真・恋姫夢想 〜たった一つの願い〜 『後編』 |
どんな願いも一つだけ叶えよう。
そんな風に夢の中で言われた少女は、自身が大嫌いだと公言してはばからない、とある人物の消滅を、冗談交じりに望みました。
けど、その時少女は思っても見なかったのです。
それが全て正夢だと。
願いは本当に叶えられたのだと。
そして、夢から覚めた少女は思い知ったのです。
自分以外の誰も彼もが、その人物のことを覚えていない―いえ、知らなかったことを。
誰に聞いても知る者はおらず。
何処に行っても姿は見えず。
彼が本当に、その世界から消えてしまっている事を。
溢れ続ける涙とともに、少女は落胆と後悔の日々を送り続けます。
そうして、十日も経った頃。
お話はそこから再開いたします……。
『たった一つの願い〜後編〜』
居ない。
居ない。
居ない。
“彼”は何処にも居ない。
聞こえない。
聞こえない。
聞こえない。
“彼”の声が聞こえない。
どうして?
どうして?
どうして?
“彼”はどうして消えた?
私のせい。
私のせい。
私のせい。
“彼”が消えてしまったのは。
望んだ。
望んだ。
望んだ。
“彼”が消えろと望んだから。
夢だ。
夢だ。
夢だ。
これは全て夢だから。
眠ろう。
眠ろう。
眠ろう。
眠ってもう一度目を覚ませば。
帰ってる。
帰ってる。
帰ってる。
“彼”はきっと、帰って来ているはずだから。
「……今日もまだ、私は夢の中なのね……」
ばたん、と。その、“主の居ない”部屋の扉を、力なく閉じてそう呟く。
「……後何回、これを続けたら、夢から覚めることが出来るのかしら……」
あれから十日。
毎日眠れぬ夜を過ごしては、日の昇りきらない早朝から、彼女はその部屋を訪れて、そこの主だった人物の名を呼び、以前その人物にかけていた口調とともに、朝の挨拶をするのが、もはや日課と化していた。
『いつまで寝てるのこの種馬!とっとと起きなさいよね!』
しかし、その挨拶に返事が返って来る事はある筈も無く、無人の部屋で一人、朝の挨拶をする彼女を、周りの者達は始め心配し、その次に叱り、そして今は誰も何も言わなくなっていた。
『彼女は―桂花は心を病んだのだ』と。
しかし、それでも朝議にはきちんと出席し、政務もしっかりこなす彼女の事を、彼女の主たるその人物―曹孟徳こと華琳だけは、心を病んだとは思っていなかった。
「……確かに、今の桂花ははたから見れば心を病んでる様に、誰の目にもみえるわ。でも、彼女が嘘を吐いてる風に、この私にはどうしても思えない……。“ホンゴウカズト”、か……あの娘の心をここまで狂わすなんて、一体何者なのかしら……」
確かに、自分にはその名前に心当たりは無い。けれど、桂花はその人物の事を知っていて、尚且つ、自分達もとてもよく知った人物だと、今でもそう言い続けている。
「……一度じっくり、話を聞いてみる必要があるわね……」
華琳が桂花への、細かい事情聴取を決めていた頃。その当の桂花はというと。
「……あれ?なんで私、こんな所にいるんだっけ?」
ぼ〜っ、と。街の大通りに一人立っていた。本人としては何故ここに、といった感じでいるのであるが、それまでの彼女を見ていた周囲の者たちからすれば、まるで夢遊病者の様にふらふらと街中を徘徊していた所を、しっかりと目撃していた。
『……荀ケさまはご病気だと聞いていたけど、本当だったようだ』
そんな噂話を、本人に聞こえないよう密かにしつつ。
「……そっか。ここって、あの老婆が居たところじゃない。……無意識に捜し歩いていたんだ……」
辺りを見渡し、そこが先日、夢の中で天帝が扮していたという、あの老婆と出会った場所だという事に、彼女ははたと気がついた。
「……もう居るわけがないのに、私、何してんのかな?……あの時、あの老婆に施しをしなれば、こんな事にもならなかったのかしら。……違うわね。悪いのは私。夢の中でとはいえ、あいつが消えてしまえばなんて言った、私が、全部、悪、い……っ」
泣いていた。
気がつけば、彼女は周囲の視線を全く気にする事無く―いや、正確には意識にすら入っていない、と言うべきか。……ただただ、大粒の涙を流して、その場に崩れるだけだった。そこに、
