あやせタン夏コミへ
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あやせタン夏コミへ

 

 

 去年の夏、正確には夏コミの最終日、わたしは大きな過ちを犯しました。

 過ちは償わなければなりません。

 償って償いきれるものではないのかもしれませんがそれでも償わなければなりません。

 

 わたしが犯した罪、それはイメージ管理に失敗したことです。

 去年のあの日までお兄さんはわたしのことを友達思いで優しい美少女お嬢さまと思っていたはずです。

 でも、あの日以降お兄さんはわたしのことを顔は良いけれど重度の自己中ヤンデレで相手にしたくないキチ女と考えるようになりました。

 その時までわたしと接する時の温かで穏やかな雰囲気は消え、顔を見た瞬間全身で引くようになりました。

 最初に会った時の紳士的な態度は消え、どんなセクハラ発言しても許される汚れ芸人に対するような対応に変わりました。

 モデルともあろう者が自己のイメージ管理に失敗するなど最大級の屈辱です。ダメダメです。

 この過ちを償うには、わたしが元通りの優しい美少女お嬢さまとしてお兄さんに認識されるしかありません!

 そして真摯なお兄さんにプロポーズされて、わたしが戸惑いながらそれを受け入れることでしかこの過ちは償えないのです!

 

 えっ? 桐乃との大喧嘩は大きな過ちではなかったのか、ですか?

 仲直りしましたし、友情と愛情は別物ですからそんな些細なことを今更蒸し返す必要はないですよ。

 いえ、愛情といってもわたしがお兄さんを愛しているのではありませんよ。

 お兄さんがわたしを愛しているのです。プロポーズもされたぐらいですし。

 言い換えればお兄さんがわたしに本気でプロポーズする環境をどうやって整えるか。

 わたしがお兄さんをどう思っているかの問題ではないのです。

 だってわたしは気弱な女学生。なので、お兄さんに強く結婚を迫られたら断る術など持たないのですから。

 わたしの将来は、フッ、その瞬間に決まってしまうのです。

 お兄さんに真摯に迫られたらわたしはお兄さんの隣でウェディングドレスを着るしかないのです。

 子育ては夫婦間で平等にするしかないのです。

 

 

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「すまん、あやせっ! ちょっと遅れた」

 8月1×日午後12時35分。

 約束時間より5分遅れて、お兄さんはりんかい線国際展示場駅の入口を出た所にやって来ました。

 声が聞こえてからゆっくりと振り返ります。

「わたしもさっき着いたばかりですよ2人とも」

 振り返って、わたしの目の前にいる人物がお兄さんだけであることに気付きます。

「あれっ、お兄さんだけですか? 桐乃は一体?」

 今日は3人で一緒に夏コミに行こうという話になっています。

 去年わたしたちは夏コミとオタク文化を巡って哀しい対立をしました。

 なので、今年はその夏コミを使って親睦を深めようという話になりました。

 それで、今日はこうしてビッグサイトの最寄駅に集まったというわけです。

 でも、肝心の桐乃の姿が見えません。

 どうしたのでしょうか?

「実は桐乃のヤツ、今朝急に夏風邪を引いてしまってな。クーラーで体を冷やしてしまったせいらしいが、それで、その、来られなくなってしまって……」

「……計画通り、ですね」

「何か言ったか?」

「いえ、何でもありません。桐乃の身を案じただけです」

 まったく、桐乃は一見完璧な女の子ですが、大事な所で抜けています。

 夏とはいえ窓全開で寝ていれば、誰かに侵入されてクーラーを最低温度設定でスイッチオンされる可能性だって十分に考えられるのに。

 いえ、何でもありません。

 桐乃の身体の具合と乙女としての危機意識の欠如を心配に思っているだけです。

 あんなに簡単に侵入出来ちゃうなんて、本当の変態が襲いに来たらどうするつもりなんでしょうか。

 いえ、本当に何でもありません。

「そんな訳で、今日は俺と2人で回ることになってしまったんだが……嫌、だよな?」

 自信なさそうにわたしの顔色を伺うお兄さん。

「去年の夏コミで拗れてしまったのはわたしと桐乃の仲だけではありません。それに、桐乃に本を買って来るように頼まれているのではありませんか?」

 出掛けるのを中止にするのなら電話なりメールなり先に1本送ってくれれば済む話です。

 それをしなかったということは、桐乃は自分が行けなくても今日の夏コミに用があったということになります。

「確かに桐乃に頼まれている本が5、6冊ある。だからあやせが行かなくても俺は行かないといけないのだが……」

 お兄さんが迷った瞳でわたしを見ています。

「じゃあ、わたしも一緒に行きます。今日はお兄さんとわたしが親睦を深める日ですね」

「いいのか? 俺と2人きりで回るんだぞ? ここはあやせの苦手なオタクの巣窟だぞ?」

「構いませんよ。今まで知らなかった世界に接するのも重要な社会勉強です。最近はそう考えるようになりました」

 お兄さんの手を取ります。

 これでお兄さんと2人きりのお出掛け決定です。

 やっぱり、初デートに口うるさい小姑は必要ありませんよね。

 いえ、何でもありません。

 

