月夜に重ねて
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 たまに、無性に怖くなる。

 目が覚めて、全てが夢だったんだよなんて言われたら、私は今より狂える自信があった。そんなこと、もちろんありえない出来事なんだろうけども、怖いものは怖い。

 そんなどうしようもない恐怖が、不安が、私の心を蝕むのを感じたとき、思い浮かべるのはお姉様のこと。

 温かい身体、優しい瞳、お姉様の全てが私に安心感を与えてくれる。

 だから、会いに行く。

 部屋を抜け出して、暗い廊下を駆けて、ただ会いたいという欲に従う。

 

 

「また部屋を抜け出して来たの?」

「うん」

 

 空間を深い闇が包む、こんな深夜。普通、起きてはいないけれども、お姉様は起きている。

 お姉様の部屋は、灯が点いて無くて、壁の紅さえも今だけは深い闇に飲み込まれていた。

 こんな暗いのに、お姉様が何処に居るかはハッキリと分かる。なんだろう、感覚だろうか。

 

「お姉様、一緒に寝て?」

「……また?」

 

 私がこの時間にお姉様に会うときは、必ずこのお願いをする。

 お姉様は、毎回少し戸惑っていた。

 表情を覗うと、嫌なわけでは無いみたい。なんだか少し頬を赤くしている。なんだろう、これがヘタレっていうのかな。

 

「フラン、一人で眠れるようにならなきゃ――」

「ダメ?」

「うっ……」

 

 こういうとき、上目遣いと甘い声を使ってみる。前に魔理沙が「お前がレミリアにお願いするとき、これを使えば一発だ」と教えてくれた方法だ。

 何故かは、よく分からないけれども、本当にお姉様がこれで拒否したことは無い。

 ただ、うーうー唸ったりする。やっぱり、これがヘタレっていうのかな。今度パチュリーに訊いてみよう。

 

「分かったわ。一緒に寝ましょう」

「わぁい! お姉様、大好き」

 

 勢いよく抱き付いてみる。

 私と同じくらい、小さい身体。温かくて柔らかくて、心地良い。安心する。

 お姉様も、腕を回して抱き締め返してくれた。

 

 ぎゅ〜っ。

 

 力を込めて、より密着する。

 

「フラン、痛い」

「うみゅ……」

 

 お姉様がそんなことを言うけれど、聞こえないふり。

 

 ぎゅ〜っ。

 

 お姉様の薄っぺらい胸に顔を埋める。

 頭上から、溜め息が聞こえた。

 

「甘えん坊ね」

「別に良いもん」

 

 甘えん坊だと言われるくらいで、この心地良い空間が手に入るなら、私は迷わずこの胸の中を取る。

 

「眠りに来たんじゃないの?」

「んー? ここなら寝れそうー」

「私が疲れるんだけど」

「まぁまぁ、細かいこと気にしちゃダメだよ」

「はぁ……本当に今日は甘えん坊ね」

「んー」

 

 ぐりぐりと頭を動かし、薄っぺらい胸で暴れる。

 甘い、匂い。

 

「ねぇ、お姉様」

「何かしら?」

「も一つ、お願いしていい?」

「何でも言いなさい」

 

 顔を上げて、ジッとお姉様を見つめる。

 私の強い視線に、少し恥ずかしいのかやっぱり顔を赤らめている。直感で理解。これがヘタレだ。多分。

 まぁ、ヘタレだろうが何だろうが、お姉様が大好きなのには変わりないけども。

 

「おやすみのちゅー、して」

「ごふぁ!?」

「頭血!?」

 

 私のお願いを聞いて、お姉様が頭から血を勢い良く出した。

 これにはびっくりだ。

 大体、頭血って言いにくい。ずとぢ、合わせて頭血。どうでも良いか、うん。

 

「大丈夫、お姉様?」

「あ、あまりの衝撃的発言に理性が散りかけたわ……」

「どういうこと?」

「いや、フランは気にしないで。私の中での話だから」

 

 お姉様が何かぶつぶつ呟いている。

 

「襲ってはダメ襲ってはダメ襲ってはダメ……」

「どうしたの?」

「気にしないで。それより、本当に、その……」

「ん?」

「おやすみのキスが欲しいの?」

「うん。そうしたら、安心して眠れそうな気がする。……ダメ、かな?」

「うっ!?」

 

 必殺の上目遣いと甘い声。さらに魔理沙に教わった隠し技、ちょこっと首を傾げる。

 すると何故かお姉様はうーうー唸りながら、頭をふらふらさせていた。

 

「分かった……」

「わぁ、ありがとう」

「こっち、向いて」

「ん……」

 

 お姉様の顔が近付いてくる。

 なんだろう、胸がドキドキする。

 無意識に、目を強く瞑る。お姉様が可愛いと言って、小さく笑ったのが聞こえた。

 空気にあてられて冷めきった唇に、温かい何かが重なる。

 お姉様の唇だ。

 

「んっ」

「ふ……」

 

 鼻で息をするのを忘れてしまうくらいに、緊張する。思わず、お姉様の肩をギュッと掴んだ。

 すると、お姉様は右手で私をより強く抱き留めた。

 ふわふわする。

 心地良い、柔らかい、息が出来ない。

 自分から頼んだのに、胸がほわぁっとして落ち着かなかった。

 

「これで、眠れそう?」

 

 重なっていた唇を離して、それでも吐息がかかるくらいに近い距離で、お姉様が言う。

 

「もっと、眠れなくなっちゃった」

 

 まだ、ドキドキしていた。

 完璧に目は覚めている。

 

「なら……」

 

 お姉様が私の頬をそっと撫でる。

 少しくすぐったさに、身をよじった。

 

「眠れるまで、抱き締めていてあげる」

 

 優しく、抱き締められた。

 あぁ、やっぱり安心出来る。

 けれども、今日の私は眠れそうに無かった。

 胸の鼓動が、鳴りやまない。

 これだけ密着していたら、お姉様にも伝わっているだろう。何故か、ちょっと顔が熱くなる。

 

「ねぇ、フラン」

 

 お姉様の声を聞くだけで、身体が震えた。

 

「落ち着かないのなら、もう一度してあげましょうか?」

 

 何を、とは言わなかった。

 そんなお姉様の言葉に、私はドキドキした。

 

「……うん」

 

 そして、もう一度唇を重ねることにした。

 さっきまでは暗かった部屋が、雲が動いたのか、今は月明りで明るくなっていた。

 

説明
2009年に書いたレミフラ。
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