ルミとシャボン玉の魔法使いたち Season1-5
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 遥か昔、武器は狩猟の道具であり、生活の必需品であった。

 呪術師の道具の殆どは、専ら自身の内に潜むものと対峙する武器とも言え、

 人は常に、武器という道具の恩恵を受けていた。

 ……しかし、この時代は恐ろしいものだ。

 民が武器を持つことを許されぬ世界とは、果たして平等な平和なのだろか。

 少なくとも、我は決してそうは思わぬ。

 大神よ、御主らは再び人の御霊へ武器を抱かせるつもりなのだろう?

 

 ―2020年 とある社に祀られる神との対話より

 

 

 

 

 

   ルミとシャボン玉の魔法使いたち Season1

   Chapter5「ルミナスタッフ」

 

 

 

 

 

「ああ、ちょっと良い?」

 

 離れのアトリエから資料を持ち、2階に繋がる連絡通路から談話室へやってきた私は、後ろから一人の女の人に呼び止められた。

 

「あ、はい」

 

 声の主である女の人のほうへ振り向くと、それは身長は170cmは行きそうな程高く、銀色のような長髪(ミレーニアさん程ではないが)に白衣の身のこなし。何処から見ても、何らかの研究者みたいな風貌だ。そして二つの長いハードケースを両手にそれぞれ持っている。

 

「あなたがルミの友達で・・・合ってるかしら」

「はい、牧あとりと言います」

 

 ということは、この人もこの家の人なのかな?

 

「OK、間違い無いわね。私はレフィス如月。ここで”技師”をやってるわ、よろしく」

「よ、よろしくお願いします」

 

 なんという唐突な出会いなんだろう。

 

 

 

 去年の12月の中頃、ミレーニアさんが私の家へ(半ば不法侵入)やってきて、攫っていくかのように留美ちゃんの家へ連れてかれた時、「3月に大規模なシャボン玉関連のイベントを開催したい」という事で、私はそれの手伝いを頼まれた。

 もちろん私は快諾したんだけど、その内容がなんとも驚きの、「私と一緒にパフォーマンスやりましょう!」と、留美ちゃんと一緒にシャボン玉のパフォーマンスショー参加だった。

 正直に言うと、私は留美ちゃんのように本気でシャボン玉をやった事が無かった。なので、自称シャボン玉好きから徐々に転じて、本物のアーティストとしてシャボン玉を飛ばしてみたいという憧れが、留美ちゃんと出会ったこの半年間で芽生え始めていることに気付いたのだ。なので、このオファーは私にとっても好都合で、確立された”目標”への第一歩でもあると考えていた。

 

 

 

「ルミ、例のブツ持ってきたわよ」

 

 談話室で自分で作ったシャボン玉のソファに座り、ノートパソコンでパフォーマンスのタイムラインを制作している留美ちゃんは作業を止め、レフィスさんからハードケースを受け取る。

 

「おー、待ってましたっ」

 

 そう言って、早速留美ちゃんはケースのロックを外して中身を確認する。

 私は中身を覗いてみると、それは何やら珍妙な杖のようなものだった。およそ1メートル以上はあるだろう棒は塗装を施してあるのか、何で出来ているのかは判らない。棒は先端部にかけて安定性を確保するように広がっており、取り付けられているのは・・・直径20センチちょっとの大きめな”輪”だった。その輪は薄桃色の金属のようなもので作られていて、輪の表裏には解読不明な文字が刻まれている。その輪の約半分を覆うように3枚の金属製のカバーが掛かっており、カバーのつなぎ目はまるで羽みたいに広がっている。構造的に、この輪は車輪のように回転するようにも見える。

 

「これって……何?」

「シャボンリングですよっ」

 

 なるほど!この輪はシャボンの膜を張るやつだ!

 私はシャボンリングに手を触れようとするが。

 

「待った」

 

 レフィスさんに呼び止められた。

 

「このリングは、普通に触ると危ないわ」

「えっ」

 

 あ、危ないなんてあるの…!?

 

「…お、やっぱり”ヒヒイロカネ合金”製ですね!」

「ヒヒイロカネ?」

 

 留美ちゃんが舐め回すように杖を眺め語るのを傍目に、私は同じ言葉を繰り返す。一体それはなんぞや?

 

「日本の超古代で使われたとされる、幻の金属と言われるのがヒヒイロカネ。一説によると、古代ギリシャの伝説に現れるオリハルコンと同じ性質を持つとかなんとか」

 

 レフィスさんは私の質問に答えてくれるが、いきなりオカルト臭が出てきた…!

