GROW4 第九章 黄金術式(ゴールデン・スキル) |
1
一回戦の最終試合が始まる。人妻マリアは、黄金色の儀式服に身を纏う160cmくらいの
女だ。フードが鼻の下まであり、その顔を半分ほど隠している。対し、間藤ヒルカのほうは、
半袖短パンに運動靴と、動きやすい格好の女の子だ。髪も短いショートヘアでツンツンと立っている。
140cmくらいの身長から、いかにも外で遊んでますオーラが出ている。
とんとんとんっと、その場で何度か飛ぶヒルカ。試合は既に始まっている・・・
現在のバトルフィールドは、南の島をモチーフとした砂浜に、周りを海で囲った小さな島と
いう感じだ。ヤシの木や山などもあり、自然なども見られる・・・
「すごい技術だね。僕はまったくこういうのが分かんないんだ・・・」
「ふふふふふ。分かる分からない以前に、あなたではわたくしには触れることすらかないませんわ・・・」
「ちょっと言い過ぎだよね。じゃあ攻撃してみようか・・・」
すすっ
左足を軸に、右足を引いて体勢を落とすヒルカ。いったい何をする気なんだろう。
「人中裳胴(じんちゅうもどう)!」
ドカァァァァァァン
「ん?」
10mも距離を置いていたにもかかわらず、一瞬で攻撃を叩きこむヒルカ。強力なひざ蹴りが
マリアさんの懐に入ったと思いきや、黄金色の煙の壁がそれを止めた。
シュゥゥゥゥ
「黄金術式(ゴールデン・スキル)、神々の社(ブレッセンドゴッデス・ミルマータ)」
「黄金術式?そんな薄い壁簡単に壊せるよ。破壊の滅撃(はかいのめつげき)!!」
ひゅっ
ガコォォォォン
「ああああああああああああああああああああああああああああああっ」
悲鳴を上げたのはヒルカのほうだった。強力な踵落としが首元にまともに入るが、なにかの強力
な光とともにはじき返された。
右足を抑えるヒルカ。どうやら骨が粉々になったみたいだ。
「無駄ですわお譲さん。わたしの術式は、物理特殊関係なく防ぎはじき返す、反射型絶対防御術式
ですの。
攻撃の強弱関係なくね・・・」
「どんなに強い攻撃も、だって?」
「もちろん。さらに、大きさも関係ありませんわ。たとえばこのフィールドも、いわばわたくしに
引力を掛けていますね。これを弾くとどうなるでしょうか」
すっ
ドゴォォォォォン
パラパラパラパラ
「フィールド一帯が粉々に?まさか・・・」
「その通り。このフィールドがわたくしに掛けてくる引力を弾きました。自分自身の力で粉々に
なったんですよ・・・」
「そんなの反則じゃないか!攻撃をそのまま反射するなんて・・・」
「反射とは少し違いますよ。神々の社はあくまで防御術式。攻撃作用は持ち合わせていません・・・
相手の攻撃を防いでちょっとしたカウンターをするだけです。反射ならこのフィールドもすべて
消し飛ばせましたしあなたも即死でした・・・
さて、攻撃とはいったい何を意味すると思いますか?」
「攻撃の意味?」
すっ
ブワワワワワ
右手が黄金色に光り出すマリアさん。
「黄金術式、神人の創造槍(ゴッデス・プリマドルミチェ・ガブェドラツェ)」
キィィィィィン
ガラガラガラガラガラ
「うそ!?」
マリアさんが出した巨大な槍は、軽く地面に触れただけで、その地面を粉々にした。桁違いの
攻撃力。あんなの触れるだけで即死だ。ましてや攻撃も届かない。攻守ともに閉ざされたヒルカに、
選択は一つしかなかった。
「降参です・・・」
「試合終了。間藤ヒルカの降参により、勝者、人妻マリア」
「正しい判断に感謝するわ。神の思し召し(おぼしめし)があらんことを・・・
完全回復魔法(コズモディクブレスタ・ウィーワンディクティヴ)」
シュァァァァァ
「傷が、治って行く・・・」
ヒルカにニッコリと笑いかけるマリアさん。
「本来のマリアの仕事は、困っている人を守り幸せを与えること。あなたも良く戦いました・・・
幸運をお祈りいたしますわ」
「あ、ありがとう・・・」
2
一回戦がすべて終了した。二回戦以降は明日以降だ。明日は俺を含むシードの連中が参戦する。
試合はますます荒れてきそうだ。
最後の調整に入らないとな・・・
次の日、第二回戦の第一試合。猿渡花(辛羅3)VS黒雲紅葉(中尊寺学院2)の試合である。
黒い着物に身を包む紅葉は、先にバトルフィールドに座布団を引いて座っている。後から来た
花も、ゆっくりとフィールドに立つと座り込む。
猿渡花。普通に学校の制服のままなのだが、靴がローファーのままで戦いづらくはないのだろう
か?一回戦、圧倒的実力差を見せつけた紅葉にいったいどういう風な戦いを見せるのか?
