Sweety Citric Acid Moon #3 |
弟のトマスがバンズを取りに行き、兄のデイビッドがサンドの下拵え。
この町唯一のファストフード、ディー&ティーズ・デリのいつもの風景。
兄のデイビッドは図体の割りに小心者で口下手だが料理の腕は滅法良く、固定客も多い。
弟のトマスは料理はサッパリだが、軽口も軽快でサービス精神豊富な中々のセールスマン。
この兄弟が営む「ディー&ティーズ・デリ」、店こそ改造フルサイズバンだけなのだが、
「いつかは目抜き通りにダイナーを」と言う夢があり、町の住人もそれを楽しみにしている。
そうそう、因みにここのお勧めは「グラハム・リペアガレージ」って言うサンドウィッチ。
元は物臭なグラハム爺さんが中古のフルサイズバンをこの兄弟の店として改造をしていた時、
爺さんが物臭なりに熱を上げて改造に勤しんでいる時に考案されたと言うホットサンドなんだ。
車の様子を見に来たデイビッドが作業中の爺さんの言うが儘に作ってみたら、これが大ハマり。
トマスもこれを大変に気に入り、自慢の口と足で売り込み、今ではこの店の名物になったって訳。
レシピは簡単。2エッグのスクランブルエッグにベーコン1枚とキャベツの千切り一掴みを炒めて、
頃合に焼けたトーストで挟んだ物さ。トマトケチャップはお好みで。マスタードも忘れるなよ。
デイビッドはキッチンで黙々と野菜を刻んではパットに移す。「御免よ、兄さん。遅くなった。」
「…どうした?」バンズの他に大きなダンボールを抱えて帰ったトマスにデイビッドが尋ねる。
嬉々としてトマスが答える。「この日の為に作ったんだ!ウチのオリジナルカップさ!素敵だろ?」
続けてトマスが捲し立てる。「ディー&ティーズ・デリのカップでレモネードを飲もう!どうだい?」
デイビッドは節目で笑いながら呟いた。「…悪くない。ついでに今日は25セント硬貨も多めにな。」
外の陽気とは打って変わり、キッチンは静かに曇天が拡がりを見せる。
「シロップはカップの1/4、良く冷えたお水を入れて、最後に皮をパラリ…、」
アネットはキッチンでカップを指差して、レモネードを作る手順を幾度も繰り返していた。
「ちょっとアン、時間は大丈夫なの?」車輪の付いた屋台を飾り付けながらママが呼ぶ。
今迄ママの脇で眺めるだけしか出来なかった事を今度は自分で行うのだから無理も無い。
朝のおめかし、そしてママからレモネードの作り方を教わっていた時のワクワクから一転、
アネットはこれまでに無い緊張と言い様の無いプレッシャーに押し潰されそうになっていた。
見かねたママが飾り付けの手を止め、半ば呆けた様なアネットの前に跪いて軽く抱き締める。
「アン、怖い?」ママが優しく聞く。「…うん。」少しホッとしただけに少し涙声のアネット。
「何が怖い?人の前にこうして出る事?町のみんなが全然来なかったらどうしようって事?
レモネードが美味しくなかったらどうしようって事?」「…全部。」アネットは小さく答える。
ママは一層強くアネットを抱き締めながら、「ママも初めはそうだった。今でもちょっとね。」
「…ママも?いつもやってるのに?」「うん。ママもみんな来てくれなかったらどうしようとか、
美味しくなかったらどうしようとか、いつも思ってる。」「…じゃあ、いっつも怖いのに何で?」
手を緩めながらママが言った。「んー、じゃあアン。今、ママにレモネードを作ってくれる?」
「え…、う、うん。」アネットは手を牽かれてキッチンに入り、教わった通りにレモネードを作る。
「はい、ママ。」たどたどしくレモネードを手渡すアネット。ママはゆっくりとカップに口を付ける。
一拍置いてママが言った。「美味しい。」「本当?本当に本当?」アネットの顔がパッと明るくなった。
「本当よ、はい、アンと半分こ。」残り半分のレモネードにアネットも口を付ける。「ね?」
「うん!いつもの!」アネットに元気が戻ってきた。「ね?大丈夫でしょ?だから勇気出して。」
ママはアネットの額に軽くキスをした。「さ、着替えてらっしゃい。みんなも待ってるわよ。」
説明 | ||
前にボンヤリと綴った物の続きっぽいです。 今回も続きましたが、その後も続くのですかね。 続いたら楽しいなあ。 |
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