「あ〜ら。こお〜んなところでなあ〜にしてるのかしらあ〜ん?」
「ふぇ?……貂……蝉?」
「そうよお〜ん。んふふ、みんなのあいどる、ちょう〜せんちゃんいよん♪……って、どうしたの、桂花ちゃん。いつもだったら、『化けものでたあーーーーーっ』って、叫ぶのに」
「……べつに。なんでもないわよ」
「そ〜お?あ、ところで桂花ちゃん?貴女に聞きたいんだけどぉ」
「……あによ?」
ぶっきらぼうに。そのビキニパンツ一丁の筋肉お下げこと、貂蝉に返した桂花。だが次の瞬間、彼女は貂蝉の口から出た言葉に、己が耳を疑う。
「……“ご主人様”、何処行ったか知らない?」
「……え?」
「んもう。久しぶりにご主人様の愛の奴隷である私が会いに来たってのに、何処にも姿が見えないんですもの。それに、華琳ちゃんたちもなんだか変なのよう。誰に聞いても、ご主人様の事を知らないってい」
「ちょ、ちょっと貂蝉!あんた、北郷のこと覚えてるの?!」
思わず、と言うべきだろう。普段なら半径五百里ぐらいまで近づきたくないその筋肉お化けに、身を乗り出して問いかけた桂花。
「あ、当たり前でしょう?私はご主人様の奴隷ですもの。何があっても、あの人を忘れたりなんかしないわ〜よ」
「……だったら、私の話、聞いてくれる?!もう、あんたしか頼れないのよ!」
「……分かったわ。じゃあ、ここで話すのもなんだし、そうね……ご主人様のお部屋にでも行きましょうか。……なんとなく、その方がいい気がするわん」
「……勘…みたいなもの?」
「そうよん。漢女のか・ん♪」
そして、二人はその部屋へ―北郷一刀の部屋だったところへ、揃って移動した。部屋に着いたところで、桂花は貂蝉に全てを話して聞かせた。
街中での老婆との出会いから、夢の中で天帝と名乗る声に、一刀の消滅を願ってしまった事。そして実際に、一刀がこの世界から消えてしまった事。一刀の事を、華琳始め誰も覚えていないことを。
「……なるほどね。そういうわけだったの」
「……まさかあれが正夢だなんて、一体誰が思うって言うのよ?!……あれが現実だと分かっていれば、私だってあんな事願ったりしないわよ!北郷が消えて、本気で喜ぶ奴なんか誰一人居やしないわよ!わたしだって、私だって、あいつが居なくなったら……!!」
「桂花ちゃん……貴女、ご主人様の事……」
「そうよ!好きに決まってるじゃない!でなけりゃ、本気で嫌いだったら、声どころかちょっかい出したりだってしないわよ!あんな罵声を浴びせたりして、彼の気を引いたりなんて子供じみた事すらしないわよ!……嫌いだったら、誰が男なんかに、真名を預けたりなんか……っっ!!」
それは、正真正銘の、彼女の心底からの、本気の告白だった。
「……始めて会った時はそうでもなかった。その辺に転がってる他の男どもと同じぐらいだった。でも、いつもいつも、あいつは私に、優しく接してくれた。わたしがどんな冷たい言葉を向けても、全く態度を変えずに、他の皆と同じように接してくれて。そんな彼に、私は段々惹かれていって、でも、周りの目があるから絶対そんな事口に出来なくて。いつの間にかそれが当たり前になって。止めは夢の中でまであんな事を言っちゃって!そうしたら、そうしたらこんなことになっちゃって……!!もう、どうしていいのか……ッッ!!」
支離滅裂。
とまでは行かないにしても、今まで誰にも言えずにいた本音と想いを爆発させ、早口で一気にまくし立てる桂花。
「とりあえず、落ち着きましょ?……そう。桂花ちゃんもやっぱり、ご主人様に惹かれていた、一人の“恋姫”だったのね。……それを聞いた上で言うのも気が引けるけど、隠しても意味無いからはっきり言うわよ?……今回の事は、天帝が願いを叶えた事で起きた事だと言うのなら、もう、今更無かった事には出来ないわ」
「……」
分かっていた。桂花には十分、改めて言われなくても、それは分かりきっていたことだった。
『されど覚えておくが良い。叶いしこの願い、どのような事があろうとも、けっして無かった事には出来ぬ。そのこと、ゆめゆめ忘れるでないぞ……』
