祠の神様
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―――寂しい

そう誰かが言った。

それは小さな神様だった。

力も体も心も、まだまだ小さな女の子の神様。

―――嬉しい

そう誰かが言った。

やっぱり小さな神様だった。

けれどその声は誰にも聞こえてはくれなかった。

違う、聞こえてはくれないんじゃなくて誰も聞きたくはなかった。

―――どうして?

そう誰かが言った。

その小さな声は青年に届いた。

「それはそうだよ、悲しいことを聞いたり考えたりするより嬉しいことや楽しいことを聞いたり考えるほうがずっと楽だ」

「そうなんだ」

そう落ち着いた声で神様の少女は言った。

けれど少女はとても悲しそうな顔をずっとしていた。

「君はどうしてそうにも悲しそうな顔をしているのかな?」

「それは…」

 

 

少女は小さな、それはこぢんまりとした祠にひっそりと眠っていた。

とても緑に溢れ、木々が萌えて日の当たる美しい光景の場所だった。

「神様、どうか今日も見守りください」

それは清楚な着物を身につけた背の低いおばあさんだった。

その祠は遠い昔、誰かが作ったのだけれど誰も祈ることは無く、ずっと放ったかされてきたもの。

「神様、どうか今日も見守りください」

おばあさんは毎日、毎日水やお供物を持ってきて祈り、やがてその思いは神様を生み出した。

祈りがとても清らかなものを人は神、怒りの祈りで生み出されたものは人は祟り神と呼んだ。

人は神を都合のいい用に拝んで利用して、祟だったら消えろだの落ち着けだの都合のいい用に生み、消した。

けれどおばあさんの祈りにより生まれた小さな神様の少女はおばあさんを見守った。

毎日、毎日お祈りにくるその姿を少女はただひたすら見ていた。

けれど一年程過ぎたある日、おばあさんは度々来なくなってしまった。

それと同時に度々おばあさんはやつれていてとても辛そうにしていた。

少女はとても悲しくなってしまった。

助けてあげたい、そう思うけれど何もしてあげられない。

声をかけてあげることも出来なかった。

おばあさん一人、一年足らずの祈りでは少女にはとてもおばあさんに話しかけてあげるほどの力は無かった。

力がなく、何もしてあげられない自分がただ憎く、辛く、おばあさんの顔を見るとより一層悲しくなった。

少女は祈った、自分には何もしてあげることはできない、だからただ祈る、それだけ。

ある日、ぽっつり来なくなってしまった。

三日、来ないおばあさんを少女はとても心配した、もしかしたらもう来れないのかもしれない、そう思った。

少女はおばあさんがやってくる方へ森を抜け、街へ出た。

誰にも見えてないけれど、一所懸命に走りぬく。

おばあさんを見つけた。

とても小さな病院だった。

おばあさんは寝ていた。

とても辛そう、家族も医者も集まっている、恐らくもう峠時(とうげどき)だろうと思った。

少女はとても辛かった。

涙が流れてしまった、誰にも見られない涙はとても大きな粒となっていた。

おばあさんは辛そうにしていながら、一言、こうつぶやいた。

「神様、どうか……、どうか今日も見守りください」

それは今までの祈りよりもずっと強く、心に響くものだった。

少女は力いっぱい、力強く心を込めて。

「大丈夫、見守っているよ」

そう言った。

おそらく、その時にはもう家族や医者にも見られていた。

おばあさんが最後に祈った祈りはとても強く、少女の力となって綺麗な体と心を映しだした。

「ありが……とう……」

そうおばあさんは最後に告、旅立っていった。

少女はそれを見守った。

おばあさんの家族もそれを見守り、悲しんだ。

きっと不思議な光景だったかもしれない。

きっと心に残る光景だったかもしれない。

だからこそ少女は寂しく思えた。

誰かに見てもらえるようになったかもしれない。

誰よりも強い存在になったかもしれない。

でも少女は一人ぼっちになってしまった。

 

 

 

「それは……誰も私を見てくれなくなったからかもしれないよ」

「それは……誰も私を信じてくれなくなったからかもしれないよ」

青年はそんな少女を見てこう一言、呟きました。

「それなら私はアナタを信じましょう、それなら私はアナタを見ていましょう」

その青年は少女にとって不思議な人だったかもしれない。

そして青年はこう一言、言いました。

「神様、どうか今日も見守りください」

そう一言。

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