 

「じゃあこれって実在してたって事なんですか?」

「いえ、”ヒヒイロカネ”って部分は名前だけよ。名前は言えないけど、とある場所で発見された”ある物質”に、チタン・銀・ジルコニウムを混ぜて合金にしたものが、この”ヒヒイロカネ合金”なのよ。”ある物質”を混ぜるだけで、合金表面の皮膜が薄い桃色になって、表面の光沢はシャボン玉のように揺らめいて見える、伝承通りの”生きた金属”に化けるのよ」

 

 え、えーっと?つまり?

 

「つまりどういう事?」

「つまり、神の道具と称される”神器”を作る材料になるわ。私達の間では、Spiritual Tools(スピリチュアルツール)と呼んでいるけど」

 

 何やら、私にはまだ理解できないような領域なんだろう。

 

「んじゃ、使った素材は棒にオーク、3枚のカバー部分にはリキッドメタルで製造、リングとカバーの間の滑車には同じヒヒイロカネ合金のホイールを使っているわ。カバーのつなぎ目は何も使ってないけど、強度的には叩いても外れない位強いわよ」

「この石突きの部分は」

 

 留美ちゃんが棒の反対側を指差して質問する。

 

「もちろん、要望どおりアメジストを加工したわ」

「完ッ璧ですね!ありがとうございます!」

「それじゃ、これは返しておくわね」

 

 そう言って、レフィスさんは2枚のA4用紙を留美ちゃんに渡す。

 

「いやー、この”言霊”を書いた人も凄いものね。全部理解はし難いけど、ヒヒイロカネが集めたP.Eを容易に実体エネルギーに移行できるようにしてる」

「“胡桃”さんが書いてくれたんですよ」

「ああ…あ、あのミレーニアに匹敵するレベルの変態……」

 

 レフィスさんが苦笑いしながら、留美ちゃんから目を逸らす。

 

 

 

「胡桃さんって、どんな人なの?」

 

 レフィスさんが仕事のために談話室を出て行った後、データ化された本番の台本をパッド型デバイスに表示させて確認しながら、私は留美ちゃんへ質問する。同じデータを、留美ちゃんはかなり薄型のノートパソコンで確認している。

 

「そうですねぇ。一言で言えば、私並かそれ以上にマニアックなシャボン玉フェチですよ」

「うおっ、どんな風に?」

 

 私はちょっと期待して更に質問してみる。

 

「例えば……、私や結奈さんが作るような”シャボン玉の魔法”はもちろんのこと、生理活動とかもシャボン玉の魔法を使って済ましちゃうような方ですっ」

「と、いうと?」

「お風呂の水が全部シャボン玉になってる”シャボン玉風呂”とかが代表的ですねぇ」

 

 なんとまあ、それは面白そうだ!

 

「あと、物体をシャボン玉に換えてしまうこともできるので、相手の身体の中の排泄物や悪いところとかをシャボン玉にして強制的に出させるような事もしてるみたいですよ!」

 

 な、なんじゃそりゃ。想像がつかないぞ?

 

「ちょっと変態ちっくに感じますが、実際に体験したらかなり面白かったですよ?♪」

 

 体験したんかいっ!

 その時の状況を思い出して恍惚とした表情を浮かべる留美ちゃんを、私は頭の中でツッコミを入れる。

 ……いや、でもちょっと興味あるかも。感想を聞いてみよう。

 

「その時どんな感じだった?」

「そうですねぇ?、今度頼んでおくのでその時実際に体験してみるといいですよっ」

 

 にやつきながら回答を避けてしまった。うぉぉぉ、気になる…!

 

「さてさて」

 

 留美ちゃんはシャボンリングの柄を持ち、改めて私のほうを向く。

 

「これが、3月のイベントに使う道具です」

「まあそれは見れば分かるんだけど…、まるで魔法の杖みたいだね」

「もちろん、これは特別な杖なんですよ」

 

 留美ちゃんは、杖を”普通の”ソファの上へ横にして置き、私に構造を説明し始める。

 

「このヒヒイロカネ合金の特性は、周囲にある生命エネルギー、つまりP.Eを勝手に収集する性質を持っているんです。自然界に浮遊しているものを収集するので、何かに対してP.Eを吸い取るようなものではありません。これは生物が触れると、収集したP.Eを対象に向けて送り込む効力を持っています。先程レフィスさんが触るなと言ったのは、触ると過剰なP.Eが入ってくるので精神によろしくないわけです」

 

 なるほど、去年ミレーニアさんが説明してくれた”P.Eの過剰な状態”へ、一気に入ってしまうって事か。

 

