カストヴァール年代記
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カストヴァール年代記 第3巻 ヌートの呪 〜最終章〜

 

「レヴィのまろうど、わらわの呪を解く鍵」

およそ500年前、ヌートは私にそう語った。

 

 レヴィ族の比類なき猛将と称えられるアーヴィス女王の末子ハーディーは、15歳で迎える成人の試練を受けた。

近しい血の交わりを忌むべきものとするレヴィ族は、成人の儀を受ける男子の肌と異なる色をした肌の娘を旅先から連れて帰らねばならなかった。

 アントラージェがハーディーにもたらした「北の大地に異形の王が治める国がある」という情報は、少年の好奇心と探究心を掻き立てるのに十分であった。

そして彼は、かの者の導きに従った末に遭難した。

 さて、白銀一族の美しい兄妹の誕生は、ヌートによって決められていた血の濃度がヒトか化け物かの臨界点に達した時期の目安であった。

白銀一族の長の家系はヌートの力をより濃く遺伝させる為、兄弟間またはそれに近しい続柄の婚姻しか認められていない。

しかし白銀族長ファルカと巫女レティシアは愛し合いながらも結ばれなかった。

そこに如何なる葛藤があろうと、当然の結果である。

古来からあるまれびと信仰というものは、隔離された世界で生きるヒトが外界から知識を携えて訪れたヒトを神のように畏怖して頼ったことが始まりなのだ。

レヴィ族が定めた成人の儀の意味とは、白銀一族が必要としていた知恵そのものであった。

こうしてお互いを必要とする両者の運命が交わり、ヌートの言葉が成就することとなったのである。

 

 エウェル・サール歴453年、白銀族長ファルカはヌートの春祭りでヴォルフ族長の弟である冒険者ザキアスの娘と婚姻を結んだ。

歴代の長の結婚の中でも異例中の異例とも呼べる花嫁である。

一方、まれびとハーディーにかどわかされた妹巫女レティシアの消息は、しばらく歴史から消える事になる。

だがその血は保たれ、レヴィの若者アヴェルが愛する者に母の名を明かす時、再び歴史にその名が現れるだろう。

しかし血に刻まれた呪は、子供達に蛇のように喰らいついて離さないだろう。

ヌートの力を忘れることができない肉体は、彼らの子孫に祖先の罪を思い出させるのだ。

 

 ヌートが担当する計画に設けられた次の区間では、ハーディーの息子が地底のソル・アラムに出会う。

そしてその頃、白銀、ヴォルフ、ヴレードの三つの部族が戦によって統合される。

結界を保有する力を失った白銀一族が戦う術を知らぬまま戦争に巻き込まれていくその最中に、ファルカの娘とハーディーの息子は惹かれ合うだろう。

彼らの因縁の出会いによってアヴァス大陸から逃れてきた三部族の歴史はこの巻で終わるのだ。

万事好調な流れにヌートの高笑いが聞こえるかのようである。

ヒトは神が作ったその血と肉に支配される傀儡であり、魂の入れ物に過ぎないのだ。

 

 私は次巻にこのカストヴァール大陸を二分して支配する国の名を露わそう。

我が神はその国の誕生を許された。

我らが神の目的を邪魔する神々の一派が送り込んだ、運命を書き換える力を持った因子アヴァンクーザー。

これは我々にとって必要な犠牲である。

一つの属性は人を衰退させる。故に我が神は敵対する神の存在をお許しになったのだ。

我々はあえて光を作り、闇を明らかにしようではないか。

その中核で蠢く「常に環の外にいる者」について、また彼女の功労を賞して環の記録に書き留めておこう。

ヌートの名が血塗られた祭りの代名詞となり黒き翼が忘れ去られた頃、人々は彼女をこう呼ぶ。

ヴレードの守護者、白銀の魔術師オメガと。

 

 歴の塔にて『環の記録者』エリフェレト記す。

説明
「環の記録者」であるカナン・エリフェレトが記した書物の一つ。
カストヴァール大陸の歴史が綴られている。
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運命  遺伝 魔術師 

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