シュタインズ・ゲート 二次創作 〜跳躍土下座のオンステージ〜
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「なんという事をしてくれたのだっ!!」

「あ、あんたが悪いのよ! こんな物を勧めたから!!」

 

 その日、うだるような暑さが続くラボの談話室で俺は紅莉栖と口論をしていた。

 いや。正確に言うならば。

 

「このテレビはミスターブラウンからの譲渡品なのだぞ! 壊したと知られたらどうするのだ!」

「あんたがこんなつまらんゲームをさせるからだろうが! なにがアルパカマンよ、クソゲーじゃない!」

「アルパカマン2、だ。せっかく俺が勧めてやったというのに、癇癪を起してテレビに当たり挙句の果てに壊してしまうとは。見損なったぞクリスティーナ!」

「誰だってそうなるっつーの! そもそもこれのどこに面白さがあるのか30字以内で説明してみなさい!」

「そんなものはない。ただお前も俺と同様にこの無表情アルパカに憤りを感じて欲しかっただけだ!」

「やっぱり確信犯か! というかあんたもやったのか!」

 

 責任押し付け合いである。うむ、不毛極まりない。

 これまでの会話で概ねの経緯は理解していただけただろうか。

 要約すると俺が以前購入したクソゲーを紅莉栖にプレイさせ、キレた助手はテレビを殴打。盛大に自爆しながらテレビをご臨終させたのであった。ちなみに、実を言うと紅莉栖がテレビを壊してしまう所までは俺も計算外だった。これだからメリケン育ちは困る。

 

「とにかく修理せねばらなん。という訳で出せ」

「なにを?」

「修理費用だ。千円でいいぞ」

「ふざけんなっ! 岡部のせいなんだからそっちで出しなさいよ!」

「セレセブのくせにその程度も払えんというのか。残念なやつめ」

「そっちこそ、それくらい出せないの? 残念なやつね」

「なんだと!」

「なにおう!」

「オカリンも牧瀬氏も興奮し杉。それよりブラウン店長に謝りに行った方がいいんじゃね?」

「う」

「むぅ」

 それまでPCに向かっていたダルがのっそりとこちらを向いて抗議した。流石にやかましかったかもしれない。

 それにダルの言う事はもっともだ。このまま口論を続けても事態は好転しない。

「分かった、修理代は俺が半分出そう。それでいいなクリスティーナ」

「オーケー、正直納得しがたいけど我慢する。それじゃ岡部、頑張って」

「………頑張ってとは何をだ?」

「店長さんに謝ってくるんでしょ? また家賃を上げられるかもしれないけど、まあ仕方ないわよね」

「なぜ俺一人なのだっ!? お前が壊したのだからお前が行くべきだろう!」

「元はと言えば岡部が私にあんなゲームを勧めたのが悪い。だから岡部が行くべき。はい証明終了」

「異議あり! 直接手を下したのはお前なのだからお前が行くべきだろう!」

 

「まゆ氏、止めなくていいん?」

「うーん。今のオカリンとクリスちゃんはとっても楽しそうだから、これでもいいかなーって」

「なるほど。つまりオカリン爆発汁という事ですね、分かります」

 

 結局、俺と紅莉栖の二人で謝罪に行くという方向で話がついたのは十分後の事だった。

 

 

 

 

   〜跳躍土下座のオンステージ〜

 

 

 

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「問題は話をどう切り出すかね」

「そうだな。下手をすればまた家賃を値上げされてしまう」

 最近のミスターブラウンは事あるごとに家賃の値上げをちらつかせる様になった。

 このままだとこのラボは経済破綻を起こしてしまうのである。

「ねー。謝りに行かないのー?」

「ちょっと待て。作戦会議中だ」

 不思議そうに首をかしげるまゆりに答えながら、俺と紅莉栖は会議を続ける。

「いつも通りに岡部がジャンピング土下座をするって事でいいんじゃない?」

「それではお前がいる意味が無いではないか。というか、俺がミスターブラウンにいつ土下座したというのだ」

「この前、家賃上げるって言われてしてたじゃない。綺麗な土下座だったわよ」

「あ、あれは相手を油断させる為の罠なのだ!」

「はいはい。大丈夫、私も一緒に謝ってあげるわよ。土下座抜きで」

「そんなものは不公平だ! そもそも、土下座程度でミスターブラウンが許すとは思えん!」

 あの筋肉ハゲマッチョは、娘の次にブラウン管を愛する男である。

 そこに半意図的に破壊したテレビなど持って行こうものなら、確実に殺される。

「ちなみに本人曰く、女子供でも容赦しないそうだ。下手人のお前はどうなるのだろうな、クリスティーナ?」

「くっ…! 分かった、もっと案を出して確実な物を使いましょう」

 

