おあずけ愛紗と世話焼き桃香 〜真・恋姫†無双SS 第八話
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おあずけ愛紗と世話焼き桃香 〜真・恋姫†無双SS

 

第八話

 

 

 

 和解した愛紗と一刀だが、いつまでもお見合いを続けているわけにもいかない。始まったばかりとはいえ、今日という日は有限なのだ。

 久々の休日に部屋にこもりっきりというのもなんだか不健康な気がしたので――――それもある意味正しい休みの過ごし方ではあるが――――愛紗達はいつもの河原に出かけることにした。思い出のある場所だからというのももちろんあるが、それ以上に快適かつ人気の無い場所であることが大きい。他人の目があるところでは出来ないような行為に及ぶ可能性も高いわけで、今の二人にはうってつけだった。

 

「……じ、じゃあ、行こうか」

 

 そう言って先に立って歩き出そうとする一刀に

 

「……あの、ご主人様……」

 

 と、遠慮がちに愛紗が切り出す。

 目顔で先を促す男に向けて彼女はささやかなお願いをした。

 

「……て、手を、繋いでも、よろしいでしょうか?」

 

 愛紗のさほど多くもない恋愛方面の知識によれば、こういう時、恋人同士なら手を繋いで出かけることになっていた。念願かなって二人きりの時を得たからにはもっともっと親密になりたかったのだ――――少なくともそうなれるよう頑張りたかった。でなくてはいつまでたっても桃香に心配をかけてしまうだろう。

 

「そうだね、そうしようか」

 

 返事と共に差し出された手を愛紗は喜んで取った――――のだが。

 

「ああ、違う違う。そうじゃなくてさ」

 

 許しをもらった直後に駄目出しされて思わず手を離してしまった愛紗に、一刀は手を差し出してみせた。

 

「こうやってみて」

「こう、ですか?」

 

 言われるまま、愛紗は同じ動作をする。

 一刀は素直な彼女の手に自らの手を重ね合わせると、指と指を絡めるようにして握りしめた。

 

「これでよし!」

 

 しっかりと繋がれた手を見て満足そうに頷く。

 一方、愛紗はというとぴったりとくっつけられた手のひらももちろんだが、それ以上に一刀が急接近してきたことに気を取られていた。普通に手を繋ぐ分には二人の間にある程度の空間ができる。けれど、今のようなやり方だとちょっとしたことで肩がぶつかってしまいそうなほど互いの距離は縮まってしまう。気のせいかもしれないが、わずかに相手の体温すら感じられてしまうほどの近さだ。距離に応じていや増した一刀の存在感が愛紗の心をかき乱している。

 ふと見られているような気がして顔をあげると柔らかく微笑む恋人と目があった。視線が交わったことに気がついたのか、笑みがわずか深くなる。

 

(私がこんなに心を乱されているというのにこのお方は……)

 

 元はといえば自分から言い出したことなのだが、ついさっきまで同じように動揺していた様子だったのに、今や彼女と比べると随分と平静になってしまった彼がなんだか不公平に思われて仕方がなかった――――彼女のあまりに初々しい所作が逆に一刀を落ちつかせ、自らが先に立って動かなければ、という気にさせているのだが、さすがにそこまでは気づかない。

 

「それじゃあ、今度こそ行こうか」

 

 一刀はそう言いざま歩きだす。その手に引かれ、半歩遅れて愛紗もついていった。

 二人が一歩進むたび、相手の腕が彼女の胸を掠めたり、反対に愛紗の手が一刀の腰に当たったりする。律儀にもそのたびに彼女は緊張で体を強ばらせているのに、彼はまったく平気な様子だ。それがなんだか悔しくて

 

「ご、ご主人様……このように人目のある場所でべたべたと、こんな振る舞いをして良いのでしょうか……それになんだか、その、歩きにくいですし……」

 

 つい、そんな心にもないことを言ってしまう。これでもし一刀が本当に手を離そうとしたら――――愛紗は後悔することしきりだろう。

 

「べたべたって……元はといえば愛紗が言いだしたことじゃないか」

「ですが――――」

「いいんじゃないか、別に。俺たちの関係はみんな知ってるんだし……」

「んなっ」

 

 絶句させられた愛紗にさらにたたみかけるように一刀が続ける。

 

「それに俺はこの方が久しぶりに愛紗のことが感じられてデートしてる気分になれるんだけど……まあ、愛紗がどうしても嫌だっていうならやめるけどさ……どうする?」

 

 むろん、彼女とて本心から嫌がっているわけではない。素直に頷くのはなんだか納得がいかなかったが、首を横に振ってせっかく繋いだ手を離してしまうのはもっと嫌だ。

 

「し、仕方ありませんね。わかりました……」

 

 いかにも渋々ながら、といった態度で受け入れる。

 一刀は気にせず、何事もなかったかのようにまた歩きだした。

 

