やさいころころ
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 とある異国の街に、やさい坂という坂がありました。それはふしぎな坂でして、毎日夕方になりますと、坂の上のほうからころころころと、いくつものやさいが転がってくるのです。にんじんかぼちゃ、たまねぎおいも。やさいはどれもおいしくて、一体だれが転がしているのか、確かめようとする人もいましたが、結局だれも分かりませんでした。

 

 その街では、やさい坂にそって家家が立ちならんでいて、みな夕方になると坂へ出て、転がってくるやさいを拾って家へ持って帰ります。坂の上のほうに住む人は、毎日たくさんのやさいを持って帰りますが、下のほうに住む人は、上に住む人がやさいを取ってしまうせいで、なかなかやさいを拾うことができずに、まずしいくらしをしていたのでした。

 

 ある日のこと、その街にひとりの詩人がやってきました。詩人は街の人からやさい坂の話を聞きますと、すぐにやさい坂をのぼりました。そしてその日の夕方、やさい坂に、やさいはひとつも転がってはきませんでした。やさいはぜんぶ、転がるまえに詩人が持って行ってしまったからです。やさいを待っていた街の人たちはたいそう腹をたてて、詩人をつかまえようと、手分けしてさがし始めたのでした。

 

 坂の下の空家に、その詩人はおりました。ようやく詩人を見つけた街の人が、空家のとびらをあけますと、家のなかにはシチューのいいにおいがただよっていました。詩人は、やさい坂のやさいと空家のろをつかい、シチューを作っていたのでした。詩人は街の人たちがやってきたことに気づくと、にっこり笑ってこう言ったのでした。ちょうどいい時に来てくださいました。もうすぐできあがりますので、いっしょに食べませんか?――。

 

 その夜は、とても楽しいものになりました。坂の上に住む人も下に住む人も、やってきた詩人も、同じおいしいシチューを食べて、みなで笑いあいました。シチューのあたたかなゆげが、街の人や詩人をつつんでいました。

 

 

 やさいがころころ転がる街に、ひとりの“詩”人がやってきて、“ろ”をつかって街の人を幸せにしたというお話です。

 

 

 ――やさ いころころ、やさしいこ ころ。

 

 

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