「さて、これからお兄さんとわたしの2人でお出掛け……デートになるわけですが」

 デートという部分を強調して喋ります。

 特に深い意味はありません。ただ客観的に下されてしまうに違いない評価を口にしただけです。

「いや、その、確かにシチュエーションはデートかもしれないが……あやせはそれで良いのか?」

 お兄さんが何か言っていますが無視します。

 まったく、こんなタイミングで生まれて初めてのデートをお兄さんと体験する羽目になるなんて思いもしませんでした。

 桐乃にはもう少し管理をしっかりしてもらいたいですね。主に施錠とか。

「デートといえば、まず男性は女性の服装について一言あってしかるべきなのでは?」

 お兄さんは出会った瞬間から色々とデリカシーの欠けた人でしたが、デートの時ぐらいはしっかりして欲しいです。

 まあ、お兄さんも人生初のデートだと思うので仕方ないでしょうけど。まったく、お互いに人生初デート同士とは困ったものです♪

「白いワンピースと麦藁帽子がよく似合っているぞ。まるで清涼な高原に佇む深層の令嬢、もっと言えば白猫みたいだ」

「わあ、お褒めの言葉ありがとうございます……って、白猫って誰ですか?」

 まさか、新しい女の気配?

 チッ! ビッチ小姑なんかに策を弄していないで他の女にもっと気を配るべきでした。

「いや、文字通り、白い可愛い猫のことだよ……はははははは」

 お兄さんは出来の悪いロボットのようにカクカクと動きながらそっぽを向きました。

「まあ、良いです。早く会場に入りましょう」

「ああ、そうだな。是非そうしよう。もうそうするって決めたぜ」

 お兄さんはわたしの手を掴んだまま慌てて走り出します。

 誤魔化す気満々です。

 ということは白猫というのは女の人の別名と見て間違いないでしょう。

 どうやらわたしには小姑、お姉さんに続いてまだまだライバルがいそうな気配です。

 いえ、わたしはお兄さんを何とも思っていません。けれど、相手の方がわたしをきっと一方的にライバルとみなすに違いないという話です。

 お兄さんの正妻候補にされてしまっている以上、振り払う火の粉は払わねばなりません。

 今後は白猫という方を要チェックですね。わら人形を準備しませんと♪

 

 

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 さて、わたしはお兄さんに手を引かれてピラミッドをひっくり返したような建物、ビッグサイトの前にやって来ました。

「あれっ? 思ったよりも人が少ないですね」

 桐乃から聞いた話だと、入口前には長蛇の列が出来ているらしいのですが、午後1時現在は列がありません。

「ああ、開場前に来ていたら嫌になるほど長い列を見たんだろうが、午後は割とこんなもんだ。すぐに入れる。中に人は多いがな」

「はぁ。そんなのですか」

 午後にすぐに入れるなら、みんなどうして朝早くから並ぶのでしょうかね?

「とはいえ内部は、特に渡り廊下はサウナより暑い。水分補給と汗拭き対策を怠るな」

 そう言ってお兄さんはスポーツドリンクのペットボトルと白いタオルを手渡しました。

「わたし、トートバッグを幾つか持って来ていますのでお兄さんの飲み物もお預かりしますよ」

「おお、悪いな。桐乃の同人誌を入れる袋しか持って来なくて」

 お兄さんから飲料を受け取り自分のバッグに入れます。

 思った通り、お兄さんは自分の分を1口飲んでいます。

 間違えれば、わたしはお兄さんの飲み掛けを飲んでしまうことになりかねません。

 即ち、関節キスを巧妙に奪われてしまいかねません。

 まったく、お兄さんは現役女子中学生とキスしたいからって卑怯すぎます。

 お兄さんが飲んだドリンクの方には赤いシールを張っておきましょう。

 お兄さんが間違えて飲んでしまわないように。

 

 建物の中に入ると、確かに沢山の人が見えました。

 中には様々な衣装……よくわかりませんが、多分アニメのキャラクターのコスプレをした人が沢山見えてきました。

 そして……暑いです。空調は効いているはずなのに。

「ほんと、中は暑いですね……」

「コミケに命賭けているヤツに言わせれば熱気が漂っているということになるんだろうが、そうでないヤツから見ればこの空間はひたすらに暑いんだよ。でも、朝一で来て昼前に帰った連中が減った分だけ少し涼しくなっている筈なんだが」

「これで涼しくなったって絶対におかしいですよ、それ」

 オタクの人が汗臭いのって、この会場の熱気を吸い込んでいるからじゃないでしょうか?

