対魔征伐係.12「桜瀬綾音A」 |
「桜瀬さん!」
掃除中の真司と綾音に話しかける一人の鎮守高男子生徒。
正確には真司は眼中に無く、綾音にだけ、だが。
「・・・何かしら・・・?」
愛想笑いをするわけでもなく、思い切り掃除の邪魔をするなという態度を取る綾音。
「そ、そのっ、実は・・・」
男子生徒は汗を掻きつつ微妙に頬を染めていた。
(・・・青春だな・・・)
そんな二人のやり取りを傍観している真司。
「じ、実は桜瀬さんのことを前々から、その、す、好きでしたッ!!」
ぽっちゃりとした背の低めな男子生徒はやっとの思いで綾音にその思いの丈を打ち明けた。
(何だ、やっぱり委員長はモテるんだな・・・)
委員長の対応を見る限りはどう見ても初めてという感じではない。
手馴れた、もううんざりだと言うことが見て取れた。
「そう・・・悪いけど・・・ごめんなさいね」
綾音は特に表情を作るわけでもなく、淡々と応える。
「ど、どうして!?どうして駄目なんですかッ!!?」
(おぉ・・・?)
男子生徒は真司の予想以上に粘り強く、ザックリ断られたにも関わらず未だに引き下がらない。
「・・・どうしてって言われてもね・・・」
綾音も予想外だったのか、多少困り気味だった。
確かにどうしてと言われても、駄目な箇所をズバッと言うのは流石に気がひけると言うものだ。
そんなことを出来るのは師匠くらいのモノではないだろうか。
「僕は、桜瀬さんのことを愛しているんですッ!!そんな僕じゃ駄目なんですかッ!!?」
(駄目だから断られたんだろう・・・)
男子生徒は必死の形相で綾音に迫る。
そんな様子を真司は呆れたように傍観している。
「えーと・・・まぁ、うん。駄目ね」
(言っちゃったー!!)
流石の委員長、いい加減にウザイと思ったのか、今度はズバッとキッパリ言ってのけた。
「そ、そんなこと・・・信じられるか!!どうして駄目なのか、ちゃんとした理由を教えてくださいッ!!」
(・・・うーん、何か危険な匂いがするやつだなー・・・)
今の段階でも十分アレな匂いはするが、そのうちどんどんエスカレートしそうな勢いである。
「・・・うぅん・・・」
綾音も同じことを思っているのか、返答に困っている。
下手すれば君を殺して僕も!などと言い出しそうな雰囲気だった。
(・・・一発どついて目を覚まさせるか・・・)
殴って目でも覚まさせてやろうかとも思った真司だったが・・・
今の段階ならば不幸中の幸い、他の生徒たちは会話の内容が聞こえる距離には居ない。
知り合い3人が話している風に見えなくもない。
だが、ここで真司が殴ってしまえば流石に他の生徒たちにも気付かれる。
自分だけならいざ知らず、今は隣に委員長が居る。
この場は何とか委員長に迷惑をかけることなく、可能な限り穏便に済ませたかった。
そんなことを考えていると困り顔の委員長と目が合う。
「実はね・・・」
(!?・・・何だその目は・・・)
真司を見て何か思いついた綾音。
とても嫌な予感がした。
「私にはこの日比谷クンっていう彼氏が居るから、ごめんなさいね」
(・・・やっぱりか・・・)
「そ、そんなっ・・・・!?」
予想通りの展開になってしまった。
しかも綾音の戸惑いの無い、堂々とした演技に男子生徒は完全に騙されている。
しかし、王道ではあるが、真っ当な理由を眼前に叩きつけられれば幾らしつこい相手でも流石に・・・
「う、嘘だッ!そんな冴えない男が桜瀬さんの選んだ男だなんて!!!」
(・・・やっぱり殴るか・・・)
現実を目の前に突きつけられても未だに引き下がらない男子生徒。
自分の見た目に自信があるわけでも無かったが、目の前の奴には言われたくはなかった。
そう強く感じた真司だった。
「・・・嘘じゃ、ないわよ・・・?」
「・・・信じられるものか!!きっと嘘を吐いているんだ!!」
よもやこれほど食い下がるとは思っていなかったのか、流石の綾音もボロが出てきそうだった。
相手も今は騙されているが、何時気づかれるか分かったものではない。
(・・・ふぅ・・・面倒くさいが・・・掃除も終わらないしな・・・)
こんなことで時間を浪費し、掃除が終わらなくなってしまっては笑い話にもならない。
そう考えた真司は綾音の元へ歩み寄る。
「・・・?日比谷クン?」
綾音の隣にまで来ると、その細い肩を胸へと抱き寄せる。
「「!!?」」
綾音と男子生徒は同じようなリアクションだった。
信じられない。
まさにそう顔に書いてある。
「何だ、これでもまだ信じられないのか?お前」
「ぁぅ・・・そ、そうよ、これでもまだ嘘だと思うのかしら?」
(明らかに今動揺しただろう・・・)
綾音は頬を染めながらも必死で真司に合わせる。
慌てることなくキッチリ合わせてくる辺りが流石である。多少の動揺はあったが。
「う、うううぅうぅ・・・」
男子生徒はずるずると後ずさりをしている。
後一押しと言ったところだ。
「何なら目の前で熱い口付けでも交わしてやろうか?」
「ッ!!?・・・」
止めの一発と言い放った言葉は相手男子よりも綾音の方に衝撃を与えたようだった。
「う、うわあぁあああぁあんッ!!!!」
男子生徒にも止めとなったのか、そのまま夕日へ向かって走り去ってしまった。
「・・・やれやれ、以外に根性あるやつだったな・・・」
「・・・その、日比谷クン・・・?」
夕日に消えていく男子生徒を見ながらため息混じりに呟く真司。
「・・・ん?どうした・・・?」
「いい加減、その、手を・・・」
真司の手は変わらず綾音の肩をがっちり掴んだままだ。
当然、意図的なものだった。
「いつも厚着してるから分からなかったけど、委員長って意外と華奢なんだな」
「そ、そんなこと・・・」
「それに、香水か?いい匂いが・・・」
どんっ!
言いかけた真司の足に鋭い痛みが走る。
正確には足の甲に。
「・・・余り、調子に乗らないで欲しいわね」
「いや、これでも解決しようとだな・・・?」
思い切り足を踏まれ、一人悶絶している真司の傍をサッと離れる綾音。
「・・・分かっているわよ・・・その、ありがとう・・・」
言いなれていないお礼の言葉を言いつつ綾音は真司とは逆の方へと向いてしまう。
「・・・委員長、意外と可愛いな」
どんっ!
・・・その後は何とか二人で掃除を終えることが出来たが、綾音はよりいっそう他所他所しくなってしまったのだった。
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