新世代の英雄譚 四話
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四話「交易都市の夜と奇術師」

 

 

 

 思ったより早くに、宿は取れた。

 商人をターゲットとして建てられた宿が多い為、その数が減ってる今、夕刻にも関わらず苦労はしなかった。

 それから、直ぐに夕食を食べる店を決める。

 温かい食事と離れていたのはたった二日間だが、それでもルイスはそれが恋しかった。

「よし、ここは思い切って肉行くか、肉!」

 ビルが叫んだ。

 路銀は確かに、まだ余裕がある。

 多少は豪勢な食事をしても、問題はないのだが。

「ちょっと待って。この先、東に行くのは危険だし、北に進路を取るとすれば、大きな町は一月ないわよ?」

 地図を開いて、ロレッタが苦言を呈す。

 彼女の持つ王都で買った地図は、かなり正確に描かれている。信憑性で勝るものはないだろう。

「何とかなるだろ!それに、これはお前の歓迎会でもあるんだぜ?何、飯に困ったら、俺が絶食してでも工面してやるって」

 こう言われてしまうと、ロレッタも引き下がらざるを得なくなってしまう。

 ルイスも、今まで何度かこれに押し切られて来てしまっていた。

 「な、何よ。いつもはあたしにエロ目しか向けてないのに、急に男を上げようとして来るなんて……」

 ぶつくさと言いながらも、ロレッタの頬は真っ赤だ。

 今まで彼女に言い寄って来る男性は多くても、ビルの様なタイプは居なかったのだろう。

 確かに、ビルは「男でも惚れる漢」なのだ。

「ルイス、異論はないな?」

「うん。全部任せるよ」

 その所為で、ルイスがイエスマンになってしまうのはある意味で必然だ。

 ただ、一応ルイスも考えた上で、返事をしている。それが常に肯定的なものになってしまうのは、まずビルがおかしな事を言い出さないからだ。

「ねぇ、ルイス」

 まだ顔をいくらかピンクにしながら、ロレッタが耳打ちしてくる。

「あいつって、いつもアレ?」

「ま、まあ。根っからの兄貴分というか、なんというか、ね」

 本当に、頼もしい限りだと思う。

 これでたった三歳の年の差なのだから、冗談だ。

 体格も、人格の成熟加減も、ルイスより十歳は年上でないと、おかしい気がして来る。

 なのに、今年で十九歳。胸板もどんどん厚くなって行っている気がするし、身長もまだ伸び続けている様だ。

 最近、ルイスは彼が天を突く様な巨人になりはしないかと、ちょっと本気で心配している。

 そんな大男が傍に居る所為で、尚更ルイスは女の子の様に見えてしまうのも悩みの種であり、共に旅をすることになったロレッタも長身なのだから、更に男子としての誇りをズタズタにされつつある。

 しかも、この町に入ってから目に付く人も、長身が多い気がして来る。

 あんまり儲けられない行商人なんて、皆ガリガリのチビだと思っていたのに。

「よし、じゃあ行こうぜ。宿を探している時に、良さそうな酒場に目を付けてたんだ」

「……お酒、飲むの?」

 ルイスは酒が苦手だ。

 匂いだけで、気持ちが悪くなってしまう。

「明日出発って訳じゃないんだろ?なら……」

 飲ませろ、と。ルイスは頭の中で補って、溜め息を吐く。

 ロレッタの村では、十分な食事を出してもらえたが、結局酒は出されなかった。

 そのこともあり、大分禁断症状が出て来ているのだろう。

 それに、一応ロレッタの歓迎会という名目なのなら、酒は必要不可欠だろう。

「お酒、か。あたしはあんまり得意じゃないけど、一応口を付けるぐらいはするべきよね?」

 ロレッタがそう言うのを聞くと、ルイスほっと息を吐いた。

 これで彼女まで酒豪だった日には、泣くしかなかった。

 貴族で、王女の護衛を務めるほどの騎士なら、宴の席で相応に酒を飲んでいる筈だから、もしや、とは思っていたが、この時ばかりは予想が外れたことに感謝だ。

「おーし、行くぞー!酒が飲めるっ!!」

「……もう酔っぱらってるんじゃないかって、心配になるよ」

「ルイスに同じ」

 明らかにテンションの落差を感じながら、二人はビルに続いて酒場へと向かった。

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「意外と、小洒落ているお店じゃない」

 連れられて来た店は、賑やかな大衆酒場ではなく、ちょっと金銭的に余裕のある人間が出入りする様な、ゆったりとした酒場だった。

 大きなテーブルで大勢が入り混じって酒を飲むのではなく、四人ぐらいが小さなテーブルで運ばれて来た酒と料理をつつくという、カフェの様なスタイルで、ルイスにも好印象に写った。