「大丈夫か、あやせ? 同人誌販売会場まで行ってしまえばもう少し涼しくなるんだが?」

「汚物を消毒をしたい思いでいっぱいですが、何とか大丈夫です」

 生まれて初めてのデート。

 しかも男性にエスコートしてもらっている身分なのですからあまり文句は言えません。

 桐乃の要求がある以上、わたしが行かないと言ってもお兄さんは会場の中に入っていくでしょうし。

「それしても、この入り口付近にはコスプレした人が沢山いますね」

「ここからちょっと入った所に着替え用のスペースがあるからな」

 お兄さんの指差した先を見れば、アニメのキャラの格好をしたと思われる人が沢山出てきました。

 中には本物かと見間違えるほどによく似合っている人もいます。でも、微妙というか、原色バリバリのカラフル過ぎる衣装とウィッグがう〜んと思ってしまう人もいます。

「お兄さん、こんなにも多くの人は一体何でコスプレしているんですか?」

 多くの人は、コスプレしない方が無難なような気もするのですが?

「そりゃあやっぱり、違う自分、新しい自分になれるからだろ? 漆黒のコスプレをした俺は超格好良いし」

 お兄さんはとても澄んだ瞳でそう言い切りました。

「でも、衣装や着こなし方を見ていると……」

「ストップだ、あやせ」

 お兄さんが手でわたしの発言を制します。

「プロのモデルであるお前から見て、コスプレやっている奴らの服装や着こなし、ポーズや表情が変であることは当然だ。素人なのだしな。だが、大事なのはそこじゃない」

「心、というわけですね」

 そう言えばわたしも読者モデルを始めたばかりの頃、カメラマンさんから心に関する話をよくされました。

 小手先の表情を作る技術ではなく、心が如何に重要であるかを。

「まあ、そういうことだ」

 お兄さんがニッコリと微笑み掛けてきます。

「そして、このコスプレイヤーの中心でコスプレ論を語るのは危険すぎるからやめておけ」

 お兄さんは額から冷や汗を流しています。見れば、色々なコスプレイヤーの人々がわたしたちを白い目で見ています。

「お、お兄さん。早く会場に移動しましょう」

「そうしよう」

 渡り廊下に向かって足早に歩き出します。

 うん、危ない所でした。

 そして、わたしたちの前を横切っていく1人のコスプレイヤー。

 その中年男性は脛毛むき出しでミニのセーラー服姿でした。

「お兄さん……わたし、汚物は消毒したいです」

「安心しろ。俺もだ。だから、今は抑えろ」

 生きるって、耐えることなのだと改めて知りました。

 

 

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 そしてもうしばらく歩くと東館の同人誌即売会場に辿り付く為の渡り廊下に到着しました。

 この辺から急に人が増えて来ました。

 そして、暑いです……。

 お兄さんがさっき言った通りに本気でサウナ状態です。

 戻ることもできず、ゆっくりと進むしかないこの地帯は本気で辛いです。

 わたしは赤いシールを貼ったペットボトルを取り出して1口含みます。

 色々な意味で生き返りました。

 そして、わたしの初めての間接キスはお兄さんにより巧妙に奪われてしまったのです。

 まったく、乙女の唇を奪うなんてお兄さんには後で責任を取ってもらわないといけませんね。罰として一生面倒見てもらいましょうかね。

「それにしても凄い人ですね」

 相当に長い廊下の筈なのに人がギッシリと詰まっている光景。これを見ると、桐乃が言っていた長蛇の列という言葉が理解できます。

「ああ、この先にエスカレーターとかあって、一度に通行できる人間が制限されるからどうしても込むな。高速の入り口とかと同じだろ」

 お兄さんは諦めたように息を吐き出します。

 けれど、見渡す限り人、人、人。

 しかもこの人たちって……。

「ここに並んでいる人たちってみんなオタクなんですよね?」

 オタク……桐乃と仲直りするまで人類の敵だと思っていた人たち。

「最近はコミケ自体を観光している一般人も多いから、全部が全部オタクじゃないだろうが、まあかなり濃いオタクが多いのは確かだろうな」

 オタク、しかもかなり濃いオタクが多数派。

「……この渡り廊下の出入り口を封鎖して火を放てば青き清浄なる世界に近付くんじゃないでしょうか? オタクの人って脂っこそうだからよく燃えそうな気もしますし」

「お前は澄んだ瞳で何をやばいことを口走っているんだ!?」

 何故かお兄さんを含めた周囲の人がわたしから一斉に距離を取りました。一体どうしたのでしょうかね?

