月曜日
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僕の嫌いな月曜日。愛しの旦那様と過ごす時間が減ってしまう。そんな日々の始まりの日。

実際はそんな大げさなものじゃなくて、ただ仕事に行ってしまうってだけのことなんだけど…

いってらっしゃいと送り出してからおかえりなさいとお迎えするまでの約12時間。

その時間を家事等をこなして過ごせばあっという間だ。とはいえ、ついつい考えてしまう。

たった12時間、されど12時間。1日24時間しかないのにその半分の時間を離れ離れで過ごすなんて…

土日の繰り返しだったらどんなに嬉しいか…。

「はぁ」と無意識のうちにこぼれた溜息に僕はハッとした。

こんなんじゃいけない、キースさんと迎える新たな一週間の始まりに湿気った感情はふさわしくない。

 

現在午前6時半、目覚しはかけていない。

僕の身体をゆるく抱きしめながら眠るキースさんの唇と額に、ゆっくりとただ触れるだけのキスを送る。

まずは愛していますというありったけの想いを込めて、次に今日一日が二人にとって幸せなものでありますようにとの願いを込めて。

寝息が聞こえるほどぐっすりと眠っている状況でないと僕からのキスなんて堂々と出来やしない。

結婚して半年経つといっても恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。

儀式めいた朝の習慣を終えた後は、逞しい腕からそっと抜け出して音をなるべく立てずに寝室を出る。そのあとはいつも通りだ。キースさんを仕事に送り出す準備を進めるのみ。

顔を洗った後に「よしっ」っと気合を入れて、キッチンへ移動したらパジャマ姿のままエプロンをつける。

我が家定番の朝食メニューは、お味噌汁にほかほかご飯、そしてほんのり甘味を付けた出し巻き卵に味付けのりである。

違いといえば焼き魚であったり、煮物であったりと主菜に変化をつけるくらいだ。

 

後は盛り付けるだけというところで旦那様を起こしに行く。

寝室を覗くとまだベットはこんもりと小山を作っていた。まずはきっちりと閉められたカーテンを開けに行く。

本日は晴天なり。抜けるような青空がそこには広がっていた。

「キースさん、起きて下さい。」

ベットに移動した僕はそこに腰をかけキースさんの顔を覗き込み、寝癖のついた髪をそっとなでつける。

もうすでに起きかけていたのだろうか、その感触に目を開けずにふにゃりと笑うとキースさんは僕の手にすり寄ってきた。

つられる様に自然とこちらも笑顔に――というよりもだらしなく顔が緩んでいるだけだろうか――なっていた。

あぁ、もう可愛いなぁ…なんて。こんなに逞しくて格好いい男性に向かって似つかわしくない言葉だろうか。

いやいや可愛いものは可愛いんだ。可愛いは正義だ。などと一人納得したところでベットに引き込まれた。

 

普段からキースさんは体温が高いのだが、寝起きとなるとなおさらだ。

とても熱い抱擁――温度的な意味で――を受けながら香水でもボディソープでもないキースさん自身の香りを堪能する。

すこし汗ばんでいるのだろう、常より濃いいそれは僕の大好きな安心させてくれる匂いだ。

その香りに酔いながら大きく鼻から息を吸い込むと、頭上からクスッと小さな笑い声が響く。

次いで耳元で甘く掠れた声が聞こえた。

「おはようイワン君。」

どうやら彼は吐息までも熱いようだ。僕の頬が熱を帯びていくのも、心臓がこんなにもドキドキしているのも、きっとキースさんの熱さにあてられたからなのだと理由付けながら何とか心を落ち着かせようとした。

腕の中に抱きとめられたまま顔だけをキースさんの方に向ける。

するとコツンとおでこ同士がくっついた格好になり、僕は近い距離で目を合わせたまま挨拶を返したのだった。

「おはよう…ございます。」

あぁ、駄目だ。爽やかな朝にふさわしく爽やかな笑顔で、元気にそして溌剌とした声で言いたかったのに。

今の僕は頭の中がホワホワしてまるで寝ぼけているかのようで、意と反する声音になってしまう。

だってしかたないじゃないか、熱を含む青く澄んだ瞳にこんなにも近くで見つめられたら僕は…もう…。

 