「女連れて、しょっぼい店に入る訳ないだろ?」

「でも、値段高そうだよ……?」

 もう良い時間だというのに、あまり混んでいない。

 ということは、あまり一般市民や旅行者が気軽には入れない店だということになる。

「大丈夫。ちゃんと金は別に分けてあるんだ。今日は何があってもこの分しか使わない」

 なら、安心かと、小言をやめる。

 先の宣言通り、肉料理と中ぐらいの品質の葡萄酒を頼むと、三人は席に着いた。

 いつかと同じ、ビルとルイスが横に並び、その向かいにロレッタが一人で座るという形だ。

 一度、ビルがロレッタの隣に座ろうとしたが、またあの肘鉄を喰らって、撤退を余儀なくされた。

 ルイスならまだしも、これから酔っぱらう気満々なビルを隣に座らせることには、危機感を覚えたのだろう。

「ブラフォード卿との、素晴らしき邂逅に乾杯!」

 酒と料理が運ばれて来てから、わざと畏まった言い方で、ビルが乾杯の音頭を取る。

 三人がコップをぶつけ合うと、ビルはそのまま一気に自分の分を飲み干してしまった。

「一気飲みは、悪いマナーよ。それに、体にも悪いって最近では言われているし」

「大丈夫!俺は胃が丈夫だから!」

 わざわざ頼むのが面倒になったのか、ビルは空のコップを手に店主の方へと歩いて行った。

「あれはもう、とことん飲むつもりね。あたしって、酔っ払い嫌いなのに」

「全くの同感です……あ、もしよかったら、隣に行かせてくれない?」

 そんな兄貴分の後ろ姿を見ながら、ルイスもまた腰を浮かせた。

「良いけど。どうしたの?」

「ビルは酔うとお酒を勧めて来るんだ。隣に居たら、僕まで酔い潰されそうで……」

 事実、二、三度は酷い目に遭って来た。

 お酒を飲み過ぎた時の、眩暈にも似た気持ち悪い感覚や、二日酔いの苦しさ。あれを何度も経験してしまえば、防護策を練らないではいられない。

「ん、何だよルイス。俺が酔っている間に、ロレッタを口説き落とそうって魂胆か?」

「違うよ……ほら、ビルがソファを広く使える様にさ」

 適当な言葉を並べておいて、出来るだけ事を穏便に済ませ様とする。

 一杯や二杯でビルはべろんべろんにはならないが、酔っ払いを怒らせると面倒なのは、誰もが知っている通りだ。

「ルイス。あたし達は料理を頂きましょう?アレはどうやら、お酒だけでも良いみたいだし」

 三杯目に口を付けているビルを尻目に、ロレッタは料理に手を伸ばす。

 牛肉を香辛料を効かせて焼いた、何とも食欲をそそる一品だ。

 流石に交易都市だけあり、他では中々手に入りづらいコショウの類も、比較的安価で提供出来るらしい。

 その一片を、ナイフで厚くカットしたパンに乗せて一気に食べる。

 薄くパンを切っている様では、完全に肉の味にパンが負けてしまうから、顎が外れそうな大きさにパンを切るのが良い。

 このパンもまた、上質の小麦で焼かれているらしい。

 日持ちする硬いパンばかりを食べていたルイスにとっては、この上ない贅沢だ。

「凄いわね。かなり記憶が色褪せて来ているとはいえ、パーティで食べた食事より美味しい気がする」

 各国の珍味よりは、素朴な贅沢料理の方が、味では勝っているのかもしれない。

 ロレッタの漏らした一言は、そんなことを想像させた。

「しかし、ビル……よくお酒ばっかり飲めるね」

 向かい合って見ると、凄まじいスピードでコップの中の酒が飲み干されて行くのがわかる。

 全く料理には手を付けず、一心不乱に呑んでいて、もらって来た小さな酒樽も、もうすぐ空にしてしまいそうだ。

 それにしても、本当に幸せそうに飲むのだから、いまいち酒飲みの気持ちはわからない。

「これで、美女が注いでくれたりしたら最高なんだがなー」

 自分で自分に酌をしながら、ロレッタに視線を送る。

「食事で忙しいから無理。というか、仮に手が空いていたとしても願い下げよ」

 どうせ、こうなるのはわかっていただろうに、とルイスは成長しない我が友を見る。

