答できないよ!となる場合もあることをご了承ください。 |
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