ここからの流れは自然だった。近づく唇を僕は受け止めるだけ。

「ん……ふっ…」

見つめあったまま、形を確かめるようにゆっくりと何度も唇を啄ばむだけのキスをした。

ただそれだけなのにどうしようもなく気持ちよくて、出勤前の忙しい朝だということを忘れてしまいそうになる。

身体から力が抜けて自然と眼が閉じそうになったその時、顔を離されハッと我に返った。

「これ以上は我慢が出来なくなるからね。」

キースさんはそう言って幸せそうに微笑みながら、最後に鼻のてっぺんにチュッとキスをする。

過去に同じようなことを言われて「別に我慢しなくてもいいのに…」と冗談のつもりで返したことがあったのだが

――本当に軽い気持ちでポロっと言ってしまったのだ――

その日はお見送りができなくなってしまったのだ。そんなことを思い出して、少しの苦笑いを浮かべながらも愛されているなぁと心の中でかみしめた。

 

 

          *            *            *

 

 

朝食を終えた後は、食後のコーヒーを入れることになっている。

和食の後に一杯のグリーンティーではなく、コーヒーなのはキースからの希望だった。

独身の時からの習慣で朝はコーヒーを飲まないと始まらないらしい。

グリーンティーを用意した僕に対してすまなそうに話を切り出した日のことを今でも覚えている。

そんな遠慮することじゃないのに、むしろそんなことでしか彼の願いを叶えてあげることのできない僕にはとても嬉しかったのだ。

キースさんの好みの味になるように思考錯誤し豆をブレンドした特製のコーヒーをハンドドリップで入れるのが日課になった。

 

「今日の夜は何が食べたいですか?もし帰りが遅くなるのなら軽いものを用意しますけど。」

「いや、むしろいつもより帰りは早くなると思うよ。今日は取引先から直帰する予定だからね。」

その言葉を聞いて僕は心の中で素直に喜んだ。予定は未定というが、キースさんの場合予定は予定通りにこなすのだ。

「晩御飯は…そうだな…。イワン君が作ってくれるものならなんでも!と言いたいけれど、それだと私の奥さんは困ってしまうのだろう?」

「まぁ、要望があったほうが助かりますけど…でも何を作ろうか悩んでる時間も楽しかったりしますから。」

「そうかい?それでは帰ってからのお楽しみというやつにしようかな。」

二人でコーヒーを飲みながら、今日のお互いのスケジュールを確認したり、献立について話す。

ふとテレビに目をやると情報番組のオープニング映像が流れているところだった。

 

8時を過ぎればそろそろお見送りの時間だ。

揃って玄関まで向かい、磨いておいた革靴を彼が履き終えてしまえばしばしのお別れが待っている。

「それじゃあ、いってくるよ。」

そう言ってキースさんはギュッと僕を抱きしめるから僕も力いっぱい抱きしめ返す。

スーツが皺になるかもなんて考えは頭の隅っこに追いやった。

「いってらっしゃい。お気をつけて。」

ずっとこうしていたいけれど遅刻させるわけにはいかない。笑顔で送り出すのは妻の務めだ。

そっと身体を離すとキースさんはいってきますのキスを1つくれた。

 

 

            *         *          *

 

 

ぴったりとひっついていた週末があけると一人きりの時間がやってくる。

しかし、会えない時間が愛を育てるのだと誰かも言っていた。

こんなにも好きな気持ちが溢れているのだと再認識する一週間の始まり。

そんな始まりの日には、ついついいつも以上に手の込んだ料理を作ってしまう自分がいるのだ。

早く帰ってきますようにと、愛しの旦那様に想いを馳せて今日という日を過ごす。

寂しいけれど、こんな風に誰かに愛情を向けられることがどこか嬉しくて温かくて、はりきってしまうのだ。

ちょっぴり憂鬱だけどそれ以上に幸せも感じられる。

そんな月曜日。

 

 

 

 

説明
・少女漫画空折
・しかしナチュラルに男同士で結婚している新婚設定
・なのですでに出来上がっている甘い二人しかいません
・そして主に状況説明とイワン君の心の声を綴っています
・二人の台詞はほとんどありません
・ジョンさんがいません。ごめんなさい。

以上読む上での注意点です。
大丈夫だと思った方はお付き合いくださると嬉しいです。
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