 

 

 第一案

『とりあえず軽いノリで』

 

「フゥーハハハ! すまないミスターブラウン、例のテレビなのだが故障してしまったのだ。修理を頼む(キリッ」

「私がつい叩いちゃったの、ごめんなさい。テヘッ☆」

 

「………牧瀬の嬢ちゃんはここに正座しろ。あと岡部、家賃は3千円アップだ」

 

 

 シュミレーション結果:失敗

 

「…これは駄目だな」

「そうね。つーか私のキャラおかしいだろ」

「そうかなー? クリスちゃんなら可愛いと思うなー」

「ロリッ子な牧瀬氏ならありだと思うお」

 いつの間にか会議に加わっていたまゆりとダルが無責任な感想をもらしているが無視する。

「次の案を出しましょ」

「そうだな」

 

 

 

 第二案

『オーバーアクションで大げさに』

 

「すまないミスターブラウン! 貴方の大切なブラウン管を傷つけてしまった!」

「ごめんなさい! 私のせいなの! 全部私が…!」

「いいや、お前のせいではないぞクリスティーナ! そもそも俺があんな事をしなければ…!」

「ううっ! 岡部ぇ!」

 

「ここはお遊戯の場じゃねぇ、修理代とブラウン管ちゃんを置いて出てけ。家賃は5千円アップだ」

 

 

 シュミレーション結果:失敗

 

「…駄目だな」

「駄目ね。というか岡部、私のキャラがおかしいのはデフォなのか?」

「うん? 助手はいつもこんなものだろう?」

「んな訳あるかっ!」

「オカリンも演技派すな。今のシュミレーション、劇団のアテレコと言われても違和感ないと思われ」

「ほんとだねー」

「いや、普通にキモいでしょ!?」

 紅莉栖の時はわざとキモく演じているので当然である。と、こんな事で遊んでいる場合ではないな。

「次の案を出そう。クリスティーナからは無いのか?」

「そうね…」

 

 

 

 第三案

『岡部、無茶しやがって…』

 

「と、いうわけで岡部が悪いのでここに置いてきますね。家賃と修理代の交渉、よろしくお願いします♪」

「おう」

「…申し訳ありません、はい」

 

 

 シュミレーション結果:いつも通り

 

「待てぇい! これは作戦もへったくれも無いではないか!」

「これが一番単純で理想的だと思うのだが」

「それは貴様個人の理想だ!」

 おのれ、どうあっても矢面に立ちたくないのだなクリスティーナ!

「でも一番いつもらしい光景だお。もうこれでいいんじゃね?」

「そんなわけあるか! まゆり、お前からも何か言ってやってくれ!」

「? ダルくんの言う通りいつもの光景だよねー?」

 もうやだこいつら。

 だが鳳凰院凶真の魂はこの程度では折れんのだ!

「とにかく却下だ! なんとしてでもクリスティーナに責任の一端を負わせないと気がすまん!」

「おい、それを主旨にしてどうする」

 ぎろりと睨みつけてくる紅莉栖。確かに段々と収集がつかなくなってきた気がするが、俺はまだ諦める気は無い。

「んじゃ、次は僕の案だお」

 ダルがさらっと手を挙げた。

 そうだな、ここらで俺達以外のラボメンの案も聞いてみよう。

 

 

 

 第四案

『牧瀬氏、萌え萌えキュン作戦』

 

 