 

 

 そしていよいよわたしたちは今は亡き義妹が待ち望んでいた同人誌即売会場に辿り着きました。義妹にもこの光景を見せてあげたかったです……。

「えーと、この東館の場合は、1から6番までの全ホールが同人誌を売っている会場だ」

「……何でこんなに裸の女の子のイラスト宣伝が多いんですか! ブチ殺しますよ!」

 とりあえずお兄さんに思い切り蹴りをお見舞いします。

 どうせそういう所だろうとは思っていましたが、あまりにもそういう所だったので頭に来ました。

「あやせは女の子じゃなくて男の裸の方が良かったのか。だったら西館に行けばお前が気に入りそうな美少ね……ブヘッ!?」

「男女の問題ではなく、裸が氾濫しているこの空間の公序良俗を問題にしているのです!」

 わたしが興味ある裸はお兄さんだけ。いえ、何でもありません。

「おっ、大人がエッチな趣味に興じるならこの際許します。でも、こんな、子供も簡単に入って来られる場所にこんな破廉恥な物があるのはおかしいと思います!」

 最近はコンビニだって成人用コーナーは区別しているのにこの空間の非分別ぶりはどうでしょうか?

「いや、まあ、確かにあやせの言う通りなんだが……」

 お兄さんも苦しい表情を浮かべています。

「だからわたしはこの会場全体を今すぐ火刑に処すべきだと思います。2011年夏、人類はテロとの戦いからペドとの戦いに軸を移行すべきなんです!」

 ペドとの戦いは辛く厳しいものになるでしょう。しかも、戦いの中心は日本で間違いないかと。まあペドが1千万人ぐらい地球からいなくなってもわたしは困りませんし。

「だからすぐに危ない発想を口にするのはやめなさい。ていっ!」

 お兄さんから額を指でちょんっと押されてしまいました。

「あっ!」

 これがツッコミというものでしょうか?

 確か、こういうの夫婦漫才って言うのだったと思います。

 つまり、お兄さんは遠回しにわたしにプロポーズしたと受け取って良いんですよね!?

「今度は突然ニタニタし始めて一体どうしたんだぁ!? 暑さでやられたのか!?」

「何でもありませんよ。さあ、桐乃に頼まれた本を買いに行きましょう」

「お、おう」

 心の中であなたと言いながらお兄さんの手を繋ぎ直します。

 まったく、15歳の中学生にプロポーズするなんてお兄さんは常識がなさ過ぎです♪

 これからは本番に備えてウェディングドレスのモデルも積極的に受けるようにしないといけませんね♪

 マタニティードレスのモデルもすぐに必要になっちゃうかもしれません。きゃっ♪

 

 

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「お兄さんは男の子と女の子、子供が生まれるならどっちが良いですか?」

「やっぱり女の子かな。家の中が華やぎそうだし……って、その質問は同人誌を買う列でするものなのか?」

 桐乃に頼まれた同人誌を買う列に並びながらお兄さんとお喋りに興じます。

 桐乃が頼んで来た本はエッチなものではなく、アニメに疎いわたしが見ても可愛い感じのイラスト集がメインです。

 そういう本だからか、一緒に列を形成している人には普通っぽい女の子たちも多くて何だかホッとします。

 あっちの明らかにエッチな本に並んでいるのは、何ていうか……如何にもそれっぽい人たちばっかりで。

「新刊1冊500円になります」

「じゃあ、これでお願いします」

 お兄さんが500円玉を売り子のお姉さんに渡します。

「はい、ありがとうございます。今日は彼女さんと一緒にご参加ですか」

「ええっ? いや、あやせは……」

 お姉さんの質問に混乱するお兄さん。

「はいっ。彼とは初デート中です♪」

「ええっ?」

 戸惑うお兄さんの手を引いてブースから去ります。

「い、今の受け答えで良かったのか、あやせ?」

 お兄さんが頭に?を沢山浮かべながら尋ねてきます。

「変に否定するよりも肯定してしまった方が早く解放されるってもんですよ」

「でも、お前モデルなのにそんな簡単に『はい』なんて言っちゃって良かったのか?」

「別にわたしは芸能人アイドルじゃありませんから。それに……」

 初デート中なのは嘘じゃありませんからと心の中で呟きます。

「まあ、あやせがデートと答えてくれるなら、それが嘘でも俺としては嬉しいけどな」

 お兄さんは爽やかに笑います。

 でも、その含みのない笑みを見ていると、わたしはお兄さんにとってテレビの中のアイドルと同じなんじゃないか。

 そんな不安に駆られます。

「お兄さん、わたしはここにいますよ? お兄さんと手を繋いでいるんですよ?」

「ああ、そんなことはわかってるさ。この広い会場ではぐれたら探すのは大変だもんな」

 お兄さんは再び爽やかなスマイルを浮かべます。

 ……やっぱり、わたしは桐乃(妹)の友達でしかないのでしょうか?