「そして、この輪に謎の文字が刻まれているのですが、これは一種の”言霊”で、合金が集めたP.Eを使用者が特定の用途で引き出しやすいように設計されているわけです。まあ所謂呪文ってやつですね」

 

 ファンタジーモノで言う”魔道具”みたいなものって事かな。ロールプレイングゲーム風に言うと、使うだけで魔法効果が出るような感じかもしれない。

 

「じゃあ、この言霊…ってのはどんな内容なの?」

「そうですねぇ。簡単に言えば、特定の思い描いたものを実体化させやすくする、みたいな感じというか?」

 

 どうやら本人も、そこまで理解できているわけではないみたいだ。

 

「え、えーっと、例えばこんな感じですっ!」

 

 自分で納得がいかなかったのか、留美ちゃんは実際にリングの柄を握り、先端の輪を私へ見せるように両手で水平にして持つ。私は何事?と思った瞬間、輪には一瞬にして透明な…いやシャボン膜が張り出していた。当の留美ちゃんは集中している素振りも無いし、唯一変化があったといえば、輪の部分を一度チラ見しただけだ。

 

「やっぱり実際に見せたほうが早いですね。こんな感じで、意識を軽くリングへ向けて、軽くイメージを入れ込むだけで、輪にいつもの”シャボン玉の魔法”を出せるわけです」

「おぉっ!」

 

 留美ちゃんは膜の張ったリングを片手に持ち替え、少し速めに動かす。多分風が無いから、少し強めに振らないといけないんだろう。

 振った先には、リングの大きさの割にはかなり大きいシャボン玉が次々と生み出されていく。私はその一つを手に取り抱きしめ顔を埋めて、いつもの割れない感触を愉しむわけだけど、よくよく考えたら……。

 

「……ってか、留美ちゃんはあまり必要無いんじゃ?」

 

 そういえばそうだ。留美ちゃんぐらいにS.F能力を操れるなら、こういう道具は全く必要無いんじゃないかと。

 

「はい、別に無くても問題ないですよ。雰囲気ですっ」

 

 やっぱりまた雰囲気かッ!

 初対面の時に見せてもらった手作りのワンドも雰囲気だったし、結構外見を気にするのかな?

 

「なので、このリングはどちらかというと、胡桃さんがあとりさんに向けて作って欲しいと依頼してきたものなんです」

「えっ?」

 

 

 

 「リングは持ち帰って練習に使ってください」と言われたので、私は打ち合わせ&合同練習を終わらせた後、リングの入ったハードケースを手に帰宅した。

 時刻は16時半を過ぎようとしているところで、やっぱりもう空は暗い。

 

「とりあえず……」

 

 自分の部屋に戻ってきた後、まずは机に置いてある、ミレーニアさんから貰ったお下がりのノートパソコンを開く。モニタ裏のリンゴのマークが、バックライトの光によって明るくなる。

 私の誕生日は12月なので、初めて会ったあの日に「丁度良いですね」ということで軽く差し出された。留美ちゃんや、その家の人達は多岐に渡る仕事の関係上、この種類のパソコンを使っているらしい。私にこのパソコンをプレゼントしてくれたということは、仕事仲間としても認められたって事なんだろうか?流石にそれは飛躍しすぎかもしれないけど。

 お下がりとはいえ、性能は私が今まで使っていたものとは比較できない程だけど、使ったことの無いOSなので、慣れるにはもう少し時間がかかりそうだ。

 ……ふと思ったけど、留美ちゃん達の家の人達って結構お金持ってるんだなぁ。

 

 一通りメールの着信や学校からの連絡などを確認した後、ハードケースのロックを外し、改めて自分が手にした”魔法の杖”を手にしてみる。

 

「んっ、軽っ!?」

 

 そう、大きさの割には軽かった。留美ちゃんが持っていたのは、これよりも重量感があったような気がしたけど、私のは材料が違うのかな?

 

「お?」

 

 ふとケースの中を見ると、一つの冊子を見つけた。これは説明書?

 私は、この正方形の冊子を取り開いてみる。トップには『如月技術開発研究所 如月第046号精神技術運用装置【ST-007LW/RW】仕様書』と記されている。何やら難しい名前だ。ケースの中に同じ型番が書いてある付箋があったので、とりあえずこのリングの名前はST-007RWというのは分かった。

 目次を飛ばして、杖に使われている素材を読んでみる。まず柄は北海道産ミズナラ材を使っていて、先端のリングのハーフカバーには『非晶質金属硝子合金(Zr-Cu-Al-Ni)』と書かれている。これが多分リキッドメタルとかいうやつなのかな?そしてヒヒイロカネ合金で作られたリングには『如月002精神感応合金材』と記されていた。

 はっきり言おう。

 

「なんじゃこりゃ」

 

 予想通りさっぱりだった。

 この後の文章も何やら難しいことが長く書かれていて、ページ数は軽く100ページを超えている。私は読むのを諦めたが、確実に分かるのは、この冊子を書いたのは間違いなくレフィスさんであるということだった。冊子の最後に『如月技術開発研究所長 人体精神科学名誉博士 レフィス如月 著』と書かれていた。これもまた長っ!ってかレフィスさんって博士だったんすか!