 そもそも、ロレッタが今まで一度でも、ビルに対して優しくしたことがあっただろうか。

 ルイスはなんだかんだで、稽古を付けてもらったり、剣をもらったりしたし、かなり好意的な接し方をしてもらっているが。

「人徳の差、かな」

 とりあえずそう解釈しておくことにした。

 それに、ビルがもう大人だからかもしれない。それに比べると、ルイスはずっと危なっかしく見えるのだろう。

 騎士道精神とは、強きを挫き、弱きを護ることだそうだが、自分はその「弱き」に入るのだろうか。

 ルイスは少し気を落としながらも、一先ずは目の前のご馳走を楽しむことにした。

 フォークを伸ばし、肉を……盗られた。

 横からぬっとフォークが伸びて来て、今正にルイスが食べようとしていた肉の一片を、奪い取って行ってしまったのだ。

「だ、誰!?」

 角度的に、ロレッタは有り得ない。そもそも、彼女がそんなことをするとは思えない。

「あははー。やっぱりバレちゃいましたかー。ごめんなさい、これはお返ししますデス」

 フォークを操っていた手の持ち主を目で追ってみると、そこには一人の小柄な少女が居た。

 袖口や襟元にフリルのあしらわれた白いブラウスを着ていて、下は同じく白のロングスカート。背中には黒いマントを羽織っている。

 セミロングのくすんだ金髪頭の上には、ピンク色の布が張られた小さなシルクハットをちょこんと乗っけていて、左手には同じくピンク色のステッキを持っていた。

「え、えーと。大道芸人の人?」

 とてもではないが、一介の旅人がする様な服装ではない。あまりに奇抜過ぎる。

 かといって、踊り子などとも思えない。顔はかなり可愛い部類だし、スタイルも年の割にはかなり良いが。

「えいっ」

「うぶっ!?」

 しばらくぽかんと少女を観察していると、開いた口の中にさっき奪われた肉がぐいっと突っ込まれた。

 慌ててそれを租借して、フォークを口から抜いてもらう。

「うぅ……ビル、は頼れないから、ロレッタぁ……」

「あ、あたしに頼らないでよっ!こんなファンシー女の登場に、正直かなり動揺しているんだから」

 困り果てたルイスは、何とかロレッタに少女の対処を任せようとするが、聞いてくれない。

 少女はと言うと、その様子を楽しみに見るばかりで、これ以上彼女から何かアクションを起こそうともしなかった。

「と、とりあえず……君、どこかで会ったかな?」

「いえ、全くの初見デスネ」

 考える素振りも見せず、即答。

 さっきもそうだったが、彼女の言葉は少し語尾のイントネーションが独特だ。

 訛りというよりは、この国で普通に話されている言葉に慣れていないのだろうか。

 ルイスと大して年が変わらない様な少女が話すにしては、少し言葉が硬い気もする。

「え、えーと、ですね。僕達に何かご用ですか?」

 なんとなく、つられてルイスも敬語っぽくなってしまう。

「いえいえ、何となく楽しそうでしたので、お近づきになろうと思ったのデス。さっきの摘み食いも、ほんのジョークのつもりだったんデスヨ?」

「本当かな……」

 そこは少し、信用出来ない気がした。

 結構なスピードで肉を奪い取って行ったのだし。

「ああ、そして、ワタクシとしたことが、自己紹介がまだでしたね。ワタクシはベレンと申しますデス。行く先々で、芸をお見せして差し上げている、奇術師なのデス」

 少女。ベレンはスカートの裾を摘むと、礼儀正しく頭を下げた。

「奇術師?それって、手品を見せる人のことだよね」

 知識としては知っていたが、ルイスが実際その職業の人間に出会ったのは初めてのことだ。

 普通、奇術師や大道芸人というものは、大きな都市ばかりを狙ってやって来るものだ。

 田舎で素晴らしい芸を見せたところで、大したおひねりを期待出来ないし、ほとんど護身術も持ち合わせていないので、賊が怖いからだと前にビルに聞いていた。

