博麗の終 その‐1 |
【八雲紫は語り始めた】
「私の家は、簡単に言うとマヨイガよりもわかりにくいところにあるのよ。マヨイガは迷い込める、けれど私の家にはたどり着けない。そも場所と言えるのかすら怪しいところに存在する。居を構えてから、未だに誰の進入も許していないことを申し添えておくわ」
―それはいったいどのくらいの間ですか?
「場所は違えど、住処を襲われたことなど一度も無いわ。そういう意味では産まれてこの方、と言ったほうが正しいのかもしれないわね。どのくらいかは、もう覚えてもいない。歴史でも紐解いて頂戴。まあそんなところへ博麗霊夢が来たのよ。私に会うために、ね」
―歴史的快挙、というわけですね
「『初めて本気を出した気がする』なんて言ってたけど…そうね。あれでも本気じゃないのなら、流石の私も恐怖に身を震わせるわね」
―それは、何故?
「あたりがほんの少し白み始めた頃に起きて、太陽が昇りきったあたりで私の家までたどり着いたのよ。藍でも無理ね。言っておくけれど、ああ見えても伝説にすらなるほどの妖怪『九尾の狐』よ。それをさらに式化して、強化されたモノですら無理ということ。距離じゃなくて感覚の問題でもあるのだけれど、速さもあるにこしたことはないわ。つまり博麗霊夢は異変解決以上の本気を振り絞って、私の所在に見当つけながらただひたすらに飛んできた、というわけなの」
―誰よりも早く、ということですか…
「だから何事かと思ったわ。でもね、おかしなことを言うのよ。『一日だけでいいから一緒にいて』なんて。たちの悪い告白みたいじゃない。ならここにいなさい、って言ったんだけど『神社にいたいから神社へ行こう』の一点張り。何故と問えば『勘』としか答えない」
―博麗霊夢の勘、ですか
「言い訳みたいで悪いけど、この時の仕事ってかなり大掛かりなものだったのよ。最近の結界は、妙な揺らぎが絶え間なく続いているから、私にしかできない処理を行うだけでも徹夜作業になったわ。今の藍に任せられない仕事なんて……私でもきついのよ。そんな作業を夜通しやっていたのだから、もう上手く物事を考えられるような状態じゃなかった。だから、『お断りよ。もっといい理由を思いついたらいつでもいらっしゃい』と、言った」
―突っぱねた、というわけですか
「その時の霊夢の顔は、どれだけ生きても記憶からなくならないでしょうね…」
―……
「俯いたまま何かを呟いて、とぼとぼと帰っていったわ。その時に、気付いてはいたのよ。『何かが起こる予感があるから、何事であろうとも対処できるであろう私に力を借りに来た』って。ただ、その程度を見誤っていた。私はいつでも、スキマさえ開けば様子を見ることが出来る。萃香に頼めば霧になってでもずっと見ていてくれるから、直に見守るのは私でなくともいい。そう思ったのよ」
―確かに一つの判断、ではありますね
「でも……まあ、失敗した者は常にこう思うのだけど。だから私も思ってしまうのだけれど。後になって考えてみれば、あの博麗霊夢が自力で解決できない訳が無いのよね。自力では対処不能な事態が確実に起こる予感があったのでしょう。そしてそれは、私にしか頼めないことだった。だからあの子は今まで決して出さなかった全力で、私の住処へと辿り着いた」
―後から考えれば、そうですね。そうとしか思えません
「突然、だったらしいわ。萃香はとてもよくやってくれた。頼みごとをするのも珍しければ、内容もまた珍しい。事情が事情だからって、お酒を呑むことすら忘れて事細かに様子を見てくれていた。だから行動も早かった。明らかに様子がおかしくなって焦り始めた霊夢に、すぐさま声をかけたそうよ。『久しぶりだね。何か変だけど、どうしたんだい?』って。霊夢は数年ぶりに会ったというのにいきなりこう言った。『今すぐ紫と永琳、それから輝夜か咲夜を呼びなさい!でないと……』」
―一刻の猶予も無い、ということですね
「言いながら倒れていったそうよ。途中で大きく身体が跳ねて、倒れる前に抱きとめたら痙攣が始まっていた。私のところにいた小さな萃香から事情を聞いて、すぐにスキマから生死の境界を操作しながら輝夜と繋いで時間を止めたわ……手遅れだったけれどね」
―助かる術は無いのですか?
「……事が起こる前ならば…方法もあった、と思う。だけど、もうこの通り。博麗霊夢が倒れてしまった今となっては、いくら境界を操ろうとも元には戻らないわ。医術の頂点である八意永琳にも、死を最も深く知る西行寺幽々子にも見せたけれど、結論は『脳が大幅に欠損したことに伴う魂の欠損』。生命活動を行っているだけでも異常なことだそうよ」
―あの、これは
「修復を試みた身体は、元の形で霊夢と共にあるわ。でも薬では回復しない。技術では回復しない。奇跡が起こっても回復しない。魂と存在は等しく、一方が欠けたら他方も失われる関係にある。だから…博麗霊夢は、このまま存在を終えることでしょう」
―これ
「私のせいで」
―…
「そしてそれは、きっと
幻想郷の終わりを、意味するのでしょう」
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