「却下」

「ちょ!? まだ何もシュミレートしてねーし!」

「案名で分かるわ! 色仕掛けとか論外だからな!」

 分厚い洋書を片手にダルをけん制する紅莉栖。

 その気持ちは分かる。少しでもダルに期待した俺が馬鹿だった。

「そうだぞダル。クリスティーナにそんなことはさせられん」

「え? ちょ、ちょっと岡部何言って―」

「そもそもクリスティーナの色香では誰も籠絡などできんだろう」

「あ、なるほど。盲点だったお」

「おのれらぁ…!」

「クリスちゃん、どーどー」

 今にも暴れ出しそうな紅莉栖をまゆりがなだめていた。

 少々オーバーな評価だが、間違ってもいないと思うのだが。

「次はまゆしぃの考えも聞いてもらっていいかなー?」

「うむ、言ってみろ」

 まゆりは時々だが鋭い事を言うからな。本当に時々だが。

 

 

 

 第五案

『まゆしぃ、からあげ大作戦』

 

「ブラウンてんちょーさん、まゆしぃのからあげをあげるからオカリンを許して欲しいのです」

「むう、からあげなら仕方ねぇな。ところで岡部を呼んで来てくれ、ちょっと大事なお話があるからな」

「はーい」

 

 

 シュミレーション結果:大勝利(まゆしぃ主観)

 

「…まゆりよ」

「なに?」

「残念だが、ミスターブラウンはからあげで釣れん」

「そうかなー? まゆしぃなら許しちゃうんだけどなー?」

 それはお前の場合だろう。

 どうみてもこの先に待つのは俺が無残に殺される情景のみだ。

「あのブラウン管マニアが好むのは自分の娘か今しがた助手が壊したテレビくらいだからな」

「そっかー…」

 残念そうにするまゆりには悪いが、この案で俺の末路が変わるとは思えない。

「でも、贈り物って案は有効じゃない?」

「確かにそうだが… そんな金銭的余裕があればそもそも困ってなどいないぞ」

 紅莉栖の言う通り、贈り物という手は交渉の常套手段である。

 しかし一番有効であろうテレビを壊したあげく代わりを買うお金などラボにはない。

 せめてそれ以外に好きな食べ物でもあったら話は別なのだが…

「…ん? まてよ?」

 さっき俺はなんて言った?

「そうだ! 娘だ!」

「それって綯ちゃんのことー?」

「フ、フゥーハハハ! 何故こんな事に気付かなかったのだ! あの小動物を人質に取ればよかったのだ!」

 

 天王寺綯。

 ダルが大好きな小学生(二次元的な意味で)であり、ミスターブラウンこと天王寺裕吾の一人娘。

 父親に溺愛される姿から俺は小動物と呼んでいる。

 

「それってどうみても自爆じゃない?」

「甘いな助手よ、それは失敗すればの話だろう? 俺がそんなヘマをするとでも?」

「どうみても死亡フラグです、ありがとうございました。私は手伝わないからな」

「フン、チキンめ。まあ見ているがいい」

 もしかしたら下のブラウン管工房にいるかもしれない。できるだけ早く確保しなければ。

 そう思い俺がラボを出ようとすると、丁度そのドアが開いた。

「ちぃーっす。岡部倫太郎と牧瀬紅莉栖はいるよね?」

「バイト戦士ではないか。どうしたのだ?」

「あー、うん」

 鈴羽が困ったように頭をかいた。

「店長が早く降りてきて謝れって。態度によっては許すってさ」

『………は?』

 鈴羽の言葉に俺と紅莉栖の声が重なる。

「前も言ったと思うんだけど、ここって大声を出すと下に丸聞こえなんだよね」

 

『し、しまったああぁぁぁ!!』

 

 俺と紅莉栖の絶叫がラボに響き渡った。

 

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『申し訳ありませんでしたっ!』

 

 数分後。

 ブラウン管工房の意外とひんやりしている床に正座して頭を下げる俺と紅莉栖の姿があった。

「…まったくよう。壊したら正直に言ってくれば良いものを、どうして毎度毎度変な事を始めんだよ」

「いや、まあ、あれですよ。心を落ち着かせる為の儀式といいますか…」

 流石の俺も今は敬語である。

 これ以上ミスターブラウンの機嫌を損ねると本当に家賃が払えない値段になってしまうかもしれないからだ。

「岡部のたわ言は置いておいて、本当に申し訳ありませんでした。修理代は私が払います」

 おい助手よ、たわ言とは何だ。ここは俺をフォローするべき場面だろう。

「まあ、そうだな。牧瀬の嬢ちゃんはもう少し短気を直した方がいいな」

「…はい」

 くそ。ミスターブラウンのやつ何故か紅莉栖に甘くないか? 俺だけが狙い撃ちか?