夢の中で、天帝から言われたその言葉が、彼女の頭の中で再び再生された。……もう二度と、彼はこの世界には戻ってこないのだと。貂蝉の言葉は、彼女にそれを再認識させた。桂花自身も、もう、何もかもが終わったと、一気に力と気力が抜け落ちて行き……かけた。
「でも、ご主人様にもう一度会う方法が、全く無いってわけじゃあないわ」
「……へ?」
「けどね。そのためには桂花ちゃん。貴女はとてもつらい選択をした上で、さらにある覚悟をしなければいけないわよ」
「……選択と、覚悟……?」
「そ。……いい?天帝が一度叶えた願いというのは、普通、絶対に無かった事に出来ないの。でも、あるものを天帝に捧げれば、一度だけ例外を認められるわ」
世界の神とも言うべき天帝に、叶った願いの無効を願うというのなら、当然それに見合った捧げ物ものをしなければいけない。……桂花は始めて見たかもしれない、貂蝉の真剣そのものの表情に、思わずごくりと唾を飲み込んだ。
「……その、見合った代償って、何?」
「……いいのね?それを知った上でも、貴女は覚悟出来るのね?」
「……」
こく、と。ただ黙って、貂蝉の問いに頷いた桂花。
「……分かったわ。……その捧げ物とはね……」
「さて、と。桂花は確か、この部屋に貂蝉と一緒に入ったわよね……。あんな化け物と二人で何をしているのかは知らないけど、今はそれより、あの娘の話をしっかり聞かないと」
桂花が貂蝉から捧げ物の話を聞き終えた、ちょうどその時。部屋の外には華琳が来ており、桂花から細かな話を聞くため、今まさに中に入ろうとしていた。そして、部屋の扉に手をかけたその瞬間―!
ぱああああああっっっっっ!!
「くっ!?なに、このまぶしい光は?!」
室内から異様なまでに眩い光が放たれ、扉が閉じられているにもかかわらず、部屋の外に居た華琳までもが、その眩しさに思わず目を閉じた。
暫くして、光が静かに収まり、華琳はその閉じていた双眸をゆっくりと開ける。
「……なんだったの、今の光は?……はっ。桂花?!中に居るのでしょう?!一体今何が起きたの?!あの眩しい光は何?!」
そうまくしたてながら、華琳は一気にその扉を開き、部屋の中へと飛び込んだ。そしてそこで見たのは。
「かずと〜!かずと〜!よかった、よかったあ〜!!」
「け、桂花?!え、なに?なにこの状況?!何がどうしたと?!」
「……ぁ……ぁ……ぇ……ぇ……な、な、ななな、な」
床に座り込み、現状を全く把握できずに、うろたえている“一刀”と。その一刀に、思いっきりしがみついて、一刀の下の名を呼びながら、思いっきり号泣している桂花、だった。
「……あなたたち?いったい、こんな昼間から、ナニをシテイルノカシラ?かずと?けいふぁ?」
ごごごごごごご。
そんな感じの大迫力な効果音を背負い、いつの間にかその手に絶を構えた華琳が、とてつもなく低い声でもって、床で抱き合っている(彼女にはそう見える)一刀と桂花に、そう問いかけた。
「うえ?!いやその華琳さん?!俺も何がなんだかさっぱり分からないんですが!!……一応聞くけど、信じてもらえ」
「……ると思う?(に〜っこり)」
「……け、桂花?あの、ちょっと、離れていただけないでしょうか?」
「……や」
『……は?』
「や、って言ったの。今日はもう、ずっと、こうして一刀に甘えてたい。……駄目?」
うる、っと。そんな感じに瞳を潤ませて、一刀の顔をじっと見上げる桂花。
「ぐはっ!///……け、桂花、お前いつの間にこんな技を……萌えたぜ/////……じゃなくて!一体どうしたんだよ!?いつもだったら」
「『……いつまで人に抱きついてるのよ!この種馬!』……って思い切り一刀を罵倒するのに。ほんと、一体どうしたの、桂花?」
「……一刀。それから華琳さま。私はもう、自分を隠すのは止めたんです。これからは私も、華琳様たち同様、堂々と胸を張って、彼に本心を言うことにしたんです!……一刀、((我愛?|うぉーあいにー))///」
我愛?:訳『あなたを愛してます』
『……ぽかーん』
で、それからどうなったかと言うと。
「一刀〜!明日はお休みでしょう?よかったら私とでえとしましょうよ」
「ああ、俺は別に構わないけど」
