【よんアザ】眠る人、目覚める人【べーさく】
[全3ページ]
-1ページ-

1ページ目と2ページ目で主軸となるキャラクターが変わっています。

-2ページ-

 

『そして眠りにつく前に』

「・・・」

 

昼間だというのに、病室は外の雨音以外静かすぎて耳が痛くなるほどだ。

目の前の白いベッドにできた小さなふくらみは、規則正しく上下している。

 

「さくま、さん」

 

目の前の人間を呼ぶ声が、変に掠れて笑えてしまう。

個室だから誰かが入って来ない限り気にする必要はない。

 

「さくまさん」

 

少し近づいて、彼女の頬に触れてみる。暖かい。

当然だ、と先ほどまでいた悪人顔の人間の声がフラッシュバックする。

さくまさんは何をどうしたらそうなるのか、風邪をこじらせて入院していた。

先ほどまで起きていたが、今は眠ってしまっている。

治療の甲斐あってか、とても落ち着いているようで、幸せそうな寝顔だ。

 

す、と頬を撫でると、ふにゃんと顔が緩んだ。

それにつられて、私の顔まで少し緩んでしまう。

 

「この私をここまで心配させたのは、貴女が初めてですよ」

 

最初呼び出された時は、あまり良い印象はなかった。

それでも、回を重ねるにつれ惹かれていく自分がいた。

私自身の能力を使えば、彼女がどう思っているかなんてすぐ判るだろう。

どうしてだか、彼女にそうするのは気が引けた。

 

『好きです』

 

そのたった一言が聴けた瞬間、表情には出さなかったが泣きそうだった。

愛しさと嬉しさと不安が綯い交ぜになって、涙があふれそうだった。

 

「・・・・・ベルゼブブさん・・・」

 

小さく名前を呼ばれて振り返ると、まだ彼女は眠っていた。どうやら寝言らしい。

 

「貴女は私を煽るのが天才的に巧いらしい」

 

いつか、彼女は私よりも先に消えてしまうだろう。

悪魔使いは地獄に堕ちるというが、それも良いかもしれない。

そうなれば、彼女をずっと私の手の中に閉じ込めておけるだろうから。

そうなる前に、私の子を孕むのは確定事項なのだろうが。

 

「愛していますよ、りん子さん」

 

雨音に隠れて、彼女がいない世界を振り払うように、口付けをそっと落とした。

 

-3ページ-

 

『こうして目覚めたその後で』

「んぅ・・・・」

 

夢を見た。

内容ははっきり覚えていないけれど、とても幸せな夢。

覚えているのは、ベルゼブブさんがいたという事くらい。

目を開いて見えたのは、真っ白な天井だった。

 

「そっか・・・病院・・・」

 

風邪をこじらせて入院していたんだったか。

情けないなぁと思いながら、体を起こしてぎょっとした。

椅子に座ったまま、ベルゼブブさんが眠っていた。

時計を見ると今は夕方の5時。昼過ぎに芥辺さん達がきた事を考えると、

最低でも2時間は寝ていたという事になる。

 

「おや・・・、目が覚めましたか?」

 

少しして目を覚ましたベルゼブブさんの第一声はそれだった。

 

「あ、あの」

「二人なら帰りましたよ、とうの昔に」

 

いつもの顔で、さらりと言い放つ。

芥辺さんの手配で個室になったけれど、また借金が増えるのかと頭が痛い。

頭を抱える私の耳に、ぎっ、というベッドの悲鳴が落ちた。

気がつけば、私は抱きしめられていた。

 

「え?あの、ベルゼブブさん?」

「全く、貴女はいけない人だ」

 

視線の横にあるのは、絹糸のように細いベルゼブブさんの髪。

金色の髪が光を透かして綺麗だな、と雰囲気に似合わない事を思う。

 

「良いですか?私は貴族である前に、悪魔である前に、ただ一人の男なんです」

 

耳元に、掠れた彼の声が落ちてきた。

 

「ベルゼブブさん?」

「貴女が今病人で、弱っているという事も、無茶をさせてはいけないという事も判っています。

 判っているんですが、貴女が欲しいんです」

「え、あの、ちょ・・・」

 

顔を上げる事も無く、しばらく私を抱きしめたまま。

 

「・・・無謀な事を言ってしまいましたね」

 

ベルゼブブさんにしてはとても珍しい、困りきったような笑顔で言う。

プライドが高い彼の事、こんな顔見れるとは思っていなかった。

 

「ただ、せめて、二人きりのときは名前で呼んでください」

「名前で、ですか?」

「はい」

「・・・・何かありましたね」

 

私の手を握ったまま、ピクリと表情がちょっとだけ変わった。

また私の肩に顔をうずめて、より強く抱きしめたままぼそりとつぶやいた。

 

「貴女が居なくなった後のことを、考えていました」

「・・・」

「貴女は人間です、私よりもずっと先に死んでしまうでしょう。

 そうなったときに、私はどうなってしまうのか・・。

 考えただけで、ぞっとしたんです。

 悪魔使いは死後地獄に堕ちると言う話を聴いた事がありますが、

 貴女がそうなる迄に、私は耐えられない。

 狂ってしまいそうな程に、あなたを愛しているんです、りん子さん」

 

普段の彼からは本当に想像ができない言葉ばかり飛び出して、私はぽかんとしきっていた。

私が失敗してしまえば、やれビチグソ女だの発禁物の侮辱用語で攻め立ててくるのに、

今目の前に居るのは、外見は同一でも中身はまるっきり違う誰かなんじゃないかとすら

考えざるを得ないほどだった。

でも、そこまで想われていることに嫌な気分は全くしない。むしろ嬉しい。

私の方ばかり好きだと思っていたのに、その上を軽く行っていた。

 

「確かに、私は貴方よりも早く死んでしまいます。

 それでも、貴方を愛している事に変わりはありませんよ、優一さん」

 

ぽろっ、という擬音語がぴったりくるくらいに零れ落ちた。

肩口にうずめられた金色の髪が動くのに、そんなに時間はかからなかった。

説明
Pixivで投稿していた小説の移植版です。
総閲覧数 閲覧ユーザー 支援
1883 1881 1
タグ
よんでますよ、アザゼルさん。 べーさく 

アド子さんの作品一覧

PC版
MY メニュー
ログイン
ログインするとコレクションと支援ができます。

<<戻る
携帯アクセス解析
(c)2018 - tinamini.com