 確かに、ベレンも中々に奇抜で、しかし、高級そうな服を身に纏っているが、とても戦闘は出来そうにない。となれば、賊の格好の標的になってしまうだろう。

「いえいえ、ワタクシがお見せするのは手品だなんて安っぽいものではないのデス。種も仕掛けもありません、超魔術デスヨ」

「大体の奇術師って、そういう口上でタネがミエミエの手品を始めるのよね」

 流石に都住まいの長いロレッタは、何度も奇術師の手品を見ているらしい。

 どこか冷めた目でだが、まだベレンに注目しているだけ良いだろう。

 ビルはと言うと、もう赤い顔で、あの女好きが酒しか目に入っていない様だ。

「まあまあ、ワタクシの魔術をご覧ください。世にはびこる、ぺてん師とは違うデスヨ」

 自信満々に言い放つと、まずベレンは被っているというよりは、頭に乗せているだけだったシルクハットを手に取り、逆さまにした。

 その中に手を突っ込み、適当に弄って見せる。

「タネも仕掛けもありませんね?よーくご覧ください」

 それから、二人にその中を確かめさせる。

 ハットは中もピンクの布が張られていて、よく見える。

 何かが入っている様子ではないし、二重底にするには帽子自体が小さ過ぎる。

 簡単に見破ることの出来る仕掛けはなさそうだ。

「それでは、ここに魔法の粉を一振り、ふりかけマス」

 ベレンはスカートのポケットから小さな袋を取り出すと、その中に入っているものをシルクハットにかけた。

 粉の色は白色で、粒子は粗い。

「はい、皆サマご清聴下さい。何か音が聞こえて来ませんか?」

「と、言われても……?」

 注意深く聞き耳を立ててみるが、ビルが酒を飲む音しか聞こえない。

「ありゃ、少し時間がかかってしまうようデス。まあ、もう少しお料理でも食べてお待ちください」

「は、はあ」

 言われた通りにルイスは、食事を再開しようとする。

 ロレッタもそれに従った。一先ずは。

「それ、トリックって言えるのかしら?」

「はわわ!?」

 いきなりばっ、とベレンを振り返って言ったロレッタに反応して、ルイスも慌ててそちらを見る。

 すると、ベレンが足元に置いていた鳥かごから、一羽の白い鳩を取り出し、帽子の中に入れようとしているところだった。

「あ、ある意味、タネも仕掛けもないデス」

「思いっきり力技だからね……」

「ちなみにこの子はワタクシの友達の、エスペリディオンという伝書バトデス」

「なんというか……すごい名前だね」

 エスペリディオンは、帽子の中で、底に撒かれた粉をつついている。

 どうやら、豆を潰した彼のエサらしい。

 ベレンはその頭を撫でてやり、艶やかな羽を指でなぞると、再び顔を上げた。

「エスペリディオンクン、略してリオンクンはお腹が減っていたのデス。デスから、これは魔術とは無関係なのデスヨ」

 何故か得意気。

 彼女の場合、まだ小さいのだし、かなり容姿が良いので笑い話で済むが、キザったらしい男だったりした日には、非難轟々だろう。

 そう考えると、自分の容姿まで視野に入れた上手い商売をしているのかもしれない。

「ではでは、改めまして、魔術をお見せしますデス」

「今度はネコでも出して来ないでしょうね……」

「ワタクシの友達は、リオンクンだけなのデス。……孤独な人生なのデス…………」

「ご、ごめんなさいっ。あたしが友達になるから泣かないで……って、あたしが謝る流れなの?」

 勝手に落ち込んだだけな気もするが、同性であっても、ベレンは父性の様なものをくすぐる魅力があるらしい。

 尤も、ロレッタの心配をよそに、次の瞬間にはベレンは立ち直って、元気にステッキを振り振り、「魔術」を再開する。

「これはポピュラーな魔術なのデスガ、このステッキが別のものに変身してしまったら、驚きデスヨネ?」

「う、うん」

「ではお兄サン!何かご希望のものはありますか?」

「え、えっと……」

 いきなりそんな事を言われても、直ぐには出て来ない。