 デート中のはずなのに、楽しく過ごしているはずなのに、お兄さんの手の温もりを直に感じているのにわたしはお兄さんを遠くに感じるのでした。

 

 

「じゃあ、次の本でラストになるな」

 わたしが少し物悲しい気分に陥っていると頭上からお兄さんの声が聞こえて来ました。

 そうです。

 わたしは今、人生初めてのデート中なんです。

 自分勝手に鬱な気分に浸っている場合じゃないんです!

「最後はどんな本になるんですか?」

 この同人誌即売会場に着いてからお兄さんもわたしも自分の欲しい本は買っていません。

 みんな桐乃がリクエストした本ばかりを買っています。

 わたしはあまり漫画やアニメ自体を見ませんし、お兄さんも今年は受験勉強が忙しくて漫画やアニメの流行から取り残されてしまっているそうです。

 まあ、お兄さんの場合はわたしの手前遠慮してエッチな本に手が出せないでいるのかもしれませんが。

「最後の本は……俺と桐乃の共通の友人が出した本だ」

 急にお兄さんの口調が重くなりました。額からは汗が流れています。

「桐乃の友達ということは、女の子、というわけですね?」

 わたしの親友の超ド級ブラコンは、お兄さんに誤解されることを極度に嫌がって男子とはほとんど口も利きません。ましてや友達なんている筈がありません。

「確かに女の子だな……」

 言葉を濁しながら認めるお兄さん。

 そしてこれで新たな問題が発生しました。

 それはわたしがお兄さんと桐乃の共通のお友達という方をよく知らないことです。

 わたしが知る2人の共通の友達といえばブリジットちゃんと加奈子ぐらいです。

 ちなみに加奈子は本来なら今日ここでメルルのイベントショーに参加する予定でした。

 でもお兄さんと変なフラグを立てられても困るので、前もって“消えてしまい”ました。

 加奈子は遠い外国の地で記憶を失いながらも幸せに暮らしていると固く信じています。

 いえ、何でもありません。

 ですが、そんな理由から共通の友達というのはわたしの知らない人、つまり桐乃のオタク友達ではないかと思います。

 桐乃はわたしがオタクを良く思っていないからか、オタク友達を紹介してくれません。

 そして週末はオタク友達と出掛けることが多いので置いてけぼりのわたしはちょっと疎外感を感じます。

 桐乃がわたしに合わせようとはしない友達とは一体どんな人なのでしょうか?

 

「おっ、あそこだあそこだ。お〜い、黒猫〜っ!」

 そしてわたしはコミケ最後の目的地に着きました。

 お兄さんは沢山のテーブルが並んだその真ん中に静かに佇んでいる女の人に向かって小走りで走っていきます。

 冒険の最終目的地には大ボスがいる。

 桐乃から教えてもらったゲームの基本をわたしはこの瞬間思い出しました。

「あらっ、先輩。着くのが遅かったじゃないの。うん? あなたの妹の姿がないようだけど?」

「ああ、桐乃は今日急に夏風邪を引いて来られなくなってしまってな。もたもたしている内に出発が遅くなっちまった」

 お兄さんが黒猫さんと呼んだ女性。

 年はわたしと同じか少し上ぐらいのとても綺麗な女性です。

 ここが同人誌即売会会場だからか、全身黒のゴスロリ衣装を着て目には赤いカラーコンタクトを嵌めています。

 長い黒髪はとても綺麗で、前髪は綺麗に切り揃えられています。

 うちの社長がすぐにモデルに採用しそうなすごい美少女。一目見ただけでわかります。この人は、ライバルですっ!

「それで、隣にいるのは?」

 黒猫さんが一瞬目を鋭く細めながらわたしを見ました。

「ああ。隣にいるのは新垣あやせ。えっとこいつは……」

「桐乃の学校の友人の新垣あやせです。今日は桐乃が来られなくなったのでお兄さんと2人で回っています。よろしくお願いします、黒猫さん」

 モデルとしての技量を生かして最大限の笑顔を見せながら軽く頭を下げます。

「そう。私の名前は千葉の堕天聖黒猫。桐乃の腐れ縁ってヤツね。よろしくお願いするわ、新垣さん」

 黒猫さんはちょっと不遜な態度のまま頭を下げました。

 そして、頭を上げて目が合った瞬間、わたしたちの間に激しい視線の火花が散りました。

 やはり、確認するまでもなくこの人はわたしにとって敵なのです。

 この黒猫とかいう人は、本気でお兄さんを狙っています。

隙あらば食らおうとしているのです。桐乃と同じです。有害です。

「桐乃に頼まれた分と俺が個人的にお前の本を欲しいんで、新刊2冊欲しいんだが」

 今まで自分の本を1冊も購入しようとしなかったお兄さんが黒猫さんの本を購入しようとしている!