 

 まあとりあえず、この仕様書はわかるようになった時に読むことにしよう。多分一生無いだろうけど。

 

 改めてこの杖状のシャボンリング(如月第046号精神技術運用装置 ST-007RW)を手に取り、ベッドの上に寝転がってそれを眺めてみる。そこまで重くないので、仰向けのまま持ち上げても辛くはない。

 

「………”魔法の杖”、か」

 

 思ったよりファンタジーな気がしないのは、このリングを演技の小道具として考えているからだろうか。それとも、魔法や超能力が科学の一つとして定義されつつあるからだろうか。

 今までのトレーニングを思い返す。”魔法”というのはフィクションの世界でしか使えないものと思っていた。それが実際に存在する上に、訓練すれば誰でも使える程度のものだとは。思ったよりも身近というか、普遍的というか。

 

 私はベッドから起き上がり、昼間に留美ちゃんが私に見せたように、自分も真似てリングを水平に持ってみる。そして意識をリングに向け、イメージを初めてみる。自然と目が閉じてしまうが、意識はリングのほうに向かっている。リングにシャボンの膜が張っている状態を想像し、それを現実に”在る”という認識をする。一点の疑いも残さず、膜の状態を”心の眼”で細かく描写していく。それはまるで、胸のあたりに目があるような感覚で、頭を意識して考えるのではなく、胸のあたりの位置を意識して考える。

 もう良いだろう、というところで目を開き、リングの状態を確認してみる。

 

「……うーん」

 

 結果は明白。やっぱりリングにシャボン膜など張っていない。イメージしたものの描写がまだ鮮明じゃないんだろうか。理由は不鮮明だ。

 

 

 

 私がS.F能力の発現できない原因を考えていると、ノートパソコンから電話のようなコール音が鳴る。私は杖状のリングを左手に持ったまま、リターンキーを押して応答する。

 

「はーい」

『あとりさん、練習は捗っていますか?』

 

 モニタの映像に表示されたのは、いつもの笑顔のミレーニアさんだった。

 

『ルミから話は聞いています。そろそろ、その杖を使ってS.Fの練習を始めている頃だと思いましたが』

「そ、その通りでした…!」

 

 ビンゴ。留美ちゃんの実演を見せられると、自分も簡単に使えるんじゃないかと思ってしまったわけで。

 

『結果は…言わずもがなですね』

「はい…」

 

 全てお見通しだった。でも、すぐさまフォローを入れる辺りは流石”先生”。学校カウンセラーをやっているだけはある。

 

『私が見ている限りでは、既にあとりさんにはS.F能力を発現させるだけの基礎は整っている様子です。その辺りは、あとりさんが思っている以上に完成しているはずですよ』

「うーん、そうなんでしょうか。じゃあどうして、この”杖”を使っても膜が張らないんですか?」

『恐らく、イメージと”心の眼”での描写は間違いなく出来ているはずです。ここで、最後の壁が立ちはだかるのですよ』

「壁?」

 

 最後の関門、か。

 これを乗り越えれば、私も”シャボン玉の魔法使い”としてデビューって事になるのかな。

 

『その壁とは、”疑念”です』

「え?」

 

 意外だ。イメージを作る時に疑念は取り去っているはずなんだけど、私はミレーニアさんから出された答えで呆気にとられる。

 

「それもイメージを立てる時には払ってはいるんですけど」

『それが簡単にできれば、今頃全ての人がS.F能力を利用しているはずですよ』

「むー」

『この壁はとても厄介な代物です。何故なら、この”疑念”というのは人間の無意識に潜むリミッターみたいなものとして備わっているからです』

「無意識ってことは、自分では疑念を取り去ってるように見えてるけど…って事ですか?」

『そういう事です。もしかすると、あとりさんは無意識の内に”本当にルミのような能力を扱えるんだろうか”などの疑問を抱いている可能性がありますね』

 