張りつめた緊張感の中試合が始まる。
「第二回戦第一試合目、始め!」
「暗黒の帳(とばり)よ来たれ、黒き紅葉(こうよう)咲き乱れん」
一回戦同様にフィールドを変化させる紅葉。滝が水滴を飛ばす山の樹海のフィールドは、強制的
に、黒き落葉舞い散るどす黒い空間へと変化した。
「一回戦を見た感じではまったく実力はわかんなかったわね、あなたの・・・」
「辛羅の伝説とまで言われたスケバン女帝猿渡花よの・・・
うわさと違って随分と普通よな・・・」
「うーん、中学の時の話だよねーwwあんまり懐かしい話をされると困るよ・・・
それより攻撃してきてよ。どんな感じなのか知りたいからさー」
ジャキッ
片手に短刀を持つ花。とても防御態勢には見えない構えだ。
「技の正体を知られないために暗闇まで張ってるのに見せろとはな・・・
初見ででかい攻撃を撃ったら死んじゃうんじゃないかな?」
すすっ
手を前にやる紅葉。それに反応するかのように、左右に足を広げる花。
「闇夜の月影淘撃(やみよのつきかげよなうち)」
ふわっ
ギギギギギギギン
「見えない攻撃ではあるが、実体はあるみたいね・・・」
「ふふふ、三か所も喰らっているよな。薄刃紅葉(うすばこうよう)」
ヒュンっっ
「短刀瞬撃雷速(たんとうしゅんげきらいそく)、風見鶏の斬舞(かざみどりのざんぶ)」
ガガガガガッ
「ここまでとは・・・
毒の松神木(どくのまつしんぼく)」
ガキャァァァァァン
「見えたね、攻撃の技が・・・」
飛んできた?攻撃を、飛ぶ斬撃で弾き飛ばす花。肉眼ではまず目視不可能、気配さえ感じること
のさえできない攻撃を返すとはものすごい実力だろう。
飛んできた斬撃を止めるために、紅葉は巨大な紫色の松の木を目の前に生やした。その巨大な
松の木に、花の斬撃は止められた。
「剣術、武術、拳銃。これらのすべてを完璧にこなすという噂はまんざら嘘ではないみたいよな・・・
今の短刀ですらあの威力。真の刀ではいったいどれほどのものか・・・」
「まったく、変な噂ばかり経つね・・・
拳銃なんて扱えないよ。さて、と。ここからがお互いに本気でいいのかな?」
グググッ
両手に鉄製のグローブを嵌(は)める花。いよいよ本格的に戦闘態勢らしい。刀は腰につけてい
た三尺九寸の長い刀。
「黒刀、浄瑠璃門処(じょうるりもんどころ)の鬼柱折衷御殺魔(きちゅうせっちゅうおごろま)
よの。幻の禁辞刀中の禁辞刀。その刀身に秘めるる乱刃(みだれば)を見たものは、冥界に誘われるという怪奇説までたったという・・・
この世で数本とない幻の名刀にここでお目にかかれるとは・・・」
感嘆し、目を輝かせる紅葉。それほどまでに、花の持つ刀は珍しく、そして美しいのだ・・・
「この刀を扱うのは通常の剣士ではまず不可能。大きすぎる力を振るうには、自分の器を大きく
しないといけない・・・
紅葉さん。あなたにこの刀が砕けるか・・・」
鞘から出てもないのに禍々しく黒光りするその刀に対し、紅葉は返した。
「敬意を払って参るっ!!!」
「フフフッ」
ニヤリ
ドドドドド
これから始動する二人に、会場の目が引き寄せられた・・・