 お兄さんと黒猫さんはそんなにも親密な仲だと言うんですか?

 一瞬、黒猫さんが口を少し開いて勝ち誇った表情をわたしに向けました。

「私の本を買ってくれるのは嬉しいのだけど、あっちのブースに沙織とゲーム研究会の面々が会談中なのよ。先に行って挨拶して来たら?」

「おうっ、そうか。知り合いが一箇所に固まっていてくれるのは楽で良いな。じゃあ、俺はちょっと挨拶に行って来るから、あやせは黒猫とお喋りでもしながら待っていてくれ。桐乃の友達同士、話も合うだろ。じゃあな」

 お兄さんはそれだけ言うと、わたしの返事を待たずに駆け出していってしまいました。

 いきなり大ボスと1対1で対決とはちょっと女子中学生には厳し過ぎる試練ではないでしょうか、お兄さん?

 

 さて、いきなり黒猫さんと2人きりというシチュエーションにされてしまいました。

 気が重いことこの上ありません。

 加奈子や桐乃のように簡単に処分できるのなら楽なのですが。

「あの、黒猫さん……」

「あなたは桐乃と一緒に読者モデルをやっている子よね? 前に雑誌で桐乃と一緒に写っているのを見たわ」

「それは、ありがとうございます」

 先手を打って誉められてしまいました。対応に却って困ります。

 そして、今の会話から幾つかのことがわかりました。

 黒猫さんはわたしがモデルであること、つまり個人情報について少し知っていること。

 そして、喋り方からどうも年上であるらしいことなどです。

 では、黒猫さんが友好的なのかと思うとどうもそうではありません。

 黒猫さんがわたしを見る視線、喋る言葉には僅かながら棘が含まれています。

 やはりわたしたちはライバルだからでしょうか?

 でも、それだけなさそうなものも感じます。初対面の筈なのですが一体?

「それで、えっと、黒猫さん」

「何?」

「黒猫さん、というのは本名ではないですよね?」

 そういう苗字の人もいるかもしれませんが。

「私にとっては黒猫という名前の方が正式なのだけど、そうね。人間としての呼び名は」

 黒猫さんはそこで一旦言葉を切り、わたしを真正面から見ました。

「人間側から見た正式名称は……高坂瑠璃、よ」

 黒猫さんはニヤッと笑いました。

「高坂って……黒猫さんは桐乃の親戚の方なのでしょうか?」

 答えはもうわかっていますが、一応確かめておきます。

「そうね。桐乃とは数年後には義理の姉妹になっている間柄ね」

「へぇ〜。そうなんですか」

 決まりです。

 わたしは黒猫さんに宣戦布告されました。

 でも、わたし、負けません。

「奇遇ですねぇ。実はわたしも近い将来桐乃とは義理の姉妹になってしまうかもしれません。何しろ先日お兄さんにはプロポーズされてしまいましたし、何度も求婚されては根負けして受け入れてしまうかもしれません」

「何ですってっ!?」

 黒猫さんが椅子から勢い良く立ち上がりました。

 その目が驚きで大きく見開かれています。

 この様子を見るに、黒猫さんはまだプロポーズされていない様子です。

 フッ。勝ちました。

「私が先輩とキスして安心している内に、まさかプロポーズした女が現れるなんて……」

 ガックリとうな垂れる黒猫さん。

「何ですってっ!?」

 でも、彼女の言葉を聞いたわたしはとても正気ではいられませんでした。

「お兄さんと黒猫さんが既にキスした仲なんて……それじゃあ、お兄さんの間接キス云々なんてわたしの一人相撲でしかないんですね……」

 せっかく、ペットボトルにシールまで貼ってお兄さんに初間接キッスを捧げたのに……。

「どうやらあなたも私もまだ決定的な関係にはなっていないようね」

「そのよう、ですね」

 黒猫さんとジッと見つめ合います。

「お〜い、黒猫、あやせ〜っ」

 お兄さんが走りながら戻って来ました。

「あなたとはいずれ雌雄を決することになりそうね」

「わたしも、そう思います」

 頷き合うわたしたち。

「同じ桐乃の親友同士。仲良くなったか?」

 能天気に尋ねるお兄さん。

「桐乃? ああ、そういえばそんなビッチもいたわね」

「桐乃だけがわたしたちを結び付ける接点じゃありませんよ」

「???」

 お兄さんにはわたしたちが何を言っているのか理解していません。

 理解した時、それはわたしか黒猫さんのどちらかと結ばれる時かもしれません。

 勿論、勝者はわたしになると固く信じています。

 

 

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 桐乃に頼まれていた同人誌集めは閉会前に全て順調に完了しました。

