ある日の兄妹―1
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 雨の中、俺はレインコートを羽織って走っていた。片手には一本の傘。正直あまり趣味が良いとは思えない、水玉模様のついた奴だ。まあ、俺のこの真っ青でビニル製のレインコートも、趣味が悪いと言えば悪いのだが。

 わざわざこんなゲリラ豪雨の中を、傘を片手に走る理由なんて一つしかない。まあ、アイツは傘無しでも、強行突破で帰ってきそうではあるが、流石に風邪をひかれても困る。

 ……まあ既に、手遅れのような気もするが。時間を見れば既に十六時。確実にアイツはもう出てるだろうから、今頃どこかで雨に濡れながら歩いているのか。

 

 いつもアイツが通っている道は、裏通りの、車のあまり通らない道だ。隣にはどぶ川があって、臭い。まだ今日はマシだが、よく晴れた日など、もう臭いのなんのと。

 走って、走って、まあ通気性皆無に等しいレインコートで走って。額に汗が浮かぶ頃、俺は公園までたどり着いた。で、奴もそこにいた。

 申し訳程度に備え付けられた屋根の下にあるベンチに座り、うつむいていた。服は、まあ見るも無惨なびしょ濡れだ。おまけに比較的薄手の服だから……まあ、奴じゃなければ、俺は多分興奮しただろう。奴を相手に興奮するか。

 

 そっと近寄って、俺は奴の目の前に傘を差しだした。途端に、奴は顔を上げる。濡れた髪からは、水滴が落ちていた。

 ……ああ、もう。見事に顔もぐしゃぐしゃだな。普段ならもうちょっとマシなんだが、今は本当に、見るも無惨、という言葉がよく似合う。

「……遅い」

 泣きそうな声で、奴はそう言った。怒ってるんだろうな。

「そういうなよ。だったら、無理せずに俺に電話すれば良かっただろう」

「うるさい。携帯電話、忘れたの」

 泣きそうなんだかキレそうなんだか。よく分からない声で、俺は怒られた。実際、公衆電話とかその類はあったと思うんだが、これ以上余計な事を言ってもな。

「分かった、悪かった。だから帰ろうぜ、な」

 傘を受け取れ、と促す。しかし奴は、首を横に振った。

「やだ。もう歩きたくない」

 来年にはお前高校生だろうが。それでいいのか受験生の猛者。

「歩きたくないの。絶対に、いや」

 何も言ってないのに、俺の表情を読んだか。いや、単純に前の言葉の続きか。どっちでもいい。

 とりあえず困る。帰りたくない、とか言われてもな。俺だって、家で仕事を片付けてる途中なんだ。こいつの相手をしてる時間が惜しい程度に、キツイ状況下だ。

「頼むぜ。風邪ひくぞ?」

「やだ。別に風邪ひいてもいいもん」

 俺は思わず肩をすくめた。まあ、言葉で言っても聞かないのは大体予想済みだからな。仕方ない。俺は羽織っていたレインコートをさっと脱いで、奴に被せた。

「おぶってやるから、帰るぞ」

 返事がない。背中を向けてるから、奴が今どういう顔をしてるのかはわからない。が、やっぱり気に入らないんだろうな。子供扱いしてる、って。

 しばらく間があって、背中に冷たい感触と、重みがやってきた。しっかりとバランスを取って、しっかりと背負う。

「おい、俺が濡れるから傘さしてくれ」

 そう声をかけたが、返事がない。もう一度呼びかけようとして、ふと気付いた。俺の顔の横で、奴は平和そうに寝息を立てていた。

 傘持ってきた意味が無くなっただろうが。俺もびしょ濡れ帰宅確定か。まったく。

 

 びしょ濡れになりながら俺は、重荷を抱えて、土砂降りの街を歩く。

 けれどその重荷は本当に幸せな重荷だな、と思う。平和そうな寝息を立てて、平和そうな寝顔をした少女。

 口を開かなければ、全くもって悪くはないな。

 

 雨はまだ止まない。奴は、幸せそうに寝ていた。

説明
初めまして、ただのアホです。30分でどれほどの文章が書けるかな、とちょっと必死でやってみました。というかこれはこっちに投稿してよかったものなのかしら。まあいいや。駄文ですが、もしよろしければどうぞ。
それにしても相変わらずオチのやる気のなさが異常だ。
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