【DQ5】遠雷(2)【主デボ】 |
「お姉さん、私ね、神様にお仕えしたいの。」
妹は、はにかみながらそう言った。
「なんで?」
と、デボラが問うと、顔を真っ赤にして「わからない」と言った。
「でも。」
不意に、空を見上げる。その眼には、妹の髪と同じ色の、爽やかな蒼が映っていた。
「私は、そのために生まれてきたのよ。」
遙か天空に坐す神の為に生まれたのだ。それが、自分の使命なのだ。――フローラは、そう言って、にこやかに修道院へ旅立っていった。
雷の音を聞くと、幼い頃の“何か”から必死に逃げていた時の事を思い出してしまう。何の轟音だったかは思い出せないが、あれは雷だったのではないか、と、デボラは思った。
雷は、天空に住まう神の怒りなのだという。
不徳にして矮小な人類に対する神の抑えられざる怒りが、すさまじい音と光を伴って天地を切り裂くのだ。
「莫迦みたい。怒るくらいなら、そんな風に造らなければ良いのに。」
デボラは、神を信じなかった。けれども、義両親に迎え入れられた時は、ひょっとしたら神様が自分たちを憐れんでくれたのか、と思った。しかし、もう、ほんの少しだけあった信仰心を捨てた。
妹が、さびしがりやなのではなく、己が、さびしいのだ。
弱い己から、大切な妹を奪うような神など、必要ない――。
フローラが修道院へ行ってしまった後、数日して、ルドマンが子犬を連れてきた。
「妹がいなくて寂しいだろうから。」
そう言って、子犬をデボラに抱かせようとした。
「畜生を愛でる趣味はないわ。」
「おまえという奴は……!」
「毛が服につくから厭。あっちへやって。」
手を払う。長い爪の先が、そのつもりは無いのに、犬の鼻先をかすめた。途端に、犬は火がついたように吠えた。
「ほら、こいつも厭だって言ってる。とにかく、私は犬はいらない。」
背後にルドマンの怒声と、犬の吠え声が聞こえたが、振り返る気にはならなかった。
結局、子犬はルドマン家で飼われることになったが、デボラは近づきもしなかった。犬も、デボラを見ると吠えたてるので、やがて彼女に犬を近づけようと思う者はいなくなった。
デボラは、寂しい、と自覚するのが厭だった。厭で厭でならなかった。けれども、自覚せずにはいられなかった。
ふとした瞬間に、妹の名を呼んでしまう。
面白いものを見つけた時。
おいしいものを食べた時。
かわいらしい衣服を買った時。
腹が立った時。
アンディが莫迦なことをしでかした時。
呼んだ後、返事が無くても、しばらく気づかなかった。気づいた途端に、激しい感情の波が押し寄せてくる。
寂しい。
寂しい。
寂しい。
寂しい。
寂しい。
―― 悲しい。
その時、己はなんて惨めなのだろう、と思う。その惨めさが、デボラには耐えがたいものだった。
デボラは、耐えがたい気持ちに心が支配されそうになると、外へ出た。そして、フローラがいなくなって可哀想なほど落ち込んでいる幼なじみをいじめた。
「やめてくれよぅ、やめてくれよぅ」
と言って泣く、気の弱い少年を引きずって歩くと気持ちが良かった。まるで、王様にでもなったかのような、清々しい気分だった。寂しい気持ちはどこかへ消え去っていった。けれども、家に帰ってくるとただ虚しくなる。やがて、虚しさにも耐えられなくなってきて、デボラはアンディをいじめるのをやめた。
寂しい悲しい虚しい気持ちは、続く。
年頃になると、色んな人間が寄ってくるようになった。彼らは皆一様に、デボラの容姿を讃え、その涼やかな声で名を呼んで欲しいと懇願した。
最初は、彼らが言辞を尽くして己を賛美するのが面白かった。だが、次第に興が冷めていく。基本的に、彼らは、デボラでなくとも構わないからだ。女でさえあれば、己の所有欲を満たすことができる存在であれば良いのだ。他の奴の所有物よりは美しく聡明であれば、なお善い。
―― 私だけを見て、私だけを慕い、私だけを崇める存在が欲しい。
欲求は強まれども、満たされる兆しは無い。デボラは、日々を無為に過ごしながら、ひたすら待っていた。
―― 何を?
問いかけに、答えは無い。答えの出るものではないのだろう、と結論づけ、そうして、何年か経った。
説明 | ||
5主に出会う前のデボラ様をねつ造した話の2発目。 | ||
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DQ5 ドラクエ デボラ | ||
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