 午後4時の閉会までいると帰りの交通機関がとても込むということでわたしとお兄さんは3時過ぎに会場を出ました。

 そしてせっかくなので一風変わったルートで帰ろうということになり、ビッグサイトのすぐ側から出ている、日の出桟橋行きの船に乗って浜松町の方まで出ることにしました。

 400人ほど乗れるその船は、東京湾の中を優雅に、でも快速で運行していきます。

「わぁ〜。東京の中を船で移動するって気持ちが良いですね」

「そうだろうそうだろう。400円でちょっとしたリゾート気分が味わえるのは気分爽快だろ」

 お兄さんはご機嫌です。

 1時間に1便しか動いていない船に上手く乗れたのが嬉しかったみたいです。

「でも、どうして最初に見える風景がアニメの女の子キャラクターが描かれた自動車の展示会場みたいな場所なんでしょうか?」

「痛車は一般人の感覚ではかなり謎な乗り物だからなあ……」

 お兄さんはちょっと苦しい表情を浮かべています。

「それと、今、この船に乗っているのは重度のオタクの人ばっかりですよね」

「コミケ後の船移動は一般人があまり考えない手段だからな。まあ、乗船客は何回もコミケに参加している歴戦の勇者たちの可能性が高い、な」

「じゃあ、今すぐこの船に魚雷を発射して沈めれば少しは世界が綺麗になるんじゃないでしょうか?」

「だからヘビーオタクたちの真っ只中でそういう危険なことを言うな! それ以前に今船が沈んだらお前も死ぬだろうが!」

 お兄さんはツッコミに忙しいです。

 そんなにわたしと夫婦(漫才)したいんでしょうかね。

 婉曲なプロポーズなんて可愛いですね、お兄さん♪

「だから何でこのタイミングで楽しそうに笑うんだ!?」

「お兄さんの気持ちをわたしが知っているからですよ♪」

 まったく、お兄さんもわたしを愛しているなら今すぐきちんと告白してくれても良いのに♪

 

 船を降り、少し歩いて浜松町駅に到着。そこから山手線に乗って、東京駅で総武線に乗り換えて千葉へと戻りました。

 お兄さんに家の付近まで送ってもらえることになりました。

 2人で並んでゆっくりと歩きます。

「今日は桐乃抜きで夏コミを連れ回してしまったわけなんだが、楽しかったか?」

「そうですねぇ。やっぱりわたしにはどうしても理解できない部分はありますけれど、それでもわたしが知らない世界を沢山経験できて楽しかったですよ」

 多分、こんな風に感想を自然に言えるようになったこと自体が去年との一番大きな差なんじゃないかと思います。

「そうか。少しでも楽しんでくれたんなら何よりだ」

 お兄さんがホッと息を撫で下ろしました。

 夏コミに連れて行ったことをずっと心配していたようです。

「……お兄さんとの初デートだったのですから、どこに行っても楽しいに決まっているじゃないですか」

「えっ? 何か言ったか?」

 自分で喋っておいて思わず赤面してしまいます。

 わたし、何を恥ずかしいことを口走っているのでしょうか?

 でも、でもですよ。

 今のこの状況ってすごい好機なんじゃないでしょうか?

 今告白すればわたしとお兄さんは正真正銘の恋人同士になれるんじゃないでしょうか?

 それにこの状況で何もしなければ、せっかく風邪まで引いて2人きりの空間を演出してくれた桐乃に申し訳がありません。

 そう、今こそわたしは勇気を出す時なんですっ!

 

「お兄さん、大事なお話があります!」

「急に大きな声を出して何だ、あやせ?」

 お兄さんと正面から向かい合います。

 告白は男性からして欲しいとか要望だけならいっぱいあります。

 でも黒猫さんというライバルの存在を確認した以上、手招きしている余裕はないんです。

 わたしから積極的に行かなきゃいけないんです!

 幸せは自分から掴みに行かなきゃいけないんです!

 新垣あやせ、一世一代の勝負に挑みたいと思いますっ!

「と、唐突に聞こえるかもしれませんが、わたしはお兄さんのことがっ!」

 いよいよ告白、となったその時でした。

 わたしの顔のすぐ隣を何か細長いものが超高速で飛んでいきました。

 そしてその長いものは電柱に当たり、そのまま突き刺さったのです。

「何だ、今のは?」

 お兄さんも何かが飛んで来たのには気付いたようです。

 でも、何がどう飛んで来たのかまでは把握できなかったようです。

 だけどわたしは把握してしまいました。

 電柱に深々と突き刺さっている木の串を。

 お団子なんかを刺すのに使う木の串が私の顔のすぐ横を飛んでいったことを。

 

 