(ご主人様ときたら、まったく……人の気も知らないで……)

 

 ぶつける場所のない不満を抱えたまま、愛紗も彼に連れられて進むのだった。

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 せめてもの抵抗に顔をうつむけたまま歩き続ける愛紗だったが、それで隣にいる男性のことを意識せずにすむわけではない。やっぱり体のあちこちが当たったり当てられたりするし、その度にいちいちどぎまぎさせられる。下を向いているせいで不意打ち気味になり、先ほどと較べて慣れるどころか余計に反応してしまうくらいだ。

 

「きゃあっ!」

 

 そんな愛紗の視界を素早い動きの何かが通り過ぎ、驚いた彼女は思わず悲鳴をあげてしまう。それは足下を掠めると、あっという間にどこかへ行ってしまった。

 

「どうしたんだ?」

「いえ、たぶん鼠か何かだったと思いますが、急に出てきたもので……」

 

 愛紗はそこまで口にしたところで、さっきよりもさらに一刀の声が近いことに気がついた。しっかりとした感触の細長い物をいつの間にか抱きしめていることにもだ。

 驚いた拍子にぎゅっと閉じていた目を開けて確かめると、うすうすそうじゃないかと思っていたとおり一刀の腕を抱きしめていたのだった。

 

「す、すみません、ご主人様」

「そんなにかしこまらなくてもいいけど」

「急に抱きついたりしてご迷惑ではありませんでしたか」

「……迷惑っていうか、むしろ嬉しいくらい?」

「はい?」

「いや、なんでもないよ」

 

 そんなやり取りをしていた二人に後ろから声をかけてきた者がいた。

 愛紗は安心しかけたところに追い打ちをされて――――話しかけた方に驚かせるつもりなど毛頭なかったが――――立て続けの悲鳴を上げそうになってしまう。口から飛び出す寸前でなんとか飲み込んだものの、相手はせっかくの一刀との甘い時間を邪魔する闖入者でもあるのだ。声の主に向ける視線が刺々しいものになるのはいたし方ないだろう。

 

「おや、これは一刀様……と関将軍もいらっしゃったのですか」

「うわっ……っとなんだ、お前か」

 

 振り向いた二人の目に写ったのは一刀もよく知る愛紗の副官だった。

 彼女は自分の上官を興味深そうに眺めていたが

 

「こんなところでどうしたんだ?たしか関羽隊にはしばらく休暇を出しといたはずなんだけど……」

 

 という一刀の問いかけに手中の書簡を振ってみせた。

 

「他の隊員は休ませてますし、私もこの報告書を提出したら久しぶりに羽を伸ばすつもりです……それでお二人はこれからお出かけですか?」

「まあ、そんなところかな」

「しかし、泣く子も黙る五虎将筆頭が一刀様の前ではまるで猫の仔……いったいどうやったのですか?」

 

 再び上司へと戻した副官の瞳には心底不思議そうな、それでいていたずらっぽい色が浮かんでいる。

 

「ちょっと待て、猫の仔だと!?」

「別に……俺が何か特別なことをしたわけじゃないよ。もし変わったんだとしたら、それはきっと愛紗自身が変わりたいと思ったからじゃないかな」

「ご、ご主人様も本人の前で適当なことを言わないでください!」

 

 取り乱した、悲鳴じみた言葉も会話中の彼女の部下にはまるで通じなかった。

 

「そんなものですかね」

「……貴様、あとで覚えておけよ」

 

 事の発端とも言える部下を恨みがましく睨みながらの愛紗の負け惜しみも

 

「ところで関将軍……何時までそうやって抱きついておられるつもりですか」

 

 そんな指摘で力を失ってしまう。

 

「――――っ。これはっ!」

 

 狼狽した愛紗はなんとか手を離そうと躍起になって振り回したが、彼女がそうしたくても一刀はまだまだ繋いでいたいと思っているようで、一向に離れる気配もない。

 やがて、糊づけされたようにぴったりとくっついたままの手のひらを前にがっくりと肩を落とすのだった。

 

説明
愛紗メイン・恋姫SSの第八話です。前回に引き続き愛紗のターン。

今回のオススメ作家さんですが、たくましいいのししさんを推します。
最近も華琳様SSを投稿されているのでご存知の方も多いでしょうが、先に発表された白蓮SSも掛け合いが見事なのでぜひ読んで欲しいですね。

〜前回までのあらすじ〜
疑心暗鬼に陥った愛紗だったが桃香との会話をきっかけに自分を取り戻した。翌日、彼女の部屋を訪れた一刀と愛紗は和解し、二人はデートすることになった。
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コメント
>みなさま まとめて失礼します。まずはコメントありがとうございます。いちツンデレスキーとして皆さんに気に入って頂けた様で嬉しい限りです。(さむ)
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