 ポピュラーと言われても、ルイスはそもそも奇術師に会うのが初めてなのだから。

 しばらく、ピンクの可愛らしいステッキを見ながら考えた末、出て来た結論はと言えば。

「花、とか?」

「恐ろしくベタね」

「そ、そうなの?」

 結構、真剣に悩んだ末に出て来た答えだったのだが、ルイスの思考がマジョリティの域を出ることはなかったらしい。

 だが、それならこのいまいち頼りない奇術師にだって、きっと出来るだろう。

 ……奇術師は、客に心配される職業ではない気もするのだが。

「お花デスネ!お安いご用デス。このステッキをくるくると回転させて、よっ、と。空に投げまして、これをキャッチします、すると……!」

 カランッ。

 ステッキはベレンの手をすり抜けて、床に転がった。

 見た目からは材質がわからなかったが、金属製だったらしい。

「……ワタクシ、棒遊びは三つの頃から苦手なのデス」

「なんで奇術師になったのよ!」

「…………それは、お母サマがワタクシに言い残して逝ってしまわれたのデス。『ベレン、奇術師だけはあんたに向かないから、やめなさい』と」

「どうして言う通りにしなかったのよ!」

「そんな事を言われたら、意地でも奇術師にならないといけないじゃないデスカ!」

 今度は何故か、熱弁する。

 それからも、必死に手品をしようとするので、二人はもうほとんど食事をそっちのけで彼女の手品の成功を祈る様な気持ちで見ていたが、結局ビルが酔い潰れ、宿に帰ることになるまで、彼女の手品が成功することはなかった。

「うぅー。今度は成功して見せますので、どうかお楽しみにー」

「は、はぁ」

 ルイスも、そこまで手先が器用だという訳ではないが、彼女の不器用さは筋金入りだ。

 応援したいが、根本的に向いていないというのがよくわかってしまっているので、曖昧な事しか言えない。

「それで、あなた今晩の宿はあるの?」

 ずっと苦笑いでベレンを見守っていたロレッタだが、彼女のことを心配はしていたらしい。

 ルイスの気が回らなかったところにまで、ちゃんと目が届いている。

「あ、はい。それは大丈夫デス。この町に来る途中で、商人サンと出会って、その人達と行く事になってますので」

「そう。じゃあ良いのだけど、あたし達はしばらくこの町に留まるわ。宿はここだから、もし魔術が成功したら、見せてよね?」

「は、はいデス!」

 いつの間に用意していたのか、折り畳まれた簡単な地図をベレンに差し出した。

 彼女がそれを受け取ると、地図の間から数枚のコインが滑り落ちて、床に転がった。

「こ、これは……」

「奇術師に芸を見せてもらったの。相応のお金を払わないのは失礼でしょ?明日のおやつでも買いなさい」

「ありがとうございます!このご恩はいつか必ず、お返ししますデス!」

 ベレンはぺこり、と頭を深く下げると、大事そうに地図とコインを握り締めて行った。

「世紀の大魔術師が誕生するか、挫折の末に酒場の看板娘か何かになるかは、あの子の頑張り次第ね」

「僕は、なんとなく前者かな、って思うな」

「そうね。芸の腕はアレでも、あの愛らしさと、面白い喋りがあれば、きっとこの国でも通用するわ」

 ロレッタは彼女が去った方向を見て、呟いた。

 ……背中に、完全に意識を失ったビルを抱えながら。

「しかし、この筋肉の塊……相当に重いわね。昔、重槍を振るっていたあたしでも相当苦労するわ」

「……引き摺っちゃって良いと思うよ?何なら、蹴り転がしながらでも」

「あなた、意外とビルに対しては辛辣ね……」

「幼馴染だからね」

 そういう問題じゃないでしょう。ロレッタはそう言って、自分の二倍の体重はありそうな大男を夜の闇の中、宿屋まで運んだ。

 同じ頃、この町に事件が起きていた事を一行が知るのは、翌朝のことだ。

 

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