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「あ〜。京ちゃんとあやせちゃんだ〜。こんばんは〜♪」

 そしてその串を放ったに違いない犯人がにっこにっこした表情を浮かべながらわたしたちの前に姿を現したのです。

「よっ、麻奈実。店の手伝いか?」

「うん。我が死(わがし)屋のおしごとをがんばってたんだよぉ」

 わたしたちの前に現れたお姉さん、田村麻奈実先輩はいつも通りの癒し系の笑みを浮かべています。

 でも、その両手には唐草模様の風呂敷と、指の隙間からは8本の串が見えています。

「はいっ、あやせちゃん。今日頼まれた注文の品だよぉ〜」

 お姉さんが風呂敷をわたしに渡します。

「ありがとうございます」

 お兄さんに見えないようにこっそりと開くと、中にはメルルの衣装と吸いかけのタバコが1本入っていました。これらは加奈子のものに間違いありません。

「あの、加奈子はどうなりました?」

「加奈子ちゃんはみせいねんなのにタバコをすっていた悪い子ちゃんなので、とおい所にあるまじめな人になれるしせつに行ってもらったよぉ」

 加奈子にはもう2度と会えないかもしれません。まあ、別にどうでも良いですけどね。

「ほうしゅうはいつものようにすいす銀行のほうによろしくね♪」

「はい、わかりました」

 これからはまたモデルのお仕事を一生懸命しないといけませんね。

 お姉さんと“情報交換”するようになってから出費が増えました。それに見合う見返りは十分なほど受け取っているのですが。

「ほんとに麻奈実とあやせは仲が良いんだな」

「えへへぇ。あやせちゃん、こんなにかわいいんだもん。仲良くなりたいのはあたりまええだよぉ」

 お姉さんがわたしの頭を撫でながら楽しそうに笑います。

 確かにわたしとお姉さんはとても仲良しです。お互いに知っているお兄さん情報を共有しています。

 親密なビジネスパートナーでもあります。お姉さんに頼んでお兄さんにまとわりつく害虫を駆除してもらっています。

 でも、お姉さんは同時にわたしにとっての最大の敵、ラスボスでもあります。

 わたしがお兄さんに対して本気で行動を取ろうとすれば、先ほどのような妨害が再び起こる可能性は高いです。

 お兄さんのお嫁さんになる為にはお姉さんに認めてもらうか、お姉さんを倒すしかありません。

 でも、お姉さんを倒すなんて……。

「わたしもお姉さんのことが大好きです。いつまでも仲良しでいたいです」

 お姉さんの手をギュッと握ります。

 お兄さんや加奈子へのお仕置き用戦闘術しか持たないわたしが、代々続く暗殺家業の担い手であるお姉さんに敵うはずもありません。

 やはりここは、わたしのお腹にお兄さんの赤ちゃんが宿った状態で2人の仲を認めてもらうという最初のプランを実行するのが吉ですね。

 そうです。やっぱり愛の告白はお兄さん、男の人からしてもらわないと。

「わたしもあやせちゃんとはいつまでも仲良しさんでいたいよぉ」

 お姉さんもギュッと手を握り返してきます。

「お前ら偶然出会って始まった仲なのに本当に仲良しだな」

 お兄さんは誰を巡っての協力関係なのかも知らずに暢気な声を出します。

 そういう所がお兄さんらしいのですけどね。

 

「それじゃあわたしは夕飯のじゅんびがあるからもう行くね〜」

 お姉さんは小走りにわたしたちの元を去っていきます。

「さて、俺たちも行くか」

「そうですね」

 再び歩き出すわたしたち。

 今日は本当に色々な体験をしました。

 コミケという新しい世界を体験しました。

 黒猫さんという新たなライバルに出会いました。

 そして、お姉さんがわたしにとってのラスボスであることを再認識しました。

 たった1日で本当に沢山のことを経験することができました。

「もうすぐお前の家に着くわけだが……」

 お兄さんの声には名残惜しそうな雰囲気が篭められています。

 だからわたしはお兄さんの手を握って答えました。

「これから桐乃のお見舞いに寄って行っても良いですか?」

「ああ、勿論構わないぞ」

 お兄さんはちょっと照れながら肯定してくれました。

「せっかくコミケに行った来たのですし、体験談を語ってあげたら桐乃も喜ぶんじゃないかなって思って」

「そうだな。自分が行けなかった悔しさから体が活性化して一気に全快するかもな」

 行き先をお兄さんの家へと変えます。

 これでもうしばらくお兄さんとのデートを続けることができます。

 不謹慎ながら、桐乃が風邪を引いてくれたことにちょっとだけ感謝しながらわたしはお兄さんと手を繋いで高坂家へと向かったのでした。

 

 一番星が見え始めた薄暗がりの空の真ん中で加奈子がわたしたちを優しく笑顔で見守ってくれていました。

 

 

 

 

 

説明
pixivより転載。
明日から夏コミですね。
出掛けられる方は体調管理にお気をつけて行ってください。
一部の渡り廊下とか、人の移動が詰まりがちな場所は死ぬほど暑い、というか熱いですので。



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