 というかだな。ミスターブラウンが他人に短気を直せと言う事自体がおかしくないか?

 いつも俺にやる様に言ってやれ助手よ! 今日のお前が言うなスレはここですか、と!

「なんだ岡部、文句でもあるって顔だな?」

「いえ、滅相もありません!」

「露骨に媚を売る男の人って…」

 ええい、やかましい。

 そもそも自分が主犯だという事を忘れるなよクリスティーナ!

「今回は特別に家賃の値上げは許してやる。だが次はねぇぞ?」

「了解しました!」

 その言葉を聞けただけでも土下座の価値はあった。内心ほっとする。

「あと、そのアル何とかってゲームを処分しとけ。でないとまた同じ事をやっちまうぞ?」

「善処しておきます、はい」

 ミスターブラウンの言葉はもっともだ。近いうちにアルパカマン2は処分しておこう。

「最後に岡部よぅ。さっき綯に何かするとか言ってた気がするんだが、俺の気のせいだよな?」

「も、もももちろん気のせいですとも! そんな事する訳がないでしょう?」

 これ以上は墓穴を掘るだけだ。さっさと退散しよう。

 

 

 

「…」

「…」

 工房からラボへの階段を上る最中、俺と紅莉栖は互いの顔から視線を外したままだった。

「まったく、レディに頭を下げさせるとか本気で甲斐性なしね」

「お前の短気がそもそもの原因だろう。それでレディとは。ハ、笑わせるな」

「………今、あんたとはいっぺん本気で話をつけるべきだという結論に達した」

「………いいだろう。表…はミスターブラウンに怒られるから屋上に出ろ」

「望む所よ」

 こうして、俺と紅莉栖の口論は第二ラウンドを迎える事になった。

 結果は両者炎天下でのヒートアップによる、熱中症寸前でのドクターストップであった。

 ちなみにそのドクターとはまゆりであった事を追記しておく。

 

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 数日後。

 

「………なあ岡部よ」

「…なんでしょう。ミスターブラウン」

「俺は、あのアル何とかってゲームを処分しとけと言ったよな?」

「はい、確かに」

 

 

「じゃあなんでウチのバイトが勝手にやった挙句、ブラウン管ちゃんを壊してんだよ!」

「それこそバイト戦士の責任を追及するべきでしょう!?」

 

 

「いやー、椎名まゆりが楽しい娯楽だって言ってたからつい。でもあのゲーム本当に面白いの?」

 相変わらず軽いノリで笑う鈴羽に反省の色は見られなかった。

「まごう事無き駄作だ! というかお前もテレビを叩いたのか!? 何故だ!?」

「余りにも無反応だからつい。ねえ店長、あのテレビちょっと小突いただけで壊れるなんて、もう寿命なんじゃないかな?」

「そもそも小突くな馬鹿野郎! もっとこう、赤子をあやす様に優しく扱うんだよ!」

 要するに壊れ物を扱う様に、か。

 ここまで故障が多いと鈴羽の指摘が正しいと思えてくる。

「今度こそ家賃アップだ! あとバイト、修理代はお前の給料から差っ引くからな!」

「そんなぁ! 店長の鬼ぃ!」

「いやそれ以前にミスターブラウン! これで家賃アップはおかしいでしょう!?」

 

 結局、俺と鈴羽の家賃&給料交渉は夜遅くまで続いた。

 諸君らもトラブルの元は早急に処分しておく事を勧める。エル・プサイ・コングルゥ。

 

 

  〜了〜

説明
『シュタインズ・ゲート』の二次創作になります。今回も重要なネタバレ無し。

*シュタインズ・ゲートシリーズ
〜怒髪衝天のコスプレイヤー〜 http://www.tinami.com/view/222565
〜他力本願のマスゲーム〜   http://www.tinami.com/view/224023
〜七転八倒のネゴシエイター〜 http://www.tinami.com/view/227999
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シュタインズ・ゲート Steins;Gate 

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