「ほんと?!やったあ!!それじゃあ早速、明日のためのその一!……お風呂入って、肌をしっかり磨いておこっと」
ふんふふ〜ん、と。鼻歌を歌いながら、上機嫌で風呂場のほうへと歩いていく『桂花』。
「……ほんと。桂花のあの変わりよう、一体何があったっていうんだ……?」
それを知るのは、本人と貂蝉ばかりなり。……彼女のあまりの変貌振りに、他の面々も最初は随分戸惑ったものだったが、今ではすっかりそれにも慣れ、都は再び、平穏無事な一時を過ごしているのでありました。
終わり。
え?結局、桂花が天帝に捧げたものは何だったのかって?それは……。
「……二度と、嘘を吐けないようになる……?」
「そ。……もう誰にも、貴女は嘘を吐けなくなるわ。それは軍師としても致命的なことでしょ?下手をすれば華琳ちゃんの下から放り出されるかもしれないけど、その覚悟はあるかしら?」
「……構わないわ」
「ほんとに?」
「ええ。……彼が居るからこそ、今の私は、魏の一員として居られるんだから」
そう。
それこそが、彼女の真の願い。
ただ、愛する人の傍に居たい。
だから、それさえ叶えば、後はもう何でもいい。
彼の傍で、彼を支え続けられれば、他には何も望まない。
「……私は彼が、北郷一刀がそこに居れば、それ以上何も要りはしない。彼の顔を毎日見れて、彼の声を毎日聞けて、彼の近くに毎日居れれば……。そう、それが」
『それが私の、この世で“たった一つの願い”だから』
〜FIN〜
説明 | ||
たった一つの願い、続きの後編です。 どんなオチになったかは、本文の方をご覧ください。 それであw |
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コメント | ||
もし貂蝉に会わなかったらどうなっていたか気になる(nano) ・・・・・・・・・(返事がない、ただの屍のようだ)(良也) 最強・・・・・・最凶すぎるwwデレが生きるのはやはりツンがあるからなのかww(RevolutionT1115) ツンがあるからデレがご褒美なんだと再認識しました(*´Д`*)(AC711) もう2828を通り越して・・・ぬらぬらw (よーぜふ) みなさん、たくさんのコメントありがとうございますw そしてSiriusさま!ぜひこの桂花を描いて欲しいです!お願いします!!orz(力いっぱいDO☆GE☆ZA☆www(狭乃 狼) なんともまぁ・・もしかして天帝様はこうなる事を見越して・・・?w にしても「デレ桂花」かぁ・・中々難しい素材だけど描いてみようか・・ぬぬぅ・・悩むw(Sirius) 覚醒デレ桂花最強説(ヴァニラ) なんという破壊力・・・すげーよ・・・狭乃 狼さん・・・あなた神だよ・・・・(azu) デレ桂花良すぎます^^(黒い長い猫) ・・・とても良い代償だと思います!!b(萌香) 代償・・・まあ軍師としては致命的ですがそこは迷い無く(そこで躊躇したらアレですが)選択したのは流石だと これから?「魏に何処よにもいない位熱い新婚夫婦が誕生した」で良いじゃないw(村主7) すんげ〜甘いよ、この桂花(アロンアルファ) 甘ぇよ・・・ この桂花超甘ぇよ・・・(吐血(道端の石) なるほど確かに代償を払ったのか、桂花・・・でも、幸せそうだなおい。まぁ、桂花の分まで一刀が頑張ればいいのだ!(通り(ry の七篠権兵衛) GJとしか言えねぇ・・・・・あなたは神か!!?(ルーデル) まあ・・・・・・・・・やるときはやる女ということで(黄昏☆ハリマエ) 軍師より、女を取った桂花・・・・・やべぇぜww(IFZ) GJ(sinn) まあ、本人が幸せならそれで良いのではないかと・・・。(mokiti1976-2010) 軍師としてホントに駄目になっとるぞ! まぁいざとなれば一刀のメイドになればいっか(きの) さすがは、狼兄様!良い仕事をなさいますね。GJ!(聖槍雛里騎士団黒円卓・黒山羊) えええええええええええ!!??!!??このオチは予想してなかっとわぁ!!!素晴らしいです!!(レイン) |
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