 確かに、言われてみるとその疑問は間違いじゃない。

 最初に紅葉さんからは「能力を発現できるようになるまでは、遅くて5年は見込んだほうがいい」とは言われていたけど、理由はこの事だったんだ。ミレーニアさんのトレーニングプランでは、ほぼ3ヶ月で基礎が整うけど、この最後の壁を突破するのに殆どの人が苦労するって事か。

 

『人が何か物事を成そうとするとき、一番邪魔をする敵は”自分自身”なのです。夢の実現を阻害しているのは、他人でも環境でもなく、全て自分が妨害をしているわけですね』

「それはどうしてですか?」

『そうですね。今は”現代社会の構造上仕方ない事”とでも言っておきますか』

 

 「いずれ分かりますよ」と付け加えて話を逸らされた。

 

『ただ一つ間違いなく言えるのは、あとりさんのその道具は邪魔する自分自身と戦うための”武器”でもあることです。上手く使いこなしてくださいね』

「はぁ。……この疑念って、どうすれば払えるものなんですか?本番まで2ヶ月ぐらいなんですが」

『そうですね。紅葉さんが既に仰っていた通り、人によって最長5年は覚悟する必要はあります。が、ルミがあとりさんに対してオファーを出したということは』

 

 ……え?

 

「…てか、もしかして留美ちゃんのイベントって”シャボン玉の魔法”も併用するんですか!?」

『その通りです、もう知ってるのかと思っていました♪』

 

 ざわ…ざわ……。

 

「ちょ、ていうことは、私はあと2ヶ月で」

『S.F能力を開眼させる、即ち最後の壁を突破する必要がありますね』

「さすがにそれはヤバいじゃないですかっ!?」

 

 その時、ミレーニアさんがビシっと私に向けて指をさす。いや、実際は画面向こうのカメラだけど。

 

『それが”疑念”ですよ。この事を告げられた時、あとりさんは反射的に不可能だと思いましたよね』

「あっ」

 

 なるほど!こう言われると確かに、できないと思い込んでいる気がする。

 

「で、でも流石に2ヶ月は短すぎだとは思うんですが」

『確かにそうですよね。そこで、私も少しお手伝いをさせて頂きます』

「おおっ、助かりますっ!」

『とりあえず、今まで通りS.Fの訓練と共にパフォーマンスの練習を続けていてください。プランAからC程度まで用意しておきます』

 

 焦る私に、いつもと変わらないペースで対策を約束してくれた。でも長くて5年はかかるって言うのにそれを2ヶ月でクリアするには、どんな方法を使うんだろう。

 

『それでは、また何かあったら連絡しますね』

「はい、お願いします…!」

『あ、あともう一つ』

「へ?」

 

 まだ何かあるんだろうか。

 

『その道具に名前を付けて欲しい、とルミから伝言がありました。明日ぐらいに本人へ直接伝えてあげてくださいね』

 

 「頑張って下さいね♪」という言葉を残され、ミレーニアさんとの通話は終了した。

 

「……名前」

 

 確かに、ST-007RWとかいう型番は無機質的だと思う。

 留美ちゃん本人が、自分のS.F能力に名前を付けることで、能力がより自分の一部となり親しみやすくなってくれると言っていたのを思い出す。だからあのS.F能力の名前は”シャボン玉の魔法”なんだと教えてくれた。それはありとあらゆるモノにも言えることで、名前の無い”自分だけのモノ”には、是非名前を付けてみると良い、と言ってたっけ。

 

 私は考える。

 いや、名前を考えろと言われた瞬間から名前は決まっていたような気もする。私は留美ちゃんと友達でもあり、リスペクトする相手でもあり、ルミナスアーツのサイトを利用している際の交友相手でもある。このルミナスアーツが全ての基点なんだと思う。

 ルミナス(luminous)。私はこれを英和辞書で意味を引く。形容詞、光を出す意。

 続いて、杖(staff)。棒等の意での杖。

 

「……これだ」

 

 “ルミナスタッフ”。

 これで行こう!

説明
年は開け2020年。
ルミに誘われ、3月に開催されるシャボン玉アートのイベントで、一緒にパフォーマンスを演じることとなったあとりは、ルミの家で打ち合わせをしていた。
そこに登場したのは、不思議な杖のようなシャボンリングの小道具。
まるで魔法の杖のようなそれは、あとりのために作られたものだという。
人が本来持っていた道具、"武器"。
あとりはいよいよ、自分自身の無意識と対峙するための武器を手に、S.F能力開眼の最後の壁へと挑み始める。

( ゚д゚)某所からの転載です。
とりあえずSeason1を一区切りにして、続きは後日にしようかと思ってます。
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シャボン玉 楢崎留美 魔法 

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